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悪夢とバク

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  夜の静けさが広がる中、煌めく星々が空いっぱいに散りばめられている。深い夜の闇に包まれた静かな町の一角に、小さな家がひっそりと佇んでいた。その家の一室で、眠りについた少年は、ひどい悪夢にうなされていた。

  彼の名は阿久津 メザメ。ごく普通の高校生であり、明るく活発な性格で学校でもそのように振舞っていた。しかし、そんな彼には心に影を落とす秘密があった。彼は幼い頃から、悪夢に苦しめられることが多いという特性を持っていたのだ。何度も同じ悪夢にうなされ、そのたびに汗だくで目を覚ます日々が続いていた。

  悪夢の中では、彼を苛む怪物が現れる。その怪物は夢に潜む悪夢の守護者であり、人々の恐れや不安から生まれた存在だった。彼らは夢魔(むま)と呼ばれ、悪夢の世界を支配し、その力で人々の精神を喰らうとされていた。

  メザメはいつも同じくらいの時刻に同じ悪夢に襲われる。その夢の中で、彼は逃げることもできず、怪物の鋭い爪に襲われる恐怖に苛まれるのだ。この恐ろしい悪夢から逃れる方法を見つけるために、彼は日々、さまざまな方法を試みてきた。しかし、どれも効果がなく、彼の睡眠時間はますます不安定になっていた。
 
「あ゛~、マジで眠い。」
「メザメって最近いっつも寝れてないじゃん。不眠症なの?」
「不眠症ってか、夢見が悪いだけっていうか…。いちおう病院で眠剤もらってんだけどそれでも夢見ちゃうんだよな。」
「それってどんな夢?」
 
 
「毎回自分が殺される夢」
 
 
 教室には彼らの会話をひっそりと盗み聞きする人物がいた。

 高い額には深くくっきりとした眉があり、鼻筋はすっと通っていて、口元は柔らかい輪郭を持っていたが、長い前髪でその全てを隠し、地味で目立たない人物。整った顔立ち以外に唯一目を引くものがあるとすればその耳から下げている鎖付きの十字架ピアスだが、それも長い髪に隠れているため、周りの人間は誰も彼の存在に気づかなかった。







  今夜もメザメは、同じ悪夢に囚われていた。暗闇の中で、彼の心臓は激しく鼓動し、汗が額に滲んでいた。悪夢の中で彼は必死に逃げようとするが、その怪物の追跡は容赦なく、彼を追い詰めていく。


  怪物の爪が彼の肌に食い込み、血を流す。その激痛と恐怖に耐えきれず、メザメは絶叫する。そして殺される……前に始まるのだ、友人には口が裂けても言えなかった恒例行事。

  メザメはこれからこの怪物によってレイプされる。


 「や゛め゛てぇ゛ええ゛!!!抜いてッ、抜い、てぇ゛!!!あ゛あ゛あ゛!!!」


  固く閉じた蕾をメリメリメリ…とこじ開け、怪物の直径10cmはあろうかという極太ペニスがメザメを容赦なく貫く。夢魔のペニスは硬く、太く、そして長い。その凶器がメザメの小さな穴を無理やりに押し広げながら奥へと進み続ける。結腸の壁をドンドンと叩き潰し、さらに奥へと押し込まれる度にメザメは悲鳴を上げる。バックで挿れられているのに、メザメの両足は地面から遠く離れているがために、ほとんど駅弁状態で内臓を押し上げられ、吐き気が込み上げてくるがそれを必死に耐えて耐えるしかない。腹は怪物のペニスの形にぽっこりと膨らんでいた。

 「はあ゛ん!!やだああ゛!!も、抜いてぇ゛おねがい、だから゛ああ!!」

  どれだけ泣き叫んでも怪物はピストン運動を辞めない。メザメのアナルからは血と精液が混じり合った液体が漏れ出てくる。それでもお構いなしに、怪物は激しく腰を打ちつけ、さらに奥へと挿入していく。

ズンッッ!ずぶぶぶ……ズチュン!!パンッ、パァン!!グチュ、ドチュッ!!!

 激しい抽挿を繰り返すうちに、怪物のペニスは限界を迎えようとしていた。メザメの腹に熱いものが注ぎ込まれる。そしてそのまま射精しながらピストン運動を加速させていくのだ。

ビュルルルルルッ!!ビュルルルッ、ドプドプ……
ズブッ、グチュグチュッ!パンパンパンッ!!

