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秋葉夕雲

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第四章

216 ティラミス

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 ついにやってきたティラミス当日。
 あたたかな日差しが降り注ぐ体育日和。……だったんだけどさあ。

「何じゃこの風えええええええ!!!!」
 嵐? 嵐なの? いやこれ砂嵐ってやつ? 見たことないからわかんないけど。
 天候が変わりやすいとは思ってたけど予想以上だ。ついさっきまで晴れてたのが嘘みたい。しかしこの程度は日常茶飯事なのか高原の面々は涼しい顔をしている。
 これからティラミスの開会式のようなものがあり、ライガーが選手宣誓をやるらしい。なんでもこの高原でもっとも多くの土地を保有してるからだとか。意外と格式にこだわるのか?
 何はともあれライガーがでかい岩の上にその威厳あふれる姿を見せつける。……どっかの映画で見たことがある気がするけど気のせいだな。
 あとなんか足元に鹿? ガゼル? みたいなのが簀巻きにしてある。何あれ?

「アンティに殉ずる同胞らよ……時は来た! 漆黒の夜を払うために我らが宴は開かれる! さあ! 今こそ決戦の時だ! 秘めた力を解き放ち、存分に血を流し、ここに覇を競い合え!」
 ……ちなみにこれは冒頭のセリフだけ同じようなしゃべり方を数分ほど続けていた。よくもつな。
 まあ何というか黒とか封じられしとかそんな単語がポンポン出てくる。

「……イタイな」
「? どこか痛いの~?」
「あ、いやそういう意味じゃなくてな……まあ、中坊じゃなくてある意味存在そのものが中二っぽいライガーが言うとそれっぽく聞こえんでもないけど……ちなみにあれ、平常運転なのか?」
 隣にいたオレたち担当のマーモットに話しかける。
「ええ。ライガーの方々はいつもあのように話します」
 そういう方向で残念な奴が来たか。……世の中は広いな。悪い意味で。

「ティラミスの開催の為に我々が供儀を用意した! アンティよ! ここに始まりを告げたまえ!」

 あー、あの簀巻きにされた奴はそういう目的で連れてこられたのか。早い話がいけにえか。そういえばいけにえって後で食べるのかな? それともどっかに埋めたりするのか? 腐るから放置はしないと思うけど。
 宣誓はフェアプレーを誓うのではなく神に誓いをたてるという意味合いなのか。古代オリンピックとかでもそういうのはやってそうだけどな。
 マーモットが神官らしくサクッといけにえを処理して開会式は終了。
 これから各プログラムが開始される。
「まず各地で決闘が行われて数日後に開会式場で競技が始まる。別に観戦するのはいいんだよな?」
「はい。少人数であれば自由に試合を観察できます。もちろん決闘の妨害には罰則が設けられているのでご注意を」
 これはかなりありがたい。できる限り情報は集めたといっても不安は残る。
「試合結果はお前から逐一聞いていくけどそれもいいよな?」
「もちろん。我らの仕事ですので」
 マーモットのテレパシーはどうやら複数の個体と協力することでその範囲を拡大できるようだ。一匹だと百メートルくらいしか届かないけど数十匹ならそれこそ高原全体に届くほどになるらしい。
 ちなみにプレーリードッグなどの巣穴を掘り、集団で行動するげっ歯類の中には見張り役などの役割を持つことがある。多分この辺の性質が魔法になったはずだ。
 だからこそ各地で決闘を行ってもその情報を運営側が取り損ねることがない。正直この仕組みは地球でも真似した方がいいと思うんだがな。一つの国だけで競技を全て行うなんて時代遅れだと思うんだけど……まあ国をまたいだらそれはそれで不満が続出しそうではある。

 ひとまず重要度が高くなおかつ苦戦しそうな対戦相手を確認しておこう。

 蛇蝎 タイマン
 ハリネズミ タイマン
 カンガルー 鎧竜 三つ巴

 ここで間に競技を挟む。

 鷲 タイマン
 ライガー チーム戦

 まあこんなもんか。他にもたくさん決闘はあるけど注目しなければいけないのはこの五つ。というかここを取りこぼすとかなりまずい。できればライガーとかとは戦いたくなかったんだけどやむにやまれぬ事情というものがある。
 まずは初戦にして結構重要な土地の決闘である、蛇蝎との戦いを見てみよう。



「大丈夫なのですね? もしも危険があるのなら許しませんよ?」
 さっきから同じようなことを何度も何度も聞いてくるのはエミシが誇るぐちぐち女王こと瑞江。それから察せられるように今回戦うのは海老だ。
 海老 VS 蛇蝎 (サソリ)
 まあ地球じゃまず見られんカードだな。
「何度も言ってるけど戦いに絶対はない。でも勝算ならある」
 もちろんだけど戦うのは瑞江じゃない。海老女王は戦いに向いた魔法を持ってないから働き海老だ。前回トレーニングしていた海老の内の一人らしく、特に優秀だったので寧々からこいつを使うことを進言された。
「しかしまあ、服を着た犬猫なら珍しくはないけど海老に服を着せた奴はたぶんオレが初めてだろうな」
 ごわごわした衣服に身を包み、目元をゴーグルで、口元を布で覆ったその姿はどっからどう見ても不審し……げふん、消防隊員のような重装備だ。単純な防具としてはもちろんだけど乾燥に弱い海老のために内部の湿度を保ちやすいようにしてある。
「事前に話したけど、とにかく蛇蝎との戦いでは傷を負わないことが重要だ。一発でも貰えば即死する魔法を使うぞ」
「聞いてる」
 言葉少なだけど海老はまあこいつもこんな感じだ。緊張してるわけじゃない。瑞江がおしゃべりすぎるから忘れがちだけど。
 蛇蝎は相手を一撃で殺す必殺技(意味まんま)の持ち主だ。戦い方とかを観察すると蛇を模したしっぽに噛まれるだけで相手は死ぬ。
 というわけで基本戦術は防御を固めて傷一つさえ負わない。もちろん服は強化蜘蛛糸から作った布を何重かに重ねた超強化仕様。多分拳銃くらいならガードできるほどの強靭な布に加えて海老の甲殻は硬い。ちょっとやそっとの攻撃じゃびくともしない。
 
「アンティに導かれし信徒よ。前へ」
 審判役のマーモットが叫ぶ。マーモットたちは何故か円陣のようなものを組んでいる。
 なお厄介なことに決闘に参加している魔物以外は決して助力してはいけない。何を当たり前のことを、と思うかもしれないけど、魔物は、全て、参加してはいけないのだ。つまり辛生姜みたいに動物でなくても外側から干渉するのは禁止されている。あれはタイマンだとかなり強いから使えないのは痛い。一応テレパシーによる声援は許可されているみたいだ。
 しかもマーモットの奴、どうも魔法そのものを探知できるのか、辛生姜を使うと一発でばれる。
 その代わりに色々な武器を持たせてはいるけど、さて。

 呼ばれた海老と蛇蝎がにらみ合う。どこまでも無表情で、無機質で、火花よりも氷柱ができそうな空気だ。
「これより決闘を開始する!」
 お互いにいくつもの足で地面を蹴る。
 ティラミスの初戦が始まった。
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