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秋葉夕雲

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第四章

232 沈む星 

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 二度目の攻撃をやり過ごしてからもまだ準備を続けていた。
 この様子なら後一回で準備は完了する。次の攻撃さえしのげれば……いけるか?
「また来るぞ!」
 三度目になるそれは傍から見れば先ほどと変わらない攻撃だった。明らかに違うと気が付いたのは石が放たれてからだった。
 今度の石は大きさが違う。今までが散弾銃だとすれば、これは二つの大砲の弾だった。
 量よりも質。
 防がれることを見て取った鷲はテントを破壊するために一発の威力を上げる戦術をとった。
 石がぶつかり弾ける高い音と土煙さえ上がるほどの衝撃。
「茜! 大丈夫か!」
「はい! 大丈夫です! 一発は外れて、もう一発もテントをかすめただけです!」
 ふう。直撃は避けられたらしい。
 とはいえこれは運が良かったからだ。この戦法を続けていればいずれ当たるかもしれない。あとは向こうの体力と根気がどれくらいあるか。しかしあまり時間をかけずに攻め込んでくるだろうと推測している。
 この戦いで一番されたくないことは滞空したままずっと逃げ回られることだ。さっきも言ったけど滑空は得意なので決闘が終わるまで逃げに徹されたら手の打ちようがない。
 しかしそれはたぶんない。
 何故って? 鷲は勝ちたいからだ。引き分けではだめだ。それでは仇をうてない。
 族長の弟の件があるせいで、逃げという選択肢を捨てているはず。ケーロイもプレッシャーをかけていたから、父親の前で逃げ回るという無様をさらしたくないはず。オレなら絶対にそんなことはないけどな! 生きるためにプライド程邪魔なものもない。そこは置いといて……オレたちの勝機はそこだ。
 勝ちたいという気持ちが時としてあだになることもある。鷲が焦って前のめりになるまでまずは守備を固める。このテントならそれができるし、鷲もやや攻め急いでいる様子だ。
「茜。そろそろ反撃だ。準備はできたか?」
「いつでもいけます!」

 攻撃を当てやすくするにはどうすればいいか。簡単だ。近づけばいい。
 次に攻撃するときはより勢いをつけて、より近くで投石するに違いない。
 馬鹿でもわかる理屈だ。外野からバックホームするよりピッチャーマウンドからボールを投げた方がキャッチャーミットには収めやすいに決まってる。
 だからできるだけ鷲は地上に近づいてから投石する。攻撃を受けないぎりぎりの距離から攻撃を仕掛けるはず。
 その予想通りに今までとは比べ物にならない速度で急降下する。
 飛行機の墜落のように無秩序ではなくミサイルのようにただただ敵を破滅させるために落ちる星。手が届くはずもない。
 それでも、例え地べたをはいずり回っていたとしても星を打ち落とせないわけじゃない!

「茜!」
「はい!」
 テントからわずかに顔を出した茜は巨大な兵器を取り出す。
 まるでトランポリンのようなそれは確かに上空に何かを飛ばすための兵器。強いて名前を付けるなら対空型スリングショットだろうか。対空パチンコでもいいぞ。
 投石機はどうしても真上に攻撃できないからこうやって弾を真上に撃ちだす新しい兵器を用意した
 弓と同じように糸を引っ張ってその力を利用するわけだが茜が利用しやすいようにこれにも豚羊の毛を織り込んである。
 限界まで張り詰めた糸の力を一気に開放する。
 鷲が星ならこちらは空へと向かうロケットのようだ。地上へと急降下する鷲と一直線に上空へ向かう弾。
 間違いなく訓練の成果を発揮した茜は確実に直撃する軌道に弾を乗せた。
 当たる。一瞬ながらその確信がよぎる。急降下している鷲に弾が直撃すれば無事では済まない。

 しかし甘く見てはいけない。一瞬の猶予さえあれば逃れられない死を逃れることはできる。

 緑色の風を纏い、空中でその身をきりもみ状に回転させた。
 速度を落とすことなく最小限の動きだけで弾を回避する。にわかには信じがたい反応速度と飛行能力。
 反撃のチャンスは一転して窮地となる。
 このままなら。