 射精しながらも怪物の腰の動きは止まらない。それどころかさらに激しくなっていく。メザメは涙を流しながら必死に耐え続けるしかなかった。

 「は゛ひっ、ゴホゴホッ、げほッ、も゛むり゛だから、やめ、やめて、やえ゛でください゛」

ズパン!ズパン!ズパン!ズパン!ズパン!

 ほとんど凶器と言っても差し支えない怪物のイボ付き極太ペニスがメザメのアナルを何度も行き来する。腸壁を擦り上げ、結腸弁をこじ開けながら奥へと入り込んでいく。腸内で大量の精液が逆流し、腹は破裂しそうなほどに膨らんでいた。それでもなお怪物は動きを止めようとはしない。メザメの体をいとも簡単に持ち上げると今度は挿入する角度を変えて再びピストンを始める。ペニスがさらに深く入り込んでくる圧迫感に思わず悲鳴を上げる。
 そしてもう何度目か分からない射精を受け入れる。メザメは白目を剥き、口から泡を吹いていた。
  怪物の射精は止まらない。それどころかさらに勢いを増し、そしてついに……


ドプッ、ビュルルルッ!!ビュクビュクッ……ドプドプドプッ……ゴポォオオッ!! 

 大量の精液が注ぎ込まれると同時に、メザメの腹は妊婦のように膨れ上がり、アナルからは入り切らなかった白濁液が溢れ出していた。しかし、それでもなお怪物はピストン運動をやめはしない。


ズパンッ!!ズパンッ!!ズパンッ!!ズパンッ!!ズパンッ!!ズパンッ!!ズパンッ!!ズパンッ!!ズパンッ!!

 容赦ない責めにメザメはひたすらに悲鳴を上げ続けるしかなかった。その地獄のような時間は永遠に続くかと思われたが、突然怪物の動きが止まる。メザメの中にたっぷり中出しした怪物は満足げに自身の肉棒を引き抜いた。ごぽぉっと音を立ててアナルから精液が流れ出る。ぽっかりと開いた穴からはまだ熱いものが溢れ出ていた。ようやく終わった……そう思ったのも束の間だった。

  なぜなら怪物はもう一度挿入を再開させたから。射精してもなお萎えることなくメザメを犯し続けた。何度も絶頂を迎え、何度も中出しされた。それでも怪物の陰茎は衰えることがなかった。


 ようやく解放された時、メザメの腹はありえないくらいに膨らんでいた。怪物のモノが出て行くと同時に、秘部からは大量の精液が流れ出す。そしてそれだけでなく腸液と血液が入り混じった液体が地面に広がる。そのあまりの惨状に、彼はただ呆然とすることしかできなかった。そうして抱き潰され身動きも取れないほど消耗させられた後、メザメは生きたまま食われるのがお決まりだった。
 
 しかし、この夜はいつもと違った。悪夢の中で、メザメは突然、周りの時が停止したことに気づく。化け物に無残に食われる2秒前で世界が止まった暗闇の中、彼の目の前に浮かび上がったのは、不思議な生き物だった。その生き物は黒と灰色の体毛に覆われ、小さな蹄で空を舞うように飛んでいた。その姿はまるで空を飛ぶ黒い豚のようだった。
 

 は?

 
 一瞬目が点になった。まさに荒唐無稽な夢に出てくるような存在で、メザメは痛みも忘れ、思わずあんぐりと口が開くのを止められなかった。

 「君が困っているのを見つけた。大丈夫かい?」
 
 空から地面へと優雅に降り立った生き物がメザメに声をかけた。

  メザメは驚きと不安に包まれながらも、「これは俺の夢だから」とその生き物の存在を受け入れた。彼はなぜかこの生き物が自分を助けてくれると信じていた。

  「君は?」とメザメが尋ねると、その生き物は微笑みながら答えた。「僕はタベル。君の夢の守護者だ。悪夢を食べるバクだよ。」

  彼の名前を知り、夢の守護者であることを知ったメザメは、胸の内に驚きと安心の気持ちが混ざり合った。

  「どうしてここにいるの?」とメザメが問うと、タベルは深い青い瞳を輝かせながら語り始めた。

 「君の心に不安や恐れがある時に、僕たちは現れるんだ。君が悪夢に苦しんでいるのを見かけたから、僕は助けに来たんだよ。」

  タベルの言葉に、メザメは少し安心した。彼は初めて自分の心の内側に守護者がいることを知り、それが彼の不安や恐れを和らげることになると信じた。

  「じゃあ、どうすればいいの?」とメザメが尋ねると、タベルは微笑みながら言った。「君の心の中に入って、悪夢の大元を追い払うんだ。君と一緒に、その怪物の根源と戦おう。」

