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第一章
8 初めまして見飽きた生き物さん
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朝からごたごたしてたせいでちょっと遅れたけど朝飯にしよう。
相変わらず不味い渋リンをかじる。ぐうひもじい。
魔法を使うと体に負担がかかるけど使わないわけにはいかない。初めは地味だと思ってたけど、人間だったころの知識を安全に生かすにはこれしかない。入口に近ければ蟻との距離が近いぶん負担も減るはず。卵部屋も自室も奥の方にあるからどうしても登ってこなければならない。めんどくさい。でも地上に近いと敵に襲われる可能性もあるからな。悩ましいところだ。
「諸君。おはよう」
「おはよう」
おお? なんとなく社長気分で挨拶してみたけどいい反応が返ってきた。やっぱりこいつら賢くなってる、いや情緒豊かになってるのか? 人間じゃないとはいえ話相手がいるのは精神的にありがたい。
それじゃまず罠の調子を見てみよう。感覚共有をするとまた触角が痛んだけど確認しなくては。罠は全部で7つ。一匹くらい引っかかってるといいな。
一つ目。鶏、いやドードー鳥のような生物が死んでいた。幸先いいな。鳥なら多分不味くないだろうし。地球ではすでに滅びたドードーだが、この世界では似たような生き物が生息しているらしい。
2個目、青虫が死んでいた。……絶対不味いだろこれ。体長1mを超える青虫なんて見てるだけで鳥肌立ちそう。今のオレにそんな機能があるのかわからないけど。
3個目、はずれ餌が残っていたから誰も引っかかっていないらしい。
4個目、ドードー鳥が(以下略)
5個目、ドードー(以下略)
6個目、ドー(以下略)
「てめえらの顔は見飽きたよ! なんでこんなあっさり引っかかってんだ! よくここまで生き延びられたな!」
逆に不安になってくるな。じつは毒でも持ってて誰も襲わなかったのか? 食べる時には気をつけよう。
そして7個め。罠は作動しているが獲物はなし。ただし穴の棘に血が付いている。
一度は落とし穴に落ちたが何とかして脱出したらしい。
ふ、オレから逃げられるとでも思っているのか? オレの探知範囲はかなり広いが蟻以外の遠くにいる魔物を正確に探知するのは難しい。しかし昨日色々試すうちにわかってきたことがある。
他の蟻と感覚共有している場合、探知能力が強化されて遠距離でも正確に探知できる! そして見えるぞ! さっきからじっとしているくすんだ赤色が!
だが焦ってはいけない。こっそりと別の蟻を逃げそうな場所に先回りさせておく。
「よし、行け!」
命令とともに1匹の蟻が隠れている何かに走っていく。
木陰から飛び出したのは1匹の巨大なネズミ。しかし負傷しているせいで上手く走れていない。ただでさえ蟻のほうが足が速いのにダメ押しとばかりに先回りさせておいた蟻が飛び出す。これなら加速床を出しても逃げ切れない!
「もらった!」
しかしその蟻さえも避けた。いや飛び越えた。地面に現れた赤い光を踏んだネズミは2メートル以上飛び上がった。前の加速床とは違う。今度はジャンプ板か?どっちにしろレーシングゲームみたいだけど。
「ぐぬぬ。ものども追えい」
完全に悪役台詞だけどここで逃がすのは腹が立つ。それにしてもすばしっこいネズミだ。ジャンプ板を利用して木に登ったり、木から木へ飛び移ったりして逃げ回る。というかそのジャンプ板空中にも出せるんかい!
こっちが木に登ってもすぐに飛び移られるし、あまり時間をかけるとまた大物が寄ってきかねない。このまま逃げられるのか?
「ツカマッテ、タマルカ」
何だ今の声?
ネズミが喋ったのか?こいつもテレパシーを使えるらしい。ならこいつに話しかけて、その隙をつくというのはどうか。我ながらグッドアイディア。
「おい、聞こえてるか?」
今まさに飛び降りようとしていたネズミはオレの声に驚いたのかほんの少しジャンプの勢いをつけ損ねた。つまり空中にあるジャンプ板を踏めなかった。
当然ながら地面へと落下していき、何の悪意かそこには大岩があった。
ぐしゃっと聞いてはならない音が聞こえた気がした。
「え゛」
はははいやそんなまさかね。猿も木から落ちるって言うけど死にはしないだろうし魔物なんだしそう簡単には死なないよねうんまさかそんなことがおこるはずはないはずだ
「いなくなった」
「やっぱ死んでるー!?」
おかしいだろ?自分の魔法で飛ぼうとして落死なんてさあ。ちょっとモザイクかかりそうな有様なんですけど!
