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第四章
267 後詰め決戦
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ゆっくりと日は昇る。夜の黒に染まった草原を赤く染める。やがて昼の日がその大地を緑色に見せるその時まで朝焼けの赤色が支配する、雲一つない空。
「ようし、予想通りヒトモドキが野営地を出たみたいだ。やっぱりあいつらは朝方に出撃することが多いみたいだな。準備はできているか翼、茜」
「万事つつがなく。将として軍を勝利に導くと誓いましょう」
「はい! 準備万端です!」
翼は冷静に、茜は元気いっぱいに。それぞれしっかり返事をする。気負っている様子はない。
……それとは逆にオレが緊張してきちゃったんだけど。いやいやいや、前線のこいつらがリラックスしてるのにオレががちがちでどうする。
大丈夫大丈夫。準備はちゃんとした。
「わざと見つかって敵をおびき寄せる。さらにこの辺りを要塞化しようとしている風に見せかけて攻撃を誘う」
砦での戦闘でオレたちが防衛設備を作ってしまえば攻め落とすのは困難だと痛感しているはずだ。それならいっそ作る前に倒せばいい。そういう思考に誘導できていれば満点。
いつもいつも思うけど蟻の戦法は攻撃よりも守り向きだ。だからなるべく攻めさせないといけない。普通のヒトモドキなら適当に突撃してくれるけど、遊牧民は自分たちよりも強い奴と戦うことが多いせいなのかすぐに逃げる。
つまりどうやって倒すかよりも、どうやって逃がさないかの方が重要だ。どっかのゲームのはぐれ金属みたいなもんだ。そうは言っても本当に全滅間近なら逃げるだろうな。
「我々の出番は奴らが削れてからですからね。それまでは指揮に努めます」
「任せるぞ翼」
今いるラプトルは千人。実はラプトルの別動隊を組織しているけれど、それをどういう風に使うかは翼に任せてある。
そして今はこの場所の防備を固めている真っ最中。本格的な要塞にするつもりはないけど、遊牧民の攻撃をはねのけるくらいの防御力は必要だ。野戦陣地と砦の中間くらいかな。
敵は東からやってくる。南側と西側にそこそこ高い壁を作ってそこからは攻撃できないようにしており、北側には中木くらいの高さの樹木がまばらに生えた林がある。そこに蜘蛛を配置して蜘蛛糸トラップをわんさか設置してある。騎兵で侵入するのはとても無理だ。
つまり敵はほぼ真正面に当たる東側から攻撃しないといけない。逆を言えばこっちも逃げるのが難しい、一種の背水の陣だ。機動力の高い騎兵相手なら逃走経路の確保よりも死角を無くすことを優先した方がいい。
別動隊やこっちの物資などを貯蔵している陣地などを守っている部隊を引いて、合計の兵力は大体一万一千くらい。
敵も今までの戦闘で兵が減ったり、籠城している蟻たちを包囲する戦力なんかを残しているから敵も大体一万くらい。もっとも騎兵の一万なので角馬とヒトモドキを一つずつ数えれば合計二万。兵力差は圧倒的だ。それを補うために東側にはぱっと見ただけでは攻め込めそうなくらいの柵などの防衛陣地を築いている。あとは敵が攻め込んでくれるかどうかだけど……作戦はいくらか用意しているし大丈夫だろ。
日が少し高くなったころ、遊牧民たちは一糸乱れぬ統率を保ったまま戦場に到着した。
「予想より少し遅かったでしょうか」
「だな。誤差の範囲ではあるけど」
そして毎度毎度のように同じような演説を排水口から流す廃液のように垂れ流している。早くしてほしい。
……。
…………。
……あ、終わった?
「紫水! 寝てませんでしたか!」
「ねねねね、寝てますぇんよ茜さん」
ははは。何を証拠にそんなことを言っているのやら。
「ほら、そんなことより攻撃が来るぞ」
遊牧民たちが一斉に騎兵を走らせる。以前も見たけど数が多いせいで迫力は増している。ほとんど同じ戦法でも数の違いだけで脅威度は大幅に変わる。
が、しかし以前と違うのは柵などに守られているということ。柵の内側に侵入しようとすれば時間がかかるし、柵の外側からなら大した攻撃にはならない。まあそれはこっちも同じで有効打は与えられないんだけどね。
こちらの射程距離ぎりぎりで旋回しつつ、射撃。その繰り返しだ。何の変哲もない……わけでもないか。
「林に回り込もうとしていますね。蜘蛛に伝達を。万が一林を抜けられるようなら白鹿たちを配置して壁にします」
騎兵の肝は機動力だ。あの足の速さで背面や側面を衝かれると部隊が壊滅しかねない。だからこそ壁と林で周囲を囲っているのだ。
そして騎兵は障害物の多い場所では機動力を発揮できない。林に侵入しようとした騎兵は蜘蛛の罠と三次元の機動力で翻弄するとあっさり退却していった。
「やはり慎重ですね」
「できれば玉砕する覚悟で突っ込んでほしかったけどな。向こうだって馬鹿じゃないか」
実のところ東側の防備はパッと見ればそう大したことがないように見えるかもしれないけど実際にはかなりえげつない罠を大量に仕込んである。