  メザメはタベルの提案に心を打たれた。彼はこれまで一人で悪夢と戦ってきたが、今は自分を助けてくれる仲間がいる。彼は決意を固め、タベルと共に悪夢との戦いに挑むことを決めた。
 
 そして、メザメの夢の中で、新たな戦いの幕が上がった。

  「ありがとう、タベル。一緒に戦おう。でも、どうすればいいの?」とメザメが言うと、タベルも微笑みながら彼の足元に寄り添った。

  「まずは準備を整えよう。」そう言ったバクはその蹄でどうやったのか、パチンと指を鳴らして、化け物がいる暗闇に覆われた空間に代わり、辺りを温かい光でほんのりと照らす落ち着ける空間とシャワーを出現させた。いつの間にか怪物に付けられた傷はふさがっていて、バクの促すままに体を綺麗にした。

  「どうやって僕の所まで来たの?」質問をして、メザメはタベルの言葉に耳を傾けた。「バクは不安や恐れのにおいをたどることができるんだ」とタベルが言う。

 「つまり、僕が不安や恐れを感じていると、バクがそれを嗅ぎつけて、助けに来るってこと?」メザメは理解した。

 「そう。君たち人間の心の内側に潜む悪夢を食べるために、僕たちは常に嗅ぎまわっているんだ。」とタベルが説明する。

  メザメは少し安心した。自分の心の内側に、彼を守る存在がいることを知ることで、不安や恐れは少し和らいだ。彼は自分が一人ではないことを知り、新たな希望を見出した。感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。思わずその豚によく似た温かい体をぎゅっと抱きしめた。

  「ありがとう、タベル。君がそばにいてくれると、心強いな」とメザメは言った。

  タベルは微笑んで頷き、そして言葉を続けた。「しかし、バクが不安や恐れを食べるためには、君がそれらの感情と向き合う必要がある。君の内側で悪夢が育つのを防ぐためにも、それらの感情に正面から向き合い、克服していくことが重要なんだ。」

  メザメは真剣な表情でタベルの言葉を受け止めた。彼は自分自身の内なる戦いに立ち向かう覚悟を固めた。彼がバクに守られることを知りながらも、彼自身も自らの心の闇と向き合わなければならないということを理解した。
 
「キミの夢への道順は覚えた。次回以降も迷わず来れる。明日に備えて今日はゆっくりお休み。」
 
 バクはメザメを安心させるように言う。シャワーで汚れを綺麗にしたあとで温かい体に抱きついているとだんだんと瞼が重くなってくる。こんなに安心できる入眠は久しぶりだと思いながら、感謝の印にチュッと彼のおでこにキスを落とした。盛大に照れるバクをよそに、メザメは久方ぶりの安眠へと旅立ったのだった。
 
 
     ▽
 
 
 メザメは父子家庭で育った。子育てするつもりなど毛頭ないくせに、母への嫌がらせとして親権を主張し、家庭裁判所の裁判官に泣いて縋ってメザメを引き取った。それはメザメが大好きだった母との別れを意味していた。
 殴る蹴るの暴力・暴言は当たり前、食事も掃除も身の回りのことは全てまだ子供だったメザメが負担させられた。ただ、お金を充分に渡されなかったため、メザメは学校の給食で主に栄養補給をしていた。

 そんなメザメが中学生になった時、父親は待っていましたと言わんばかりに彼に対して性的な虐待を始めた。下着を剥ぎ取って性器を弄んだり、寝ている間に布団に忍び込みケツ穴に指を入れたりして遊ぶようになった。その後すぐに性器を挿入され、メザメはあっけなく処女を奪われた。未発達の体に大人のグロテスクなイチモツがめり込む。痛かったし気持ち悪かった。すごく嫌だったし、逃げ出したかった。
 抵抗すれば容赦なく殴りつけるくせに、こちらが大人しくして受け入れる素振りを見せると途端に機嫌がよくなる。相手にするのはとても不愉快極まりなかったが、この父親の機嫌を取るのは大変難しかった。だからメザメは父親の暴力にじっと耐えるしかなかった。

