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秋葉夕雲

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第三章

131 今こそ不義が暴かれる時

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 豪奢な内装、高貴な芸術品。凡百の民ならひれ伏してしまいそうな輝きを放つ天界の一室で今まさに不義が暴かれようとしていた。
「違う! 私は何もしていない!」
 その声はあまりにも見苦しい。彼の犯した罪はまさしく神をも恐れぬ所業だった。
「言い訳はやめなさい! ここに全ての証拠は揃っています!」
「燕君! 君までそんなことを言うのか!? 私は何一つルールを破っていない!」
 数人の局員が暴れる男を取り押さえている。だがこの悪人の虚言に惑わされるものなど一人もいない。なぜなら彼らは栄えある転生管理局の一員であり、事の真贋を見誤ることなど決してないからだ。
 なおも罵詈雑言をまくしたてる男の目の前で重々しく扉が開かれる。そこに立つ人物こそ――
翡翠かわせみ君! 君からも何か言ってくれたまえ!」
 ゆったりと余裕の笑みを浮かべる翡翠は百舌鳥に問い返す。
「何か、ですか。何とは一体何のことです? 環境を操作したことですか? 原生生物を操作したことですか? それとも――――」
 取り押さえられている元 異世界転生管理局地球支部支部長百舌鳥の目をあざ笑いながらのぞき込む。
「それらすべてを私の仕業に装ったことですか?」
「ち、違う。それは私のせいではない」
「で、は、誰のせいなんですかねえ? 支部長? いえ、元、支部長?」
 すでに百舌鳥は支部長ではない。IDを改ざんした容疑で一旦拘留されている。あろうことか拘留中に逃亡し、ここに潜伏していたところを捕えられたのだ。
 百舌鳥は翡翠の言葉に逆上し、食ってかかる。
「て、てめえ! この俺を誰だと思ってやがる! 百舌鳥だぞ! てめえも、この支部にいる奴は全員俺が育ててやったんだろうが! 何ぼさっとしてる! 俺を助けろ!」
「見苦しいですよ、百舌鳥」
「そもそもてめえ何で出てきてるんだよ! 監禁されていたはずだろ!」
「それは簡単ですよ。助けて頂いたのです」
 じっくりと百舌鳥の反応を楽しむようにためを作る。
「あのアベル支部のコウノトリ支部長にね」
「な!? あの出不精がたかが局員一人を助けるはずがない!」
「それほどあなたの行いが目に余ったということでしょう。あなたでもコウノトリ支部長には反抗できませんよね? お分かりですか? あなたのような大馬鹿者を助ける役員など一人もいません」
「馬鹿!? この俺に馬鹿だと!? くそ! 離せ! 今に見ていろ、貴様ら全員にしかるべき報いを……がっ!?」
 無理矢理組み伏せられながらも捨て台詞を残し、周囲を焼き尽くさんばかりに睨みながら引きずられていった。

「あんな愚か者が支部長など……我々の品格が疑われますね。ところで、今現在地球支部の支部長は誰になるのかな? 燕さん」
「現在地球支部に支部長になれる役員が翡翠さんしかいません。つまりあなたが支部長になりますが、本格的な処置が下るまでは代理支部長という扱いでしょう」
「それはそれは……ではしょうがない。私が支部長にならねばなるまい。人にはその力量に見合った役職がありますからねえ」
 実際には支部長になれる人材のほとんどは百舌鳥に追放されたから残っていなかっただけであり、翡翠が今までここに残っていたのはひとえにひたすら百舌鳥に従順だったために過ぎない。
「まずはコウノトリ支部長に感謝を。私が不義を正すことができたのはあの方のおかげです」
「はい」
「そして例の転生者……我々がなぜか把握していなかった転生者……イレギュラーとでも呼びましょうか。イレギュラーはできる限り速やかに処分する必要があります」
「お言葉ですがイレギュラーは放置しておいても問題がないと愚考しますが」
 自分に意見した燕に対して翡翠はほんの一瞬だけ顔をひきつらせたが、すぐに柔和な笑みを浮かべながら話しかけた。
「あれは放置しておくと均衡を乱す。処置しておいた方がいい」
「承知しました」

 慌ただしく動き出した地球支部で一人だけ翡翠は暗い思索にふける。
(どいつもこいつも調子がいい。誰一人として私を助けなかったくせに、百舌鳥が放逐された途端これだ。いっそ全員消し飛ばして……いや、それはこの私が権力を盤石にしてからだ)
 怨念渦巻く心中とは裏腹にあくまでも朗らかに指示を飛ばす。
(百舌鳥のくそ野郎が処理し損ねたイレギュラーを殺すことで、この私が百舌鳥よりも優秀であることを示す。そして奴の息がかかっていた職員を飛ばす。そうして初めて私の正しさが証明される)
 翡翠の胸中はエゴに満ち溢れていたが、彼にとってそれは絶対の善であり、悪事であるとはつゆほどにも考えていなかった。

 例え敵の頭が変わっても一度ついた火が容易に消えはしない。
 彼の戦いは新たな局面に突入することになった。
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