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友人

話し合いをしましょう7

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 薄羽の視線をどう解釈したのか。小鳥は少し考えた様子で付け加える。

「女の子、女性? が、あんまり好きじゃない」
「あ~なるほど……」

 僅かに目を伏せた小鳥に、薄羽はうんうんと頷く。小鳥がもともと女性が苦手なのか、それとも何か嫌な経験をしたのか。それはわからない。だが現在のところ、小鳥の周囲には性別問わずアグレッシブな人間たちが集まっていると薄羽は思う。苦手となるのも不思議ではないだろう。
 薄羽だって、自分は小鳥のカノジョだと脛を蹴飛ばしてきたような女性が複数いたらトラウマになる自信がある。
 薄羽はだんだん小鳥のことが心配になってきた。いないはずのカノジョがいて、やっていないはずの動画配信がされている。わかっていて放置しているならまだしも、そうは見えない。

「小鳥と仲良くなるのにはルールがあるって言われた。小鳥のカノジョって人に」
「えっ? そもそもカノジョはいないよ」

 そう言ってたな。薄羽は頷く。小鳥は混乱した様子で眉間にしわを寄せた。自分の知らないところで、自分のルールを作られている。気味悪くもあるだろう。

「仲良くなるルールの意味も分からない。そもそも俺、この大学での友人は薄羽だけだよ」
「はあっ!? いや、それは、ないだろ……いつも一緒にいる人たちは?」
「誰?」
「いやおれが訊きたいよ」

 小鳥の眉根はますます寄っている。そんな顔でも整っているのがすごい。薄羽はぽやっとそんなことを考えながら、そのしわを眺める。カノジョばかりでなくトモダチまでも謎の存在というのはどういうことだろう。さすがに薄羽も混乱する。
 いやいや、と顔の前で手のひらを振った。あれを知らない人とするのはちょっとむりがあるのではないか。

「授業前とか、小鳥の肩組んで話している人とかいるじゃん」
「別に友だちじゃないよ。話しかけてくることもあるけど」
「いや、それ、向こうは友だちって思ってるだろ……」

 さすがに見知らぬ相手に肩を組んだりはしないだろう。するのか? 薄羽の定義ではしないけれど、自分と小鳥と小鳥の周囲の人間で認識が違う可能性がある。ますます混乱してしまう。小鳥は小鳥で、知らない人間に肩を組まれてもなぜ放っておくのか。
 薄羽の疑問に、いつものことだから、と小鳥はけろりと応えた。

「変に反応したほうがうるさい」
「そ、そっか?」

 そういえば初めて会ったときも、知らない女性にいきなり腕を組まれてもどれだけ話しかけられても無視を貫いていたな。衝撃的な光景だったので、薄羽は覚えている。

「だから話しかけられてても無視するのか?」

 程度というものがあるのではないだろうか。薄羽は思う。もちろん薄羽は小鳥のように始終周囲からあれこれや話しかけられるわけではないから、小鳥の気持ちをすべて理解できるわけではないけれども。

「小さい頃」
「うん?」
「公園か……幼稚園だったか覚えてないけど、初めて行ったところですごく話しかけられて」

 理由について話してくれているのか。薄羽は気づいてうんうん、と大きく頷いた。ちら、と小鳥は薄羽を見て続ける。

「ぜんぶ聞こうとしてたら倒れた」
「じゃあ無視してもいいか! ごめん!」

 薄羽はいきおいよく頭を下げた。薄羽は小鳥を友人と思っている。あれこれ他人の話を聞かないことで、変に周囲に悪印象を持たれてほしくなかった。エゴではあるとわかっているが、ある程度は対応したほうが自称カノジョなどが幅を利かせるのを阻めるのではないかと考えていた。だが健康を害するのなら話は別だ。
 謝らなくていいのに。小鳥は微笑む。

「そのとき兄に言われたんだ。応えなくていいって」
「兄ちゃんいるんだ?」
「うん。友だちになりたい人間とだけ話してればまず問題ないから~って」

 それはそれで雑だな。薄羽は苦笑した。それで小鳥の健康が守られているなら、まあ、いいか。しかし改めて友人と言われるのは、なんとも面はゆい。口元がにやにやと緩みそうで、薄羽はきゅっとくちびるを引き締めた。
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