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友人
縁のなさそうな経過報告
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初夏になり、薄羽も大学の生活にそろそろ慣れてきた。ゴールデンウィークは、弟がうるさいので実家に帰ったりもした。
そろそろアルバイトでも、と思っているが、弟からはそんな時間があるならもっと電話しろと言われるし、母親からは勉強しなさいと言われるしで見送っている。勉強は結構している方だと薄羽は思っている。なんといっても一緒にいる小鳥が非常に真面目なので。
サークルには入学してすぐに入った。秋月に頼まれ、秋月の知人の先輩のところに名前だけ所属というかたちだ。活動しなくていいから! と言われつつも、週に一回は呼び出されて秋月と共にラーメンを奢られている。秋月曰く、ラーメン開拓同好会らしい。大学から大学最寄り駅周辺のラーメン評価マップをもらった。
秋月は自分もおいしいラーメンを開拓したいと意気込んでいる。そのために、薄羽は時々、サークル活動とは別にラーメン屋に付き合っている。今日は薄羽と同じく名前だけ所属している榛名も一緒だ。
「俺が来年のラーメン開拓者だから」
「ラーメン開拓者一人じゃサークルもたないだろ」
「充実のラーメンマップで来年は部活に昇格するから」
「ないだろ」
拳を握って意気込みを話す秋月をはさみ、薄羽と榛名はずるずるとラーメンを啜る。今日は北海道味噌ラーメン。
「夏休みに喜多方行こうって先輩がたと話してるんだけど、榛名と相原も行くだろ」
「予定次第で」
「夏休みってまだ先なんだけど」
「行くって言っとくな!」
秋月は楽しみだなとようやくラーメンを食べ始める。北海道ラーメンの店で喜多方ラーメンを食べに行く話をしてもいいのだろうか。薄羽はひっそり思ったが、秋月も榛名も気にした様子はない。まあいいか、と薄羽はチャーシューを掬い上げる。
「そういえばさ-、もう五人くらいいるんだって! カノジョが」
「……誰? なんの話?」
「前に話したじゃん。噂のヤリチン」
「ああ」
薄羽はそんな奴いたな、とぼんやり思い出した。ちぎっては投げ、と言っていたか。噂ばかりで、どこまで本当かわからない話だから、すっかり記憶から消し去っていた。薄羽が相槌を打ったのが嬉しいのか、秋月はぐるっと首を回す。榛名は肩を竦めて麺を啜るばかりだ。
「中には先輩とかOGとかもいるって!」
「へー」
「あれっ? 興味ない?」
「いや関係ないしさ。逆に秋月なんでそんなに詳しいの?」
訝しむ薄羽に、秋月は決まり悪そうに、恥ずかしそうに苦笑した。
「なんかほんと有名なやつだったから、ゲーノージンに会った! みたいな感覚なんだよね」
「榛名も?」
秋月の向こうにいる榛名に視線を移すと、俺は別に、とどんぶりを傾けてラーメンを食べ終えるところだった。早い。飲むように食べている。
「そこまでじゃねえな。あーでも、情報持っとくにこしたことはないんじゃね」
「なんで?」
秋月がラーメンを食べるために前のめりになったので、秋月の背中越しに話をする。榛名はちらっと秋月と薄羽のどんぶりを見てから、餃子を二皿注文した。
「あいつらタチ悪いから。絡まれない方がいいと思う」
「榛名は絡まれることある?」
「俺はないけど……」
歯切れが悪い。秋月は、俺はこの間見た、とまた身体を起こした。
「ヤリチンはいなかったけど、結構ガンガン言い争いしてた。手も出てたかな~。蹴落とし合い? ジョレツ争いっていうやつ?」
「お、おお……」
「怖かった……」
秋月がしょんぼり溜息を吐くが、そのわりに最後までしっかり見届けたのだろうなと薄羽は思う。榛名も薄羽の心情を知ってか頷いている。
「そういうの見て見ぬふりなのかほったらかしだし……あと時々男でもなんか仲間割れとかしてるし」
「どういうグループなのかさっぱり分からないな……」
「俺の知り合いも……巻き込まれて散々、みたいなのあったみたいだし」
榛名は躊躇った後に、ようやくそう口にした。秋月はマジで、と今度はぐるん、と榛名のほうへと首を回した。
「巻き込まれたんだ?」
「うーん。仲良くなって普通にいい奴だよっつってたけど、その周りがうるさくて疲れたっつって他県に進学してった。もともと希望だったのかも知んねーけど」
「うへえ」
薄羽はまた混乱する。噂ばかりで、やっぱりあんまり本気に受け取らないほうがいいのではないだろうか。
「でも、じゃあ、ヤリチンはいいやつなのか?」
「……俺は付き合いないけど。でもそういうのもほったらかしなら、あんまりいいやつとは思えない。俺は」
「そうだなあ」
秋月がわかったように頷いて、ずるずるとラーメンを啜っている。榛名も餃子を食べ始めたので、急に静かになってしまった。薄羽はそもそもヤリチンの顔を知らないのでなんとも言えない。またラーメンに向き合う。
