こちら!蟻の王国です!

秋葉夕雲

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第四章

309 朽ちるまで

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「あれを倒すための同盟ですか。理屈はわかりますが……いくつか質問してよろしいですかな?」
「はいどうぞ」
「あの爆弾で銀髪を倒せなかった場合の予備、あるいは時間稼ぎの同盟であるとするなら、どのようにあれと戦い、勝利するつもりなのですか?」
 ふむ。ではオレがここ数年で考えた銀髪用の戦略を披露するか。
「爆弾でも倒せなかったなら、銀髪には勝たない。勝つ必要をなくすように心を砕くべきだ」
きっとこれが一番だ。要するに銀髪がいない場所なら勝てるという状況を作ればいい。
 これが対銀髪の基本戦略。銀髪には勝てない。なら、銀髪以外のすべてに勝てばいい。
 迂遠だけど国同士の戦いとはそんなもんだ。項羽みたいに戦場では勝ちまくってたのに結局天下を取り損ねたやつなんかいくらでもいるし。
 さらにそこから銀髪のネガキャンでも展開できれば戦わずに勝つということも実現の範囲内になる。ラクリのおかげで大失敗したけどな。

「ほう。例えば?」
「銀髪が攻めてきたら敵の首都を包囲して、銀髪に首都へ救援に戻らせるとかだな」
「こちらに攻撃できない状況を作ればいいと」
「そうだな。だから圧倒的な国力が必要なんだよ。戦力を二分しても銀髪以外なら戦えるくらいに」
「そしてそれを長期間続けられるほどに、ですか。では、いったいいつまでその状況を続けるおつもりですか」
 いつまでかだと? そんなもの決まっている。
「もちろん銀髪がくたばるまで」
「それはまた……ずいぶんと気の長い」
 いくら銀髪が悪魔のように強くても所詮生物。いつかは死ぬ。
「奴がくたばるまでオレたちの国が存続すればそれはオレたちの勝利だ。違うか?」
 動物の寿命は百年もてばいいところだ。国の寿命はもっと長い。できればあいつがくたばるところを見てみたい気もするけど……女王蟻とヒトモドキの寿命のどっちが長いかは流石にわからん。
「確かにそうですが……もしもあの銀髪の子供が奴と同じ能力を持っていたらどうしますか?」
「う、そりゃやだなあ。でも多分あいつ突然変異みたいなもんだからなあ。今のところあいつと同じどころかその百分の一の実力を持っている奴すらいないし、多分あいつの能力は子供には引き継がれないと思うぞ。それにいざとなれば子供のうちに暗殺するっていう手段もある」
「実に悪辣ですな」
「オレもそう思うけど、手段を選んでられないだろ」
 多分あいつが子供を産むころには例の双子も育っているだろうから、鉄砲玉のつもりで送り込んでもいい。やりたくはないけど戦争は手段を選べない。

「とにかく銀髪に恨みのある連中を知っていないか? そういう奴らとなら協力できるはずだ」
「心当たりはあります。あなたの爆弾を見れば協力しようと考える輩もいるかもしれません。ですが懸念があります」
 言葉を切ったティウはじっとこちらをのぞき込む。
「あの悪魔を打ち破れる何かがあるとするならば、それはあの悪魔以上の脅威になりえるということです」
 なるほどなるほど。
「オレがそのうちお前たちを支配しようと目論むかもしれない。そうなれば銀髪以外止める奴はいない。そう言いたいのか?」
「然り」
 はっはっは。何を言っているんだティウ。

「そんなもん支配するに決まってるじゃないか」

「隠す気すらないのですな」
「その通りだよ」
 そりゃそうだろ。だって不安じゃん? せっかく銀髪がいなくなったのに反乱とか起こったらめんどくさいだろ? じゃあ支配しようと考えるのは何かおかしいことだろうか。支配するのもめんどくさくはあるけど、一時の面倒を厭ってより多くの面倒ごとを抱え込むのは嫌だ。
「あなたの支配と、悪魔の虐殺。それを天秤にかけてあなたを選ぶ者たちをつまみ上げろ。そうおっしゃるのですな?」
「そういうこと。ああでも別に上から全部抑えるつもりはないぞ? 自分たちの土地に住むことは構わないし、自治に関しては応相談だ。ついでに言うなら食料なんかは分け与えてもいいぞ?」
 実際にアンティ同盟とはそんな感じだし。
「いやはやあなたは妙な方ですね。何もかも支配しようとするかと思えばあっさりとそれを手放そうとする」
 支配そのものに興味はないからな。ただ必要だからやる。それだけだ。
「それでも全部ぶっ壊されるよりはましだろ?」
「然り。あの横暴は見逃せません。今までは我々にその力がありませんでしたが、あなたならできるかもしれません」
「んーいや、それはちょっと違うんじゃないかな」
「何がですか?」
「クワイの勢力が完全にお前ら以外を上回っているとは思わないよ。まとまりさえすればクワイに勝つのは不可能じゃない。銀髪がいなければな」
 はっきり言ってクワイという国家はこの世界におけるだ。オレや銀髪が生まれる前までそれは千年間変わっていなかった。
 つまり自分たち以外の全勢力と戦い続けても十分に国力を維持できる。局所的に戦術的に敗北することはあるだろう。いや、むしろそればかりのはずだ。しかし戦略において敗北したことは一度もない。ただしそれは他の勢力が個々に独立して戦っている場合のみ。
 もしもその他の勢力が連携を取ればどうなるだろうか。
 多分クワイでも勝てないだろう。銀髪がいないなら。
「我々には他の勢力との交流が今までそうありません。なるほど、我々に足りなかったのは共通の敵がいるという認識と――――」
「共通のトップ。ならオレたちがなってやろうじゃねえか」
 そう。今までは一つ同じ旗のもとに集うことができなかった。個人的には英雄なんかいらんけど、お飾りくらいは必要だ。だから、オレが新しい旗を立てる。
 銀髪をぶっ潰すという、エミシの旗を。
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