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秋葉夕雲

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第五章

383 あなたは誰ですか

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 ぷかぷかと浮かぶ土左衛門。
 この水路でさぞや凄惨な事件が起こったのだろう。一体犯人は誰なんだ!?
 オレでーす。
 あ、いやまあ厳密には西藍の自爆なんだけどな。自爆を誘発したのはオレだから未必の故意に当たるのかな?
 西藍は自分の電撃を自分で浴びて全員昏倒するどころか大爆発を起こしてしまった。
 多分だけど水素と一緒に酸素も保存してたんじゃないかなあ。水中でも発電できるように。
 それが反応してどっかーん。
 自爆ばっかしてボンバーマンかよ。
 ちなみに電撃を誤爆させるための手段は非常に単純。そこら辺からぱちった網をあらかじめ設置しただけだ。電気が網を伝って他の西藍に感電した。作戦とも呼べないようなちゃちな詐欺。
 相手に余裕があればこんなくだらない作戦はあっさりばれたけど、焦っている時はどんな奴でも冷静な判断なんかできないさ。
 逆を言えば、敵が冷静に判断していれば負けていた可能性さえある。

「たった十人でこれかよ……」
 数的優勢を維持しつつ、おそらく偵察か何かなので本格的な武装をしていないはずの兵隊にさえこのありさま。
 本気で武装した軍隊は一体どれくらい強いのか想像できない。しかも魔法を複数持っていることから、長距離テレパシーもできると考えた方がいい。今回の戦いのあらましは敵の本国にも伝わっているかもしれない。
 こう考えれば今回銃や爆弾を持っていなかったことはかえって幸いだ。敵に情報がばれなかったからな。

「さてそれでは解剖の結果を聞こうか」
 適当な働き蟻に命令して解剖させた。
 敵の体は爆発したり燃えたりとろくに残っていないけれど残骸を拾い集めてつぎはぎしながら解剖解剖。もうちょっと丁寧に殺せないもんかね? やったのオレだけどさ。
「複数の宝石が発見された」
「ほう? 魔物の体内にある宝石か?」
「そう」
 ふむ。魔法を使うために宝石は必須だろうとは思っている。具体的にどんな役割なのかは今でもよくわからないけど。
「さらにその宝石の付近に別の生物の細胞が確認された」
「あん? 顕微鏡で見たのか?」
「そう。植物の細胞もあったから判別は容易だった」
「……その細胞は生きたままだったのか?」
「うん」
「どのあたりにあった?」
「体中にあった。でも背中から頭にあったのが多かった」
 なるほど。
 西藍の魔法は魔法を複数使うのではなく、魔物の宝石と体を取り込んでその魔法を使えるようにする、一種のコピー能力か。
 ……チートやないかい!
 え、いや待って? どうやってんの?
 魔法関連はともかくとして……別の生物の細胞を維持するのって簡単じゃないぞ?
 例えば臓器移植を行えば必ず拒絶反応が出る。
 血の通った肉親でさえそれは無縁ではない。ましてや、全く別の生物でそんなことができるのか? 人間に犬の頭を引っ付けるようなもんだぞ?
 正真正銘のキメラ生物じゃないか。しかも人間でいえば背骨、あるいは脊椎の辺りにそんな細胞があるなんて異常すぎる。
 免疫が特殊なのか?
 そして何よりも……。

「あいつは一体何の生物だ?」
 同じような疑問は何度か感じたけれど、やはり正体がわからない。
 今まで大きさがちがったり、色々な生物が混じっていた魔物はいたけど、この世界の魔物は地球にもいた生物がほとんどだ。
 でもあんな奴は見たことがないし、生物を取り込む生物……そんな奴がいるのか……?
「……わかるころから考えるか。あの金属は何だった?」
 生物が何かという疑問はひとまず棚に上げ、次は謎の技術について考えよう。
「金属はマグネシウムでした」
「マグネシウム? 金属だからレールガンに使えるのか?」
 納得できることもある。この世界はどうにも金属が少ない。ただしマグネシウムは結構手に入れやすく、軽量で加工しやすいだろう。
 ただし加熱すると反応性が強く、水とも反応して燃焼する危険がある。もしかしてあいつらが熱に弱い理由の一つもそれだろうか。
 マグネシウムを操る魔法か。
 ふと思う。
 あいつらは一体どこまでマグネシウムを操れるのだろうか。
 単純な硬さだけでなく、耐熱性や電気伝導率まで操れる可能性はないだろうか。……ゼロとは言えない。
 例えばタングステンは金属として最高の耐熱性を持つ。それゆえに特定の工業分野で非常に重宝される。
 しかし、魔法によってそれらの性質を変化させられたなら? マグネシウムをタングステンのように扱えるかもしれない。
 それくらいできないときっとレールガンなんて作れない。

「ええと、それじゃああいつらは電気、マグネシウム操作、シールド……後は熱関連の魔法。最低でも四つ以上の魔法を同時に使ったのか?」
 でたらめだ。
 オレたちは魔法を手足のように使うことができる。本能的に大体使うことはできる。
 しかし奴らは他者から奪った魔法、つまり後天的に会得した魔法を使っている。強引にくっつけられた手足を複数同時に操れるようなものだ。
「精神的にもキメラだな」
 体に兵器を内蔵し、それらを魔法によって制御する。
 地球人類では絶対に不可能だ。体に機械を埋め込めば何らかの形で異常が出るはず。それらをノーリスクで平然と使用している。
 科学と、魔法と、魔物の融合。それが西藍の文明だ。
「くそ。本当に全然文明の発想が違う」
 文明が違うから、敵がどんな兵器を使うのか予想できない。これじゃまるでカンニングしようとしてヤマが外れた学生みたいだ。
 皮肉かもしれないけど今まではヒトモドキがこの辺りにいたから攻め込みにくかったのかもしれない。でも今ここはがら空き。
 好機とみて一気に侵攻してくる可能性もある。
「ハッタリでもいいから何とか防備があると見せかけるぞ」
 なんだってヒトモドキの尻拭いなんぞせにゃならんとは思うけど、このゴタゴタした状況で西藍に攻め込まれればどんな被害があるかわからない。
 何しろヒトモドキどもは来年のことなんぞ頭から抜け落ちているけど、こっちは十年先のことまで考えなくてはならない。
 はあ。めんどくさ。

「コッコー。ご報告が」
「はいはい何でござーましょーか」
 やばい。色々すんごい投げ捨てたくなってる。
「コッコー。ここからさらに西に軍勢が逗留した後がありました」
「西藍か?」
「コッコー。恐らく違います。少なく見ても一か月以上前です。そして、明らかに大型の魔物でした」
 この西の果ての大型の魔物。どうにも嫌な予感がするな。
 そして何よりも、その大型の魔物がどこに行ったのか。ヒトモドキ以外にもまだまだ敵はいる。
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