こちら!蟻の王国です!

秋葉夕雲

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第一章

36 魔物という名の宝石箱

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 勝った。勝った! 晩飯は蛇だ!
 ……蛇はどうやって食えばいいんだ? もちろんオレは蛇を食べたことがない。日本人のほとんどはそうだろう。当然ながら調理方法もわからない。
 蛇酒くらいしか思いつかないぞ。ただシードルは不味いから直には飲めない。こりゃ普通に焼くしかないな。

 蛇が硬くなっているせいで解体作業は順調ではない。巨体であることも拍車をかけている。運ぶのも手間だからここで肉を食べている蟻もいる。
「ところでさー、オレが知らないところでは狩った獲物はいつも外で食べてるのかなー」
 蟻たちはビクリと身をすくませた気がした。
 どうしたのかなー。
 怒ってなんかないよー。
 目からハイライトが消えてなんかないよー。
 あれ? こいつらオレに隠れて美味いもん食ってんじゃねえかとか、渋リンばっか食わせんじゃねーよ。なーんてこれっぽっちも思ってませんよ?
「獲物が小さすぎたら、その場で食べる。大きくて運びきれない場合もその場で食べてから運ぶ」
 そっかー。よくわかったよ。説明ありがとう。
「お前らしばらく料理食べるな」
「(´・ω・`)そんなー」
 ちょっ!? 今のどうやったんだ!? 顔文字まで使いこなしている!? 脳内に直接画像を投影しやがった。色んな意味で侮れねえ。

 ゆっくりとだがバラバラになっていく蛇。やはりこいつの体内にも宝石は存在した。特に大きなものは額、喉、うなじ……まあ要するに喉の反対側、体の中頃に一つ。やはり魔物がでかいと数も多い。
 宝石の色は無色透明だ。控えめに見ても美しい。具体的には永遠にその輝きを保っていそうだ。
「……ガラスかな!」
 いやな予感を振り払うかのように能天気な声を上げる。うん、ガラスだきっと。そうに違いない。もしくはクォーツとか。
 引っ搔かせてみる。傷一つつかない。石のナイフで削ろうとするもノーダメージ。
 硬いなー。すっごいなー。モース硬度10くらいありそうだなー。
 よーし! 今度は燃やしてみよう!
 なかなか燃えないなー。空気を送ったらどうなるかな? 黒っぽくなった。炭化したのかもしれないな!
 燃えて炭になって、すごく硬い宝石かあ。
「ダイヤモンドじゃねえかああああああああああ。なんてこったあ――――! オレダイヤ燃やしちゃったああ――――――! なんでそんなもんが蛇の中にあるんだよおお――――!」
 宝石があるのは予想通りだったし、アメシストを燃やしたりもしたけどダイヤは宝石として別格なんだよ。わかるだろ!?
「わかりません」
「うるせ――! てか早く火から出せ!」
「火に入れろって言ったのに」
「オレもパニクってるんだよ! ん百万するかもしれないもん拾うなんて思わないだろ普通。て、しまった―――!? 蛇二匹燃やしたんだったー!? ダイヤがあ―――!?」
 いやでも穴の中で燃やした蛇は酸素が足りなくて宝石が炭化しないかもしれない。安全そうなら回収させよう。
 しかし蛇からダイヤモンドが獲れるならもっと乱獲されても不思議じゃない気がするけど……ああいや逆だな。魔物から宝石が獲れるならこの世界では地球と比べると宝石の値段が途轍もなく安いはずだ。つまりこの世界では、ダイヤが燃えたことはオレがこんなに騒ぐような事態じゃない。
 地球に持って帰れたら一攫千金間違いなしなんだけどなあ。見てくれこのダイヤ。ピンポン玉よりもでかいぞ。
 でも蟻の魔法でグラスにでもできれば高く売れるかもしれない。ダイヤのグラス……地球でもそんな贅沢をしてる富豪はなかなかいないかもしれない。
「おーい。このダイヤちょっと形を変えてくれ」
「……無理」
「へ? なんで? 硬すぎるからか?」
 ダイヤのモース硬度は地球の鉱物最強。衝撃などに対する耐性は靭性という強度で示すけど、蟻の魔法にとってはモース硬度の方が重要なのかもしれない。
「違う。硬いかどうかは関係ない。これはもともと動かせないもの」
 硬さじゃないらしい。じゃあ、宝石はそもそも動かせないのか? 試しに保管してあった蟻の宝石に魔法をかけてもらったが、問題なく動かせるようだった。
 蟻は今までオレが命令したことはほとんど実行してきた。それこそオレが白と言えば黒いものでも白と判断するだろう。
 つまりダイヤは蟻の魔法では絶対に動かせない。

