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秋葉夕雲

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第二章

66 ガヤ

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「君には聞こえるか? 我々の足音が。それこそが生きている証明。我らの歴史が連綿と続いていく歴史の足音だ。永久に続くわれらの子らに祝福を」
「だから話を聞けっつってんだろ!」
 この調子だ。さっきからオレが話しかけても一人で謎ポエムを呟くだけでオレと会話を続ける意思が感じられない。
 会話のドッジボールどころじゃない。これはもう会話のスカッシュだ。オレに対してボールを投げるんじゃなく、壁に対して打ち返してる。要するに不毛極まりない。
 蜘蛛はまだ会話が成り立つ分ましだったな。これはこれで一種の精神攻撃のように感じる。こいつとどうやって会話していいのか見当もつかな……待てよ? もしかしてオレも同じように話しかければちゃんと会話になるのか?
 コミュニケーションの基本は相手の立場になって考えること。こいつにとっては自分の喋り方が普通で、オレの方が変なしゃべり方をしていることになる。嫌だけどやってみるか。
「オレたちは前に進むべきだ? えー、互いに有益な取引を行うために」
「ならば前に進もう! 我らが祖先の偉大さを汝に語ろう!」
 会話が成立しました。オレ、こいつらと話す時ずっとこの喋り方じゃないといけないのか?
 悪戦苦闘しつつも会話を続けること数分。ドードーは宣言通り祖先とやらの偉大さをずっと話続けていた。……会話って呼べるのか?

 蜘蛛で慣れてたけど魔物は自分の一族をとにかく自慢したがる傾向にある。祖霊信仰みたいなもんか? その内容はどこで食べた果実は美味かっただとかどこかの森では他の魔物に襲われたとか、とても自慢できる内容ではない。人間とドードーの精神性の違いを思い知った気分だ。
 そのうち向こうも慣れてきたのか普通に話しかけても反応してくれるようになってきた。
「はあ。つまりお前は自分から囮になったってことか?」
「そうだとも。皆が前に進むためなら一人が死んだところで構わない。それこそが我らの生き方なのだから」
 どうもこいつらは「前に進む」という言い回しを好む。一つの会話の中に一度くらいはそう言っている気がする。それと倒置法で話すことも多い気がする。
 はっきり言えばこいつは見捨てられた立場だけど、それを恨む様子は全くない。全体主義というか献身的というか……これも草食動物が生き延びるための知恵だろうか。実は蛇の時みたいにこいつを囮にして他のドードーをおびき寄せようと考えていたけど難しそうだ。
「お前はひとまずこの柵の中に入れ。そうすれば身の安全は保障してやる」
「いつだって我々は前に進むのさ。かぐわしい花を求めて。あるいは生い茂る草木を求めて」
 だんだん気付いてきたけど、ドードーは自分に都合が悪い会話を振られたときに謎ポエムを炸裂させているようだ。わざと意味不明な会話を行って話題を逸らせているのだろうか? 嘘が吐きにくい魔物はこういう工夫をして情報を隠すのかもしれない。
 予め作っておいた柵に閉じ込めておくとしよう。捕まえ方はもうわかった。じっくりとあの群れを捕まえていけばいい。
 まず辛生姜で足止め、魔法のタゲ取り。それから拘束して魔法を解除する。それだけで簡単に捕まえられる。
 しかしこの時点では気付いていなかった。ドードーの群れを飼うということがどういうことかを……。

 数日後……柵の中には溢れんばかりのドードーが! そして!

「俺「俺たちは前に「前に「す「前に進む「いつ「偉大「前に「ま「前に「何度「それこそ「俺たちはま「す「前に進む「いつ「偉大「前に「お「きっと「これからも「そういつだって「俺たちは前に「前に「すす」

 頭をかち割らんばかりのドードーの謎ポエムが!
「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 少しは静かにしろぉぉぉぉぉ!!!」
 やっぱりこれ一種の精神攻撃だろ!? 何が悲しくて頭の痛いポエムを聞き続けなけりゃならん! 蟻達にテレパシーをしようとしてもこいつらと混線? して邪魔されることがあるし!
 実は他の魔物がドードーを襲わないのはあまりにもうるさいからじゃないだろうな。
 最終的に巣の外側ぎりぎりに柵を設置してオレから距離をおくことでドードーのテレパシーが届かないようにした。
 前途多難だ。
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