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第一章
6 作って育ててぶん殴れ
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「石がこうおいてあれば石は何個になる?」
「「「5個になります」」」
武器を作ると決めたオレが一番最初に始めたのは蟻たちに数字を教えることだった。というのもオレは畑がどれくらい広いのか、樹が何本あるのかさっぱりわからなかったからだ。それら全てを自分で調べる時間は無い。
そこで蟻たちに数字という概念を教えれば命令するだけできちんと調べてくれるはず。問題は蟻たちがきちんと数字を理解してくれるかどうか。だがそんな心配は杞憂だった。蟻はあっさり数字を理解し、簡単な足し引き算ならできるようになった。さらに0の概念まであっさり理解したのはちょっとした驚きだった。
特に知りたいのは渋リンの収穫数と一日に食べる渋リンの量だ。これらを把握すれば、農業を行うべき蟻の数がわかり、余っていれば武器の開発、研究に必要な人員、いや虫員を確保できる。が、結果を聞いて思わず呻いた。
「渋リン多すぎ。何でこんなに育ててんの?」
「ずっとそだててたから」
虫口が減っているのに同じだけの渋リンを育てていたらしい。しかも果樹園を維持するのに必要な蟻より今いる蟻のほうが圧倒的に少ないためオーバーワーク気味の蟻までいる始末。蟻に司はいなくとも働くとは言うものの働きすぎるのも考え物だ。
蟻の何割かは怠け者らしいがそれはあくまで予備戦力として待機させているに過ぎない。余裕がなければ全員馬車馬のように働かされるようだ。
まず育てる渋リンの数を絞る。休息が必要なやつは休ませる。うむこれぞ健全な組織運営。24時間年中無休で命令には絶対服従だけど、完全にホワイト企業ですよ、うちの巣は。
さて次は、
「敵接近。危険。敵接近」
え、え、え。なにこれもしかして警報? Jアラート? よくわかんないけどやばいってことはよくわかる。ああそうだこういうときこそ視覚共有だ!
そこにはさっき見た蟷螂がいた。
ヤバイヤバイヤバイ。オレたちを殺しにきた。ど、どうにかしないと。ええとほらこういうときこそ蟻たちに頼らないと。テレパシーをうまく使えば一度に大量の蟻に話しかけることもできるはず。
「戦闘準備だ! 余裕のあるやつは南東に集合! 今太陽のある方角が南。太陽が出てくる方角が東だ!」
「「「わかった」」」
おお、凄い。やってみるもんだな。だが感心している余裕はない。蟷螂はじっとこちらを見ている。
まずいまずいまずい。何の準備もできていない今戦えば恐らく負ける。だが蟻たちはなんの躊躇もなく駆け抜けていく。その姿に望みを託すしかなかった。
果樹園と森の境界では十数匹の蟻と蟷螂がにらみ合っていた。
「「「ギキキキキキィ――」」」
不快な音で威嚇しているのは蟻たちだ。お前らそんな声で鳴くんだな。テレパシーで会話してるからわかんなかった。対して蟷螂は不気味な沈黙を保っている。
この蟷螂も魔物らしく探知能力に反応している。緑色の光が見えるけど、ちかちか点滅している。探知しづらい魔物もいるんだろうか。
じりっと蟷螂が足を前に踏み出す。来るか?
「チッ、メンドクサイ」
はい? 今あなたなんておっしゃいました?もしかしてこいつもテレパシーが使えるのか?
