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第2話馬鹿

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穏やかな風吹く五月、ここ大多喜城ではのどか



な日々が流れていた。





うーっ眠い、くそー眠いでも起きて武術の稽古しなきゃ経丸はそれがしが守らなきゃ五、四、三、二、一、はい起き上がれ



朝五時、士郎は毎日自分の睡魔と戦いながら経丸を助け幸せにするという思いの為に武術の稽古に励むのであった。



朝の稽古の内容は朝五キロ走り木刀を敵を仮想して二百回真剣に振るのであった。



この稽古はあの日から毎日雨が降ろうと体調が悪かろうと欠かしたことがない。



士郎は朝稽古を終えてへとへとになりながら城に戻り着替えを用意して思いっきり水を浴びて汗を流すこの瞬間が達成感を感じ自己満足に浸る幸せなのだ。



士郎は着替えて城内に入ると



「ポランちゃん、私田植えの手伝いに行くから一人でお留守番頼んだよ」



経丸が大多喜城二階、床は畳の六畳一間の自分の部屋でお気に入りのタヌキのぬいぐるみに話しかけているのが聞こえてきた。



士郎はわざと経丸の部屋の戸を開けた。



「経丸、」



経丸は慌てながら



「あっ、これはその、落ちていたから拾っただけだよ」



士郎は呆れ顔で



「はぁ、情けない我が殿は十五歳にもなってまだ朝からお人形遊びとは」



深くため息をつく士郎に



「何よ、そんなにお人形遊びが悪い?」



士郎はニヤッとし



「おっ開き直ったな」



「うるさい、だいたい声もかけずに戸を開けるのがおかしいんだぞ、着替えでもしてたらどうする!」



「大丈夫、誰も経丸の着替えになんか興味なから」



経丸はイラっとし



「士郎って、ホント最低‼」



士郎を追い出そうとする経丸に



「経丸、そういえば片倉さんもう準備できて待ってるよ」



「ヤバい、急いで行くわ」



経丸は士郎を部屋の外に出し



ぴしゃっと大きな音を立てて戸を閉めた。



締め出された士郎はふて腐れながら経丸の



部屋を後にした。



経丸は士郎と共に片倉のところへ行った。



経丸は申し訳なさそうに片倉に



「片倉さんすみません。お待たせしました」



「いえ、殿私も今さっき来たばかりなので」



士郎は片倉にニヤニヤしながら



「いや、片倉さんこの際ガツンといった方がええよ。人形遊びなんかして遅れやがってって」



経丸は士郎の言葉にイラっとして



「何よ、士郎が何回も忘れ物を取りに行って中々出られなかったからこんなに遅れたんでしょ」



「まぁ、まぁ、二人とも落ち着いて僕はそんなに気にしてないから」



士郎と経丸の二人は片倉の言葉を無視して



「経丸が人形遊びしてる時にはもう片倉さんは準備終わってました」



「私は人形に一言話しかけただけじゃない。士郎が何回も忘れ物して往復した時間の方がすごいかかってるわよ」



「ほー、そうやって人のせいにして楽しいか」



「もういい!!士郎、ホント最低‼」



怒鳴る経丸に対して士郎は呟くように



「冗談も通じないんだな。経丸は」



片倉は笑顔で



「そっか、冗談だったのか。あれだな男子が好きな子の気を引きたくて意地悪するやつだな。士郎君も可愛いなぁ、このこのこの」



笑顔で士郎の脇腹を小突く片倉を士郎は鋭い眼差しで睨み付けながら小さな声で



「後で殺すからな」



片倉は士郎を煽るように



「おや、士郎君冗談がわからないんですか?」



経丸は満面の笑みで



「片倉さん、うまいですねぇ」



経丸と片倉はハイタッチをした。



「お前ら二人で組んで卑怯だぞ!!」



士郎の怒号は響き渡ったのであった。







経丸達が田んぼに着き農民達と合流した。



「殿達は、今日はここの3列を植えてください」



「はい、わかりました」



三人は田んぼにはいり田植えをやり始めた。



士郎の次から次へと高速で稲を植える姿をを見て経丸は



「士郎、凄い!田植えをめちゃくちゃ上手いじゃん」



士郎は得意気に



「当たり前だろ、それがしは田植えの神様って呼ばれてるんだから」



「さすがだよ、ホントに凄いと思う」



素直に誉める経丸に対して士郎は少し照れながら



「しょうがねぇなぁ。それがしもうすぐ終わるから手伝ってやるよ」



経丸は笑顔で



「ホント?ありがとう」



士郎は経丸の笑顔にドキッとし慌てて下を向きながら少しかっこつけて低い声で



「まぁ、いいってことよ」



心の中では



何今の!めっちゃ可愛い笑顔やっぱり経丸は田植えしていても可愛いんだなぁ



二人の微笑ましいやり取りを片倉は温かい目で見ながら黙々と田植えを続けたのであった。



士郎は経丸の前でかっこつけようと今までのペースよりさらに早くして稲を植えていき、自分の任された列を終わらせ、経丸の列の手伝いに入ろうとしてかがんでた体勢から一旦立ち上がろうとしたその時



ボキッ



腰に大きな衝撃が走った。



ヤバい、これはヤバい!動けないぞ!



