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○~第6章~○ 卵管采へGO!

2排卵目! 地獄の臭い

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 陽の光がほとんど届かないこの森は薄暗く、全てが深い緑色に覆われている。
 そこへ迷い込んでしまったアタシの不安な心に、追い打ちをかけるかの如く木々や草が揺れた。それはまるで意思を持ち、アタシをあざ笑うかのような声に聞こえた。
 
――ウフフフ…… アハハハ…… ウッホ。
――キャハハ…… ムフフフ…… ウッホ。

 白血球ゴリラも混じっていた。

(まずいわね。 白血球ゴリラが1頭…… いや2頭か)

 草の根をかき分けて一直線へこちらへ向かってきている気配を感じられたため、恐らく向こうはアタシの存在に気付いているはず。
 白血球ゴリラとは闘ったことがないだけに、無理な戦闘は避けるべきと判断した。


○~白血球ゴリラおさらいと新情報(いま思いついた)~○
・白血球ゴリラはオ・マーン公国の軍隊。
・主な仕事は精子をやっつけることだけど、川が氾濫したり土砂崩れがあったときなどは土地の整備もする。(時間外手当なし)
・全身白色の毛に覆われていて筋肉質。
・頭の良い白血球ゴリラはしゃべることができる。


(今のうちに能力を使っておく方が得策ね)

 フッ――

 アタシは唯一の能力、純粋な透明ピュア・トランスペアレントを使い姿を消した。

(これでひとまず様子を見るか……)

 しかし白血球ゴリラの移動速度は変わらず、まっすぐアタシの方へ向かってきているのが分かった。
 そして、アタシから10メートルほど離れた草のしげみから白血球ゴリラ2頭が姿を現した。姿を完全に消しているはずのアタシを明らかに睨めつけ、ゆっくりと四足歩行で近づいてきている。

(だ、大丈夫よね? 目には見えないんだし……)

 そう思いながらもアタシは後ずさりをしてしまった。その瞬間――

「ウホホー―――!!」

 白血球ゴリラの1頭が物凄い雄たけびを上げると、すっくと立ち上がり二足走行してきたのだ。
 かなりの速度でアタシとの距離を縮める。

(どうしよ!どうしよ! このまま逃げる!? いやでも見えてないはずよ! そう! 見えてないはず!)

 白血球ゴリラが全力でこっちへ向かって走ってきているのも何かの間違いと信じ、アタシはその場から動かず静観を決め込んだ! 白血球ゴリラはもう目の前まで来ている!

(大丈夫!大丈夫! きっとダイジョウb

 ゴッ!!

 大丈夫じゃなかった。
 白血球ゴリラは思い切り拳を振り上げ、アタシの左頬にクリーンヒット。そのまま3メートルほど後ろへ吹き飛ばされ、大きな木に叩きつけられた。

(い、意識が……)

 顔面と頭部に強いダメージを負ったアタシの意識は朦朧とし、気絶寸前だった。後ろの木の支えがなければ完全にぶっ倒れているところだ。しかし――

(なんでバレた!?)

 アタシの純粋な透明ピュア・トランスペアレントは完璧なはず。あの婆やでさえ能力を使わないと見れないほどの純粋な透明度を誇っているのに。その時だった――

≪イヒヒヒ…… なんでバレタの!? って顔をしてるねえ≫

 なんとアタシがもたれている木に顔が生まれしゃべりだしたのだ。

≪シシシシ…… うわっ! 木がしゃべった! って顔をしてるねえ≫

 驚きながらも木の顔をじっとよく見ると、サッカーの本田△にそっくりで、こんな大ピンチな状況にもかかわらずアタシは半笑いになってしまった。

≪フフフフ…… 今日の晩ごはんはなんだろう? って顔をしてるねえ≫
「いやそれは思ってないわ」
≪アハハハ…… いいえ思っているねえ≫
「いや本当に思ってないわ! って逆にこんな状況でそんなこと思えると思う!?」

 そんなくだらないやり取りをしている間にも白血球ゴリラが再び攻撃を仕掛けてくる。

「ウホッ! ウホホー―!」

 大ぶりの2発のパンチを避け、再び距離をとった。

(なんで!? なんで見えてるの!)

≪オホホホ…… なんで見えてるの!? って顔≫
「うるさい!」

 そう言って本田△そっくりの木の顔面を殴ってやろうと右手の拳を振りかざした時――

 ガシッ!

 もう1頭の白血球ゴリラがいつの間にか後ろへ回り込んでおり、右腕を掴まれてしまったのだった。

(しまった!)

 そのままアタシの右腕を背中まで回され羽交い絞めにされてしまった。

(グフッ…… なんていう力なの! ヤバいヤバいヤバいヤバい! このままじゃ…… このままじゃ殺される!)

「なんで見えてるの? って思ってるでしょう?」

!?

「白血球ゴリラがしゃべった! って思ってるでしょう?」

!!

「今日の晩ごはんは――」
「いやだからそれは思ってないわ」
「いいわ。死ぬ前に教えてあげる。まず白血球ゴリラの中にはね、頭の良いものもいてね、話をすることだってできるの。つまり私は知能が高いの。ちなみにゲイよ。」

 最後とんでもないことを言ってきた。

「次に、なんで透明の能力を使っているのに見えるのか。それについて答えてあげる。実はね、本当は見えてないの。でも分かるの。えっ! 何で分かるの!? って顔してるでしょ。分かるの。臭いで」
「はあ!? 臭い!?」

(そう言えば婆やがアタシのことを臭いって……)

「あなためちゃくちゃ臭いのよ。あれ食べてるでしょ? 健康食品のほら、ニンニク卵黄粒」

 ――確かに。
 アタシは毎朝欠かさずニンニク卵黄粒を食べてる。あれを食べるだけで毎日元気モリモリなのだ。

「で、でも! 今までに誰からもそんな…… 臭いなんて言われたこと!」
「気を使ってくれているのよ! 皆が皆! そんなことも気付かないの!? あなためちゃくちゃ臭いのよ! 全身から漂っているのニンニクの臭いが! 口なんて地獄よ地獄! 今もこうやっているだけでも罰ゲームだもの!」

「ウホホホホ!」
≪アハハハハ! イヒヒヒヒ!≫
≪シシシシシ! ギャハハハ!≫

 しゃべれない白血球ゴリラも、本田△そっくりの木々も、アタシを見て笑い、バカにした。

(ニンニク卵黄粒にそんな副作用があったなんて……)

 アタシは全身の力が抜けてしまい、ポロポロと涙を流した。

「観念したみたいね! いいわ。苦しまずに殺してあげる! さあおいで!」

 しゃべるゲイ白血球ゴリラがそう言うと、最初に攻撃してきたしゃべれない白血球ゴリラが物凄い勢いで突進し、さっきよりも大きく右の拳を振りかぶった。
 アタシはしゃべるゲイ白血球ゴリラに羽交い絞めにされているから身動き一つとれない状態。
 そんな状態であんなパンチをまともに食らったら……

 死ぬ――

(まあでもいいか。アタシ…… 臭いんだし…… )

「ウッホホーーーー!!」

 白血球ゴリラの渾身のパンチが顔面に当たる瞬間、アタシは死ぬ覚悟を決め、両目を思いっきり閉じた。

 真っ暗な闇が広がる――

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