しかし蟷螂はさっと後ろを向き、引き返していった。てっきり、
「ヒャッハー、蟻だ、餌だ、食いまくるぜー」
みたいな蛮族思考だと思ったんだけど。あそっか。蟷螂はまだオレたちの数が激減していることを知らない。この巣には本来数百匹以上の蟻がいたはず。いくら蟷螂でもそれだけの数を相手にして無事ですむはずがない。
加えて渋リンの土棘も防衛に貢献している。あの巨体じゃ自由に動き回れないだろうし。しばらくは安全ってことか。そのあたりの事情を理解でき、会話を行えるんなら何とか味方に引き込みたいけど……無理だろうな。あいつ思いっきり蟻達を襲うつもりだったし。
「ほあたー」
掛け声とともに石の板を殴る。
「痛えええええ」
もちろん割れるわけがない。何をしているかって?蟻の防御力の調査だ。蟻たちは外に出かける場合、魔法を使って土を鎧のように纏っているらしい。なのでその防御力がどの程度か試したんだけど硬いんだよこれが。
普通の蟻よりサイズはでかいから少しは戦えるんじゃないかと思ったオレが馬鹿だった。わかったのはオレと蟷螂の間にはとてつもない戦力差があるということだけ。そもそも鎌って獲物を捕らえるためにあるもので切り裂くための武器じゃねーだろ。
やはり蟻たちの戦力を強化するしかない。まず定番の剣や槍を試してみた。が、あまり上手くいかなかった。蟻の手足は合計6本あるがそのうち一本でも地面から離れてしまうと、移動力が著しく低下する。それくらいなら噛み付いたほうが速い。ううむ、どうやって倒せばいいんだあんなの。
「別に倒さなくていい」
へっ?
「いや倒さなくちゃだめだろ」
「巣に逃げればいい」
………あっそりゃそうだ。あの巨体なら地下には入れないし、岩盤をぶった切るのはいくらなんでも無理だろう。しかも蟷螂は肉食だから渋リンを盗られる心配もない。
えっじゃあ何オレが防衛しろなんて息巻いてたのは全部無意味?それどころか蟻達が全滅してた可能性もあるのか?ぐおーめちゃくちゃ恥ずかしい。
「いや気づいてたなら言えよ! あ、いや違うな。オレの指示におかしなところがあったら言ってくれ」
間違っていたらそれを正してくれる奴は必要だ。蟻として生きてきた期間はこいつらのほうが長いんだから。
「わかった。教える」
どうも渋リンを加工したあたりから蟻たちが積極的に話しかけてくるような気がする。前までは質問に答えるだけだったのに。オレと話していて知能が上がってきたんだろうか。
話を戻そう。確かに蟷螂に襲われたら、巣に逃げ込めばいい。でもそうやって蟷螂を見かけるたびに巣に戻っていたら効率が悪いし、やられっぱなしってのも気分が悪い。倒せるんなら倒したい。では蟻にも使えて蟷螂を倒せる武器とは何か。
やはり弓や投石器などの飛び道具だな。蟷螂の鎌は強力だけど近接攻撃。距離をとって攻撃できれば無傷で勝つことも可能だ。
必要なのは紐だ。こればっかりは蟻の魔法では作れない。それに紐があれば火を熾すこともできるからまともな料理ができる。美味い飯はオレのテンションに大きく寄与するからな!
無傷、ということで思い出したけど罠を仕掛けるのはどうだろうか。ネズミくらいなら引っかかるかもしれない。パッと思いつくのは落とし穴だ。人間ならかなりの労力を必要とするがこっちには蟻の魔法がある。巣の外に穴をほって底に棘でもしかけて動物が通れば落ちる程度に塞ぐ。最後に渋リンでもその上に置いておく。念の為にフェロモンで危険だということを示しておく。運がよければなにかかかるだろう。
正直疲れてきたので今日はこれで終わりにしたい。体がやたら重い。前世でも運動が得意ってわけでもなかったけどこんだけ疲れることはめったになかった気がする。