 指示を出す暇はない。一瞬さえ長く感じるほどの刹那。
 茜は持っていたユーカリの枝に新鮮な草を押し当て、火をつけた。

 ユーカリの魔法は予想通り熱に関わる魔法で、ユーカリを発火させる魔法だった。
 枝や根に存在する熱を末端の葉に集める魔法だ。<ヒートシンク>と名付けた。
 発動条件は異なる種族の生物が同時にユーカリの一部、できれば枝や葉などの新鮮で成長し続ける部位、に触れること。
 これらの性質を考えると、この魔法の役割は単純明快。自分を害する生物の排除だ。
 新鮮な葉や枝にふれる、つまり自身の成長を妨げる生物が存在した場合これを排除するために発火する。
 このためにわざわざ茜には火をつけさせた。それからユーカリの枝に自分自身の体と何でもいいから生物、この場合そこら辺の草、を触れさせる。
 こうする加熱されたユーカリの温度が一気に葉に集中する。その温度は楽に発火点を超える。
 そしてユーカリの魔法のもっとも重要な部分は――――葉と枝が離れていたとしても発動できるということ。

 これを上手く使えば何ができるか。それこそ――――無線操作爆弾だ!

 ……残念ながら火薬は材料が少ないのでここで使うわけにもいかない。だから変わりに別の爆弾、水素爆弾を作った! ……もちろん本物の水爆じゃなくてただ単に弾?に水素を圧縮しただけの粗悪品だけどな。水素は去年拾った海藻からゲットした。
 学校の実験で一度くらいやっただろう。水素と酸素の反応だ。試験管程度でもポンっと大きな音をたてて破裂する。限界ぎりぎりまで圧縮されて弾に込められていたなら?
 水素は現代社会でも危険物としてみなされるよう取り扱い注意の物質。
 急激な気体の体積の変化によって風、いや爆風が鷲を襲う。

「やりましたか!?」
「フラグたてんな!」

 しかし――――仕留めきれない。
 回避行動が良かったのかわずかにタイミングがずれたのか、いまだに生き延びている。空中で体勢を持ちなおそうとして、そこで爆風以上に困惑しただろう。
 なぜなら、魔法が使えなかったから。

 そもそも風の魔法とは何か。
 RPGなどではごく定番の属性の一つだろうけど、意外に定義は曖昧だ。ものすごく適当な定義では一定速度以上で動く気体だろうか。
 しかしまあよく考えれば炎だって気体だし、水蒸気だって気体だ。では鷲は何を操っているのか?
 可能性は三つ。
 気体全て。
 空気に含まれる元素のひとつである窒素。
 同じく空気に含まれる酸素。
 ひとまずこの世界が地球と同じような気体の構成であると仮定すればそうなる。窒素や酸素以外の気体は大気にあまり含まれていないからだ。
 このうちのどれかは確信が持てなかったけど琴音が情報収集に奔走してくれたおかげでヒントが掴めた。
 鷲はユーカリによる火災が発生した場合絶対に近づかないらしい。何故なら火の近くを通ると墜落してしまうから。
 当たり前だけど炎、つまりものが燃焼すれば必ず酸素を消費する。鷲が酸素を操っていると仮定すれば、酸素を大量に消費している火災に近づきたくはないのではないか?
 正直かなり無理のある仮説だ。火災旋風のように火事の近くでは気流が乱れることも多いはず。
 だから上手くいくかは五分五分位だった。

 水素の燃焼によって空気中の酸素が奪われ、飛行する魔法が使えなくなるかは!

 突如として魔法が使えなくなった鷲はその勢いのまま墜落する――――しかし。
 ギリギリのところで魔法のコントロールを取り戻した鷲はかろうじて地面に激突する衝撃を緩和した。
 だが、遂に大空を舞う鷲を地面に叩き落とした。後は真っ向からの殴り合いだ。残念なことに水素弾はもう使えない。弾そのものはあるけどユーカリの魔法は一度使うとしばらく使えなくなるためだ。

「任せるぞ茜!」
「いっきまーす!」
 ようやく戦いらしい戦いだけど同時にここで逃せば勝ちの目はなくなる。正念場だぞ茜!
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