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秋葉夕雲

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第二章

65 ドードーだもの

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「死亡確認」
 そりゃ死ぬよな! 蟻は鎧付きだとかなり重い。相当な衝撃力であることは疑いようもない。
 直撃したドードーの頭がスプラッタな有様になっている。ネズミといいこいつといい魔法で自殺する趣味でもあるのか?
 蟻自身はそこまでひどい怪我ではないのが幸いだろう。

 今のドードーの魔法は自分の意思で発動させたとは思えない。かと言って他のドードーが何かした様子もなかった。
 つまりドードーの魔法は自分の意思で制御できず、触れたもの全てに攻撃する一種のカウンターのようなものか。名付けて<オートカウンター>
 うわ、すげえ厄介。そりゃ簡単には襲えないって。矢に対しては何の影響もなかったことを考えると生物に対してのみ効果を発揮するのかもしれない。
 カウボーイの投げ縄でもあれば楽に捕獲できるかもしれないが、そんなものはない。だがそんな時こそ辛生姜だ。あれの魔法ならほぼ一方的に行動不能にできる。今度こそ捕まえるぞ!

 数分後、またしてもゆっくり草を食むドードーを発見した。
 ……あいつらくらい気楽なら人生楽しそうだな……まああの魔法なら手を出す魔物も少ないし、警戒心も薄れるか。でもカウンターってドードーの生態に何か関係があるのか? 実は一度傷つけられた相手に対しては報復する性質でもあったのか?
 知識がないってことはそれだけで厄介だな。

「それじゃ、三度目の正直をはじめるぞ」
 辛生姜の魔法は自分の体の一部に触れた魔物の硬化能力を解除する魔法だ。硬化能力によって骨格のようなものを構成している魔物にとって致命的になりうる。
 蟻達は慣れてきたのか一射で太もものあたりに命中し、すぐさま倒れて動けなくなった。
「確保だ!」
 しかしドードーはふらつきながらも起き上がり逃亡を開始した。
「馬鹿な! 辛生姜が効かないだと! あのラーテルにも一応効いたのに!?」
 いったい何が原因だ? 生物によって硬化能力のシステムが違うのか? しかし答えは意外なところから返ってきた。
「紫水。辛生姜が壊れた」
「はあ!?  もしかして狩りに行く前に採取した奴か?」
「うん」
 どうやら<オートカウンター>が辛生姜を破壊したらしい。直接触らなくてももともと体の一部だったものが触れていただけで効果を発揮するのか、あるいは相手の魔法が自分の体に効果を及ぼすとその魔法を発動させた相手にカウンターを発動させるのかもしれない。
 もし後者なら蛇の毒弾などにも効くはずだ。厄介すぎるぞこの魔法!
 辛生姜もそうだけど、自動で発動するタイプの魔法は効果範囲が広いのかもしれない。なんにせよ対策を練らなければ。

 簡易的な対策として辛生姜の本体を土でコーティングし、固定する。これなら簡単に壊されないはずだ。その作業を行う間に新しい毒矢を届けに行く。
 やはりドードーは警戒とは無縁の和やかさでそこら辺をうろついている。
 殺すだけなら楽だが捕まえるとなると格段に難易度が増す。武器というものが存在しない魔物なら攻撃しようとさえ思わないだろう。
 しかし! のんびりしていられるのもここまでだ。今度こそ捕まえてやる。
「仏の顔も三度までだ! いい加減に成功させるぞ!」
 矢はしっかり命中! 今度は全く動いていない。蟻達は一斉に飛びかかる!
 さっき吹き飛ばされてしまったのは蟻が一匹だったためだ。どれだけ強力な魔法でも複数の目標に分散させれば威力は落ちるはず!もしもドードーがパニックにならずこちらに立ち向かうならこんな戦法は使えないが、連携力という点においては烏合の衆に過ぎない。
 蟻の連携とオレの知識。この二つがあればドードー如き恐るるに足りない! ……よな?

 複数の蟻が協力し、ドードーをがっちりと押さえつける。もはや逃げられない。
 そしてどうやら蟻達には全くドードーの魔法が発動していない。どうやら<オートカウンター>は一つの物にしか効果を発揮しないらしい。少なくとも生姜の魔法が効いている間なら蟻たちは安全だ。なら今のうちに土で固めてしまえ!

