久々に再会した同級生から告白されて一緒に媚薬を被った結果

わさん

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 実は竹野は、媚薬を購入しようと思っている。 

 小槙が待つ、と口にしたことが竹野はいまだによくわからない。待つのは何を待つのだろうか。
 竹野とのセックスが考えられないということではないのだろう。触れたいと言ったのは嘘ではないはずだ。実際竹野は、小槙が竹野を想ってひとりで抜いているところに遭遇したことがある。

 遭遇とは言っても、勝手に盗み聞きしただけだ。小槙の部屋に泊まる日は一緒の布団で寝るのだが、夜中に小槙がひとりでそっと抜け出していったことがあった。竹野だって、それだけならトイレだろうと気にも留めない。だが、その日はたまたま竹野も水を飲もうと布団を出ることにした。
 そして向かったキッチンで、浴室のほうから自分の名前を呼ぶ声を拾ってしまった。壁が薄いせいだ。なんだろうと二歩、足を進めたところで竹野は、小槙が何をしているのか分かってしまった。荒い息遣いと濡れたような音が、バスルームの中で響いていた。竹野、と掠れた声で名前を呼ぶ声が聞こえるたびに、竹野は飛び上がりそうな心地だった。

 もはや水を飲むどころではない。小槙が戻ってきたら、竹野が盗み聞きをしていたことが分かってしまう。
 小槙の部屋は築年数もそれなりの木造立てだ。歩くだけで床が音を立てることもある。竹野は必死でゆっくり急いで布団に戻り、全力で寝たふりをした。顔が熱くて仕方がないが、この暗さで気づくはずもないだろう。寝息が不自然かも知れないことにも構っていられない。とにかく息を潜め、身体を縮め、手の指も足の指も丸めた。
 竹野が布団を被ってまもなく小槙が戻ってきた。ごそごそと布団に戻る小槙に気づかず寝ているふりを続ける。目を閉じ、口を閉じ、呼吸はうまくできない。後ろから手が回り、腹を抱きしめられたときはうっかり叫ぶところだった。

 首筋に小槙の短いが柔らかい髪が当たる。普段は整髪料で固められているが、小槙の髪は色素が薄く細くて、緩くくるりと巻いている。それが地毛だと言うことは、付き合い始めてから知った。ふわふわとした髪は撫で心地がよく、竹野は何もなくてもつい触ってしまうくらい好きだ。
 こんなときでさえなければ、肌を掠める髪の感触も楽しめたかもしれない。
 小槙の腕が腹に回ったために、下腹に意識が集中する。自分の中心が緩く勃起してしまっていた。理由が分からない。なんでなんでと泣きそうになる。抱きしめられてしまったら、心臓がこんなにばくばくしているのがばれるのではないかと余計に焦る。
 だがここで身じろいだら、それはそれで寝たふりをしていることがばれるのではないかと動けない。とにかく竹野は動かなかった。竹野? と呼びかけられた気がしたが、聞こえないふりを続けた。

 待つの意味は分からないけれど、小槙はあの媚薬を零したときと同じように触れたいのはないかと竹野は思った。あのときは、嵐のような出来事で、竹野はとにかくされるがままだったし、何をどうされたのかもよく分からない。自分でも見たことのない場所に触られた挙げ句、指を入れられたわけだ。
 入れられたはずだ。
 竹野としては疑問だ。本当に入れられたのか。入るのだろうか。色々ありすぎて意識が若干飛んでいたくらいだ。もしかしたら、何か間違って記憶しているのかも知れない。
 だが竹野としても知識はある。ひとり、部屋で深夜に調べもした。男同士で挿入を伴うセックスをする場合、使う場所はそこだ。
 セックスする、と小槙が提案するにしろ、竹野が誘うにしろ、とにかくそこに入るということは変わりはない。自分ではなく、小槙のそこだったらどうだろうと一瞬考えもしたが、それはそれで怖いことだった。自分は器用な質ではないし、まかり間違って傷つけて、小槙の陸上への支障が出ることがおそろしい。
 風呂の最中に触ったりもしているが、ふにふにと押してみてもよくわからないままだった。あのとき、小槙の指が当然のように出入りしたのは、現実だったのだろうか。確かワセリンを使っていたはずと購入してみたものの、うまく指を入れることがかなわなかった。
 竹野の指は小槙のものより細い。ワセリンも使っている。ではなぜ入らないのか、と考えたとき、竹野が思いついたのは媚薬だった。

 あの媚薬が効果を示していたのではないか。

 ビタミン剤とか興奮剤とか小槙は言っていたし、緊張を緩めたり身体を柔らかくする効果があったのかも知れない。
 なら媚薬を買おう。
 竹野は決めた。
 こういうとき、一人暮らしでよかったとしみじみする。基本的には家族が勝手に部屋に入ることはないが、それでも誰かの目に触れるのではないかと不安になってしまうところだ。
 そもそもどういうところで購入するものなのか。小槙はクリスマスパーティでもらったと言っていたが、簡単に買えるものなのか。まずドラッグストアをうろついてみたが、見つからない。どのカテゴリーを探したらいいのか分からず、端からじっくり眺めたが分からなかった。あまりに長時間悩んでいたせいか、店員に笑顔で話しかけられてしまい、特に必要のない湿布薬を買ったりもした。