でも最後に一番気の滅入るお仕事です。はい、産卵のお時間です。
いやこう気分が乗らないっていうか日が悪いって言うか。えっダメ? そうですか……。そうですよね。オスと交尾するとかじゃなくてまだ良かった。流石にそれは無理。
ちなみに幼虫の飼育部屋には渋リンの枯れ葉や枝が積まれている。幼虫はそういったものを好んで食べるらしい。成虫も食べようと思えば食べれるがわざわざ食べることは少ないようだ。シロアリは木材や枯れ葉を主食とするけど、蟻はそうじゃない。やはり地球の生物とは大きく違うな。
卵は2個産めました。やったね蟻ちゃん! 家族が増えるよ! ……うんもう何も言わないでくれ。
「「「5個になります」」」
武器を作ると決めたオレが一番最初に始めたのは蟻たちに数字を教えることだった。というのもオレは畑がどれくらい広いのか、樹が何本あるのかさっぱりわからなかったからだ。それら全てを自分で調べる時間は無い。
そこで蟻たちに数字という概念を教えれば命令するだけできちんと調べてくれるはず。問題は蟻たちがきちんと数字を理解してくれるかどうか。だがそんな心配は杞憂だった。蟻はあっさり数字を理解し、簡単な足し引き算ならできるようになった。さらに0の概念まであっさり理解したのはちょっとした驚きだった。
特に知りたいのは渋リンの収穫数と一日に食べる渋リンの量だ。これらを把握すれば、農業を行うべき蟻の数がわかり、余っていれば武器の開発、研究に必要な人員、いや虫員を確保できる。が、結果を聞いて思わず呻いた。
「渋リン多すぎ。何でこんなに育ててんの?」
「ずっとそだててたから」
虫口が減っているのに同じだけの渋リンを育てていたらしい。しかも果樹園を維持するのに必要な蟻より今いる蟻のほうが圧倒的に少ないためオーバーワーク気味の蟻までいる始末。蟻に司はいなくとも働くとは言うものの働きすぎるのも考え物だ。
蟻の何割かは怠け者らしいがそれはあくまで予備戦力として待機させているに過ぎない。余裕がなければ全員馬車馬のように働かされるようだ。
まず育てる渋リンの数を絞る。休息が必要なやつは休ませる。うむこれぞ健全な組織運営。24時間年中無休で命令には絶対服従だけど、完全にホワイト企業ですよ、うちの巣は。
さて次は、
「敵接近。危険。敵接近」
え、え、え。なにこれもしかして警報? Jアラート? よくわかんないけどやばいってことはよくわかる。ああそうだこういうときこそ視覚共有だ!
そこにはさっき見た蟷螂がいた。
ヤバイヤバイヤバイ。オレたちを殺しにきた。ど、どうにかしないと。ええとほらこういうときこそ蟻たちに頼らないと。テレパシーをうまく使えば一度に大量の蟻に話しかけることもできるはず。
「戦闘準備だ! 余裕のあるやつは南東に集合! 今太陽のある方角が南。太陽が出てくる方角が東だ!」
「「「わかった」」」
おお、凄い。やってみるもんだな。だが感心している余裕はない。蟷螂はじっとこちらを見ている。
まずいまずいまずい。何の準備もできていない今戦えば恐らく負ける。だが蟻たちはなんの躊躇もなく駆け抜けていく。その姿に望みを託すしかなかった。
果樹園と森の境界では十数匹の蟻と蟷螂がにらみ合っていた。
「「「ギキキキキキィ――」」」
不快な音で威嚇しているのは蟻たちだ。お前らそんな声で鳴くんだな。テレパシーで会話してるからわかんなかった。対して蟷螂は不気味な沈黙を保っている。
この蟷螂も魔物らしく探知能力に反応している。緑色の光が見えるけど、ちかちか点滅している。探知しづらい魔物もいるんだろうか。
じりっと蟷螂が足を前に踏み出す。来るか?
「チッ、メンドクサイ」
はい? 今あなたなんておっしゃいました?もしかしてこいつもテレパシーが使えるのか?
