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第三章
186 巣は踊る
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さて、城攻めならぬ巣攻めを行う以上準備にはできるだけ時間をかけた。もちろん急がなくてはいけないけど焦ってはいけない。ありとあらゆるものはそうだけどね。
さてまずこの攻略で参考にしたのは地球における城攻めだ。それしか参考資料がないだけだとは言ってはいけない。
話は変わるけど地球の蟻の巣ってすごいよな。水一リットルくらいどばどば注いでも数時間後には何事もなかったかのように復活するんだぜ? 蟻自身もホースの水を直撃させてもケロッとしてるし。それでさあ、どうやったらこいつら殺せるんだろうと思って色々試してみたくなるよな? ならない? いやなる。
殺虫剤使えって話だけどそれは何だかひねりがないだろ? で、ちょっと色々試した結果一番お手軽なのはお湯だという結論に至ったんだよ。軽く沸騰させたお湯を一滴垂らすとあら不思議。蟻はあっさり死んでしまいました。
うんそりゃ死ぬよな。基本的に昆虫は体温変化には弱い。一度巣にお湯かけると蜂の巣をつついたように、もとい蟻の巣をつついたように蟻がワラワラ出てくるからそれにまた湯をかける。それを繰り返す。
というわけで蟻の巣にお湯をどばーっと掛け続けると家の庭にあった蟻の巣はいつの間にか消えていました。
おしまい。
……子供って残酷なことするよねって話。当時のオレの家には何故か蟻が列を作って侵入してくることが多かったからその対策という理由はあるにしろ、飽きもせず一週間くらいお湯をかけ続けてたからな。
……まさかとは思うけどあの時蟻を大量に殺したから蟻に転生したとかいうオチはないだろうな。害虫駆除業者の方がよっぽど殺してるはずだとは思うけど。
何でこんなこと話すかっていうともちろん似たようなことをするからだ。
城攻めの典型例の一つ、水攻めだ。確か豊臣秀吉が得意としてたんだっけ。
何度目になるかわからない話だけど防衛側と攻撃側だと同じ数なら防衛側が有利だ。
というかそういう状況にできなければ守る側に問題がある。さらにこっち側は敵地での活動であるため大軍を動員できない。少人数でなおかつ一度に大量の女王蟻を殺さなければならない。こっちの唯一の利点はいまだにスパイが潜り込んでいると気づかれていないこと。
つまり事前準備の時間はある。
が、しかしここで問題が発生した。どうもテレパシーを使って会話していると樹海蟻に疑われる可能性が高くなるらしい。
例えるなら故郷の方言がひょんなことで顔を出して出身地がばれる単身赴任中のサラリーマンのようなものだろうか。なんにせよ樹海蟻の近場でオレとテレパシーするのはリスクのある行為だった。しかしそれならもっとわかりやすい方法で指示を出せばいい。要は紙と文字だ。
数百匹の蟻に指示を出さなければならないからここでも木版印刷が役に立った。なにしろ文字を知らない樹海蟻からしてみればなんだかよくわからない模様に過ぎない。カッコウなどがこっそり紙を配達したりして情報を伝達した。
ある時は潜入したオレの部下が、またある時は騙した樹海蟻を上手く使って穴を掘っていく。
実は三つの樹海蟻の女王の巣の内の一つは川が近く、水を引きやすい。そしてさらに蟻の巣は地面より低いため水を流し込めば容易に水没させられる。しかしもちろん樹海蟻だって馬鹿じゃない。ちゃんと巣が水没しないように工夫はしてある。
配下の働きアリたちが川を見張っていて、水位が上がれば、あるいは雨が降れば巣の入り口を閉じる。そして巣の中にも水を逃がす機構があるらしい。考えれば考えるほどよくできた仕組みだ。
言い換えれば、ふさぐべき場所をふさぎさえすれば水はどこにも逃げず、巣を満たす。
そして樹海蟻は想定していない。敵が同じ蟻ならトンネルくらい簡単に掘れるということを。これも城攻めの手段の一つ。モグラ攻めだっけ。トンネルを掘ってそこから侵入する。今回は兵力を侵入させずに水を入れるだけだけどな。
蟻は城や防衛設備を作ることが得意だ。兵種で分類すれば工兵に近いかな? 逆に言えば城を攻略するのも得意ということだ。自分たちの天敵が自分たちと同じ種族とは何とも因果というべきか。
ごうごうと音が鳴る。普段は聞こえないせいなのだろうか。雷や台風にしてもそうだけど災害の音は生き物たちを不安にさせる。数日間続いた雨はそれほど激しくなかったとはいえ十分すぎるほどに増水している。この時を待っていた。
「よし。入り口を開けろ」
川から女王蟻の巣へつながるトンネルの水門が開けられる。風呂の栓が抜けたように水が底に流れ込む。
……実はあの巣の中にはまだオレの部下も残っているけど……すでに本人たちの了解はとっている。
ここまでくれば後は結果を待つしかない。今のところ上手くいっている。
「翼。もしも這い出てくる奴らがいたら問答無用で殺せ」
「承知いたしました王よ。他の場所の首尾はいかがでしょうか」
「上手くやっているみたいだな」
三つの巣は同時に攻略する。それはもちろん樹海蟻に警戒させないためでもあるし、この雨が続いたせいで樹海蟻たちが閉じこもっているタイミングが今日くらいしかないという事情もある。
