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12.どうしたら良いのか
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只今の状態。
宿屋の受付をこなす魔法樽が設置されました。
オーナーと発明者はニコニコだけど、今まさにこの宿屋で働いている私は暗い顔をしているだろう。
「ただでさえ、魔法樽が掃除、洗濯、食事の下ごしらえから食器洗いまでやってくれているのに、受付までこなしちゃうの!? 私、いらなくなっちゃいますー!」
便利になることはいいと思う。受付時間は短くなるし、お客さんの名前や計算の間違いがなくなるからお客さんのためにもなるだろう。
ただ私はここで、お世話になっているイブキさんの少しでも役に立ちたいと思っていた。だから、やれる仕事がなくなっていってどうしたら良いのかわからない。
「待って、待って。シワラちゃん落ち着いて。そんな顔しないで……喜んでもらえると思ったのになぁ」
「そのうち部屋の案内も、魔法樽にお客さんの荷物乗せて、案内させちゃうんだっっ!」
「おー、それは良いアイディアですなー! 『掃除機』を改修すればすぐ実現できそうですぞ!」
「ちょっと、ドーメキさん! 今はそういうこと言っちゃダメでしょ!」
「うわーん! さらにお仕事減りそうー! 少しでも働いてイブキさんに恩返ししたかったのにー!」
グスグスと涙目になった私にイブキさんがチリ紙を渡してくれる。
イブキさんは困った顔をしていた。
「シワラちゃんがいらないとか絶対にないからね! 僕は、凄く助かっているんだよ。今だって、ドーメキさんの荷物が無事に届いたのも君のお陰なんだから」
私が運んできた『受付』兼『能力鑑定』ができる魔法樽にイブキさんは目を向ける。
「こう考えてみるのはどうかな? 魔法樽で便利になったことで『仕事が減る』のではなくて、『こなせる仕事が増える』んだよ」
「こなせる仕事が増える……?」
「そう。魔法樽に任せれば、短時間で仕事を済ませることが出来るだろう? 余裕が出来た時間で仕事の質を上げたり、その時間に別の仕事に割り振る事もできるってわけ」
「な、なるほど」
そんな考え方は、したことがなかった。
魔法樽を便利だとは思いつつも、どこか楽をしているという思いをぬぐい切れなかったので、イブキさんの考えは新鮮だった。
……ふと。1番最初に加入したパーティのことを思い出す。
次から次へと言いつけられる仕事に追われているときは、余裕がなくて質になどこだわっていられなかった。ギリギリ最低限をクリアしてその場をしのいでいた。
細かい仕事に忙殺されて、寝る間を惜しんで働いていたけど、結局ケガをしてパーティを追放されてしまった。
あのときは新しい知識を得る時間もなくて、消耗するばかりだったな……。
ただただ、目の前の作業を自分でこなしていくのが正しいのではないということなんだろう。
「拙者も身の回りのことを魔法樽に任せて、その分、研究時間が増えましたぞー!」
魔法樽開発者のドーメキさんも楽しげに言う。
隣でイブキさんがため息をついた。
「ドーメキさん、それとこれとは話が別です。連日作業場に寝袋で寝泊まりは、やめましょう。空いた時間に仕事を詰め込んで、オーバーワークをしないでください」
「それは、開発が楽しくてついつい……。あぁ、そんな目で見ないでくだされ」
「適度な休息も仕事のうちですよ。仕事に対して真面目なのはいいことですけどね、限度ってものがあります!」
「いや、しかし……まだまだ研究したいものが……」
イブキさんに注意されても、まだ引き下がらないドーメキさん。
「ドーメキさんが無茶をするのを辞めないなら、もう僕の故郷のことは教えてあげませんから!」
「そ、それだけはご勘弁を! 先日言っておった『鉄道』や『アイドル』や『巨大ロボット』のことも詳しく教えてくだされー!」
なんだかイブキさん、ドーメキさんのお母さんみたいになってる。
ふふふ……。叱られてるドーメキさん、面白いです。
「お、シワラちゃんが笑ってくれた」
2人のやりとりが可笑しくて、思わず声に出ていたようだ。
「ふふ。私も心配なので、ドーメキさんはちゃんと休んでくださいね」
「シワラ嬢にまで言われては……仕方ありませぬ」
ショボンと肩を落とすドーメキさん。
そのドーメキさんの肩をイブキさんはポンポンと叩くいて、私のほうに向き合った。
「不安にさせてごめんね。シワラちゃん」
「いえいえ、私のほうこそよく考えずに発言しちゃって。オーナーに逆らってワガママでしたね」
「気にしないで。僕はここを安心できる場所にしたいって思うんだ。お客さんだけでなく、働いてくれている人にも。だから、言いたいことは我慢せずに伝えて欲しいな」
そんなことを言われると、別の意味で涙が出そうになる。
「そうそう、シワラちゃんは恩返しをしようとか考えなくていいから。僕は、ここを利用するみんなが安心して元気でいるならそれでいいんだ」
それは、あまりにも欲がない言葉で。
私にとってのこの『緑の風』を体現しているようだった。
「あっ! それって『推し活』ってやつですね! ドーメキさんが言ってました!!」
「え、いやそれは違う……応援しているってことには間違いないんだけどね」
イブキさんの行為は『推し活』とかいうモノなんだと思い、そう言ったのだけど。
当のイブキさんは、「協力や支援をしたいけど、『推し』と言われると何か違う……。ドーメキさん何を教えてるんだよ」と、呟きながらなんだか困惑していた。
あれ? 何か違った?