 それゆえ彼は思春期から青年期にかけて非常に不安定な精神状態にあり、それがあの悪夢へと繋がっていた。成長するにつれ自分の家庭が異常であることに気づいた彼は、健康保険証など必要なものだけを持って着の身着のまま家出を実行し、現在は母方の親戚の家に身を寄せている。
 安全な住処を得た。しかし、メザメが実父から受けた傷は深かった。その精神の不安定さと繊細さから夢と現実の区別が曖昧になっていき、睡眠時に見る夢の内容が次第によりリアルに、まるで現実であるかのように錯覚するようになってきていた。最初は曖昧で後味の悪い単なる悪夢だったものが、徐々に得体の知れない怪物に追われる夢へと変容していったのだった。

 バクと別れた次の日の夜、夢の中に入るとそこは学校の教室で、待ち遠しく思っていた動物がとある席に座ってすでにメザメのことを待っていた。
「やあ、メザメ。あれからよく眠れたかい?」とバクが言う。
「ああ、おかげ様で。」と頷く。昨日あった恐怖が嘘のように穏やかな気分だった。

「ちゃんと寝られたようだね、よかった。」

タベルは嬉しそうに笑った。その笑顔につられてメザメも微笑む。
ただ、メザメは少し不安を感じていた。バグが昨晩言っていた内容についてだ。

「感情に正面から向き合い、克服するってどういうこと?それをすれば俺はもう悪夢を見なくて済むの?」
「そうだね。そのためにもまずは君が今一番不安に思っていることを教えてほしい」
「俺の一番の不安?」メザメは少し考えた後、口を開いた。
「また、アイツに、『父親』って呼ぶのもおぞましい奴に、いつか出くわすんじゃないかってこと…。」

 想像して恐怖を感じたのだろう、メザメはぶるっと体を揺らしその目に涙が浮かんだが、タベルは彼のことを励ました。「大丈夫、心配しないで。僕がついている。君の悪夢を僕が全部食べるから。」
 その言葉に安心し、メザメはほんの少しだけ心が軽くなった気がした。

 その時だった。う゛~と唸るような低く響く不気味な音が一人と一匹の耳をつんざいた。メザメはその不気味な音に耳を傾けて、昨晩聞いた化け物の咆哮に似ていると思った。バグもその異変に気づき辺りを見回す。メザメの夢の世界は茜刺す教室から一変し、真っ黒な暗がりへとシーンが転換する。すると、暗闇の彼方からズシンという音と共に近づいてくる何者かの気配を感じ取った。
 メザメは身構えて攻撃態勢を取る。しかしバクは首を横に振った、「落ち着いて。昨晩のように時を止めて逃げることもできる。だけど今日、それはしない。『あいつなんか大したことはない』と、向き合わなきゃいけないんだ。」と。

 メザメは驚いた様子だったが、早鐘のように脈打つ心臓を抑え、深呼吸をして再び地面に腰を落ち着けた。「恐怖に囚われないで。ありのままの『彼』を、ただ見るんだ。」、バグの言葉を聞き漏らすまいとメザメは耳に全神経を集中させた。

 そしてついに怪物が姿を現した。暗闇の中から出現したのは、巨大な黒くて太い芋虫のような物体で、胴体からは鋭い爪を持った手が何十本も生え、頭部は人面のようだが醜く歪んでいるせいで元の顔がどんなだったかも分からなくなっていた。
 そう、昨晩、いやこの数か月は毎晩、メザメが見た化け物と全く同じ姿形をしていた。しかし、今日はその大きさは桁違いだった。

 メザメの身長の三倍はあるだろう巨体に、豚のような鼻、鋭い牙を持つその姿はまさに怪物と呼ぶにふさわしいものだった。その巨大な黒いウジ虫はメザメの姿を見つけるなり襲いかかってきた。 バクは素早く動き出し、その黒い豚に飛びかかった。だが、その攻撃はいとも簡単に避けられてしまった!バクが自慢の蹄で黒い物体を攻撃すると、なんと怪物の体には傷一つ付かなかった。

