執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会

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何度でも月は沈んで陽は昇る

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「本日よりこの部署でお世話になります太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ)と申します!どうぞよろしくお願い致します!」
 
 新入社員の挨拶は、部署の空気を明るくする。
 そのハツラツとした声と笑顔にみんな感心したような雰囲気になるが、一方で俺は思わず目を見開き、その心は突如の土砂降り、雷轟く豪雨になった。

 太陽 晴陽。俺はその名前を知っていた。
 同じ高校で同じ部活だった彼は当時から人気が高くて、いつも周りに人が絶えなかった。そんな彼のことが、俺はずっと好きだった。
 でも、それは叶わぬ恋だということは分かっていたし、何より俺は彼のことをよく知らないまま好きになってしまっていた。だから告白なんてできるわけもなく、ただひっそりと彼を想っていた。それだけで充分だった。なのに〝あんなこと〟になってしまった。そして高校生活は終わりを迎え、俺は進学のために逃げるように県外へ。彼もまた、俺とは別の大学へと進んだ。

 それから数年が経ち、社会人としての生活にも慣れてきた頃。俺はこうして偶然にも彼と再会することになったのだ。

「陰原(カゲハラ)、お前に新人教育を任せる。しっかり教えてやれよ!」

 がっはっはと豪快に笑って俺の背中をバンッ!と勢いよくしばいて去っていく上司の背中を、唖然と見つめることしか出来なかった。

「陰原さん、お久しぶりです。またお会いできてうれしいです!」

 元気と活力あふれるその声を聞くとビクッと肩が震える。不可抗力だ。「なんだ、お前ら知り合いだったのか!」なんて周りの同僚に尋ねられるが「ははは…」と曖昧に笑ってごまかす。

 だって俺たちは〝知り合い〟ってレベルじゃない。

「これから、宜しくお願いしますね。」

 背後から肩を抱き、俺にだけ聞こえるようにすごむ言葉を耳元で発せられる。
 カタカタと震える奥歯をぎゅっとかみしめて耐えた。

 そう、俺は高校時代、太陽 晴陽の性奴隷だったのだ。


     ▽


 高校二年。俺は陰キャで、晴陽は人気者。対照的な存在だった俺たちだが、なぜか俺の一番の理解者は彼だった。
 最初は同じ陸上部の先輩後輩として仲良くなり、そこから自然と一緒に行動するようになって、友達から親友へそして恋人へと発展していった。意気地のない俺に告白なんてできようはずもなく、付き合おうと言ったのはもちろん向こうから。
 それはあまりに幸せな日々で、いつしか彼とずっと一緒にいたいと思うようになった。
だけどその幸せも長くは続かなかった。
 付き合いだしてからというもの、晴陽は俺に対して異常なまでの執着を見せるようになったからだ。

 毎日一緒に登下校をして、お昼は共にする。休日にはデートに誘われ、休日だけでは飽き足らず平日でさえも放課後は俺と一緒に過ごそうとした。他の男と話すなとか、自分以外の奴と仲良くするなとか、晴陽はとにかく俺を独り占めしたがった。さすがにそれは無理があるんじゃないかと思った俺は断ることも増えていったが、それでも彼の束縛は止まらなかった。

 そんなある日のことだった。その日は晴陽の誘いを断り友達と一緒に昼飯を食べていると、その光景を見ていたらしい彼から呼び出しがかかった。
 普段は柔和な彼の態度が一変し、威圧的で怖いものへと変わっていた。
 突如二年生の教室に入って来ては、俺の手首を強く握り、人通りのめったにない備品室へと連れ出される。そこには俺たち二人以外、誰もいなかった。
 彼が何故急に気分を害したのか俺には分からなかった。だけど何かのきっかけで怒らせるようなことをしてしまったのだろうと思い、よく分からずにとりあえず「ごめんなさい。」と謝ろうとした瞬間だった。

 ドンッ!とものすごい力で壊れたベッドに押し付けられたのだ。
 その衝撃で後頭部をぶつけてしまった俺は少し涙目になりつつも「晴陽っ…!」と困惑気味に彼の名前を呼んでみるが、それは逆効果だったようで、落ち着くどころかさらなる興奮を呼び起こしてしまったようだった。晴陽はいつもよりずっと低い声で、 「あんたは俺だけ見てればいいんだよ。」と、悲壮感溢れる切なげな表情で、確かにそう呟いた。

 そしてあろうことか、晴陽は俺の制服を脱がせ始めた。もちろん俺は抵抗したけど、平均身長よりもずっと高く、引き締まった筋肉を持つ晴陽に比べれば、俺なんか平々凡々。力の差は歴然だった。あっという間に裸にむかれ、そのままお尻を高く持ち上げたバックの体勢を強制された。