しかし蟷螂はさっと後ろを向き、引き返していった。てっきり、
「ヒャッハー、蟻だ、餌だ、食いまくるぜー」
みたいな蛮族思考だと思ったんだけど。あそっか。蟷螂はまだオレたちの数が激減していることを知らない。この巣には本来数百匹以上の蟻がいたはず。いくら蟷螂でもそれだけの数を相手にして無事ですむはずがない。
加えて渋リンの土棘も防衛に貢献している。あの巨体じゃ自由に動き回れないだろうし。しばらくは安全ってことか。そのあたりの事情を理解でき、会話を行えるんなら何とか味方に引き込みたいけど……無理だろうな。あいつ思いっきり蟻達を襲うつもりだったし。
「ほあたー」
掛け声とともに石の板を殴る。
「痛えええええ」
もちろん割れるわけがない。何をしているかって?蟻の防御力の調査だ。蟻たちは外に出かける場合、魔法を使って土を鎧のように纏っているらしい。なのでその防御力がどの程度か試したんだけど硬いんだよこれが。
普通の蟻よりサイズはでかいから少しは戦えるんじゃないかと思ったオレが馬鹿だった。わかったのはオレと蟷螂の間にはとてつもない戦力差があるということだけ。そもそも鎌って獲物を捕らえるためにあるもので切り裂くための武器じゃねーだろ。
やはり蟻たちの戦力を強化するしかない。まず定番の剣や槍を試してみた。が、あまり上手くいかなかった。蟻の手足は合計6本あるがそのうち一本でも地面から離れてしまうと、移動力が著しく低下する。それくらいなら噛み付いたほうが速い。ううむ、どうやって倒せばいいんだあんなの。
「別に倒さなくていい」
へっ?
「いや倒さなくちゃだめだろ」
「巣に逃げればいい」
………あっそりゃそうだ。あの巨体なら地下には入れないし、岩盤をぶった切るのはいくらなんでも無理だろう。しかも蟷螂は肉食だから渋リンを盗られる心配もない。
えっじゃあ何オレが防衛しろなんて息巻いてたのは全部無意味?それどころか蟻達が全滅してた可能性もあるのか?ぐおーめちゃくちゃ恥ずかしい。
「いや気づいてたなら言えよ! あ、いや違うな。オレの指示におかしなところがあったら言ってくれ」
間違っていたらそれを正してくれる奴は必要だ。蟻として生きてきた期間はこいつらのほうが長いんだから。
「わかった。教える」
どうも渋リンを加工したあたりから蟻たちが積極的に話しかけてくるような気がする。前までは質問に答えるだけだったのに。オレと話していて知能が上がってきたんだろうか。
話を戻そう。確かに蟷螂に襲われたら、巣に逃げ込めばいい。でもそうやって蟷螂を見かけるたびに巣に戻っていたら効率が悪いし、やられっぱなしってのも気分が悪い。倒せるんなら倒したい。では蟻にも使えて蟷螂を倒せる武器とは何か。
やはり弓や投石器などの飛び道具だな。蟷螂の鎌は強力だけど近接攻撃。距離をとって攻撃できれば無傷で勝つことも可能だ。
必要なのは紐だ。こればっかりは蟻の魔法では作れない。それに紐があれば火を熾すこともできるからまともな料理ができる。美味い飯はオレのテンションに大きく寄与するからな!
無傷、ということで思い出したけど罠を仕掛けるのはどうだろうか。ネズミくらいなら引っかかるかもしれない。パッと思いつくのは落とし穴だ。人間ならかなりの労力を必要とするがこっちには蟻の魔法がある。巣の外に穴をほって底に棘でもしかけて動物が通れば落ちる程度に塞ぐ。最後に渋リンでもその上に置いておく。念の為にフェロモンで危険だということを示しておく。運がよければなにかかかるだろう。
正直疲れてきたので今日はこれで終わりにしたい。体がやたら重い。前世でも運動が得意ってわけでもなかったけどこんだけ疲れることはめったになかった気がする。
でも最後に一番気の滅入るお仕事です。はい、産卵のお時間です。
いやこう気分が乗らないっていうか日が悪いって言うか。えっダメ? そうですか……。そうですよね。オスと交尾するとかじゃなくてまだ良かった。流石にそれは無理。
ちなみに幼虫の飼育部屋には渋リンの枯れ葉や枝が積まれている。幼虫はそういったものを好んで食べるらしい。成虫も食べようと思えば食べれるがわざわざ食べることは少ないようだ。シロアリは木材や枯れ葉を主食とするけど、蟻はそうじゃない。やはり地球の生物とは大きく違うな。
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