こんなマヌケな死に方あるんだな。他人事だから笑い話ですむけど、これが自分の身にふりかかることだってありえるよな。
例えば巣の中に閉じ込められるとか。オレ自身は土の魔法なんてまだ使えないから一度閉じ込められたら脱出する手段がない。ネズミ君、君の死は反面教師として忘れないよ。三日くらい。
獲物が重ければバラしてから運ぶらしいが今回のように軽ければそのまま巣の近くに持ち帰るらしい。現実の蟻のように自重の数十倍の物を運べないが、それでも十分怪力だ。死体を残すと他の肉食動物が寄ってくるから早めに処理したほうがいいんだろう。
正直ちょっとわくわくしてる。何しろ生まれて始めての高たんぱく質だ。生で食べることにあんまり抵抗を感じないあたり蟻に染まってきた気がするけどそれはそれ。
ちなみに獲物は外で解剖するようだ。巣の中だと衛生的に問題があり、もし食べきれなければ死体の一部は果樹園に蒔くらしい。こいつら本当にがっつり農業やってんな。
落ち葉や枯れ木は幼虫の餌。種は保存食兼渋リン増産用。狩猟した動物は餌兼肥料。人間でも簡単にはまねできないレベルですげえエコ。
農業には肥料が大事。実際古事記にも書かれている。
……いやマジで書かれている。
ざっくり言うと月読とかいう影の薄い神様が(以下略)。
つまり畑に死体を蒔くのは伝統的にも科学的にも間違いじゃないってことだ!ちょっと衛生面が心配だけど何とかなるだろ多分! あれだ蟻の唾液に殺菌効果とかがあるんだよ(適当)。
それに死体そのものにも興味はある。魔物はかなりでたらめな生命体だけど解剖してみればなにかわかるかもしれない。オレかなりチキンだから解剖死体を直視できるかはわからな……あれ? でもネズミの解剖実験なんかは平気だったな? グロには結構耐性があるのか?
「女王。獲物の死体発見した」
おや。パトロール中の蟻がまた何か見つけたようだぞ?さてどんな奴かなっと。
まず奇妙な皮に覆われている。緑を基調としているのは保護色の役割があるんだろう。うつ伏せになっているらしく顔は見えないが、頭部に黒い毛が生えている。手足は3本だが血を大量に流しているため1本欠けていると推測できる。本来は4本の手足だったんだろう。はははは。こいつどっかで見たことあるぞ。地球でよく見かけた二足歩行可能な霊長類に良く似ている。うん。やっぱりこいつは――――。
「人間だコレえええええ―――――――!!!」
この世界で始めて遭遇した……と言っていいのかわからないが、ともかくその人間は死体になっていた。
相変わらず不味い渋リンをかじる。ぐうひもじい。
魔法を使うと体に負担がかかるけど使わないわけにはいかない。初めは地味だと思ってたけど、人間だったころの知識を安全に生かすにはこれしかない。入口に近ければ蟻との距離が近いぶん負担も減るはず。卵部屋も自室も奥の方にあるからどうしても登ってこなければならない。めんどくさい。でも地上に近いと敵に襲われる可能性もあるからな。悩ましいところだ。
「諸君。おはよう」
「おはよう」
おお? なんとなく社長気分で挨拶してみたけどいい反応が返ってきた。やっぱりこいつら賢くなってる、いや情緒豊かになってるのか? 人間じゃないとはいえ話相手がいるのは精神的にありがたい。
それじゃまず罠の調子を見てみよう。感覚共有をするとまた触角が痛んだけど確認しなくては。罠は全部で7つ。一匹くらい引っかかってるといいな。
一つ目。鶏、いやドードー鳥のような生物が死んでいた。幸先いいな。鳥なら多分不味くないだろうし。地球ではすでに滅びたドードーだが、この世界では似たような生き物が生息しているらしい。
2個目、青虫が死んでいた。……絶対不味いだろこれ。体長1mを超える青虫なんて見てるだけで鳥肌立ちそう。今のオレにそんな機能があるのかわからないけど。
3個目、はずれ餌が残っていたから誰も引っかかっていないらしい。
4個目、ドードー鳥が(以下略)
5個目、ドードー(以下略)
6個目、ドー(以下略)
「てめえらの顔は見飽きたよ! なんでこんなあっさり引っかかってんだ! よくここまで生き延びられたな!」
逆に不安になってくるな。じつは毒でも持ってて誰も襲わなかったのか? 食べる時には気をつけよう。
そして7個め。罠は作動しているが獲物はなし。ただし穴の棘に血が付いている。
一度は落とし穴に落ちたが何とかして脱出したらしい。
ふ、オレから逃げられるとでも思っているのか? オレの探知範囲はかなり広いが蟻以外の遠くにいる魔物を正確に探知するのは難しい。しかし昨日色々試すうちにわかってきたことがある。
他の蟻と感覚共有している場合、探知能力が強化されて遠距離でも正確に探知できる! そして見えるぞ! さっきからじっとしているくすんだ赤色が!