「いやっ…!やだ…こんなとこで…!やめて!」

 埃っぽい備品室の中、ベッドのマットレスにしがみついて泣いて懇願したけれど、彼は決して止まってくれなかった。

「あんたが他の男に媚びてるのが悪いんだろ…!」

 携帯していたのか、いつの間にか取り出した小型のプラスチック容器を傾け、俺のむき出しの尻穴にローションを直接塗り込んでくる。そして固く閉じた蕾にいきなり二本の指をみちみちと無理矢理に入れられ、中を激しく擦られる。
 挿入された指が三本に増え、ぐちゅぐちゅといやらしい水音が狭い室内に響き渡り、その音がリアルすぎて俺は羞恥で耳まで真っ赤になってしまう。
 けれどそれだけでは終わらなかった。突然中の圧迫感がなくなり、俺が不思議に思って涙で滲む視界で後ろを振り返ると、晴陽の手にはそそり立つ立派な雄の象徴が握られていた。

「今からあんたを犯すから。」

 そう宣言した彼は、俺の中に無理にそれを挿入してきた。もちろん充分に慣らされてないそこはすごく痛くて、俺は思わず悲鳴にも似た呻き声をあげた。だけど晴陽はそんなものお構い無しで、そのまま腰を動かし始めたのだ。

 パンパンという肌と肌のぶつかり合う音。男である俺の聞きたくもない喘ぎ声。そして彼の荒い息遣いだけが部屋中に響く。俺はただ必死に痛みに耐えていたけれど、ある一点を突かれた瞬間に頭が真っ白になった。
 その反応を見てニヤリと笑った晴陽はそこを重点的に責め始める。

「あっ!やめてっ!そこ、は…!あっ、あっ、あんっ…!」
「なんで?」
「へんになる!おかしく、なっちゃう、からっ!やっ!おねがっ!」
「なっちまえよ、この淫乱。」

 結合部が泡立つんじゃないかと思うほど何度も何度も激しく抜き差しを繰り返され、次第に痛みは薄れていき、強い快楽だけが身体中を駆け巡る。
 それを目ざとく察した晴陽は俺の前も同時に責め始めた。そしてついに俺は果ててしまい、俺の精液は彼の手の中に、彼の精液は俺の中に吐き出された。

「はぁ、はぁ…」
「一回出したくらいで何ヘバッてんの?こんなの序ノ口だから。」

 そこで行為は終わるんだと思っていたけれど、甘い考えだった。晴陽にとっては終わりどころか始まりに過ぎない行為だったと知ってゾッとする。今度は俺の身体を反転させてから向かい合わせになると、彼は自身の剛直を再び挿入してきた。

「ひっ、も、ムリだからッ!お願い、晴陽、やめて、やめ、あ、ああ!」
「ケツに突っ込まれてイヤイヤ言いながらちんぽおっ立ててるド淫乱のくせに何言ってんだか。」
「ちがっ、あ、あ!」
「ほらもっと自分から腰振りなよ。」

 晴陽の言うとおりだ。俺は与えられる快楽に喜び、もっともっとと彼のものを求めるかのようにナカが収縮を繰り返す。そんな自分が恥ずかしくて、でも気持ちよくって、もう訳が分からなかった。

「あっ、あん!あっ!ああん!」
「はは、あんた今自分がどんな顔してるか分かってる?すっげーエロいよ?」
「いやっ……みない、で……!」
「やだ、もっと見せてよ。」

 晴陽は片手で俺の顎をがっしりと掴んで、無理やり目を合わせてくる。

「ねぇ、今あんたを抱いてるのは誰?」
「は、はるひ……!」
「そう、俺だよ?あんたは俺だけ見てればいいの。他の奴になんか絶対渡さないから。」

 そう言って律動が再開された。

「あ!あん!あっ!やっ!とまっ、て!」

 もう訳が分からなくて、俺はただただ喘ぐことしかできなかったけど、そんな俺を晴陽は愛おしそうに見つめていた。

 それから何度も何度も犯されて……気付けば外はすっかり夕日に染まっていた。
 俺はもう抵抗する気力すら残っておらず、晴陽の精液にまみれ、ただ彼の為すまま、されるがまま。

 それからというもの、彼は俺を犯すことが日課となった。屋上で、保健室で、体育倉庫で、…晴陽は嫌がる俺を躾けるように、腹の中、そのさらに奥の奥まで、その起立した肉棒で丁寧にどつき回した。
 例えただの友達であっても、俺が他の男と一緒にいるのが許せなかったらしい。

 完全に自由を失くし、無茶な行為ばかりを繰り返され続けたある日のこと、俺はついに精神的に限界を迎えた。

 何としてでも晴陽から逃げてやろうと固く決意した瞬間だった。

 それからの俺の生活は家と塾の往復の毎日だった。学校へは出席日数がヤバい時だけ保健室登校して、晴陽に会うのを回避した。

 一生懸命勉強して、県外の大学へ合格し、ようやく俺は晴陽の束縛から解放されたのだ。


     ▽


 それなのに。
 なぜ今になってこんな再会を果たしてしまったのだろうか。俺はもう、あの日々に戻りたくない、絶対に戻りたくないのに。

 新人の入社挨拶からの数カ月間は地獄のような日々だった。どんなときも誰に対しても笑顔で、挨拶もしっかりしていて、なによりみんなに好かれる人望の厚い晴陽の一挙手一投足に全神経を使いながら、彼の機嫌を損ねないよう、尚且つ自分からはスキを見せないように気を配った。二人きりになったら何をされるか分かったもんじゃなかったから。
 
