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この花びらをキミに
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* * *
恋とはどんなものかしら? それは、苦くて甘いものよ。
恋をすると、胸がキュンとして苦しくなるの。
そしてね、その人のことを想うと夜も眠れなくなるのよ?恋人といると時間があっという間に過ぎてしまうのよ。ずっと隣にいたくて、ずっと一緒にいたくてたまらなくなるの。そしてね、その人が笑うと私も笑顔になれるし、泣くと私も泣きたくなるのよ。
あら、貴方はまだ恋をしたことないのね。それはいけないわ。今すぐに好きな人を作って、そして私に教えてちょうだいな? うふふ、花言葉って知ってる?好きなお花はなあに? 恋人にどんなものを送りたいかしら? そう考えて悩むのってきっと、楽しくて嬉しいものよ。
* * *
暖かくなってきたとはいえ、まだ寒さが残る、三月。
卒業の季節だ。
「先輩、卒業式の日。第二ボタンオレにくれますよね。」
陸上部の後輩である湊 灯(ミナト アカル)がそれがさも当たり前かのようにのたまう。
その自信はいったいどこから来るんだ、と思わず心の中でツッコむ。
「やらねーよ。制服後輩にあげるんだからボタンなかったら困るじゃん。」
母親同士のネットワークにより、この制服は会ったこともないどこかの誰かの元へと渡る予定だ。一式そろえるのに10万円以上かかるのだ。俺が制服を準備するときもそうで、どこの誰とも知らない人から譲り受けた。親切の恩返しと言ったところか。
「大丈夫ですよ、制服屋さんにボタンだけ売ってますから。」とアカルは言うが、母親に怒られるのは目に見えてる。
「は~~~!アジさんから制服貰えるとかソイツ幸せ過ぎな~~~?マジで嫉妬する。むしろオレがもらいたいくらいなんですけど。」
「身長合ってないからお前は着れんだろ。今何センチ?」
「190ちょいくらい?着れはしませんけどコレクションとして欲しいんです。思いっきり吸いたい。」
「マジでやめろ。」
こいつは変態くさいところがある。ちょっとどころかかなり。背筋にゾゾゾ~っと鳥肌が立ったところでピピ!と休憩終了のタイマーが鳴る。これからダウンをして今日の部活は解散だ。
「来月から先輩いなくなるのなんて信じられません。」
「来月どころか今週末の卒業式終わったらすぐ東京だわ。」
「え゛?!そんな早いんですか?!」
「大学の練習参加する予定だから。部屋ももう見つけてる。」
「……そうなんですね。」
図体はデカいくせにしゅーーーんとしょぼくれる姿はまるで子犬のよう。
「お前ってほんと寂しがり屋だよな。」
「当たり前じゃないですか。俺にとってアジさんは特別なんです!」
「………………あっそうデスカ。」
そう言われると何だか顔が熱くなって胸の辺りがムズムズする。
アカルは、俺の小学生の頃の初恋の相手だ。小学生の陸上記録会の時だった。俺が六年生で、アカルが五年。あの時はこいつだって俺よりも小さくて髪も長かった。だから女の子だと勘違いした。落ち込んでいる俺に唯一声をかけてくれた女の子(実際は男だったが)。その子から『元気になるおまじない』と称して額にキスなんてされてみろ、誰だって惚れる。俺も例にもれず惚れた。それなのにまさかあの可憐な女の子(男)が高校生になってこんなゴツイ大男になってるなんて聞いてない。
それまで学校が別々だったから接点などないに等しかったが、高校生になって同じ部活に所属してからよく話すようになった。
俺はコミュニケーションがド下手クソで、アカルは上手い。本来なら絡む要素なんてまるでないはずなのに、陸上のこととなるとなぜかウマが合った。
一体こんな俺のどこに惚れたのか、ある日「アジさんが好きです。」と堂々と宣言し、そして始まるアカルからの猛アタック。最初は嫌だとかやめろとか拒否していたのに、だんだんそれも面倒くさくなってツッコむのを辞め、……そうしていつの間にか、俺からもアカルのことを好きになってしまっていた。
でもこの思いを伝えちゃいけないとは分かっているし、端から伝える気もない。
なぜなら俺はもうすぐ卒業するからだ。
アカルもきっとこれから先『憧れの選手に対する気持ちと恋愛感情をはき違えていた』ことに気付くに違いない。そうなったら俺もこの密かな恋心を捨てようと思う。
だからせめて思い出だけでも……なんて女々しいことを考えてしまったのだ。そんなだから卒業式で、卒業証書を授与されたあとに第二ボタンはアカルにあげた。
