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秋葉夕雲

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第四章

278 火鬼ごっこ

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 翼の攻めは敵を根こそぎ刈り取る力はなかったが、敵の頭数よりも抵抗する力をじわじわ削っていた。
 射撃を行うと見せかけて別の場所に走り、防御の薄くなった場所から侵入しようとすると見せかけてまた逃亡し別の場所から攻撃を始める……サッカーのパス回しで相手を崩すような戦い方だった。
 そしてそれを繰り返していくうちに翼の意図をなんとなく理解できた。
「そっか。敵の練度や疲労は一定じゃないんだな。走らせればそれが如実に表れる」
 丸半日戦い続けている敵もいるし、ろくに今まで戦ったことのない奴もいるはずだ。そいつらが急に連携できるわけもない。相手についていく、味方と速度をそろえる。そういう単純な動作の反復によってそれらを浮き彫りにさせ、そこからどこを攻めるべきか判断するつもりのようだ。
 そしてそこはあっさり見つかった。
 暴走するヤギの一団を壁にするように野営地の内側に食い込んでいく。ついでにヤギを捕えようとしていたヒトモドキを殺すことも忘れない。どうも敵はオレたちがここに攻撃を仕掛けていることを全員に通達できているわけじゃないみたいだ。
 野営地の内部にはまだ備えすらできていない奴もいる。そういう奴らやテントを壊しながら進み、敵が追い付く前にあっさりと野営地の外へ戻っていく。
 流石翼だ。どうすれば敵が嫌がり、こっちが戦いやすいかよくわかっている。
 きちんと準備ができた敵を襲うより、孤立して心構えのできていない敵を殺した方が手っ取り早い。さらにこの野営地は敵の襲撃に対する備えをあまりしていない。守るよりも逃げることを普段は優先しているからだろう。
 やっぱり伝令を殺しておいたのは正解だったな。おかげで相手が備える前に襲撃できた。
 敵にとっては悪魔にでも見えているだろうか。



「卑怯だぞ貴様ら!」
「堂々と戦え! 何故無抵抗の民を狙う!」
 恨みと憎しみの言葉を敵に投げかけるが誰も答えない。交戦を始めてからまともに敵とぶつかっていない。のらりくらりと逃げ回り、時折攻撃を仕掛けてくる。
 それもこの野営地を守るべき部隊を無視する形でしか攻撃してこない。トゥッチェ側としては何とかしてぶつかりたいのだ。単純な数だけならそう負けていないのだから。
 だが敵はまともに戦おうとしない。憤懣やるかたなしとはこのことか。
 いっそこちらから攻め込めればいいのだが、この野営地から離れすぎれば敵がここに乗り込んでくる危険はいや増すばかりだ。
(くそ! どうすりゃいいんだよ!)
 ウェングはどうにか敵の行動を予想できないかを試しているのだが……上手くいっていない。いや、予想そのものはできるのだ。ただ、その予知をどうやって覆せばいいのかわからない。もっとも仮に覆す手立てが見つかったとして何の権利もない彼にはどうすることもできないのだが。
 結局のところ唇をかみしめるのが精一杯だった。



「んん? あのテント……」
「どうかなさいましたか王?」
「いや、あのでかいテントにどうも人が集まっているみたいだ」
 探知能力によると、この野営地の中で一番大きなテントでかなりの数のヒトモドキが集合している。
「夜逃げの準備でもしているのでしょうか」
「かもなあ。なんか重要なものでも置いてあるのかな?」
「奴らの重要な物となると……食料でしょうか」
「あるいは金を置いておく保管所とかだな」
 避難するときに貴重品を持っていくのは常識だけど……悠長すぎないか?
「少々のんびりしすぎですね。もう少し焦っていただきましょうか」
「攻撃するか?」
「ええ。いや、ふりをするだけでも良いかもしれませんが」
 んー、ならいっそのこと――――。
「燃やすか」
 とても過激な発言をぽつりと漏らした。
「よろしいのですか?」
「よくはないけど……もしも食料を持って逃げられたりしたらそれこそ厄介だろ」
 敵がすぐに逃げてくれれば奴らの食料や道具などは全て分捕れる。しかしどうもその気配はない。多分あのテントにある貴重品を持ち出そうとしているのだろう。あいつらの逃げっぷりが悪いので背中をおしてやろう。
「持ち逃げされるくらいなら全部燃やした方がいい。幸いこの辺りには草があまり生えてないから草原全体に燃え広がることはない。野営地全体が燃えたら面倒かもしれないけど、それでお前らの戦死者が少なくなるなら構わないさ。今なら消火活動を行う暇もないだろうし」
「御意。ではファイヤーピストンを使うとして……ああ、ちょうどよく燃えそうなものが転がっていますね」
 翼はそこら辺に転がっていた死体から服をはぎ取ると、働き蟻に火矢の作成を命令した。
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