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第二章
76 鹿食えば
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血抜きももうそろそろできるはずだし他の準備も始めようか。そういって材料は同じだからほとんどレパートリーはないけど。
とでも言うと思ったのか!
工夫してこその料理だ。例え食材が同じでも調理や栽培の仕方で工夫できる!
まず辛生姜! 辛くない生姜の栽培に成功したぜ! ヒャッハー!
実は地球の唐辛子にはきちんと栄養を与えると辛くなくなる形質があるので、物は試しでたっぷり肥料を与えたら辛くなくなった。
名前詐欺になっちゃったけど辛さが必要じゃない時もあるからきちんと作り分ければいいかもしれない。
そしてシードルからリンゴ酢を作ることにも成功した。ていうかたまたまお酢になってた。まあそんなこともあるさ。ちょっときついお酢だから生で飲むのはまず無理だ。
後は種。蜘蛛がセリ科らしき植物の種を好んでいたので、種を乾燥させて粉末にしたものをスパイスとして作ってみた。 煎ったりしても面白いかも。無理矢理分類するならコリアンダーに近いはずだ。……どんどん脇役ばっかりが充実してる気がする。
スパイスか。スパイスといえば偏見かもしれないけどインドだよな。
よし! 今日はインド寄りで料理しよう。
まず干しリンを細かく切って、水で煮込む。そこにリンゴ酢とすりおろした生姜を入れて再び煮込む。
いわゆるチャツネというインドのジャムに近い保存食だ。美味かったら本格的に増産しよう。
途中でリンゴ酢のつんとした匂いにやられかけたけど無視だ。料理するたびに外傷が増える気がする。
そして油! ちょっと前に作った油で炒め料理を作ろう。
血抜きが終わったので肉を解体しつつ川で洗う。川が近いとこういう時便利だ。ただどうも川に魔物がいるようなので釣りは今のところ行っていない。
一回噴水かよっ!? ていうぐらいでかい水しぶきが舞ってたからな。確実にでかい魔物がいる。普通に考えれば陸の魔物よりも海の魔物の方が大きいはずだ。流石に内陸部の川ならクジラみたいに馬鹿でかい水棲生物はいないと思いたいけど……陸上歩行可能なクジラとかいそう……てかそれもははやゴジ……いやなんでもない。
まずは鹿肉の生姜焼き。これはもうごく普通の作り方だ。
温めたフライパン(石製)に油を引いて生姜を熱してから切り落とした鹿肉を炒める。生姜は臭みをとることができるから肉料理には合うはずだ。
変な臭いもしていない。焼いているうちに肉汁があふれてきたのでこれもまた食欲をそそる。鹿肉の見た目は脂身の少ないややくすんだ赤身だったけど脂がないわけじゃないようだ。
「鹿がおいしいかのやまー」
「それも歌?」
「替え歌な。気になるか?」
「うん」
次世代女王蟻はずいぶんと歌が気に入ったらしい。一緒に故郷を歌いながら調理する。
「ふーふーふー、ふーふふーふんふんふんー」
鼻歌混じりに肉の下ごしらえをする。下ごしらえされた肉をオレが焼いていく。役割分担すると楽だな。料理も教育に使えるかな? そのうち蜘蛛も誘ってみるか。
次はステーキ風。適度に叩いた肉を油でいためてからチャツネをからめて炒める。正直チャツネなんて食べたことないから美味いのかどうかすらよくわかんない。
最後に鹿肉を炭火で焼いてから、フライパンでさらに炒めてコリアンダーを混ぜる。
以上鹿肉の料理三品。一人の死傷者を出すこともなく(?)完成しました!
まず生姜焼き。うん。美味い。
脂身があまりないから食べやすい。鹿って生臭いらしいからちょっと不安だったけど問題ない。子鹿だからかな?
