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○~第1章~○ 精子:テツオ
5射精目! 頭パッカーン
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王様が自己紹介を済ませると、さっきまでの盛り上がりが嘘のように静まり返り、みんな王様の次の一言を聞き逃すまいと集中している様子が見受けられた。
『今日は、SランクDNAを我が王族に付与するための式に、よくぞ集まってくれた。これより! 我が息子でありキンタマーニ王国の王子である金城タマオに、SランクDNAを付与する!』
王様がそう言うと、スポットライトが左にずれ、王子の金城タマオを照らした。
再び盛大な拍手が起きる。
「あいつ、俺たちと同じ歳なんだぜ」
大歓声の中、トモハルが耳元で教えてくれた。
僕はモニター越しに、金城タマオ王子を見つめた。
王子はこの大歓声の中、微動だにせずそのまま突っ立ったままだった。背は王様より少し高いくらいだったが、上下ともグレーのスウェットで、こう言うのもなんだけど、くそダサかった。
カメラが王子の顔をアップに写すと、更に拍手が増した。
が、先ほど同様、王子は微動だにせず口を半開きにしたままだった。よく見ると鼻の両穴から鼻水が垂れており、時々それをベロベロと舐めていた。
「あれは効率の良い塩分摂取方法じゃ」
じいちゃんがそう言ったが絶対違うと思った。
何も話さない王子に痺れを切らした王様が再び口を開く。
『では国民の皆の者にお見せしよう! これがSランクDNAだ!』
そう言うと、台車に乗せられた金色の玉(以下金玉)が王様と王子の元まで運び込まれた。
国民集会広場の精子たちがザワザワとどよめきたった。
カメラが金玉をアップに映す。
金玉は2メートルほどの大きなモノであり、スポットライトを当てずとも、微かに光り輝いている具合だった。
しかし……
「ねえトモ、テッちゃん。あれってDNAなの? あんなのが頭に入るかな?」
ムーも僕と同じ疑問に辿り着いたようだ。
そう。
僕たち精子は生まれた時はDNAを持っていない。射精される前に各ランクのDNAを国から付与されるのだ。
付与される場所は“頭の中”。
思春期になると、自分の意思で頭を開けれるようになる。頭頂部に切れ目があって、そこから真っ二つに開くんだ。
音にすればそうだな…… “パカッ”かな。
※閉じる時に毛が絡まってとても痛い場合がある。
※事故と言っても過言ではない。
頭の中は“酵素”という液体で満たされているんだけど、特に使う場面もないので、洗濯する前に衣類に2,3滴かけて洗濯している。するとすっごく綺麗になるんだ。
だけどじいちゃんは、
「酵素をむやみやたらに使ってはなりゃん!」
そう言って叱ってくるが、酵素はなくなりそうになれば自然とまた増えてくるんだ。
なので、頭をどれだけ頑張って開けたとしても、せいぜい20㎝か25㎝程度なんだけど……
あの金玉は最大で2メートルはある。
それをどうやって王子の頭の中に入れるんだろう。しかもDNAという割にはお菓子の“ひねり揚げ”みたいな形状ではなく、ただの球体だ。
きっと王族にしかできない、何か特別な方法を用いて頭の中に入れるはずだ! うん!
◇◆◇
そう思っていた自分がバカだった。
いや、バカなのはこの国なのかもしれない。
王様が、SランクDNAと称した金玉を紹介してから30分、いや1時間は経過しただろう。
何かあっと驚くような特別な方法で、2メートルもある金玉を頭の中に入れると思っていたが、実際は頭を全開にした王子を兵士数名で横に持ち上げ、グリグリと金玉へ押しつけただけだった。
当然そんなことで頭の中に金玉が入るわけもなく、王子の頭の中の酵素はほとんど垂れ流しの状態だった。
国民集会広場に集まった精子たちも、初めは息を飲み「頑張れ王子ー!」と叫ぶ者もいたが、今はため息を吐いて帰って行っている状態だった。
カメラが再び王子の顔をアップで映し出しだす。
王子は、兵士に持ち上げられながらも未だ微動だにせず、鼻水をペロペロと舐めていたが、よく見ればちょっと泣いていた。
「はあ。王子、なんだかかわいそう……」
「だよな。あれじゃ晒し首だよ……」
トモハルとムーの声が王様に届いたのだろうか、王様が突然怒号を上げ始めた。
『ええいもうよい! もうよいわ! 止めい! なんだこの醜態は! 全然入らぬではないか!』
皆こう思った。
((( そりゃそうだろ )))
『それに! 本当にこれがSランクのDNAなのか!? ただの金玉ではないか!!』
王様がそう言うと、手に持っていた剣で金玉をガンガンと叩き始めた。
兵士たちが慌てて王様の行為を止めようとするが、王様はそれを振り払い、再び剣で金玉を殴り続けた。
僕たちはその一連の流れを、モニターを通して静視していた。※精子だけに
そして……
ヒートアップした王様が剣を思い切り振りかぶり、金玉を切りつけてしまったのだ。観客の何人かが悲鳴を上げる。しかし時すでに遅し……
ガゴンッ!