 「食べてくれるんじゃなかったのかよ!」とメザメは茫然としていた。しかし、「まだ食べられないんだ。これはキミの恐怖の根源の『本当の姿』じゃないから。」とバグは言う。

 立ち尽くすメザメに、なんとその黒い怪物は容赦なく襲いかかってきた! バクはメザメを傷つけさせまいと必死に応戦するが、やはり全く歯が立たない様子だった。怪物に何度も何度も地面に叩きつけられ、鋭い爪で傷つけられては、それでも諦めずに立ち向かって行く。傷を追ったことで力が弱まりバグの姿を保てなくなったのか、よく見ると、バグは人間の姿になっていた。それでもめげない。立ち向って行く。

 そんなバグの様子にメザメは泣きそうになった。おかしいだろ。何で俺のためにそこまでできるんだよ。なんで、なんで。

 そうしてもう何度目のことか、バグが床に吹き飛ばされた時、バグはもう立ち上がる体力がない様子で、それでもふらつく足で化け物に立ち向かおうとする。メザメはその姿に心を押し潰されそうになった。同時にほんの少しの勇気を貰えた。メザメは恐怖に怯えながらも、バクを助けようと立ち上がった! 

「タベル!……もう逃げない。俺も戦うよ!」

 メザメはそう叫ぶと、黒い怪物に向かっていった。しかし、どういうわけか、どれだけ拳を放てども攻撃は当たらない。

「くそっ!なんで当たらないんだよ!!」

 メザメが悪態をつくと、突然頭の中に声が響いた。

「落ち着いて、深呼吸するんだ!そいつの本当の、あるがままの姿を見ようとするんだ。」

 それはバグの声だった。メザメはその声に従い、もう一度深呼吸した。すると不思議と気持ちが落ち着いた気がした。するとどうだろう。ウジ虫の巨体はいつの間にかサイズダウンしており、今では人間と同じくらいの大きさだった。今度は上手くいったようで、メザメの攻撃がようやくヒットしたのだ!その黒い物体はメザメの攻撃に怯み、一瞬動きが止まった。その隙を逃さず、メザメは連続で攻撃を仕掛けていった。夢の中だからだろうか、手にはいつの間にか剣が握られていた。そして、あの時言えなかった言葉を叩きつける。

「俺はもう『あんた』に支配されない!いつまでも未練がましく夢に出て来んな!俺はあんたが大っ嫌いだ!!」

 攻撃が当たるたび怪物の体に傷が増えていく。そしてついに、メザメの剣がその巨体を貫き致命傷を与えた! その瞬間、黒い虫は断末魔のような叫び声を上げながら、その表皮が剥がれ落ちていった。後に残ったのはしみったれた、惨めで醜い中年の男、そしてその男も後ろからやって来たバグ(ちゃんとバグの姿に戻っていた)によって丸のみされ、消滅した。なんだ、こんなに簡単だったのか。こんなものだったのか。大きくて、怖くて、強いと思っていた『怪物』は、こんなにも小さく、弱く、惨めな、ただの人間だったのだ。

  メザメは驚きと喜びで胸がいっぱいになった。自分はようやく呪縛から解放されたのだ。
 バクも嬉しそうに飛び跳ねた。
 一人と一匹は勝利を祝うようにハイタッチをした。




 バクは勝利したメザメを歓迎してくれたのだが、その前に一つ、言わなければならないことがあった。

「ねえタベル……俺分かんないんだ……。」

「何をだい?」バクはニコニコしながらそう聞き返す。

「タベルがどうして俺のためにここまでしてくれるのかって。」

 バクはメザメの言葉に一瞬驚いたような顔をした後、「それはね……。」と少し間をおいて言った。そして、「キミが昔、僕を助けてくれたからだよ。」と、いつもの調子で答えたのだった。

「え?」

「実は僕らは初対面じゃないんだ。ほら、メザメの夢の中で初めて会った時のこと!キミが僕のことを『友達』だって言ってくれたから。僕にとっては初めての友達だった。僕ってほら、すこし変わってるでしょ。小さいときはイジメられてたから、その言葉にどれだけ救われたか。だから今度は僕が君を助けたかったんだ。」