次はスパイスを利かせた鹿肉を食べよう。コリアンダーもどきの匂いはどことなく柑橘類に近くつんとするが爽やかだ。味は……うーん正直そこまで変わっているようには思えないかな。香りづけがメインだな。
チャツネつきステーキは酸っぱい! 干しリンもうちょっと入れるか、砂糖でもないと厳しい。やっぱり蜂を飼えなかったのは痛手だな。正直イマイチの味になってしまった。
蟻も蜘蛛も酸っぱいのは少し苦手みたいだ。残さず食べるあたりまじめだけど。
まいど言ってるけど塩欲しい。胡椒は辛生姜とかで何とかなるけど塩はちょっとごまかせない。発酵食品づくりにも有用だから早めに塩ほしいな。
でもまあだんだん料理っぽくなってるのは確かだ。このペースなら十年後には満漢全席でも作れるかもな。
さて満腹、満腹。
親鹿を食いに行っている奴らも満足したようだ。あまりにも量が多かったので第二陣を向かわせている。蜘蛛は一度に大量に食べれば数日絶食可能らしく、食費を大分節約できる。でも糸を出すと腹が減るらしいからな。働かざる者食うべからずだけど、働く者には食わせなければならない。上司の辛いところだ。
とはいえ久々の大物だ。蜘蛛も蟻も喜んでいるだろう。
だが予想に反して第二陣は困惑に包まれていた。何故ならすでに蟻達によって残っていたはずの親鹿の大部分は食べられていたからだ。
「あれ? もしかしてこっそり抜け出した奴がいるのか?」
どこか気の抜けた感想を漏らしてしまう。だけどオレはこれが非常事態だとまだ理解しておらず、むしろ現場にいた奴らの方が現状をよく理解していた。
「紫水。こいつらは蟻じゃない」
なぞかけのような言葉だったが、その敵意と警戒心はもしかすると今までで最大だったかもしれない。つまり、こいつらは敵だ。オレ以外の群れの蟻。初めて出会う同族。オレたちが灰色っぽい体色をしているのに対し、向こうは真っ黒だ。
しかし、敵意を燃やす蟻達とは違いオレはむしろ喜んでいた。これはチャンスだ。
他のコミュニティと交渉し、交易するこれ以上ないチャンス。
なんだかんだ言って蜘蛛やドードーは別の生物だ。だから何かのきっかけがないと協力関係を築くのは難しい。だけど同族ならまともな話ができるはずだ。まずは話しかけるべし!
だがこの時点でオレは重要な事実を忘れていた。
「なあ、お前ら俺たちと交易する気はないか?」
「何だとコラア!」
「舐めてんのかゴルア!」
「ぶちのめすぞアア!?」
蟻は同族間の争いが非っっっっっっっっ常ぉぉぉぉぉぉぉぉに激しい生物だということを。
とでも言うと思ったのか!
工夫してこその料理だ。例え食材が同じでも調理や栽培の仕方で工夫できる!
まず辛生姜! 辛くない生姜の栽培に成功したぜ! ヒャッハー!
実は地球の唐辛子にはきちんと栄養を与えると辛くなくなる形質があるので、物は試しでたっぷり肥料を与えたら辛くなくなった。
名前詐欺になっちゃったけど辛さが必要じゃない時もあるからきちんと作り分ければいいかもしれない。
そしてシードルからリンゴ酢を作ることにも成功した。ていうかたまたまお酢になってた。まあそんなこともあるさ。ちょっときついお酢だから生で飲むのはまず無理だ。
後は種。蜘蛛がセリ科らしき植物の種を好んでいたので、種を乾燥させて粉末にしたものをスパイスとして作ってみた。 煎ったりしても面白いかも。無理矢理分類するならコリアンダーに近いはずだ。……どんどん脇役ばっかりが充実してる気がする。
スパイスか。スパイスといえば偏見かもしれないけどインドだよな。
よし! 今日はインド寄りで料理しよう。
まず干しリンを細かく切って、水で煮込む。そこにリンゴ酢とすりおろした生姜を入れて再び煮込む。
いわゆるチャツネというインドのジャムに近い保存食だ。美味かったら本格的に増産しよう。
途中でリンゴ酢のつんとした匂いにやられかけたけど無視だ。料理するたびに外傷が増える気がする。
そして油! ちょっと前に作った油で炒め料理を作ろう。
血抜きが終わったので肉を解体しつつ川で洗う。川が近いとこういう時便利だ。ただどうも川に魔物がいるようなので釣りは今のところ行っていない。