「とはいえ、受付を魔法樽にお任せできるようになったら、私は何をしたらいいですか?」
『こなせる仕事が増える』と言っていたけど、私に他にできることがあるのかな。
「宿や鑑定のほかに、ここで売店も始めようと思うんだ」
「販売所も始めるんですね!」
「まずは食糧や消耗品かな。冒険者が旅に必要なものを中心に、ドーメキさんが開発してくれた便利な品も置く予定だよ。シワラちゃんにはその準備もお願いしたいんだ」
「了解です!」
そうか。そこまで考えていて受付や鑑定ができる魔法樽を入れたのか。
新しい仕事が用意されていると知らずに取り越し苦労をしてしまったようで、ちょっと恥ずかしい。
冒険者向けの販売所。なかなかやりがいがありそうです。
「あともう一つ大きな仕事を頼みたいんだよね。とっても重要な」
「なんでも言いつけてください!」
胸を叩いて、任せろ! とイブキさんにアピールする。
『鑑定』は出来ないけど、宿屋の仕事の流れも把握できてきたし、お手伝いできることならなんでもやりたい。
「この宿をシワラちゃんにお任せしたいと思います!」
……はい? 全部……ですか?
いくらなんでも、そのお仕事は大き過ぎませんか????
宿屋の受付をこなす魔法樽が設置されました。
オーナーと発明者はニコニコだけど、今まさにこの宿屋で働いている私は暗い顔をしているだろう。
「ただでさえ、魔法樽が掃除、洗濯、食事の下ごしらえから食器洗いまでやってくれているのに、受付までこなしちゃうの!? 私、いらなくなっちゃいますー!」
便利になることはいいと思う。受付時間は短くなるし、お客さんの名前や計算の間違いがなくなるからお客さんのためにもなるだろう。
ただ私はここで、お世話になっているイブキさんの少しでも役に立ちたいと思っていた。だから、やれる仕事がなくなっていってどうしたら良いのかわからない。
「待って、待って。シワラちゃん落ち着いて。そんな顔しないで……喜んでもらえると思ったのになぁ」
「そのうち部屋の案内も、魔法樽にお客さんの荷物乗せて、案内させちゃうんだっっ!」
「おー、それは良いアイディアですなー! 『掃除機』を改修すればすぐ実現できそうですぞ!」
「ちょっと、ドーメキさん! 今はそういうこと言っちゃダメでしょ!」
「うわーん! さらにお仕事減りそうー! 少しでも働いてイブキさんに恩返ししたかったのにー!」
グスグスと涙目になった私にイブキさんがチリ紙を渡してくれる。
イブキさんは困った顔をしていた。
「シワラちゃんがいらないとか絶対にないからね! 僕は、凄く助かっているんだよ。今だって、ドーメキさんの荷物が無事に届いたのも君のお陰なんだから」
私が運んできた『受付』兼『能力鑑定』ができる魔法樽にイブキさんは目を向ける。
「こう考えてみるのはどうかな? 魔法樽で便利になったことで『仕事が減る』のではなくて、『こなせる仕事が増える』んだよ」
「こなせる仕事が増える……?」
「そう。魔法樽に任せれば、短時間で仕事を済ませることが出来るだろう? 余裕が出来た時間で仕事の質を上げたり、その時間に別の仕事に割り振る事もできるってわけ」
「な、なるほど」
そんな考え方は、したことがなかった。
魔法樽を便利だとは思いつつも、どこか楽をしているという思いをぬぐい切れなかったので、イブキさんの考えは新鮮だった。
……ふと。1番最初に加入したパーティのことを思い出す。
次から次へと言いつけられる仕事に追われているときは、余裕がなくて質になどこだわっていられなかった。ギリギリ最低限をクリアしてその場をしのいでいた。
細かい仕事に忙殺されて、寝る間を惜しんで働いていたけど、結局ケガをしてパーティを追放されてしまった。
あのときは新しい知識を得る時間もなくて、消耗するばかりだったな……。
ただただ、目の前の作業を自分でこなしていくのが正しいのではないということなんだろう。