という大きな音を鳴らし、金玉が真っ二つに割れたのだ。それと同時に輝きも失った。
1000年に一度出るか出ないかと言われているSランクDNA。
付与されると必ず受精できると言われているSランクDNA。そして世界を変えることができる力が与えられると言われているSランクDNA。
それがたった今、バカな王様の手によって真っ二つに割られてしまったのだ。
「お、俺たちも帰ろうか」
「そ、そうね…… なんか残念ね」
トモハルもムーも落ち込んだ様子でその場を後にしようとしていた。
僕も二人と同じ気持ちで、とても残念だった。
「じいちゃんもそろそろ帰ろ。ね。」
しかし、じいちゃんはその場から動こうとせず、ただじっとお城の方を見つめていた。そして泣いていた。
「じいちゃん! 残念なのは分かるけどさ、どうせ白内障で見えてないんでしょ? さ、もう帰ろ」
「…………テツオよ。お前にはあの美しい光が見えんのか」
「え……」
じいちゃんが真直ぐ見つめる先を、慌てて見直す。
「あっ!!」
なんと、真っ二つに割れた金玉がそれぞれ光り出していたのだ。
『お、おい。なんだこれ。光ってる! 光ってるぞおい!』
王様の動揺をもろともせず、その光はだんだんと強さを増し、ついには王国全土を金色の光で満たした。
それはまるで、太陽がもう一つ出現したかのようだった。
そして次の瞬間……
『今日は、SランクDNAを我が王族に付与するための式に、よくぞ集まってくれた。これより! 我が息子でありキンタマーニ王国の王子である金城タマオに、SランクDNAを付与する!』
王様がそう言うと、スポットライトが左にずれ、王子の金城タマオを照らした。
再び盛大な拍手が起きる。
「あいつ、俺たちと同じ歳なんだぜ」
大歓声の中、トモハルが耳元で教えてくれた。
僕はモニター越しに、金城タマオ王子を見つめた。
王子はこの大歓声の中、微動だにせずそのまま突っ立ったままだった。背は王様より少し高いくらいだったが、上下ともグレーのスウェットで、こう言うのもなんだけど、くそダサかった。
カメラが王子の顔をアップに写すと、更に拍手が増した。
が、先ほど同様、王子は微動だにせず口を半開きにしたままだった。よく見ると鼻の両穴から鼻水が垂れており、時々それをベロベロと舐めていた。
「あれは効率の良い塩分摂取方法じゃ」
じいちゃんがそう言ったが絶対違うと思った。
何も話さない王子に痺れを切らした王様が再び口を開く。
『では国民の皆の者にお見せしよう! これがSランクDNAだ!』
そう言うと、台車に乗せられた金色の玉(以下金玉)が王様と王子の元まで運び込まれた。
国民集会広場の精子たちがザワザワとどよめきたった。
カメラが金玉をアップに映す。
金玉は2メートルほどの大きなモノであり、スポットライトを当てずとも、微かに光り輝いている具合だった。
しかし……
「ねえトモ、テッちゃん。あれってDNAなの? あんなのが頭に入るかな?」
ムーも僕と同じ疑問に辿り着いたようだ。
そう。
僕たち精子は生まれた時はDNAを持っていない。射精される前に各ランクのDNAを国から付与されるのだ。
付与される場所は“頭の中”。
思春期になると、自分の意思で頭を開けれるようになる。頭頂部に切れ目があって、そこから真っ二つに開くんだ。
音にすればそうだな…… “パカッ”かな。
※閉じる時に毛が絡まってとても痛い場合がある。
※事故と言っても過言ではない。
頭の中は“酵素”という液体で満たされているんだけど、特に使う場面もないので、洗濯する前に衣類に2,3滴かけて洗濯している。するとすっごく綺麗になるんだ。
だけどじいちゃんは、
「酵素をむやみやたらに使ってはなりゃん!」
そう言って叱ってくるが、酵素はなくなりそうになれば自然とまた増えてくるんだ。
なので、頭をどれだけ頑張って開けたとしても、せいぜい20㎝か25㎝程度なんだけど……
あの金玉は最大で2メートルはある。
それをどうやって王子の頭の中に入れるんだろう。しかもDNAという割にはお菓子の“ひねり揚げ”みたいな形状ではなく、ただの球体だ。
きっと王族にしかできない、何か特別な方法を用いて頭の中に入れるはずだ! うん!