アカルは号泣した。
でも嬉しかった。これで思い残すことなく東京に行くことができる。
そう思ったのにまさかこんなことになるなんて誰が想像しただろうか…。
「アジさん、最後にキス、して下さい。」
式が閉幕し、陸上部のお別れの挨拶でアカルから真っ白なハナミズキの花も貰って、残っているのは少人数の人たちだけ。
人気のなくなった廊下の端っこで俺に抱き着いているアカル。今、俺は後輩であるヤツに膝で股を割られ逃げられないように壁ドンされている状態である。
こいつにはもう何度もキスをしている。もちろんその場の成り行きで。それは恋人としてではないし、キスと言っても頬っぺたに軽くしただけだ。
でも今日は違う。
俺は明日、東京へ行くのだ。だから最後にもう一度……とお願いをされた。
遠くの方でクラスの陽キャたちがワーワーと騒ぐ声がうるさいが、俺にとってはそんなことどうでもよかった。
ただ俺は、こいつの真剣な眼差しに捕らわれて視線をそらすことができないでいる。
アカルの端正な形の唇が上から降って来てそのまま吸い込まれるようにキスをした。
羽が触れるような軽いバードキス。それを何度か繰り返して、ゆっくりと舌が入り込んで来る。
「んっ、……ふ、…ふぁ……ぁ」
ちゅくちゅくといやらしい水音と自分の嬌声が廊下に響いて恥ずかしさに涙の溜まった目をぎゅっとつむる。
唇を離すとアカルは嬉しそうに笑った。
そして俺の耳元で囁くようにこう言ったのだ。
……大好きです、アジさん……と。
俺の心臓は締め付けられるようにギュッと痛み、鼻の奥がツンとした。
卒業式が終わり、東京へ出発する日がやって来た。
荷物は先に送ってあるから、今俺が持っているのはキャリーバッグ一つ。
見送りはいらないと言ったのに、アカルと陸上部の友達が来てくれた。
そしてアカルは誰に言われるでもなくスムーズに俺のキャリーバッグを持ち、持っていない方の手で俺を握りしめて離そうとはしない。
何だかくすぐったい気持ちになるが、決して悪い気はしなかった。
だって俺もこいつのことが好きだから。でもそれは言ってはいけない言葉。
だから俺はせめて、繋がれたその手を、そっと握り返した。
ハナミズキの花言葉:「私の愛を受け止めて」
恋とはどんなものかしら? それは、苦くて甘いものよ。
恋をすると、胸がキュンとして苦しくなるの。
そしてね、その人のことを想うと夜も眠れなくなるのよ?恋人といると時間があっという間に過ぎてしまうのよ。ずっと隣にいたくて、ずっと一緒にいたくてたまらなくなるの。そしてね、その人が笑うと私も笑顔になれるし、泣くと私も泣きたくなるのよ。
あら、貴方はまだ恋をしたことないのね。それはいけないわ。今すぐに好きな人を作って、そして私に教えてちょうだいな? うふふ、花言葉って知ってる?好きなお花はなあに? 恋人にどんなものを送りたいかしら? そう考えて悩むのってきっと、楽しくて嬉しいものよ。
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暖かくなってきたとはいえ、まだ寒さが残る、三月。
卒業の季節だ。
「先輩、卒業式の日。第二ボタンオレにくれますよね。」
陸上部の後輩である湊 灯(ミナト アカル)がそれがさも当たり前かのようにのたまう。
その自信はいったいどこから来るんだ、と思わず心の中でツッコむ。
「やらねーよ。制服後輩にあげるんだからボタンなかったら困るじゃん。」
母親同士のネットワークにより、この制服は会ったこともないどこかの誰かの元へと渡る予定だ。一式そろえるのに10万円以上かかるのだ。俺が制服を準備するときもそうで、どこの誰とも知らない人から譲り受けた。親切の恩返しと言ったところか。
「大丈夫ですよ、制服屋さんにボタンだけ売ってますから。」とアカルは言うが、母親に怒られるのは目に見えてる。
「は~~~!アジさんから制服貰えるとかソイツ幸せ過ぎな~~~?マジで嫉妬する。むしろオレがもらいたいくらいなんですけど。」
「身長合ってないからお前は着れんだろ。今何センチ?」
「190ちょいくらい?着れはしませんけどコレクションとして欲しいんです。思いっきり吸いたい。」
「マジでやめろ。」
こいつは変態くさいところがある。ちょっとどころかかなり。背筋にゾゾゾ~っと鳥肌が立ったところでピピ!と休憩終了のタイマーが鳴る。これからダウンをして今日の部活は解散だ。
「来月から先輩いなくなるのなんて信じられません。」