 蟻の魔法は土を操る魔法であるはずだ。なら宝石に干渉できないのは理解できる。ならなアメシストはよくてダイヤはダメなのか?

 アメシストとダイヤの違い――――その時蟻に電流走る。
 アメシストとダイヤは根本的に化学式が異なる物質だ。
 アメシストは二酸化珪素なのでSiO2。
  ダイヤは炭素で構成されておりC 。

 オレは今まで蟻の魔法を漠然と土を操る魔法だと思っていた。では蟻が普段魔法によって操っている土とはどのような物質か。アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、酸素、珪素、有機物など様々な原子の化合物だ。
 だけど特に多いのはやはり珪素と酸素だ。珪素は二酸化珪素として、酸素は多様な物質と結合して酸化物を形成している。故に土を操る魔法であり、なおかつアメシストにも干渉できるなら、酸素もしくは珪素を操ることができると考えられる。
 ……恐らく珪素だ。酸素を操ることができるなら空気にも干渉できるはず。もちろん二酸化珪素だけを操れたり、酸素と珪素の両方を操れる可能性もある。
 そういえば蛇には全くテレパシーと探知ができなかった。ダイヤには蟻の魔法だけでなくテレパシーも干渉できないのかもしれない。
 つまり魔物の体内に存在する宝石の種類によってテレパシーが可能かどうか決定するのではないか?
 クオーツやタイガーアイは二酸化珪素。これは蟻の魔法によって動かしやすいようだ。 
 蟷螂は緑色の宝石だったな。蟻に確認したところ蟷螂の宝石は少し動かしづらい。
 ヤシガニはもっと動かしづらいらしい。

 傾向から判断しても間違いない。蟻の魔法によって干渉しやすい宝石を持っている魔物はテレパシーや探知を行いやすい。当たり前だけど同じ種類の宝石を持つ同種族がもっとも会話しやすいはずだ。
 というか蜘蛛によると同族以外と会話する機会はほとんどないらしい。色んな魔物と会話できる女王蟻の方が異常みたいだ。
 水中や空中で会話ができないわけも見当がつく。どちらも珪素がほとんど存在しないからだ。

 これはもうほぼ確定でいいんじゃないか? 蟻の魔法は珪素を操る魔法だ。

 色々謎が解けた……が、
「なんでもっと早く気付かないかなあ、オレは」
 最近同じことばっかり言ってる気がする。賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。……学ばないなオレは。愚者以下だ。

 色々後悔はあるが、蟻の魔法によって会話できる魔物の区別がつくようになったのは大きな進歩だ。このまま勢力を拡大していくにはどうあがいても他の魔物とも協力していく必要がある。
 テレパシーは予想よりもはるかに使い勝手のいい魔法だ。
 地球においても蟻の巣には様々な生物が生息し、多種多様な生態系を維持する一翼を担っている。アブラムシとの共生などがいい例だ。
 その多様な生態系を維持する蟻の種族としての能力。それこそが女王蟻の魔法の正体なのかもしれない。
 つまりオレの魔法を上手く使えばかなり多くの魔物を従えることも可能じゃないか? これはもはやオレに世界を獲れと囁いてる的なあれじゃね?
 イヤッホウ。またテンション上がってきたぞ!
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