お前が代わりに『カノジョ』やれ

パイ生地製作委員会

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本編

これからの俺たちの関係

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 もともと物が少ないイザリくんの部屋。
 今では俺の心情も相まってガランとして見える。
 緊張で足も手も震える。でも。だけど。これは大事なことだから。
 気まずい内容だけど、俺たちはこの話題について真剣に話さなければならない。

「イザリくん、いつの間に真波と別れてたの?」

 いけないことが親にバレてしまった子供のように、俺の言葉にビクッと肩を揺らすイザリくん。

「ちょっと前…」

 嘘だ。マカミくんにその話を聞いてから、勇気を出して真波に事実確認をしたところ、俺がイザリくんに処女を奪われた頃には既に別れていたらしかった。

「真波は半年以上前って言ってたよ?それって結構前じゃない?」

 バツが悪そうに顔をそらすイザリくん。

「俺は真波の代わりでしょ?だから真波と別れた時点で用済みのはずなのに。イザリくんならもっと可愛くてふわふわで柔らかい女の子といくらでも付き合えるはずなのに。ねえ、どうして黙ってたの?」
「…。」

 別に俺はイザリくんのことを責めているわけではない。だって真波も言っていた、『イザリくんはすっごい優しい彼氏だった。』って。

「イザリくんにとって、俺って都合の良いセフレだった? いつでも抱ける、都合の良いオモチャだった?」
「…ちがう。」

 苦しそうに眉をひそめ、俺の言葉を否定する彼。
 これは俺のケジメのために必要な儀式だ。
 これからの俺たちが、新たな関係性を築くための。

「あのね、イザリくん。俺、俺はね。」
「…。」

 死刑宣告を受けた囚人のように蒼白な顔。血の気の無くなった顔で、イザリくんは俺の言葉の続きじっとを待つ。

「俺は、イザリくんのことが好きみたい。」

 そこで初めてイザリくんは俺と顔を合わせてくれた。
 バッと勢いよく振り向いて、俺の顔を見て固まって、そして、じわじわと赤くなる顔。

「それで、もし良かったらで良いんだけど。」

 そう俺はイザリくんのことが好きなんだ。やっと自分の気持ちが分かった。
 最初はイヤイヤ始めた関係だったけど。でも一緒に過ごす時間が増えれば増える程、俺は湊 漁(ミナト イザリ)という人物に、その人柄に惹かれていった。乱暴なくせに、優しいところ。優しいのに、ちょっと意地悪なところ。分かった以上は、この気持ちを隠したままにしておくなんて芸当、不器用な俺にはできない。

「俺と、付き合ってください。」

 ぽろり、と音がしそうなくらいの大粒の涙が一つ、イザリくんの赤みがかったアンバー色の瞳からこぼれ落ちる。一つこぼれると、あとはもう堰を切ったように次々にキラキラと光る雫がイザリくんの頬を伝う。

 それがあまりにも綺麗で、もったいなくて、俺は思わず自分よりもはるかに高い位置にあるその雫に手を伸ばし、袖口で拭った。

「…しゃーなし。ホンマ…しゃーなしで付き合ったるわ。」

 こうして俺たちは晴れて、“カレシ”と“カノジョ”ならぬ、正真正銘お互いの本当の恋人同士になったのだった。
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