「来月どころか今週末の卒業式終わったらすぐ東京だわ。」
「え゛?!そんな早いんですか?!」
「大学の練習参加する予定だから。部屋ももう見つけてる。」
「……そうなんですね。」
図体はデカいくせにしゅーーーんとしょぼくれる姿はまるで子犬のよう。
「お前ってほんと寂しがり屋だよな。」
「当たり前じゃないですか。俺にとってアジさんは特別なんです!」
「………………あっそうデスカ。」
そう言われると何だか顔が熱くなって胸の辺りがムズムズする。
アカルは、俺の小学生の頃の初恋の相手だ。小学生の陸上記録会の時だった。俺が六年生で、アカルが五年。あの時はこいつだって俺よりも小さくて髪も長かった。だから女の子だと勘違いした。落ち込んでいる俺に唯一声をかけてくれた女の子(実際は男だったが)。その子から『元気になるおまじない』と称して額にキスなんてされてみろ、誰だって惚れる。俺も例にもれず惚れた。それなのにまさかあの可憐な女の子(男)が高校生になってこんなゴツイ大男になってるなんて聞いてない。
それまで学校が別々だったから接点などないに等しかったが、高校生になって同じ部活に所属してからよく話すようになった。
俺はコミュニケーションがド下手クソで、アカルは上手い。本来なら絡む要素なんてまるでないはずなのに、陸上のこととなるとなぜかウマが合った。
一体こんな俺のどこに惚れたのか、ある日「アジさんが好きです。」と堂々と宣言し、そして始まるアカルからの猛アタック。最初は嫌だとかやめろとか拒否していたのに、だんだんそれも面倒くさくなってツッコむのを辞め、……そうしていつの間にか、俺からもアカルのことを好きになってしまっていた。
でもこの思いを伝えちゃいけないとは分かっているし、端から伝える気もない。
なぜなら俺はもうすぐ卒業するからだ。
アカルもきっとこれから先『憧れの選手に対する気持ちと恋愛感情をはき違えていた』ことに気付くに違いない。そうなったら俺もこの密かな恋心を捨てようと思う。
だからせめて思い出だけでも……なんて女々しいことを考えてしまったのだ。そんなだから卒業式で、卒業証書を授与されたあとに第二ボタンはアカルにあげた。
アカルは号泣した。
でも嬉しかった。これで思い残すことなく東京に行くことができる。
そう思ったのにまさかこんなことになるなんて誰が想像しただろうか…。
「アジさん、最後にキス、して下さい。」
式が閉幕し、陸上部のお別れの挨拶でアカルから真っ白なハナミズキの花も貰って、残っているのは少人数の人たちだけ。
人気のなくなった廊下の端っこで俺に抱き着いているアカル。今、俺は後輩であるヤツに膝で股を割られ逃げられないように壁ドンされている状態である。
こいつにはもう何度もキスをしている。もちろんその場の成り行きで。それは恋人としてではないし、キスと言っても頬っぺたに軽くしただけだ。
でも今日は違う。
俺は明日、東京へ行くのだ。だから最後にもう一度……とお願いをされた。
遠くの方でクラスの陽キャたちがワーワーと騒ぐ声がうるさいが、俺にとってはそんなことどうでもよかった。
ただ俺は、こいつの真剣な眼差しに捕らわれて視線をそらすことができないでいる。
アカルの端正な形の唇が上から降って来てそのまま吸い込まれるようにキスをした。
羽が触れるような軽いバードキス。それを何度か繰り返して、ゆっくりと舌が入り込んで来る。
「んっ、……ふ、…ふぁ……ぁ」
ちゅくちゅくといやらしい水音と自分の嬌声が廊下に響いて恥ずかしさに涙の溜まった目をぎゅっとつむる。
唇を離すとアカルは嬉しそうに笑った。
そして俺の耳元で囁くようにこう言ったのだ。
……大好きです、アジさん……と。
俺の心臓は締め付けられるようにギュッと痛み、鼻の奥がツンとした。
卒業式が終わり、東京へ出発する日がやって来た。
荷物は先に送ってあるから、今俺が持っているのはキャリーバッグ一つ。
見送りはいらないと言ったのに、アカルと陸上部の友達が来てくれた。
そしてアカルは誰に言われるでもなくスムーズに俺のキャリーバッグを持ち、持っていない方の手で俺を握りしめて離そうとはしない。
何だかくすぐったい気持ちになるが、決して悪い気はしなかった。
だって俺もこいつのことが好きだから。でもそれは言ってはいけない言葉。
だから俺はせめて、繋がれたその手を、そっと握り返した。
ハナミズキの花言葉:「私の愛を受け止めて」
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