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秋葉夕雲

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第四章

287 レボリューションズ

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 照り付ける太陽とは裏腹に、朝霧のように冷えた沈黙が立ち込めていたが、やがてアグルが口を開いた。
「疑問に対する答えにはなったでしょうか」
「ああ。ありがとうアグルさん。今まで疑問に思ってたことが大体わかった気がする」
「ウェング様。決してここに住む方々は決してあなたを疎んじているわけではありません。ですが直接あなたに話すことは慮られたのでしょう」
「……それはわかってる。だれも悪くないし、自分の意志でこんな状況を作り出していない。どうにもならなかったんだ」
 憔悴するウェングに対してアグルはむしろ先ほどよりも何か、何かとしか形容できないが、一種の気迫のようなものを感じる表情に変わっていた。
「それでよいのですかウェング様」
「よいのですかって……どうにもならないでしょう」
「私はあなたが、いえ、あなた方がどう思っているのかを聞いています。本当にこの現状を放置していてもよいと思っていますか?」
 その発言はまるで……アグルがクワイの現状を快く思っていないとしか思えない。
「アグルさん。……あなたは……何が言いたいんですか?」
 タストも会話に加わる。黙っていてよい話題ではない。
「クワイの現状を変えるには行動する必要がある。そう言っています」
 二人とも息をのむ。
 アグルは今明確にクワイを変えると言った。
「うなだれているだけでは何も変わりません。ただ望むだけでは意味がありません。行動し、変革しなければなりません。この、クワイを」
 アグルの力強い言葉は沈んでいたタストとウェングの顔を上げるに足る力があった。
「アグルさん……あなたは一体、何を求めているのですか?」
 アグルはこの数年ただ一人胸に秘めていた大願を決然と口にした。
「私が求めるものはただ一つ。このクワイに真の平等をもたらすこと」
 平等。
 さして珍しくも飾り気があるわけでもない言葉は二人の耳朶に福音のごとき響きを残した。
 二人とも理解していた。このクワイは不平等だと、理不尽だと、しかしそれでもそんなものだと諦めていた。
 誰もがそうしていたから、あるいは誰も疑問に思っていなかったから。二人は転生して初めてこの国は間違っていると口にしたこの世界の人物を見た。
「おかしいとは思いませんか? 男だからという理由で下に見られる。懸命に戦ったはずの信徒が正しい評価を受けない。こんな理不尽が許されていいと思いますか?」
 アグルは滔滔と語り続ける。
 二人に話しかけているのだが、まるで社会全体に語り掛けるような、だからこそ二人は世界そのものの在り方を問われており、同時に今立ち上がらなければこの世界が真っ暗な坂道を転げ落ちるような錯覚に陥ってしまった。
「で、でもそんなことができるはずがない。このクワイの体制を覆すようなことは誰もできない!」
 正しくなかろうが理不尽だろうが国は国。人が寄り集まり、重ねて捏ねて混ざり合ったものが今のクワイ。その中の一個人であるはずのタストやウェング、アグルにどれほどの力があるのか。いや、もっと力のある個人でもそんなことはできるはずが――――。
「できますとも」
 それでもアグルは断言する。短い言葉は輝く星となる。
「このクワイでそれができるのはただ一人。おわかりでしょう」
 タストは一瞬呼吸が止まる。その一人が誰かは知っている。会ったこともある。
 それどころか血が繋がっている。
「教皇になればいいのです。タスト様。私はあなたに教皇となっていただき、このクワイを変えていただきたい」
 アグルはこのクワイで誰もが一度は夢見、そしていつしか忘れ去られるであろう大望を口にした。

「ぼ、」
 かけられた言葉の衝撃のあまり言葉がどもる。喉に詰まった言葉を口から吐き出すのには時間が必要だった。
「僕が教皇に……? む、無理ですよ」
「何故?」
 ギラギラとした瞳をタストに向ける。言い逃れや虚飾を許してくれる表情ではない。
「それは……僕は男ですし……」
「だからこそです。男が教皇になるからこそ意味があります。クワイの頂点の一つにある教皇が男であると、国民に示してこそ初めてクワイは生まれかわります」
 一理はある。トップとは範を示す存在であり、まずはそこから変えなければ誰も信じない。
「ちょっと質問していいかな?」
 声の主はウェングだった。当事者でないからこそ、冷静な態度でいられるのかもしれない。
「教皇はこの国の頂点の一つなのは確かだけど絶対的な権力者じゃないだろ? 配下や、教皇よりも上の、国王がなにか指図することだってあるんじゃないか?」
「ごもっともです。ですが少なくとも国王様は指図されますまい。あの方々は下界の暮らしよりも崇高な意思をお持ちだと聞き及んでおります。配下については――――できうる限り正当な手順によって教皇の地位を取得したならば、自然と封殺できましょう」
 つまり教皇を殺して無理矢理その立場を奪う、という話ではないのだ。万人が認め、万人が歓迎するやり方でなくてはならない。
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