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友人
話し合いをしましょう8
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小鳥の考え方については賛同できないところもあるけれども、日々ずっと注目されているというのも地味にストレスかと思えば仕方ないものなのだろうか。薄羽は悩むように眉間にしわを寄せる。一緒にいるだけでも時々ぎょっとするようなことがある。たとえば急に目の前でスマートフォンを構えられたり。もはや隠していない隠し撮りが日常茶飯事なのだ。
「っていうか動画ってもしかして隠し撮りかなんかなのかな。詳しく聞いておけばよかった」
薄羽ははっと気づき、スマートフォンを取り出す。動画の配信をしていない。小鳥は否定しているけれども、小鳥のような容貌の人間はそうそういない。見間違えは考えにくい。話しかけてきた女の子たちに詳細を聞いた方がいいだろう。
しかし画面に指を滑らせる薄羽の手首を小鳥は掴み、首を振った。
「隠し撮りじゃないよ。たぶん」
「ん?」
「昨日上がったやつなら別に隠し撮りじゃない」
小鳥は確信を持っているようだった。彼女たちが、どの動画のことを口にしていたのかもわかっていたということだろうか。薄羽が指を彷徨わせているうちに、画面はスッと暗くなる。
「えっどゆこと? 小鳥は動画上げたりしないんだろ?」
「うん。俺はしない。俺の兄がしてる」
……兄がしてる?
薄羽は三回ほど目を瞬かせて小鳥の言葉を咀嚼した。小鳥は動画配信をしていないとはっきり否定した。小鳥は動画配信はしていない。
そう思っていたから余計に頭が働かない。
「小鳥の、さっき言ってた兄?」
「うん。兄ちゃんは動画配信してて、時々俺もそこに出るから」
「ん? んん? じゃあ小鳥動画配信してんじゃん!」
小鳥が動画配信をしていない、というところをようやくひっくり返して、ぺん、と薄羽は小鳥の腕を叩いた。小鳥は痛くもないだろうが、首を傾げて不思議そうだ。何か変なことでも口にしたかと言わんばかりに、薄羽が触れたところを擦っている。
「俺が映ってる動画は上がってるけど、俺が配信しているわけじゃないから」
「へ、へりくつ~!」
「そう? でも俺じゃないし」
「それならそこまで訊かれたときに言えよ」
薄羽はついつい頭を抱え、その後もう一度ぺん、と小鳥の腕を叩く。小鳥は不思議そうに叩かれたところを見て、ぺし、と薄羽の腕を叩き返す。撫でるようなはたき方だった。
「なんで?」
「なんでって……言わないとわかんないじゃん」
「分かってもらう必要もないし」
だからわからない。小鳥は本当にそう思っているのだろう。それが小鳥としてみれば、当然なのかもしれない。話しかけられても応えない。正確でないのだから否定をする。わざわざ説明はしない。
薄羽にもわかったが、なんだか寂しくもなる。俺のこともどうでもいいのか、説明しなくてもいいと思われているのか。
それを読み取ったわけでもないだろうが、小鳥は肩を竦めながらカップを両手で弄ぶ。
「薄羽には分かってもらいたいけど。友だちだし」
「……ふ、へへ。うん。友だちだしな」
薄羽はついつい全力で笑顔になってしまった。堪えるとか隠すとか、そういったところに頭が働かないくらいにっこりした。小鳥に友だち、と言われるのは、なんとも面映ゆくてむずむずする。
たとえば秋月などとは、こんなやりとりはしないと薄羽は思う。ラーメンを食べながら肘で小突き合っているのがせいぜいだ。わざわざ言葉にはしない。
だからといって、小鳥との距離が秋月よりも遠いのかというとそういうわけでもない。
小鳥という人間は、薄羽がいままで接してきた誰ともちがう。静かで、何もかも自分とは無関係とばかりに他人を無視するくせに、薄羽のことはしっかりと見つめてくる。あのきらきらした瞳にまっすぐ覗き込まれると、薄羽はひとかけらの嘘もなく、誠実に自分を曝け出そうとしてしまう。こわいくらいだ。
そしてこわいと思っているのに、もっと近づきたいとも考えてしまう。
小鳥の兄がどう考えて、小鳥に人との接し方を教えたのか。いつか訊いてみたいものだと薄羽は思った。
「っていうか動画ってもしかして隠し撮りかなんかなのかな。詳しく聞いておけばよかった」
薄羽ははっと気づき、スマートフォンを取り出す。動画の配信をしていない。小鳥は否定しているけれども、小鳥のような容貌の人間はそうそういない。見間違えは考えにくい。話しかけてきた女の子たちに詳細を聞いた方がいいだろう。
しかし画面に指を滑らせる薄羽の手首を小鳥は掴み、首を振った。
「隠し撮りじゃないよ。たぶん」
「ん?」
「昨日上がったやつなら別に隠し撮りじゃない」
小鳥は確信を持っているようだった。彼女たちが、どの動画のことを口にしていたのかもわかっていたということだろうか。薄羽が指を彷徨わせているうちに、画面はスッと暗くなる。
「えっどゆこと? 小鳥は動画上げたりしないんだろ?」
「うん。俺はしない。俺の兄がしてる」
……兄がしてる?