だが焦ってはいけない。こっそりと別の蟻を逃げそうな場所に先回りさせておく。
「よし、行け!」
命令とともに1匹の蟻が隠れている何かに走っていく。
木陰から飛び出したのは1匹の巨大なネズミ。しかし負傷しているせいで上手く走れていない。ただでさえ蟻のほうが足が速いのにダメ押しとばかりに先回りさせておいた蟻が飛び出す。これなら加速床を出しても逃げ切れない!
「もらった!」
しかしその蟻さえも避けた。いや飛び越えた。地面に現れた赤い光を踏んだネズミは2メートル以上飛び上がった。前の加速床とは違う。今度はジャンプ板か?どっちにしろレーシングゲームみたいだけど。
「ぐぬぬ。ものども追えい」
完全に悪役台詞だけどここで逃がすのは腹が立つ。それにしてもすばしっこいネズミだ。ジャンプ板を利用して木に登ったり、木から木へ飛び移ったりして逃げ回る。というかそのジャンプ板空中にも出せるんかい!
こっちが木に登ってもすぐに飛び移られるし、あまり時間をかけるとまた大物が寄ってきかねない。このまま逃げられるのか?
「ツカマッテ、タマルカ」
何だ今の声?
ネズミが喋ったのか?こいつもテレパシーを使えるらしい。ならこいつに話しかけて、その隙をつくというのはどうか。我ながらグッドアイディア。
「おい、聞こえてるか?」
今まさに飛び降りようとしていたネズミはオレの声に驚いたのかほんの少しジャンプの勢いをつけ損ねた。つまり空中にあるジャンプ板を踏めなかった。
当然ながら地面へと落下していき、何の悪意かそこには大岩があった。
ぐしゃっと聞いてはならない音が聞こえた気がした。
「え゛」
はははいやそんなまさかね。猿も木から落ちるって言うけど死にはしないだろうし魔物なんだしそう簡単には死なないよねうんまさかそんなことがおこるはずはないはずだ
「いなくなった」
「やっぱ死んでるー!?」
おかしいだろ?自分の魔法で飛ぼうとして落死なんてさあ。ちょっとモザイクかかりそうな有様なんですけど!
こんなマヌケな死に方あるんだな。他人事だから笑い話ですむけど、これが自分の身にふりかかることだってありえるよな。
例えば巣の中に閉じ込められるとか。オレ自身は土の魔法なんてまだ使えないから一度閉じ込められたら脱出する手段がない。ネズミ君、君の死は反面教師として忘れないよ。三日くらい。
獲物が重ければバラしてから運ぶらしいが今回のように軽ければそのまま巣の近くに持ち帰るらしい。現実の蟻のように自重の数十倍の物を運べないが、それでも十分怪力だ。死体を残すと他の肉食動物が寄ってくるから早めに処理したほうがいいんだろう。
正直ちょっとわくわくしてる。何しろ生まれて始めての高たんぱく質だ。生で食べることにあんまり抵抗を感じないあたり蟻に染まってきた気がするけどそれはそれ。
ちなみに獲物は外で解剖するようだ。巣の中だと衛生的に問題があり、もし食べきれなければ死体の一部は果樹園に蒔くらしい。こいつら本当にがっつり農業やってんな。
落ち葉や枯れ木は幼虫の餌。種は保存食兼渋リン増産用。狩猟した動物は餌兼肥料。人間でも簡単にはまねできないレベルですげえエコ。
農業には肥料が大事。実際古事記にも書かれている。
……いやマジで書かれている。
ざっくり言うと月読とかいう影の薄い神様が(以下略)。
つまり畑に死体を蒔くのは伝統的にも科学的にも間違いじゃないってことだ!ちょっと衛生面が心配だけど何とかなるだろ多分! あれだ蟻の唾液に殺菌効果とかがあるんだよ(適当)。
それに死体そのものにも興味はある。魔物はかなりでたらめな生命体だけど解剖してみればなにかわかるかもしれない。オレかなりチキンだから解剖死体を直視できるかはわからな……あれ? でもネズミの解剖実験なんかは平気だったな? グロには結構耐性があるのか?
「女王。獲物の死体発見した」
おや。パトロール中の蟻がまた何か見つけたようだぞ?さてどんな奴かなっと。
まず奇妙な皮に覆われている。緑を基調としているのは保護色の役割があるんだろう。うつ伏せになっているらしく顔は見えないが、頭部に黒い毛が生えている。手足は3本だが血を大量に流しているため1本欠けていると推測できる。本来は4本の手足だったんだろう。はははは。こいつどっかで見たことあるぞ。地球でよく見かけた二足歩行可能な霊長類に良く似ている。うん。やっぱりこいつは――――。
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