一回噴水かよっ!? ていうぐらいでかい水しぶきが舞ってたからな。確実にでかい魔物がいる。普通に考えれば陸の魔物よりも海の魔物の方が大きいはずだ。流石に内陸部の川ならクジラみたいに馬鹿でかい水棲生物はいないと思いたいけど……陸上歩行可能なクジラとかいそう……てかそれもははやゴジ……いやなんでもない。
まずは鹿肉の生姜焼き。これはもうごく普通の作り方だ。
温めたフライパン(石製)に油を引いて生姜を熱してから切り落とした鹿肉を炒める。生姜は臭みをとることができるから肉料理には合うはずだ。
変な臭いもしていない。焼いているうちに肉汁があふれてきたのでこれもまた食欲をそそる。鹿肉の見た目は脂身の少ないややくすんだ赤身だったけど脂がないわけじゃないようだ。
「鹿がおいしいかのやまー」
「それも歌?」
「替え歌な。気になるか?」
「うん」
次世代女王蟻はずいぶんと歌が気に入ったらしい。一緒に故郷を歌いながら調理する。
「ふーふーふー、ふーふふーふんふんふんー」
鼻歌混じりに肉の下ごしらえをする。下ごしらえされた肉をオレが焼いていく。役割分担すると楽だな。料理も教育に使えるかな? そのうち蜘蛛も誘ってみるか。
次はステーキ風。適度に叩いた肉を油でいためてからチャツネをからめて炒める。正直チャツネなんて食べたことないから美味いのかどうかすらよくわかんない。
最後に鹿肉を炭火で焼いてから、フライパンでさらに炒めてコリアンダーを混ぜる。
以上鹿肉の料理三品。一人の死傷者を出すこともなく(?)完成しました!
まず生姜焼き。うん。美味い。
脂身があまりないから食べやすい。鹿って生臭いらしいからちょっと不安だったけど問題ない。子鹿だからかな?
次はスパイスを利かせた鹿肉を食べよう。コリアンダーもどきの匂いはどことなく柑橘類に近くつんとするが爽やかだ。味は……うーん正直そこまで変わっているようには思えないかな。香りづけがメインだな。
チャツネつきステーキは酸っぱい! 干しリンもうちょっと入れるか、砂糖でもないと厳しい。やっぱり蜂を飼えなかったのは痛手だな。正直イマイチの味になってしまった。
蟻も蜘蛛も酸っぱいのは少し苦手みたいだ。残さず食べるあたりまじめだけど。
まいど言ってるけど塩欲しい。胡椒は辛生姜とかで何とかなるけど塩はちょっとごまかせない。発酵食品づくりにも有用だから早めに塩ほしいな。
でもまあだんだん料理っぽくなってるのは確かだ。このペースなら十年後には満漢全席でも作れるかもな。
さて満腹、満腹。
親鹿を食いに行っている奴らも満足したようだ。あまりにも量が多かったので第二陣を向かわせている。蜘蛛は一度に大量に食べれば数日絶食可能らしく、食費を大分節約できる。でも糸を出すと腹が減るらしいからな。働かざる者食うべからずだけど、働く者には食わせなければならない。上司の辛いところだ。
とはいえ久々の大物だ。蜘蛛も蟻も喜んでいるだろう。
だが予想に反して第二陣は困惑に包まれていた。何故ならすでに蟻達によって残っていたはずの親鹿の大部分は食べられていたからだ。
「あれ? もしかしてこっそり抜け出した奴がいるのか?」
どこか気の抜けた感想を漏らしてしまう。だけどオレはこれが非常事態だとまだ理解しておらず、むしろ現場にいた奴らの方が現状をよく理解していた。
「紫水。こいつらは蟻じゃない」
なぞかけのような言葉だったが、その敵意と警戒心はもしかすると今までで最大だったかもしれない。つまり、こいつらは敵だ。オレ以外の群れの蟻。初めて出会う同族。オレたちが灰色っぽい体色をしているのに対し、向こうは真っ黒だ。
しかし、敵意を燃やす蟻達とは違いオレはむしろ喜んでいた。これはチャンスだ。
他のコミュニティと交渉し、交易するこれ以上ないチャンス。
なんだかんだ言って蜘蛛やドードーは別の生物だ。だから何かのきっかけがないと協力関係を築くのは難しい。だけど同族ならまともな話ができるはずだ。まずは話しかけるべし!
だがこの時点でオレは重要な事実を忘れていた。
「なあ、お前ら俺たちと交易する気はないか?」
「何だとコラア!」
「舐めてんのかゴルア!」
「ぶちのめすぞアア!?」
蟻は同族間の争いが非っっっっっっっっ常ぉぉぉぉぉぉぉぉに激しい生物だということを。
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