 インターネットで検索をかければショッピングサイトが表示されるが、今度は違いが分からない。性別で分けられているのか。精力剤と記載されているものでいいのか。強壮剤? 興奮剤? うっかり海外のアダルトビデオ動画サイトに飛ばされそうにもなる。
 一度、さりげなく小槙にも訊ねた。

「あのときのび、び、び、びや、媚薬のことなんだけど……」
「媚薬? 媚薬ってなんだっけ?」

 小槙はそのとき読んでいた雑誌を捲る手を止め、顔を上げた。まさか覚えてないのかと竹野のほうが驚いてしまった。

「あの、ほら、最初に小槙の部屋に来たときにあった、あの」
「何かあったっけ……?」
「あったよ! 小槙が先輩からクリスマスプレゼントにもらったっていう、あの、瓶!」

 なぜここまで思い出せないのか。竹野はもどかしくて、あれだよあれだよ、と言葉を重ねた。小槙はしばらく顎に手を当てて考え、ようやくああ、と声を上げた。

「あったね!」
「そう! あれ! あれのことなんだけど……」
「竹野媚薬ほしいの?」
「ほ、ち、ちが、違う、違くて、そうじゃなくて」

 そうじゃなくてと言いつつも、ではなぜそれを話題に出したのかと説明もできず視線を彷徨わせるしかなかった。小槙はあれかあ、と思い出した様子で口にした。

「あれディスカウントストアで買ったやつらしくて、中身はビタミン剤らしいね」
「ディスカウントストア!」
「竹野?」
「あっ。いや、ごめん、なんでもない……えっと、あのときすごくあまいにおいがしたから、中身は結局なんだったのかと思って……ディスカウントストアか……」
「竹野?」

 小槙の呼びかけにも気がつかないまま、竹野はそのまま部屋を出て近所のディスカウントストアへ向かった。普段入らない店で、ごちゃごちゃと食料品や雑貨が積まれていて通路が狭い。だが逆にうろうろしていてもドラッグストアのようには、目に付かないだろう。ゆっくりと一列ずつ眺め奥に進んでいくと、アダルトグッズが置かれている一画があることに気づいた。コスプレ用の服やバイブが陳列され、女性の半裸の写真のパッケージの商品や布がつるつる光っている下着などが目に飛び込んできて居たたまれない。その中の壁沿いの棚に、媚薬が並んでいた。

 女性ホルモンがどうの、男性ホルモンがどうの、生薬、マムシ、マカ、各種サプリメント。実物を見れば購入できるかと思ったが、どれもあやしくて購入する気にならない。ひとつひとつ成分を見て、ドラッグストアなどでもよく見かけるメーカーの、ビタミンが複数配合されているカプセルのサプリメントを買った。

 小槙の部屋にあったのもビタミン剤だと言っていたから、ビタミン剤ならどれも一緒ではないかと思った。だが竹野が購入したものは本当にただのビタミン剤のようで、カプセルのせいだからかあまいにおいもしなければ、服用して特に性欲が湧くということもなかった。
 やっぱりあの媚薬が本物だったのではないか。
 似たものはなく、あれを手に入れる必要がある。

 先輩なら、どこで買ったのか分かるはずだ。その可能性に思い当たり、竹野は目を見開き、顔を隠すほど恥ずかしかったことすら忘れて訊ねた。

「あれ、どこで買ったんですか……?」
「えーっとどこだったかな……なに、あれがそんなに気に入ったの?」

 多分ここだと思う、と先輩はスマートフォンで大きな駅前のディスカウントストアを表示して見せた。竹野もスマートフォンを取り出し、駅名を記録する。

「あれ、本当に効果があるものだったと思うんです」

 小槙の応援に来たのに、自分はさっきからなにをやっているのだろう。竹野は罪悪感に駆られながら、トラックを走る小槙を眺めた。やっぱり小槙は堂々と、見ているだけで安心するような顔をして走っている。
 小槙の考えはまだ分かっていないものの、きっとこれからのために、媚薬が必要になるだろう。竹野は思う。何事も、備えあれば憂いなしと言うし。
 先輩はぽりぽりと頬をかきながら、そうかなあ、と口にした。

 思えばこの人に小槙との関係が知られてしまったわけだが、同性同士というあたりをあまり気にしているようには見えない。訊ねると、自分の彼女以外のことはどうでもいい、と本当に興味がなさそうだ。小槙には伝えた方がいいだろうが、心配するような必要はないかも知れない。竹野が密かに胸を撫で下ろすと、媚薬ねえ、と先輩は苦笑した。

「効いたのが媚薬かどうかは分かんねーけど」
「どういうことですか?」
「んー? 小槙と使えばいいんだと思うってこと」

 先輩は思わせぶりににししと笑い、頑張れよ、と竹野の背中をばしばし叩いた。
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