 バクはコンコンと蹄で地面を叩き、嬉しそうに笑って言った。

 「それだけで?」と聞くとバクは少し頰を赤くして言った。

「『それだけ』?ううん、それだけなんかじゃないよ!僕にとってはとっても重要なことだったんだ。今も、僕は本当にメザメのことを大切な友人だと思ってる。」

 バクの言葉に、今度はメザメが恥ずかしそうに「ありがとう。」と言ったのだった。

「……あ、そういえば夢での傷って現実世界では影響ないんだよね?その、…俺のせいで、ごめん。」

 メザメは自分のためにたくさんの傷を負ったバグの姿を見て、心が痛んだ。

「うん、そうだよ。目覚めれば傷は元通り。だから安心してね。」とバクは答える。

「そっか……。」メザメは少し安心したように息を吐いた。そして、「じゃあさ……その……タベルに触っても大丈夫……?」と聞いた。
「え?う~ん……。」珍しくバグは渋った。
「やっぱりダメ?」とメザメが聞くと、
「ちょっと、今は力がなくて。この姿を保っていられるのがやっとなんだ。だから、触られると、自信ない。どんなことになっても驚かないでくれる?」とバクは返事をしたので、
「うん、約束する。」とメザメはバグの蹄と指切りを交わした。

 そして恐る恐る手を伸ばすとバグの体に、痛々しいその傷に触れた。するとその体は光の粒子となって消えていった!そして代わりに現れたのは……。

 「え?これってもしかして……」メザメの目の前にあったものは、『人間』の姿になったバクだった。長い前髪を上げ、傷と痣だらけの、端正な顔立ち。
 「……どう?驚いた?」バクは心配そうな、気弱な笑顔で言った。
 「うん……すごく……。でも、俺はその姿のタベルも好きだよ。」メザメがそう呟くとバクは嬉しそうに笑った。

 そうして、夢の世界からメザメの意識は現実世界へと引き戻されていった。



 夢の中、バクはメザメと共に敵を倒した後、教室に戻って来ていた。現実世界で起きる準備をするために意識を失ったメザメの、その精神状態が安定していることを確認した。

 そして、彼は言った。「おやすみ、メザメ。良い夢を。」

 メザメは自らの不安の根源に向き合ったことで、自分自身と和解することができたのだ。もう彼が不安な夢を見て苦しむことはなくなるだろう。
 バクはメザメが穏やかな顔で眠り、教室からゆっくりと消えていくのを見届け、そして自身もまた夢の世界から立ち去ろうとし、はたと耳元に手をやり、うっかりしていたことを思い出した。

「しまった。剣をメザメに渡したままだった。」

     ▽

「夢野、これ。」

 始業前のざわざわと騒がしい教室の中、メザメはそう言って目立たないように机に突っ伏して寝たフリを決め込んでいる人物に鋭い十字架のような鎖付きのピアスを差し出した。

 「あ、ああ。」メザメの突然の訪問に驚いて飛び起きた夢野は、動揺を隠せず耳に手をあててピアスを受け取った。

「あのさ、俺……その……」メザメが何か言いかけると夢野は言葉を遮るように言った。

「あーー!分かった!キミの言いたいことは分かってるから何も言うな!」

 そしてまた机に突っ伏してしまった。メザメはその態度に少しムッとする。

「……何だよ、人が折角感謝しようと思ったのに……。」
「しー!だから分かってるって!キミの夢に出てきた怪物のことだろ!?」

 夢野が声をひそめてそう叫ぶと、メザメは少し怯んだが、夢野の言葉にコクリと小さく頷いた。

「……そうだよ。」
「やっぱり。……まあその、なんだ。僕は何も見ていないから。何も気にすることはない。」

 そう言って夢野はメザメから顔を背けた。しかし耳まで赤くなっており、明らかに照れている様子だった。彼なりに、夢の中であられもない姿になって怪物に散々犯されていたメザメに気を遣ってくれたのだろうが、きっと高校生には刺激が強かったのだろう。そんな様子にメザメは思わず「ぷはっ!」と吹き出して笑った。夢野は「笑うなよ!僕は真剣なのに。」と言って怒ったが、その表情はとても穏やかだった。

 担任が入室し、朝のホームルームが始まろうとする。メザメの顔にはもう怯えはなかった。

「今日も俺の夢に来て欲しいんだ。話したいことがたくさんあるから。いい?勇敢なバグさん?」

 そう言ってメザメは自席に戻って行った。メザメに話しかけられた人物――夢野タベルが耳まで真っ赤になったことにも気付かずに。
 
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