そんな派手な喧嘩をしているところを見たことがない。だからきっと自分とは行動範囲がちがうか、縁がないのだろう。薄羽は思う。
そろそろアルバイトでも、と思っているが、弟からはそんな時間があるならもっと電話しろと言われるし、母親からは勉強しなさいと言われるしで見送っている。勉強は結構している方だと薄羽は思っている。なんといっても一緒にいる小鳥が非常に真面目なので。
サークルには入学してすぐに入った。秋月に頼まれ、秋月の知人の先輩のところに名前だけ所属というかたちだ。活動しなくていいから! と言われつつも、週に一回は呼び出されて秋月と共にラーメンを奢られている。秋月曰く、ラーメン開拓同好会らしい。大学から大学最寄り駅周辺のラーメン評価マップをもらった。
秋月は自分もおいしいラーメンを開拓したいと意気込んでいる。そのために、薄羽は時々、サークル活動とは別にラーメン屋に付き合っている。今日は薄羽と同じく名前だけ所属している榛名も一緒だ。
「俺が来年のラーメン開拓者だから」
「ラーメン開拓者一人じゃサークルもたないだろ」
「充実のラーメンマップで来年は部活に昇格するから」
「ないだろ」
拳を握って意気込みを話す秋月をはさみ、薄羽と榛名はずるずるとラーメンを啜る。今日は北海道味噌ラーメン。
「夏休みに喜多方行こうって先輩がたと話してるんだけど、榛名と相原も行くだろ」
「予定次第で」
「夏休みってまだ先なんだけど」
「行くって言っとくな!」
秋月は楽しみだなとようやくラーメンを食べ始める。北海道ラーメンの店で喜多方ラーメンを食べに行く話をしてもいいのだろうか。薄羽はひっそり思ったが、秋月も榛名も気にした様子はない。まあいいか、と薄羽はチャーシューを掬い上げる。
「そういえばさ-、もう五人くらいいるんだって! カノジョが」
「……誰? なんの話?」
「前に話したじゃん。噂のヤリチン」
「ああ」
薄羽はそんな奴いたな、とぼんやり思い出した。ちぎっては投げ、と言っていたか。噂ばかりで、どこまで本当かわからない話だから、すっかり記憶から消し去っていた。薄羽が相槌を打ったのが嬉しいのか、秋月はぐるっと首を回す。榛名は肩を竦めて麺を啜るばかりだ。
「中には先輩とかOGとかもいるって!」
「へー」
「あれっ? 興味ない?」
「いや関係ないしさ。逆に秋月なんでそんなに詳しいの?」
訝しむ薄羽に、秋月は決まり悪そうに、恥ずかしそうに苦笑した。
「なんかほんと有名なやつだったから、ゲーノージンに会った! みたいな感覚なんだよね」
「榛名も?」
秋月の向こうにいる榛名に視線を移すと、俺は別に、とどんぶりを傾けてラーメンを食べ終えるところだった。早い。飲むように食べている。
「そこまでじゃねえな。あーでも、情報持っとくにこしたことはないんじゃね」
「なんで?」
秋月がラーメンを食べるために前のめりになったので、秋月の背中越しに話をする。榛名はちらっと秋月と薄羽のどんぶりを見てから、餃子を二皿注文した。
「あいつらタチ悪いから。絡まれない方がいいと思う」
「榛名は絡まれることある?」
「俺はないけど……」
歯切れが悪い。秋月は、俺はこの間見た、とまた身体を起こした。
「ヤリチンはいなかったけど、結構ガンガン言い争いしてた。手も出てたかな~。蹴落とし合い? ジョレツ争いっていうやつ?」
「お、おお……」
「怖かった……」
秋月がしょんぼり溜息を吐くが、そのわりに最後までしっかり見届けたのだろうなと薄羽は思う。榛名も薄羽の心情を知ってか頷いている。
「そういうの見て見ぬふりなのかほったらかしだし……あと時々男でもなんか仲間割れとかしてるし」
「どういうグループなのかさっぱり分からないな……」
「俺の知り合いも……巻き込まれて散々、みたいなのあったみたいだし」
榛名は躊躇った後に、ようやくそう口にした。秋月はマジで、と今度はぐるん、と榛名のほうへと首を回した。
「巻き込まれたんだ?」
「うーん。仲良くなって普通にいい奴だよっつってたけど、その周りがうるさくて疲れたっつって他県に進学してった。もともと希望だったのかも知んねーけど」
「うへえ」
薄羽はまた混乱する。噂ばかりで、やっぱりあんまり本気に受け取らないほうがいいのではないだろうか。
「でも、じゃあ、ヤリチンはいいやつなのか?」
「……俺は付き合いないけど。でもそういうのもほったらかしなら、あんまりいいやつとは思えない。俺は」
「そうだなあ」
秋月がわかったように頷いて、ずるずるとラーメンを啜っている。榛名も餃子を食べ始めたので、急に静かになってしまった。薄羽はそもそもヤリチンの顔を知らないのでなんとも言えない。またラーメンに向き合う。
そんな派手な喧嘩をしているところを見たことがない。だからきっと自分とは行動範囲がちがうか、縁がないのだろう。薄羽は思う。
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