◇◆◇
そう思っていた自分がバカだった。
いや、バカなのはこの国なのかもしれない。
王様が、SランクDNAと称した金玉を紹介してから30分、いや1時間は経過しただろう。
何かあっと驚くような特別な方法で、2メートルもある金玉を頭の中に入れると思っていたが、実際は頭を全開にした王子を兵士数名で横に持ち上げ、グリグリと金玉へ押しつけただけだった。
当然そんなことで頭の中に金玉が入るわけもなく、王子の頭の中の酵素はほとんど垂れ流しの状態だった。
国民集会広場に集まった精子たちも、初めは息を飲み「頑張れ王子ー!」と叫ぶ者もいたが、今はため息を吐いて帰って行っている状態だった。
カメラが再び王子の顔をアップで映し出しだす。
王子は、兵士に持ち上げられながらも未だ微動だにせず、鼻水をペロペロと舐めていたが、よく見ればちょっと泣いていた。
「はあ。王子、なんだかかわいそう……」
「だよな。あれじゃ晒し首だよ……」
トモハルとムーの声が王様に届いたのだろうか、王様が突然怒号を上げ始めた。
『ええいもうよい! もうよいわ! 止めい! なんだこの醜態は! 全然入らぬではないか!』
皆こう思った。
((( そりゃそうだろ )))
『それに! 本当にこれがSランクのDNAなのか!? ただの金玉ではないか!!』
王様がそう言うと、手に持っていた剣で金玉をガンガンと叩き始めた。
兵士たちが慌てて王様の行為を止めようとするが、王様はそれを振り払い、再び剣で金玉を殴り続けた。
僕たちはその一連の流れを、モニターを通して静視していた。※精子だけに
そして……
ヒートアップした王様が剣を思い切り振りかぶり、金玉を切りつけてしまったのだ。観客の何人かが悲鳴を上げる。しかし時すでに遅し……
ガゴンッ!
という大きな音を鳴らし、金玉が真っ二つに割れたのだ。それと同時に輝きも失った。
1000年に一度出るか出ないかと言われているSランクDNA。
付与されると必ず受精できると言われているSランクDNA。そして世界を変えることができる力が与えられると言われているSランクDNA。
それがたった今、バカな王様の手によって真っ二つに割られてしまったのだ。
「お、俺たちも帰ろうか」
「そ、そうね…… なんか残念ね」
トモハルもムーも落ち込んだ様子でその場を後にしようとしていた。
僕も二人と同じ気持ちで、とても残念だった。
「じいちゃんもそろそろ帰ろ。ね。」
しかし、じいちゃんはその場から動こうとせず、ただじっとお城の方を見つめていた。そして泣いていた。
「じいちゃん! 残念なのは分かるけどさ、どうせ白内障で見えてないんでしょ? さ、もう帰ろ」
「…………テツオよ。お前にはあの美しい光が見えんのか」
「え……」
じいちゃんが真直ぐ見つめる先を、慌てて見直す。
「あっ!!」
なんと、真っ二つに割れた金玉がそれぞれ光り出していたのだ。
『お、おい。なんだこれ。光ってる! 光ってるぞおい!』
王様の動揺をもろともせず、その光はだんだんと強さを増し、ついには王国全土を金色の光で満たした。
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そして次の瞬間……
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