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秋葉夕雲

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第四章

300 戦場鬼ごっこ

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 色々と歓迎の準備を整えて待つこと数時間。ヒトモドキの軍勢が到着。砦を探索してから、無駄骨なのがわかったからか何やら演説をぶち上げていた。
 大体の内容は予想通りなので割愛。というか何もかもが予想通りすぎて実に白ける。
 そして、『神の思し召し』によって見つけた痕跡を発見。当然ながら追跡を開始した模様。
 追跡すること半日。オレたちが仮拠点として設営した巣を発見した。
 銀髪どっかーん。ま、そりゃ瞬殺だ。やっぱおかしいよあの火力。
 もちろん生き残りゼロ。これで満足してくれればよかったんだけど……『奴らはまだほかにもいるに違いない』などなどの演説が再び。
 進路は高原に向かっているようだった。そりゃまだまずい。
「翼。痕跡を残してヒトモドキたちの町に誘導してくれ。それからその街を銀髪たちに見つかるように攻めてくれ」
「承知いたしました。どの程度まで攻めますか?」
 偽装攻撃なのだから町を攻め落とす必要はない。しかしあまりまじめにやっていないことがばれると偽装を看破されるかもしれない。が、本腰を入れて攻めると銀髪にぶっ飛ばされた時の損害が大きい。
「意味があると感じる程度でいい」
 翼ならこんな言い方でも通じるだろう。
 その期待に応えた翼は銀髪の一行を誘導しつつ、近くの町に攻撃を開始した。
 銀髪との鬼ごっこはまだまだ続けられそうだった。



 その町は砂漠トカゲなどの魔物から幾たびかの侵攻を受けており、五年前の争乱において甚大な被害を受けたものの、現在では復興して魔物の侵略に対する防壁として機能していた。
 それゆえ、数日前から連絡が取れなくなっているらしい近隣の関の情報を探りつつ、最悪の事態を考慮して警戒を強めていた。
 そしてその警戒は正しかったのだと証明された。

「穢れた魔物をこの町に近づけさせるな! 神よ! 救世主よ! 我らを守り給え!」
 町の壁に穴を開けようとしている魔物に<光弾>を浴びせ、近づけさせない。
「聖なる加護に守られたこの町は決して屈さぬ! 退け魔物よ!」
 壁の上にいる指揮官から勇ましい声が飛び出て、それに応じてこの町の信徒が鬨の声をあげる。
 じゃあ五年前は聖なる加護がなかったのか? そうツッコむ不逞な輩はこの町には(ありがたいことに)いない。
 群がる魔物、蟻を前にしても一切臆さず、この町を守り抜けると確信していた。指揮官は予想だにしなかった出来事に直面した。
 銀色の光が魔物の群れを一掃したのである。
「な、何事!?」
 うろたえる指揮官が目にしたのは銀の髪をした少女だった。
「ま、まさかあれは……!?」
 信徒の間でどよめきが広がる。このクワイにおいて今知らぬ者はいない彼女こそ――――。
「銀の聖女様だ!」
 歓声に伴って敬礼を捧げるものが続出する。銀の聖女とその一行は歓喜をもって受け入れられた。しかしその顔が夜の闇のように沈んでいたことを誰も気づいてはいなかった。



「な、なんと……」
 この町の代表である司祭が銀の聖女率いる一団(別に彼女が率いているわけではないがそう思われていた)の便宜的な代表ということになっているアグルから関の惨状を聞いてから飛び出た言葉がそれだった。
 腰かけていた椅子から落ちそうになるのを堪えて司祭は祈りを捧げた。
「恐ろしい……そんな恐ろしいことが起こっていたとは……」
 アグルは淡々と語っていたからこそ、その言葉に妙な迫力と真実味を感じてしまっていた。
「念のためにお聞きしておきますが、この町は最近先ほどの魔物以外に襲われたことはありましたか?」
「いいえ。近頃は神のお力に恐れをなしたのかあまり魔物を見かけませんでした」
「そうですか……」
 アグルは静かに何かを思案していたが、その沈黙は第三者によって破られた。
「失礼します! 魔物の残党を捜索していた者たちから連絡がありました! 複数の足跡が見つかったとのこと!」
「おお! これぞまさに天の配剤! ……ですが、もうすぐ日が沈みます。今日はもうお休みください」
「お言葉に甘えさせていただきます」
 アグルは見事な敬礼を見せた。

 ラオから来た一団、トゥッチェの民、銀の聖女を中心とした一団。この三つの集団は折り合いが悪く、直接的な衝突はなかったものの、良好とは言えなかった。
 しかし無辜の民を一方的に惨殺するという関の惨劇を目の当たりにした三集団はそのようなわだかまりを捨て、あの惨劇を引き起こした張本人を討滅しようという一心によって統一されていた。
 少なくとも愚痴や、侮辱は一切なくなった。だからこそ、アグルの指示に従う体制が暗黙の了解として構築されつつあった。
 指揮系統ははっきりされた方が迅速な行動ができるのだ。

 この町の中ではもっとも豊かな屋敷の一室に銀の聖女とティキーはいた。
「奈夕ちゃんは大丈夫? 疲れてない?」
 この一日ほとんど戦い詰めだったファティの身を案じるのは当然だっただろう。
「はい。大丈夫です。それよりも紅葉さんの方が……」
「私は大丈夫よ。長生きしてるもの。気の紛らわせ方くらいわかってるわ」
 やせ我慢しているようにも感じられるが、あまりせっつくと余計につらいのではないかという思いからあまりあの時のことを話せずにいた。

「聖女様。ラクリ様。よろしいでしょうか」
 声の主は赤毛の女性、サリだった。
「どうかしたの?」
「この町の司祭が一度銀の聖女様とお会いしたいそうです」
 これもよくある日常だ。銀の聖女に拝見したいという人物は今まで何人もいた。
「行ってらっしゃい。退屈だったらすぐに戻ってくればいいわ」
 軽いティキーの言葉に微苦笑を浮かべながら、行ってきますと答えたのだった。
 一人残されたティキーは――――。
「悪い、ちょっといいか?」
 日本語での会話。転生者同士での内緒話を企んでいるのはいつの間にか部屋のすぐ外にいたウェングだった。
「いいわよ。何か用があるのよね」
「ああ」
 部屋の中に入ってきたウェングの表情はあまり明るくない。
「先に聞いておくけど……あんた、ラクリとかいう子の仇をとりたいのか?」
「……別に。やるせない気持ちはあるけど、それであの子が戻ってくるわけもないし。……これ以上被害が出るのは放っておけないって気持ちはなくはないわ。でも、私の求められている役割としては絶対に許せない、そう答えるべきでしょうね」
 セイノス教にとって信徒を殺した魔物は地の果てまで追い回してその悪石を砕かなければならないのだ。それが、魔物に殺された信徒の、救い、になるのだから。
 王族で、ラオの重役になるであろうティキーなら、自分自身の感情よりも役割が優先されてしまう。
「わかった。……どうあれ、例の魔物を追うってことに違いはないんだな」
「そうね。何かあったの?」
 重苦しい、この場から逃げ出したいような表情のままウェングは言った。
「また新しい足跡とかが見つかった。でも、その足跡は追うべきじゃない」
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