 数分後には全身を土で覆われたドードーが地面に転がっていた。……いかにも東京湾に沈められてしまいそうな格好だ。
 やはりこの世界の魔物は侮れない。たいして強くないはずのドードーにさえこんなに苦戦を強いられるとは。
 あれ? ドードーさん? 物凄く息が荒くないですか? なんつーか今にも死にそうなんだけど? なんで? 矢は致命傷ではない。蟻達もそれ以外には攻撃を加えていない。なんでこんなに消耗してるんだ?
 もしかして魔法を使い続けているせいか? ありうる。
 魔法は使えば使う程体力を消耗する。普通なら疲れたら魔法を使わなければいいだけだけどドードーの魔法は自分自身では発動を制御できない。発動条件さえ満たせばそれこそ死ぬまで魔法を使い続ける羽目になる。
 うへえ。強力な分リスクも大きいな。
 とりあえず矢を引き抜いて傷口を洗う。ドードーはそれで平静を取り戻したようだ。出血もひどくはないし、今度こそ捕獲成功。

 ドナドナドーナードーナー、ドードーを乗ーせーてー。
 さて、今何度ドと言ったでしょうか?
 ドードーを連行している最中も他の魔物が襲ってくる様子はなく、群れの仲間を取り戻そうとするドードーもいなかった。見捨てられたのかそれとも頭が悪すぎるのか。
 巣についたところで<オートカウンター>についてもう少し詳しく調べてみよう。オレのテレパシーがカウンターの条件に引っかからないとは限らない。その場合は会話不可能だと思った方がいい。
 まず蟻にドードーの頭を触らせる。当然ながら吹っ飛ぶわけだが一応来るとわかっていれば耐えられなくはない。
 何度か試すうちに色々わかってきた。
 こいつらの魔法は鎧を貫通する。ドードーの魔法は生物にのみ効果を発揮するようだ。壁などに遮られていたとしても意味はない。もしかしたら核シェルターの内部にいたとしても魔法が届くかもしれない。事実上防御不可能だ。
 切り取った渋リンの葉っぱなどを触らせても何も起こらなかったことから、魔物の一部に触れるだけでは効果を発揮しない。ただし蟻の魔法を使っている土を触れさせるとドードーの魔法は効果を発揮する。
 よって発動条件は二つ。
 直接触るか、魔法を当てる。同時にこの二つを行った場合、前者が優先されるようだ。
 そしてこいつの魔法の正体もようやくわかった。こいつの魔法はドードーが正面を向いている方向に対して相手を吹き飛ばす魔法だ。ドードーから見て前から触れば蟻から判断して後ろに吹き飛び、ドードーから見て後ろから触れば蟻から判断して前に吹き飛ぶ。
 さっき話したが、ドードーは前にしか進めない。つまりこいつの魔法は相手を自分から見て無理矢理前に進ませる能力だ。
 ……なんじゃそりゃ。ある意味とても前向きだな、こいつら。

 そんなこんな色々あったがテレパシーでの会話を試みよう。連発したせいか威力は弱まっているため、多分一撃で死にはしない。てか初めて会った魔物は基本的には会話から入るべきだな。野蛮人じゃあるまいし。
 久しぶりの戦闘だからちょっと緊張していたのかもしれない。
 では意を決して話しかけよう!
「おーい。オレの声聞こえてるか?」
 沈黙。少なくともカウンターは発動しない。ダメかなと思ったその時ドードーは口を開いた。
「俺たちは……前に進むしかないのさ」
 知っとるっちゅーねん。
 やたらダンディーな声でそんなことを宣うものだからこっちも緊張していいのか、呆れていいのかよくわからない。
「いや、あの、そういうことじゃなくて。もう本題に入るけど……? 口笛?」
 どこからともなく荒野と硝煙が似合う口笛のbgmが聞こえる。まさかドードーが吹いてるのか? 
「そう。いつだって俺たちは前に進む。何故って? 道がそこにあるからさ」
 なんてこった。言葉がわかっても会話ができない。そしてこいつは口笛を吹きながらテレパシーによる会話を行っている。器用だな!
 ご存知のように鳥類は様々な鳴き声を使いこなすことで有名だ。そう考えれば口笛ぐらい驚くことではない。問題なのは会話の内容だ。
「たとえどれだけ困難でも。どんな敵が立ち塞がっても。俺たちは前に進むことをやめない。例え味方の屍が山と積まれていても。背後に敵が迫っていたとしても。一人でも前に進むことができるなら歩み続けるのさ」
「いや、あの会話をして
「春には花をついばみ、夏には種を、秋には果実を食す。食べつくせばまた新たな場所へと前に進む。時には仲間が地に伏す時もあるだろう。時には風が吹き荒むときもあるだろう。それでも前に進むのさ、いつかは」
「ホント、お願いします。かい
「そう、いずれ君にもわかるだろう。我らが前に進むことは何一つとして無駄なことなど無いことを!」

 …………………………………何このポエマー? さっぱりわけわかんねえ。
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