田んぼの中で完全に動けなくなった士郎は全身から大量の脂汗が涌き出てきた。



動かない士郎を不審に思った経丸は



「士郎、どうしたの?」



士郎は少し半泣きになりながらか細い声で



「経丸、助けてくれ。腰が腰が」



経丸は全てを理解し士郎の元に行き士郎を背負って一旦田んぼから出た。



「ありがとう、経丸助かったよ」



「何、張り切りすぎて持病の腰通が出たの?」



「うん、そうみたい」



「もう、今日はゆっくり休んでな」



「ごめん、経丸」



経丸達が田植えを終えると



殿達、おむすびができました。



おむすびのところに向かおうとした経丸がいきなり



「キャーっ!」



いきなりの経丸の叫び声に片倉は慌てた声







「どうしました、殿!」



さっきまで腰が痛くてうつ伏せの状態だった士郎は経丸の叫び声と同時に自然と体が反応し経丸の元に駆け出して行ったのであった。



経丸の元に士郎と片倉は急いでいくと背の高い男を背の小さい顔のそっくりな男達が挟んで三人並んで経丸の前に立っていた。



いきなり現れた三人組の男に片倉は



「お前達、何なんだ!」



 三人組の背の高いリーダーみたいな男が



「俺達は経丸様を誘拐しにやって来た」



士郎は呆れた感じで



「は?デモン何してんの、お前達」



 片倉は少し驚いた顔で



「士郎、知り合いか?」



「はい、こいつら、」



「士郎、黙ってろ、今から自己紹介すんだから」



リーダーみたいな男が気合い入れるように



「いつもの行くぜ」



 デモンと言われているリーダーみたいな男



 の左隣にいる背の小さな男が





「風のように速い。双子の弟風神、うーた」



 右隣の背の小さな男が



「ちょっと待って、士郎が寝ながら俺らの自己紹介聞いてるよ」



「おい、士郎俺らに失礼だと思わないのか立て」



「ごめんデモン、今それがし腰が痛いんだよだから立つのは辛い」



「そっか、じゃあ仕方ないな。ひょーた続けて」



ひょーたは笑顔で元気よく



「じゃー仕切り直しまーす」



うーたは小さな声で



「もう、グダグダだよ」



とツッコンだ。



「雷のように光輝く、双子の兄雷神、ひょーた」



「天からこの世を支配する、天神にして大多喜の番長、デモン」



寝っ転がって自己紹介を聞いていた士郎は



「ぶわぁははははー」



士郎は腹を抱え腰をいたがりながら笑い転げた。



「人の自己紹介を笑うとは何事だ‼」



 怒るデモンにうーたは



「いや、この自己紹介は士郎じゃなくても笑うよ、俺こんな恥ずかしい自己紹介したくなかったし」



「馬鹿たれ、この自己紹介になぜ誇りを持たない」



ひょーたも同調するように



「そうだ、そうだ誇りを持てようーた」



マジか、やはりバカ二人と多数決で自己紹介の内容なんか決めるんじゃなかった。



「はぁ、おかしい。でお前ら何しに来たの?」



「聞いてなかったのか経丸様を誘拐しに来たんだ」



「はぁ、そうか」



士郎が自分の予想と違う反応したことに対してデモンは慌てながら



「お前、反応おかしくないか」



「だってお前ら、人の嫌がることするキャラじゃないじゃん」



「何言ってんだ、お前は」



「だってひょーたは祭りとか地域のイベントを率 



先して手伝うから地域の人から評判いいしうーたは卑怯や弱い者いじめが大嫌いでそういう事をする奴をボコボコにする正義感強い奴だし、デモンは母ちゃん怖いのに門限破ってまでそれがしの悩みごとの聞いてくれて家帰って泣くまで母ちゃんに怒られるような奴じゃないか」



