久々に再会した同級生から告白されて一緒に媚薬を被った結果

わさん

文字の大きさ
上 下
2 / 17

しおりを挟む
 それから親しくなったかというとそんなことはなく、小槙はやはりクラスの中心で大きな声で笑っていたし、竹野は教室の隅でひっそりと学校生活を送っていた。
 廊下ですれ違えば、小槙は、よっ、と軽く手を上げて笑みを見せるが、竹野は会釈して返した。小槙の友人も、竹野の友人も、ふたりが親しげなやりとりをするのに目を見開くこともあったが、特に深く追求されることはない。小槙は、誰に対しても親しみを見せる男だからだ。それに大体は、ふたりは目線で挨拶をするだけだった。





 次に会話をしたのは冬休み前で、やはり図書館で邂逅した。小槙は数学のプリントではなく、ルーズリーフを前にうんうん唸っていた。

「あ、竹野」
「うん」

 その日は試験の返却日で、午前で授業は終わっていた。そのせいか図書館は静かで、カウンターにいるのは教師だった。図書委員も、さすがにテスト期間は仕事はしないのだと竹野は考えるともなしにひとり頷いていた。

 竹野も本を返却して帰るつもりだったが、小槙を見つけてしまった。手を振って、別れてもよかったはずだった。だがにこにこと自分を見ている小槙に背を向けられない。竹野もなんとか笑みのようなものを浮かべ、近くに寄る。普段笑い慣れていないから、変な顔をしていないか。そんなことばかりを考えていた。

「今日も、補修のプリント?」
「いや-、そっちは今日は大丈夫」

 小槙に隣の椅子を引かれ、竹野は素直に腰を下ろした。小槙が頬杖をつきながら、竹野を見ている。深い意味はないのだろうが、小槙は目も大きいせいか、こちらを向いているだけでじっと見つめられているようで落ち着かない。

「竹野はさあ、大学決めた?」
「う、うん。いちおう……」
「どこ? 竹野だから、合格判定も結構いいんじゃない?」
「まだ一年もあるし、判定は当てにならないよ」

 東京の国立大学の名前を上げると、小槙はそっか、と難しそうな顔をした。どういう表情だろう。竹野がもっとよく見ようとしたときには、机に突っ伏してしまった。

「俺も東京の大学目指してんだけど、小論あんだよね」
「ああ、それで? 書くの?」

 確かにいま机にのっているのは小論文の書き方のテキストだ。見てもいいかと断りを入れて、竹野は手に取ってぱらぱらと捲った。

「スポーツ推薦とはいかねーけど、陸上やってるところ行きたくてさ」
「へえ……」

 小槙は陸上部でもいい成績を残している。もともと陸上が強い高校ではないので、大会に出るとよく目立つのだろう。成績については新聞部や放送部が取り上げるので、竹野も知っていた。

「陸上好きなんだ」
「……ああ。最近気づいた」
「最近?」
「そう。俺、そういうの分かるの時間がかかるんだ」

 竹野は何の気もなく頷いた。小槙が陸上を好きなのは、見ていればすぐに分かることだ。部活中の小槙を見かけた回数が多くない竹野でさえ、知っていた。夏休み前に会ったときも、部活に行きたいとしみじみ呟いていてたから、なおのことだ。

「竹野も東京なら、東京に行ったら会うかもな」
「うーん」

 どうかな。竹野は思う。普段教室で見ているだけでも、自分と小槙の趣味や生活範囲が違うことが分かる。きっと小槙が足を運ぶようなところに、竹野は行かないだろう。

「なんだよ。会いたくない?」
「いや、東京って言ったって、広いからさ」
「会おうよ」
「うん……」

 普段そこまで会話もしないのに、なんで。思ったけれど、竹野は言わなかった。いつもにこにこしている小槙の目が、緊張しているようだったからだ。何も口を挟まずに、ただ頷いてやりたかった。





 そんなやりとりもしたのに、竹野がそれから小槙と交流する機会はなかった。結局、連絡先の交換もせずに卒業してしまったからだ。
 小槙が狙っていた大学に合格したことは知っていた。小槙の情報はクラスの誰かが常に噂していて、調べるまでもなく分かってしまう。竹野は竹野で今までその高校から進学したことのない大学の合格だったからか、教師数人から褒められ、進学先はほとんどの生徒に知られることになった。竹野は、小槙とはおめでとうと言い合いこそしなかったが、遠目に笑みを交わし合った。

 卒業式も、小槙は人に囲まれていた。
 クラスメイトに限らず、学年の面々、後輩にも先生にもよく声をかけられていた。離れていても、どこにいるかわかるくらいだ。竹野は近くによることもできなかった。

 東京で会おうって言ったことを、小槙は覚えているのだろうか。自分ばかりが気にしているのか。

 ブレザーなのにボタンも、ワイシャツの手首のボタンも取られて笑われている小槙を見ながら、もう会うこともないのかもしれないと竹野は思った。それでも声はかけることができなかった。






 春休みは引越しの作業に追われ、あっという間に過ぎた。
 小槙のことを思い出しもしたが、連絡先を知るわけでもない。知っていたとしても、連絡する口実も見つからない。竹野の友人たちは、竹野と同じく小槙に繋がる面々との連絡先を知らない。いや、知っているかもしれないが、それを誰かに聞く手段も竹野はとれなかった。

 会おうよ、と言ったときの小槙の顔を竹野も覚えていた。それでもこれくらいの距離がちょうどいいのかも知れない、と思った。
 高校時代だって、そうだ。二回、会話をしただけ。
 いまとなって思えば、小槙の会おうよというのも社交辞令だったと言えなくはない。誰にでも親しく接する男だ。たまたま同じ方面に進学する相手だったから、そういう話をしただけ。小槙がそんな口先だけ調子のいいことを言う人間だとは思っていなかったが、竹野だって、小槙のことをよく知っているわけではない。

 それからも時々小槙のことは気になったが、竹野も初めて実家を出て一人暮らし。おまけに東京で、講義に出て、アルバイトもしようと思えば、新しい生活のことでいっぱいいっぱいだ。小槙のことを思い出す機会は減った。





 そうして東京の生活に慣れてきた二年目の冬。成人式で再会した小槙に、連絡先の交換をするよりも先に告白をされたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

率先して自宅警備員してたら宅配業者に両思い判定されてた話

西を向いたらね
BL
[配達員×実家暮らしニート] ・高梨悠斗 (受け) 実家住みのニート。常に家にいるため、荷物の受け取りはお手の物。 ・水嶋涼 (攻め) 宅急便の配達員。いつ荷物を届けても必ず出てくれる受けに対して、「もしかして俺のこと好きなのでは…?」となり、そのままズルズル受けの事が好きになる。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

真面目な部下に開発されました

佐久間たけのこ
BL
社会人BL、年下攻め。甘め。完結までは毎日更新。 ※お仕事の描写など、厳密には正しくない箇所もございます。フィクションとしてお楽しみいただける方のみ読まれることをお勧めします。 救急隊で働く高槻隼人は、真面目だが人と打ち解けない部下、長尾旭を気にかけていた。 日頃の努力の甲斐あって、隼人には心を開きかけている様子の長尾。 ある日の飲み会帰り、隼人を部屋まで送った長尾は、いきなり隼人に「好きです」と告白してくる。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は未定 ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い ・本格的に嫌われ始めるのは2章から

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...