「むしろ好都合です。しばらくはお互いに相手の様子を見ながらの戦いになるでしょう」
翼の言った通り、強引な攻めをお互いに行わず、しばらくは牽制し合うような攻防が続いたのだった。
「ようし、予想通りヒトモドキが野営地を出たみたいだ。やっぱりあいつらは朝方に出撃することが多いみたいだな。準備はできているか翼、茜」
「万事つつがなく。将として軍を勝利に導くと誓いましょう」
「はい! 準備万端です!」
翼は冷静に、茜は元気いっぱいに。それぞれしっかり返事をする。気負っている様子はない。
……それとは逆にオレが緊張してきちゃったんだけど。いやいやいや、前線のこいつらがリラックスしてるのにオレががちがちでどうする。
大丈夫大丈夫。準備はちゃんとした。
「わざと見つかって敵をおびき寄せる。さらにこの辺りを要塞化しようとしている風に見せかけて攻撃を誘う」
砦での戦闘でオレたちが防衛設備を作ってしまえば攻め落とすのは困難だと痛感しているはずだ。それならいっそ作る前に倒せばいい。そういう思考に誘導できていれば満点。
いつもいつも思うけど蟻の戦法は攻撃よりも守り向きだ。だからなるべく攻めさせないといけない。普通のヒトモドキなら適当に突撃してくれるけど、遊牧民は自分たちよりも強い奴と戦うことが多いせいなのかすぐに逃げる。
つまりどうやって倒すかよりも、どうやって逃がさないかの方が重要だ。どっかのゲームのはぐれ金属みたいなもんだ。そうは言っても本当に全滅間近なら逃げるだろうな。
「我々の出番は奴らが削れてからですからね。それまでは指揮に努めます」
「任せるぞ翼」
今いるラプトルは千人。実はラプトルの別動隊を組織しているけれど、それをどういう風に使うかは翼に任せてある。
そして今はこの場所の防備を固めている真っ最中。本格的な要塞にするつもりはないけど、遊牧民の攻撃をはねのけるくらいの防御力は必要だ。野戦陣地と砦の中間くらいかな。
敵は東からやってくる。南側と西側にそこそこ高い壁を作ってそこからは攻撃できないようにしており、北側には中木くらいの高さの樹木がまばらに生えた林がある。そこに蜘蛛を配置して蜘蛛糸トラップをわんさか設置してある。騎兵で侵入するのはとても無理だ。
つまり敵はほぼ真正面に当たる東側から攻撃しないといけない。逆を言えばこっちも逃げるのが難しい、一種の背水の陣だ。機動力の高い騎兵相手なら逃走経路の確保よりも死角を無くすことを優先した方がいい。
別動隊やこっちの物資などを貯蔵している陣地などを守っている部隊を引いて、合計の兵力は大体一万一千くらい。
敵も今までの戦闘で兵が減ったり、籠城している蟻たちを包囲する戦力なんかを残しているから敵も大体一万くらい。もっとも騎兵の一万なので角馬とヒトモドキを一つずつ数えれば合計二万。兵力差は圧倒的だ。それを補うために東側にはぱっと見ただけでは攻め込めそうなくらいの柵などの防衛陣地を築いている。あとは敵が攻め込んでくれるかどうかだけど……作戦はいくらか用意しているし大丈夫だろ。
日が少し高くなったころ、遊牧民たちは一糸乱れぬ統率を保ったまま戦場に到着した。
「予想より少し遅かったでしょうか」
「だな。誤差の範囲ではあるけど」
そして毎度毎度のように同じような演説を排水口から流す廃液のように垂れ流している。早くしてほしい。
……。
…………。
……あ、終わった?
「紫水! 寝てませんでしたか!」
「ねねねね、寝てますぇんよ茜さん」
ははは。何を証拠にそんなことを言っているのやら。
「ほら、そんなことより攻撃が来るぞ」
遊牧民たちが一斉に騎兵を走らせる。以前も見たけど数が多いせいで迫力は増している。ほとんど同じ戦法でも数の違いだけで脅威度は大幅に変わる。
が、しかし以前と違うのは柵などに守られているということ。柵の内側に侵入しようとすれば時間がかかるし、柵の外側からなら大した攻撃にはならない。まあそれはこっちも同じで有効打は与えられないんだけどね。
こちらの射程距離ぎりぎりで旋回しつつ、射撃。その繰り返しだ。何の変哲もない……わけでもないか。
「林に回り込もうとしていますね。蜘蛛に伝達を。万が一林を抜けられるようなら白鹿たちを配置して壁にします」
騎兵の肝は機動力だ。あの足の速さで背面や側面を衝かれると部隊が壊滅しかねない。だからこそ壁と林で周囲を囲っているのだ。
そして騎兵は障害物の多い場所では機動力を発揮できない。林に侵入しようとした騎兵は蜘蛛の罠と三次元の機動力で翻弄するとあっさり退却していった。
「やはり慎重ですね」
「できれば玉砕する覚悟で突っ込んでほしかったけどな。向こうだって馬鹿じゃないか」
実のところ東側の防備はパッと見ればそう大したことがないように見えるかもしれないけど実際にはかなりえげつない罠を大量に仕込んである。
「むしろ好都合です。しばらくはお互いに相手の様子を見ながらの戦いになるでしょう」
翼の言った通り、強引な攻めをお互いに行わず、しばらくは牽制し合うような攻防が続いたのだった。
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