デモンは士郎を睨み付けながら



「お前、俺達は変わったんだよ、ぐれたんだよ」



「あっそう、どんな感じに?」



 デモンは士郎の胸倉を掴んで士郎の体を持ち上げると士郎が泣きそうな顔で



「おい、待ってデモンそれがし今腰が痛いんだ」



デモンは慌てて



「おっ、ごめん、ごめん」



デモンは丁寧に士郎をうつ伏せの体勢にしてあげてから



「おい、てめー俺達三神舐めってとどうなるかわかってんのか、泣く子も笑う三神だぞ」



うーたが呆れながら



「泣く子も黙るだよ、番長」



 士郎は大笑いしながら



「お前、ぐれてんのに方言も言えないのか」



 経丸は呆れた感じで



「士郎、方言じゃなくて例えだから」



 デモンは鬼の首を取ったように大喜びで



「わはは、お前はぐれてないから言葉わからないんだ」



うーたは引きつった顔で



 いや、ぐれるって意味この2人はわかっているのかな



士郎はムッとした表情で



「おい、経丸のせいでこんなバカに笑われたじゃないか」



経丸は自分のせいにされイラっとし



「士郎が間違えたからいけないんでしょ、私のせいにしないでよ」



「いいや、経丸が余計なことを言わなきゃこんなことにならなかった」



デモンが慌てて



「まぁまぁ、喧嘩はよしましょうよ」



 士郎と経丸は声を揃えて



「うるさい‼」



 士郎はデモンを指さして



「だいたいお前が間違えて余計な言葉を使うから喧嘩になったんだぞ」



 経丸も同調するように



「そうです、喧嘩の原因はあなたの一言ですよ」 



二人にまくしたてられるように責められた



デモンは落ち込みながら



「俺が悪かったんかなぁ」



 士郎はすかさず



「そうだ、お前が悪い謝れ」



士郎の言葉を聞いて素直に謝ろうとするデモンに対してうーたが呆れながら



「あんな、理不尽に謝る必要ないよ、それに俺らは経丸様を誘拐する悪人ですよ堂々としてください」



「いや、でも間違ってしまったことは誠意を持って謝らないといけないんだぞ」



ひょーたも同意するように



「そうだ番長の言う通り、間違ってる事は謝らないといけないんだ」



「いや、番長はなんも悪くない士郎が番長に責任を理不尽に押し付けてるだけだから」



「そうなのか、士郎」



「いや、そんなことないよ」



 経丸はデモンの態度を見て罪悪感にかられ



「いや、私と士郎が悪かったです。デモンさん理不尽に責任を押し付けてすみませんでした」



経丸はデモンに頭を下げた。



「経丸、裏切ったな」



「士郎、早く謝りなさい」



「誰が謝るか、裏切り者」



士郎と経丸が喧嘩になりそうな雰囲気をデモンは察知し



「もう、どうだっていいとりあえず俺達は経丸様を誘拐しに来たんだ」



デモンは士郎を睨みながら経丸の肩を掴んだ。



「おい、お前汚い手で我が殿を触るな」



デモンは片倉の鋭い目つきにびびって経丸から手を離して



「いや、手は洗いました」



 うーたは呆れた感じで



「いや、番長そういう事言ってんじゃないと



思うけど」



 片倉は真剣な顔で



「なんで我が殿を誘拐するんだ」



 片倉の問いに遼太がニコニコした顔で



「番長は、この顔だからモテないんだ、だから」



「余計な事を言うな」



デモンは遼太の頭をひっぱたいた。



士郎は笑いながら



「その顔で女の子を誘拐するってリアルだな」



あいつ、誰のために番長がこんなダサい事してると思ってんだよ



士郎の言葉に怒りで震えるうーたの拳をデモンは抑えながら



「うるせぇ!仕方ないだろ。女の子に床下のカビって言われる気持ちお前にわかるか‼」



「うわはははは、床下のカビだって」



 士郎は腹を抱えて転がって笑った。



「転がるんじゃねぇー、そのまま田んぼに落ちてしまったら危ないだろうが!このジャガイモ野郎」



「ジャガイモ野郎だと、床下のカビのくせに



生意気だ」



「生意気だと思うならかかってこい、芋」



「くそー悪口を省略しやがったな。」



士郎が立ち上がろうとしたその時



「はい、もう喧嘩はやめましょう。せっかくだから三人もおむすび食べていきなよ」



デモン達三人は声を合わせて



「おむすび?」



「農民の皆様がおむすびを作ってくださったから一緒に食べようよ」



「いや、俺らは働いてないのでおむすびはいただけないですよ」



経丸は優しい笑顔で



「そんなの気にしなくていいから一緒に食べましょう」



「すみません、いただきます」



経丸に頭を下げるデモン達に対して士郎はニヤッとしながら



「少しは気にして食べろよ」



「士郎、余計なこと言わないの」



士郎は経丸の肩をポンと叩いて



「経丸、冗談に決まってんだろ」



経丸は優しい笑顔で



「そうよね」



みんなで食べたおむすびは、それはそれはおいしかったのであった。
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