もしも上手くいかなければ樹海蟻たちとの全面戦争。しかも警戒されれば同じ手はまず使えない。
後には引けない戦いが始まり、同時に可及的速やかに終わらせなければならない。
さてまずこの攻略で参考にしたのは地球における城攻めだ。それしか参考資料がないだけだとは言ってはいけない。
話は変わるけど地球の蟻の巣ってすごいよな。水一リットルくらいどばどば注いでも数時間後には何事もなかったかのように復活するんだぜ? 蟻自身もホースの水を直撃させてもケロッとしてるし。それでさあ、どうやったらこいつら殺せるんだろうと思って色々試してみたくなるよな? ならない? いやなる。
殺虫剤使えって話だけどそれは何だかひねりがないだろ? で、ちょっと色々試した結果一番お手軽なのはお湯だという結論に至ったんだよ。軽く沸騰させたお湯を一滴垂らすとあら不思議。蟻はあっさり死んでしまいました。
うんそりゃ死ぬよな。基本的に昆虫は体温変化には弱い。一度巣にお湯かけると蜂の巣をつついたように、もとい蟻の巣をつついたように蟻がワラワラ出てくるからそれにまた湯をかける。それを繰り返す。
というわけで蟻の巣にお湯をどばーっと掛け続けると家の庭にあった蟻の巣はいつの間にか消えていました。
おしまい。
……子供って残酷なことするよねって話。当時のオレの家には何故か蟻が列を作って侵入してくることが多かったからその対策という理由はあるにしろ、飽きもせず一週間くらいお湯をかけ続けてたからな。
……まさかとは思うけどあの時蟻を大量に殺したから蟻に転生したとかいうオチはないだろうな。害虫駆除業者の方がよっぽど殺してるはずだとは思うけど。
何でこんなこと話すかっていうともちろん似たようなことをするからだ。
城攻めの典型例の一つ、水攻めだ。確か豊臣秀吉が得意としてたんだっけ。
何度目になるかわからない話だけど防衛側と攻撃側だと同じ数なら防衛側が有利だ。
というかそういう状況にできなければ守る側に問題がある。さらにこっち側は敵地での活動であるため大軍を動員できない。少人数でなおかつ一度に大量の女王蟻を殺さなければならない。こっちの唯一の利点はいまだにスパイが潜り込んでいると気づかれていないこと。
つまり事前準備の時間はある。
が、しかしここで問題が発生した。どうもテレパシーを使って会話していると樹海蟻に疑われる可能性が高くなるらしい。
例えるなら故郷の方言がひょんなことで顔を出して出身地がばれる単身赴任中のサラリーマンのようなものだろうか。なんにせよ樹海蟻の近場でオレとテレパシーするのはリスクのある行為だった。しかしそれならもっとわかりやすい方法で指示を出せばいい。要は紙と文字だ。
数百匹の蟻に指示を出さなければならないからここでも木版印刷が役に立った。なにしろ文字を知らない樹海蟻からしてみればなんだかよくわからない模様に過ぎない。カッコウなどがこっそり紙を配達したりして情報を伝達した。
ある時は潜入したオレの部下が、またある時は騙した樹海蟻を上手く使って穴を掘っていく。
実は三つの樹海蟻の女王の巣の内の一つは川が近く、水を引きやすい。そしてさらに蟻の巣は地面より低いため水を流し込めば容易に水没させられる。しかしもちろん樹海蟻だって馬鹿じゃない。ちゃんと巣が水没しないように工夫はしてある。
配下の働きアリたちが川を見張っていて、水位が上がれば、あるいは雨が降れば巣の入り口を閉じる。そして巣の中にも水を逃がす機構があるらしい。考えれば考えるほどよくできた仕組みだ。
言い換えれば、ふさぐべき場所をふさぎさえすれば水はどこにも逃げず、巣を満たす。
そして樹海蟻は想定していない。敵が同じ蟻ならトンネルくらい簡単に掘れるということを。これも城攻めの手段の一つ。モグラ攻めだっけ。トンネルを掘ってそこから侵入する。今回は兵力を侵入させずに水を入れるだけだけどな。
蟻は城や防衛設備を作ることが得意だ。兵種で分類すれば工兵に近いかな? 逆に言えば城を攻略するのも得意ということだ。自分たちの天敵が自分たちと同じ種族とは何とも因果というべきか。
ごうごうと音が鳴る。普段は聞こえないせいなのだろうか。雷や台風にしてもそうだけど災害の音は生き物たちを不安にさせる。数日間続いた雨はそれほど激しくなかったとはいえ十分すぎるほどに増水している。この時を待っていた。
「よし。入り口を開けろ」
川から女王蟻の巣へつながるトンネルの水門が開けられる。風呂の栓が抜けたように水が底に流れ込む。
……実はあの巣の中にはまだオレの部下も残っているけど……すでに本人たちの了解はとっている。
ここまでくれば後は結果を待つしかない。今のところ上手くいっている。
「翼。もしも這い出てくる奴らがいたら問答無用で殺せ」
「承知いたしました王よ。他の場所の首尾はいかがでしょうか」
「上手くやっているみたいだな」
三つの巣は同時に攻略する。それはもちろん樹海蟻に警戒させないためでもあるし、この雨が続いたせいで樹海蟻たちが閉じこもっているタイミングが今日くらいしかないという事情もある。
もしも上手くいかなければ樹海蟻たちとの全面戦争。しかも警戒されれば同じ手はまず使えない。
後には引けない戦いが始まり、同時に可及的速やかに終わらせなければならない。
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