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第三章
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「では今回の蜘蛛との騒動でやらかした千尋。前に出なさい」
薄暗い巣の中で木槌をコンコンと叩く。裁判長がもつガベルとかいう道具だ。
気分だけでも裁判っぽくしてみた。余計虚しくなったけどもうこのテンションのまま最後までやろう。
「え~? 悪いことしてないよ~」
反省の様子無し。これは言い聞かせないとだめですね。
「オレはあの蜘蛛たちとの交渉を仲介してくれって言ったよな? 逆に煽ってどうするんだよ」
「だってあいつらシレーナのこと馬鹿にしたんだもん」
「もん。……じゃなーい! せっかく味方を増やすチャンス不意にしたんだぞ? それどころか敵にしちゃったんだぞ?」
なんだろうこの子供に言い聞かせてる親感。実際問題として似たようなもんだけど。
「あんな奴ら味方にしたくないよ~」
この主張は一貫して変わらない。確かにあの蜘蛛と千尋が一緒に過ごすと宗教大戦争が勃発することは疑いようがない。
それはもういい。どうにもならん。しかし、
「それはお前の意見だろ? お前が勝手に決めていいことじゃない。せめてオレに一言断りを入れてくれ」
今回の件は一部門の部長が取締役の指示を無視して勝手に交渉して決裂したようなもんだ。オレが命令したのは仲介までで、直接交渉しろとは言ってない。
まあ、その辺の指示系統みたいなものをしっかり決めてないオレも悪いけどね。
「ぶーぶー」
「ぶーぶーいうな。とりあえずお前は反省文と一食抜きだ。そんな物凄い顔しても結論は変わらないぞ」
千尋はムンクの叫びのようなどれほど恐ろしいものを見たのかまるで理解できない表情をしていた。実際にはただ飯抜きを宣告されただけです。実は少し前にあえて食事させておいて、油断させておいた。あれだ、取調室のカツどん的なやり方だ。食い意地の張っている千尋にとってそれがどれほど重い罰なのかは推して知るべし。
しかしこれからどうするかな。交渉はかなり難しい。話すらできないならマッチポンプに持ち込むことさえできない。それでもお互い不干渉を決め込んでくれるならこのままでもいい。
こっちを積極的に狩ってくるなら反撃せざるを得ない。反対にこちらが積極的に攻め込む理由は特にないから向こうの出方待ちかなあ。
だが出方を待つ必要などなかった。もうこの時点ですでに攻撃は始まっていたのだから。
「……被害報告」
名もない働き蟻に端的な命令を下す。眼下の惨状はよくわかっているけど、具体的な数字とこうなった経緯について知りたい。
「ドードーの放牧中に蜘蛛が襲ってきた。明らかに多勢だったから逃げた。でも追撃されて多数の負傷者が出た」
「多数、の数字は? 概算でいい」
「負傷者は二十人くらい。死亡者が十人。連れ去られたのが五、六人」
数そのものは微々たるものだ。まあ地球だとえらい騒ぎになる数だけど、この異世界では日常茶飯事だ。問題なのは連れ去られた数が明らかに少ないことだ。
つまりこれは狩りではなく、殺すために殺したという結論に辿り着く。
「蜘蛛は何か言ってたか?」
蜘蛛とは女王蟻じゃなきゃ会話できない。なのでこれはただの確認のつもりだった。
「わからないけど、笑っていたように感じた」
もしかしたら働き蟻でも相手の意図くらいなら読めるのかもしれない。本当に正しいとは限らないけど、いやいや殺したわけでもなさそうだ。
なるほど。敵の蜘蛛たちはどうやらオレたちを完全に敵とみなしたようだ。
それはいい。味方だと判断する根拠は何一つないからな。しかし攻撃した理由はきっとシイネル……つまり宗教的な理由である可能性が高い。
よし。
「とりあえず殺すか」
結論を口にする。ヒトモドキにしてもそうだけど、どうしてどいつもこいつもそんな理由で他人を殺すのやら。理屈の欠片も感じない。
例えば食うために殺すのはいい。縄張りを守るために戦うのも流せる。味方を攻撃された報復というのもまあしゃあない。
それこそ銀髪がそういう理由でオレたちと戦ったのならそれを恨むことはない。
しかし神だとか救いだとかそんなもんの為にオレの貴重な部下を殺されて我慢はできない。
ひとまず殲滅しよう。正当防衛は十分成立する。どこまで殺しつくすかはともかくとして、思う存分叩きのめして問題はなさそうだ。少なくともあっちはその気だ。
滅ぼされる覚悟がないとは言わせない。
「千尋。予定変更だ。飯抜きは取り消す」
「やっ「この騒動が終わってからまた改めて罰を下す」
再び叫びの顔。
「ただし、もしも今回オレの指示に従って成果を出せたら罰則は軽減してもいい」
「わかった~。がんばるよ~」
信賞必罰。いや、功を以て責の償いとする、だな。あめむちあめむち。
前回の蟻戦の反省を踏まえ、いかに迅速に敵の巣を発見することが最優先だ。泥沼のゲリラ戦とかめんどくさくてやってられない。