「拙者も身の回りのことを魔法樽に任せて、その分、研究時間が増えましたぞー!」
魔法樽開発者のドーメキさんも楽しげに言う。
隣でイブキさんがため息をついた。
「ドーメキさん、それとこれとは話が別です。連日作業場に寝袋で寝泊まりは、やめましょう。空いた時間に仕事を詰め込んで、オーバーワークをしないでください」
「それは、開発が楽しくてついつい……。あぁ、そんな目で見ないでくだされ」
「適度な休息も仕事のうちですよ。仕事に対して真面目なのはいいことですけどね、限度ってものがあります!」
「いや、しかし……まだまだ研究したいものが……」
イブキさんに注意されても、まだ引き下がらないドーメキさん。
「ドーメキさんが無茶をするのを辞めないなら、もう僕の故郷のことは教えてあげませんから!」
「そ、それだけはご勘弁を! 先日言っておった『鉄道』や『アイドル』や『巨大ロボット』のことも詳しく教えてくだされー!」
なんだかイブキさん、ドーメキさんのお母さんみたいになってる。
ふふふ……。叱られてるドーメキさん、面白いです。
「お、シワラちゃんが笑ってくれた」
2人のやりとりが可笑しくて、思わず声に出ていたようだ。
「ふふ。私も心配なので、ドーメキさんはちゃんと休んでくださいね」
「シワラ嬢にまで言われては……仕方ありませぬ」
ショボンと肩を落とすドーメキさん。
そのドーメキさんの肩をイブキさんはポンポンと叩くいて、私のほうに向き合った。
「不安にさせてごめんね。シワラちゃん」
「いえいえ、私のほうこそよく考えずに発言しちゃって。オーナーに逆らってワガママでしたね」
「気にしないで。僕はここを安心できる場所にしたいって思うんだ。お客さんだけでなく、働いてくれている人にも。だから、言いたいことは我慢せずに伝えて欲しいな」
そんなことを言われると、別の意味で涙が出そうになる。
「そうそう、シワラちゃんは恩返しをしようとか考えなくていいから。僕は、ここを利用するみんなが安心して元気でいるならそれでいいんだ」
それは、あまりにも欲がない言葉で。
私にとってのこの『緑の風』を体現しているようだった。
「あっ! それって『推し活』ってやつですね! ドーメキさんが言ってました!!」
「え、いやそれは違う……応援しているってことには間違いないんだけどね」
イブキさんの行為は『推し活』とかいうモノなんだと思い、そう言ったのだけど。
当のイブキさんは、「協力や支援をしたいけど、『推し』と言われると何か違う……。ドーメキさん何を教えてるんだよ」と、呟きながらなんだか困惑していた。
あれ? 何か違った?
「とはいえ、受付を魔法樽にお任せできるようになったら、私は何をしたらいいですか?」
『こなせる仕事が増える』と言っていたけど、私に他にできることがあるのかな。
「宿や鑑定のほかに、ここで売店も始めようと思うんだ」
「販売所も始めるんですね!」
「まずは食糧や消耗品かな。冒険者が旅に必要なものを中心に、ドーメキさんが開発してくれた便利な品も置く予定だよ。シワラちゃんにはその準備もお願いしたいんだ」
「了解です!」
そうか。そこまで考えていて受付や鑑定ができる魔法樽を入れたのか。
新しい仕事が用意されていると知らずに取り越し苦労をしてしまったようで、ちょっと恥ずかしい。
冒険者向けの販売所。なかなかやりがいがありそうです。
「あともう一つ大きな仕事を頼みたいんだよね。とっても重要な」
「なんでも言いつけてください!」
胸を叩いて、任せろ! とイブキさんにアピールする。
『鑑定』は出来ないけど、宿屋の仕事の流れも把握できてきたし、お手伝いできることならなんでもやりたい。
「この宿をシワラちゃんにお任せしたいと思います!」
……はい? 全部……ですか?
いくらなんでも、そのお仕事は大き過ぎませんか????
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