 ところが想定外のことが起きた。
 外向的で明るくて、取引先に気に入られるタイプの晴陽はどんどんと営業成績を伸ばしていき、その実力は俺の成績を優に超えるほどになってしまったのだ。

「まったく、最近の陰原は何をやってるんだ!新人に抜かれてどうする?!…もういい、こんどの××社の商談は太陽について行ってもらえ。分かったな?!」
「…はい。申し訳ありません。」

 腰を60度に折って深く頭を下げるのも、もう何度目なんだろう。
 対・晴陽用に神経を使い過ぎたせいで俺のもともと悪かった成績はさらに落ち、上司にこんなことを言われるまでになった。

 商談当日、隣にいる晴陽に何をされるか分からず内心戦々恐々としていた俺だったが、彼は俺のことなど見向きもせず、テキパキと仕事をしていた。商談中も愛想がよく、相手先からも気に入られているようだった。
 そんな彼を見て俺はひどく肩透かしを喰らった気分だった。それはそうだろう、この数カ月間ずっと彼の動向や機嫌を気にして過ごしてきたのに、彼は俺のことなど気にも留めていないのだから。
    なんだ、晴陽も大人になったんだ。俺のことなんかいちいち気にしなくても済むように成長したんじゃん。そう思うと少しは肩の力が抜けた。

 商談は無事終わり、会社へ戻ると上司にこっぴどく怒られた。活躍した晴陽とは対照的に、俺は何の役にも立てていなかったからだ。
 そしてまた次の日から仕事が始まる。

 そんな生活がしばらく続いたある日のことだった。
 俺はいつも通りに仕事を終えて、終電ギリギリの時間の電車へと乗り込んだ。

 満員電車の中、俺は車両の端っこでぼんやりとしていた。すると突然お尻に違和感を感じた。誰かに触られている気がするけれど、俺が変な動きをしたら周りの乗客にも迷惑がかかるからと何も言えないまま時間だけが過ぎていく。
 これは気のせいではないのかもしれないと思ったその時だった。後ろから誰かが俺のお尻を揉んできたのだ。それは偶然ではなく明らかに故意的なものだった。

 それは次第にエスカレートしていき、俺のズボンを下げて下着の中まで手を入れてきた。そして俺のものに触れると、それを強く上下に擦り始める。

「っ!!」

 俺は恐怖で声も出せなくて、ただただ早く駅に着くのを願うばかりだった。
 すると今度はその手がさらに下へと伸びていき、俺のお尻の割れ目をなぞり始めた。その気持ち悪さに俺は思わず身震いするも、僅かな抵抗もむなしく、ついには指が穴の中にまで侵入してきた。

「ん、や、やだ…っ!」

 そして中をかき回されるような感覚に吐き気を覚える。俺は得体の知れない人物に対して身を震わすことしかできなかった。

 その時、俺のお尻になにかが押し当てられた。それは熱くて硬いもので、なんなのか俺は一瞬で理解した。ズボンとパンツを一気にずり下げられ、次の瞬間、その熱いものが俺の中へと侵入してきた。
 あまりの痛さに俺は思わず叫びそうになるが、必死に声を抑える。
 だけどその痛みは一向に治まらず、むしろどんどんと激しくなっていく一方だった。

 すると今度は再度前の方を触られる感覚がしたかと思うと、突然俺のものを強く握られたのだった。突然の刺激に驚きつつも、俺はなんとか耐えることが出来た。だけどそれも束の間で、今度は前をシゴきながら後ろの抽挿運動が激しくなり始める。

 この腰の動き、前に経験があるかも…とデジャヴを感じたが、思考できたのも一瞬だけだった。

 あまりの激しい動きに俺の身体は限界を迎えそうになる。だがここで絶頂を迎えるわけにはいかないと思い、必死に我慢する。しかしそんな俺の努力も虚しく……俺はついに見知らぬ誰かの手の平の中で無様にも果ててしまったのだった。

 それでも後ろの男は止まらず、むしろ激しさを増していく一方で……もうこれ以上は無理だと思ったその時だった。電車が駅へと到着した。アナウンスとともにドアが開く。

 俺は急いで身なりを整えると、飛ぶように電車から降りた。その際に男の舌打ちが聞こえてきた気がしたが、構わずにホームを駆け抜けた。
 家に着くとすぐに鍵を閉めて布団へと潜り込んだ。怖かった……あの男は一体なんだったのだろうか?どうして俺なんかを襲ってきたのか?なんで……なんで……?

 考えれば考えるほど恐怖で身体が震える。その日は一睡もすることが出来なかった。
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