作戦はもちろんある。
「それじゃあまず、戦って負けようか」
薄暗い巣の中で木槌をコンコンと叩く。裁判長がもつガベルとかいう道具だ。
気分だけでも裁判っぽくしてみた。余計虚しくなったけどもうこのテンションのまま最後までやろう。
「え~? 悪いことしてないよ~」
反省の様子無し。これは言い聞かせないとだめですね。
「オレはあの蜘蛛たちとの交渉を仲介してくれって言ったよな? 逆に煽ってどうするんだよ」
「だってあいつらシレーナのこと馬鹿にしたんだもん」
「もん。……じゃなーい! せっかく味方を増やすチャンス不意にしたんだぞ? それどころか敵にしちゃったんだぞ?」
なんだろうこの子供に言い聞かせてる親感。実際問題として似たようなもんだけど。
「あんな奴ら味方にしたくないよ~」
この主張は一貫して変わらない。確かにあの蜘蛛と千尋が一緒に過ごすと宗教大戦争が勃発することは疑いようがない。
それはもういい。どうにもならん。しかし、
「それはお前の意見だろ? お前が勝手に決めていいことじゃない。せめてオレに一言断りを入れてくれ」
今回の件は一部門の部長が取締役の指示を無視して勝手に交渉して決裂したようなもんだ。オレが命令したのは仲介までで、直接交渉しろとは言ってない。
まあ、その辺の指示系統みたいなものをしっかり決めてないオレも悪いけどね。
「ぶーぶー」
「ぶーぶーいうな。とりあえずお前は反省文と一食抜きだ。そんな物凄い顔しても結論は変わらないぞ」
千尋はムンクの叫びのようなどれほど恐ろしいものを見たのかまるで理解できない表情をしていた。実際にはただ飯抜きを宣告されただけです。実は少し前にあえて食事させておいて、油断させておいた。あれだ、取調室のカツどん的なやり方だ。食い意地の張っている千尋にとってそれがどれほど重い罰なのかは推して知るべし。
しかしこれからどうするかな。交渉はかなり難しい。話すらできないならマッチポンプに持ち込むことさえできない。それでもお互い不干渉を決め込んでくれるならこのままでもいい。
こっちを積極的に狩ってくるなら反撃せざるを得ない。反対にこちらが積極的に攻め込む理由は特にないから向こうの出方待ちかなあ。
だが出方を待つ必要などなかった。もうこの時点ですでに攻撃は始まっていたのだから。
「……被害報告」
名もない働き蟻に端的な命令を下す。眼下の惨状はよくわかっているけど、具体的な数字とこうなった経緯について知りたい。
「ドードーの放牧中に蜘蛛が襲ってきた。明らかに多勢だったから逃げた。でも追撃されて多数の負傷者が出た」
「多数、の数字は? 概算でいい」
「負傷者は二十人くらい。死亡者が十人。連れ去られたのが五、六人」
数そのものは微々たるものだ。まあ地球だとえらい騒ぎになる数だけど、この異世界では日常茶飯事だ。問題なのは連れ去られた数が明らかに少ないことだ。
つまりこれは狩りではなく、殺すために殺したという結論に辿り着く。
「蜘蛛は何か言ってたか?」
蜘蛛とは女王蟻じゃなきゃ会話できない。なのでこれはただの確認のつもりだった。
「わからないけど、笑っていたように感じた」
もしかしたら働き蟻でも相手の意図くらいなら読めるのかもしれない。本当に正しいとは限らないけど、いやいや殺したわけでもなさそうだ。
なるほど。敵の蜘蛛たちはどうやらオレたちを完全に敵とみなしたようだ。
それはいい。味方だと判断する根拠は何一つないからな。しかし攻撃した理由はきっとシイネル……つまり宗教的な理由である可能性が高い。
よし。
「とりあえず殺すか」
結論を口にする。ヒトモドキにしてもそうだけど、どうしてどいつもこいつもそんな理由で他人を殺すのやら。理屈の欠片も感じない。
例えば食うために殺すのはいい。縄張りを守るために戦うのも流せる。味方を攻撃された報復というのもまあしゃあない。
それこそ銀髪がそういう理由でオレたちと戦ったのならそれを恨むことはない。
しかし神だとか救いだとかそんなもんの為にオレの貴重な部下を殺されて我慢はできない。
ひとまず殲滅しよう。正当防衛は十分成立する。どこまで殺しつくすかはともかくとして、思う存分叩きのめして問題はなさそうだ。少なくともあっちはその気だ。
滅ぼされる覚悟がないとは言わせない。
「千尋。予定変更だ。飯抜きは取り消す」
「やっ「この騒動が終わってからまた改めて罰を下す」
再び叫びの顔。
「ただし、もしも今回オレの指示に従って成果を出せたら罰則は軽減してもいい」
「わかった~。がんばるよ~」
信賞必罰。いや、功を以て責の償いとする、だな。あめむちあめむち。
前回の蟻戦の反省を踏まえ、いかに迅速に敵の巣を発見することが最優先だ。泥沼のゲリラ戦とかめんどくさくてやってられない。
作戦はもちろんある。
「それじゃあまず、戦って負けようか」
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