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秋葉夕雲

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第五章

376 コピーキャット

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 偽銀の聖女計画を聞いた二人の反応はイマイチだった。
 首をひねり、本当に有効かどうかが確信できていないようだ。思い付きの計画だけど多分、この計画はうまくいく……気がする。

「ええと……ひとまず疑問が二つあるんですけど……」
「ふうん? その疑問はなんだ?」
 美月と久斗は双子らしく交互に疑問をぶつけてきた。
「まずサリの絵をどうやって調達するのか」
「それから、赤い髪をどうやって銀髪にするのか。ですね」
 その疑問に対する答えはある。
「絵についてはすでにその方面を研究している奴らがいるからすぐに描き上げてくれるはずだ」
 以前から進めている偽札製造プロジェクトの一環として絵画の作り方を研究している。そいつらを引っ張ってくれば似顔絵の百や二百簡単に作ってくれるはずだ。なにしろクワイの紙幣は偽造防止の為にそれなりに高度な技術が使われているけれど普通の絵画にそこまで高度な技術は必要ない。
「じゃあ髪の色はどうするんですか?」
 髪の色を変える方法は二つ。髪を染めるか、もしくは――――。
「かつらをかぶらせる」
「……? かつら?」
 あ、かつらってわかんないか。今までそんなもん必要なかったからな。
「要するに偽物の髪だよ。銀色の髪を作ってそれをサリにかぶらせる」
「銀の髪の毛……作れるんですか?」
「ああ。それっぽい毛を持った動物がいるからな」
 オーガたちから銀色の毛を持ったキツネがいるという話を聞いている。それを上手く加工できればきっと銀色の髪のかつらができるはずだ。

「ええと、つまりこれはお芝居なんですね? 銀の髪という記号を持った役者を絵画によって補強するという……」
「そうだな。芝居っていうのはいいえて妙だ」
 ここではあえて話さないけど最終的には偽の銀の聖女はサリだけじゃなく美月、あるいはその後任にもやってもらう。美月の理解力と演技力なら実行できるだろう。
 今まで何度もヒトモドキを取り込もうとして失敗してきたけど……それはきっと足りないものがあったからだ。
 宣伝と役者だ。
 役者については今までいなかったのだからしょうがない。が、しかし宣伝についてはオレの思慮が足りなかったとしか言いようがない。
 一種の劇場型詐欺に近い所があるな。
 生き物は複数の組織から情報を仕入れると、それが正しいと思い込む。複数人の噂話はたった一人からもたらされるよりも信じ込みやすい。SNSのフェイクニュースやデマの拡散も似たような原理だろう。
 もしもこの作戦がうまくいけば銀髪のシンパをかなり取り込める。銀髪を信じる奴らが多ければ多いほどうまくいくのだから何とも皮肉なことだ。
 そしてもう一つ。これは後々に有効になってくるかもしれないけれど……銀髪の数少ない弱点が判明した。
 奴は武力知力共に規格外の存在だけど……ただ一つ。人を見る目がない、という意外な弱点がある。
 サリのように使い捨ての手駒としても優秀な部下としても落第点の人材を手元に置いている。後者はともかく前者なら掃いて捨てるほどいるだろうに、わざわざあんなあっさり寝返ってくれる奴を傍にいさせておいたのだから呆れてしまう。
 奴の周囲にも寝返ったり、イエスマンだったりする奴が他にもいるかもしれない。この作戦でそういうやつもあぶりだせたらいいんだけどな。

 オレの説明に納得できたらしい二人は感心した声をあげる。
「す、すごいです!」
「ええ。きっとうまくいきます!」
 ふはは! 褒めろ褒めろ! いやあ、他人に褒められるって気持ちがいいな! ……でももうちょい批判が多い方が健全な組織運営ができる気もする。
「ええ。私たちは失敗しましたけど……紫水ならきっと失敗なんかしません」
 ……いや、むしろオレは失敗ばっかな気がするけど……それよりもこいつら……潜入任務の失敗をかなり引きずってるな。
「なあ美月。久斗も、オレの好きな言葉を教えてやるよ。 賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ、だ」
 何事も他人の意見を尊重し、過去の事例と照らし合わせることが大事、そういう言葉だ。
「それだと……僕らは愚者でしょうか」
 二人とも暗い表情で俯く。
「ただオレはな? この言葉はちょっと言葉が足りないと思ってる。愚者じゃ経験からしか学ばないんじゃない。本物の愚者は何からも学ばない。経験から何かを学べるのなら、それは愚者でなく凡人だよ」
 二人は少しだけ上を向く。きっとその気持ちと一緒に。
「お前たちの潜入任務はうまくいかなかったけど、今回のサリの説得任務はきちんと上手くできた。だったらそれは経験からきちんと学んでいたという証じゃないのか?」
「でも……凡人でいいのでしょうか。もっと頭のいい人なら……」
「いいんだよ。この世の大半は凡人だ。自分が凡人だという自覚のもとで何かを学んで、着実にできることをこなしていこうぜ?」
 正直、新人に無茶な仕事を振って潰していくブラック上司にはなりたくないのだ。特に、美月と久斗のように替えの利かない戦力の場合。
「はい……私も、焦らずに頑張ります」
「ぼ、僕も……できることをやります」
 うむうむ。二人とも素直でよろしい。
 さあそれじゃあ樹里やイドナイ辺りに連絡をとって準備を進めようとしたところで和香から連絡が入った。

「コッコー。教都チャンガンを見張っていた部隊から連絡がありました」
「げ。連中また何か妙な演説でもしたのか?」
「コッコー。その通りです」
 あたりかよ。めんどくさい奴らだ。
「具体的にどんなことだ?」
「コッコー。教皇、ならびに敵国王から聖戦が布告されました」
「聖戦? おおよそ内容は予想できるけど……何が起こりそうだ?」
「コッコー。敵の全戦力が我が国に進軍すると思われます」
「わかりやすい説明どうも」
 苦笑しながら和香に返答するが、この時点ではオレも和香も理解していなかった。聖戦が布告されたその意味を。敵が本当の意味で総力戦によって挑む意味を。
 あるいは敵の穢れ無き信仰心という名の狂気を。
 全く理解できていなかった。
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