薄羽は三回ほど目を瞬かせて小鳥の言葉を咀嚼した。小鳥は動画配信をしていないとはっきり否定した。小鳥は動画配信はしていない。
そう思っていたから余計に頭が働かない。
「小鳥の、さっき言ってた兄?」
「うん。兄ちゃんは動画配信してて、時々俺もそこに出るから」
「ん? んん? じゃあ小鳥動画配信してんじゃん!」
小鳥が動画配信をしていない、というところをようやくひっくり返して、ぺん、と薄羽は小鳥の腕を叩いた。小鳥は痛くもないだろうが、首を傾げて不思議そうだ。何か変なことでも口にしたかと言わんばかりに、薄羽が触れたところを擦っている。
「俺が映ってる動画は上がってるけど、俺が配信しているわけじゃないから」
「へ、へりくつ~!」
「そう? でも俺じゃないし」
「それならそこまで訊かれたときに言えよ」
薄羽はついつい頭を抱え、その後もう一度ぺん、と小鳥の腕を叩く。小鳥は不思議そうに叩かれたところを見て、ぺし、と薄羽の腕を叩き返す。撫でるようなはたき方だった。
「なんで?」
「なんでって……言わないとわかんないじゃん」
「分かってもらう必要もないし」
だからわからない。小鳥は本当にそう思っているのだろう。それが小鳥としてみれば、当然なのかもしれない。話しかけられても応えない。正確でないのだから否定をする。わざわざ説明はしない。
薄羽にもわかったが、なんだか寂しくもなる。俺のこともどうでもいいのか、説明しなくてもいいと思われているのか。
それを読み取ったわけでもないだろうが、小鳥は肩を竦めながらカップを両手で弄ぶ。
「薄羽には分かってもらいたいけど。友だちだし」
「……ふ、へへ。うん。友だちだしな」
薄羽はついつい全力で笑顔になってしまった。堪えるとか隠すとか、そういったところに頭が働かないくらいにっこりした。小鳥に友だち、と言われるのは、なんとも面映ゆくてむずむずする。
たとえば秋月などとは、こんなやりとりはしないと薄羽は思う。ラーメンを食べながら肘で小突き合っているのがせいぜいだ。わざわざ言葉にはしない。
だからといって、小鳥との距離が秋月よりも遠いのかというとそういうわけでもない。
小鳥という人間は、薄羽がいままで接してきた誰ともちがう。静かで、何もかも自分とは無関係とばかりに他人を無視するくせに、薄羽のことはしっかりと見つめてくる。あのきらきらした瞳にまっすぐ覗き込まれると、薄羽はひとかけらの嘘もなく、誠実に自分を曝け出そうとしてしまう。こわいくらいだ。
そしてこわいと思っているのに、もっと近づきたいとも考えてしまう。
小鳥の兄がどう考えて、小鳥に人との接し方を教えたのか。いつか訊いてみたいものだと薄羽は思った。
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