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オルテンシアの勇者③
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(絶っ対に、予知夢を現実にしてみせる)
ラウレルは心に決めた。
そのためには、まず予知夢通りに魔王を倒さなければならない。
決して簡単なことでは無いが、不可能でも無い。
グリシナ村にグズグズと居座り、モンスターよりレベルを上げ過ぎたラウレルは、密かに悟っていた。
単純に、倒したい敵より強くなればいいという当たり前の事実を。要は、パーティー全員で魔王より強くなればいい。
グリシナ村を発ってからは、ひたすらレベル上げに明け暮れる。カジノや宝の収集などはまるっきり無視して、高経験値の敵を狙い、倒して倒して倒しまくる。
ラウレルはとにかく早く魔王を倒したかった。それも全員無事で、確実に。
うかうかしている間にビオレッタが誰かに奪われでもしたらと思うと、気が逸って仕方がない。
そして勇者ラウレル一行は、驚異的な速さで魔王討伐を成し遂げたのだった。
その足でグリシナ村の道具屋まで直行しようとしたラウレルは、カメリアに止められた。彼女は「一応、先にオルテンシア王への報告をしないと」などと言う。
「報告なんて必要か?」
王など、ただ玉座から『魔王を倒せ」とラウレルへ命じただけの男だ。報告などする必要性も感じない。ラウレルは散々ごねた。けれどカメリアは冷静だった。
「私は魔王討伐の報酬が欲しいの。報告しなきゃ貰えるものも貰えないでしょ?」
「俺は早くビオレッタさんに会いたい」
「それは報告が終わってからでも良いじゃないの。お金は結婚生活にも必要よ。さあ行くわよ」
(確かに……)
一理ある。結婚したら金は役に立つかもしれない。
結局カメリアに言いくるめられ、渋々オルテンシア城まで報告に行ったのだが。
オルテンシア城玉座の間で、王は耳を疑うようなことを口にした。
「褒美として、我が姫との結婚を許そう」とのたまったのだ。王の隣では、当の姫も目を丸くしている。おそらく寝耳に水だったのだろう。
「いえ、結構です」
「何故だ? そなたも王族の一員として――」
「結婚したい人がいるので」
ラウレルは当然、即刻辞退した。結婚したい相手はビオレッタただ一人で、姫じゃ無い。王はなぜ断られたのか理解できないようだったが。
その後も王から引き止められたり、長い宴に付き合わされたり。しかしラウレルとしては、報酬さえ受け取ればこんな場所に用はない。
さっさと報酬をもらってグリシナ村へ発ちたかったが、城ではなぜか報酬の手続きに時間がかかると言われてしまい、軟禁に近いような日々を送る羽目となる。
贅を尽くした晩餐に、時々送り込まれてくるコラール姫。
勇者像を建ててやろう、屋敷をやろうとまで言われ、丁重に断る日々。
城での毎日はクタクタに疲れ果てた。とにかく早く、ビオレッタに会いたかった。
何度も嘆願し、一ヶ月後ようやく報酬を受け取った際、またもや王から姫との結婚を打診を受けた。
「気は変わったか」と。変わるわけない。
常々あった王に対する不信感は、もはや嫌悪感へと変わってしまった。本当に気持ちが悪かった。なんとしても勇者をオルテンシアの駒にしておきたいという王の思惑が。
これ以上我慢出来なくなったラウレルは、とうとう転移魔法で抜け出してグリシナ村までやって来たのだった。
そこからは必死だった。
厚かましく強引だった自覚はある。しかし何をしてでも彼女のそばにいたかった。
裏口から出入りできる特別感。ビオレッタに毎日「おやすみ」と言える距離。彼女とのふたり暮しは、天にも登るように幸せな毎日で。
暮らすうちに、彼女を渇望していた心は、もっともっとと欲が出た。
ビオレッタの小さな肩、細い腰、さらさらとした長い髪が、触れられるほど傍にあるのだ。今だって、横たわる彼女の白い首筋に目がいってしまう。
そんな邪な自分を理性で制したりを繰り返して、この二ヶ月間なんとかやり過ごしている。
彼女から嫌われるようなことはしないと、そう約束をしたのだから。ベッドに押し倒された時は、さすがに我慢が効かず危なかったけれど。
あの時だって、ビオレッタは純粋にラウレルの体調ばかりを心配していた。そんな彼女を好きな気持ちは、膨らむばかりで。
優しく心配性な彼女が好きだ。
新しい世界を知るたびに、目を輝かせる彼女が好きだ。
ビオレッタの何もかもが……
「ビオレッタ、愛しています」
安らかな寝息をたてるビオレッタに向かって、ラウレルはぽつりと呟いた。
彼女の寝顔の隣で、やっと得られた幸せを手放すまいと固く心に決めたのだった。
ラウレルは心に決めた。
そのためには、まず予知夢通りに魔王を倒さなければならない。
決して簡単なことでは無いが、不可能でも無い。
グリシナ村にグズグズと居座り、モンスターよりレベルを上げ過ぎたラウレルは、密かに悟っていた。
単純に、倒したい敵より強くなればいいという当たり前の事実を。要は、パーティー全員で魔王より強くなればいい。
グリシナ村を発ってからは、ひたすらレベル上げに明け暮れる。カジノや宝の収集などはまるっきり無視して、高経験値の敵を狙い、倒して倒して倒しまくる。
ラウレルはとにかく早く魔王を倒したかった。それも全員無事で、確実に。
うかうかしている間にビオレッタが誰かに奪われでもしたらと思うと、気が逸って仕方がない。
そして勇者ラウレル一行は、驚異的な速さで魔王討伐を成し遂げたのだった。
その足でグリシナ村の道具屋まで直行しようとしたラウレルは、カメリアに止められた。彼女は「一応、先にオルテンシア王への報告をしないと」などと言う。
「報告なんて必要か?」
王など、ただ玉座から『魔王を倒せ」とラウレルへ命じただけの男だ。報告などする必要性も感じない。ラウレルは散々ごねた。けれどカメリアは冷静だった。
「私は魔王討伐の報酬が欲しいの。報告しなきゃ貰えるものも貰えないでしょ?」
「俺は早くビオレッタさんに会いたい」
「それは報告が終わってからでも良いじゃないの。お金は結婚生活にも必要よ。さあ行くわよ」
(確かに……)
一理ある。結婚したら金は役に立つかもしれない。
結局カメリアに言いくるめられ、渋々オルテンシア城まで報告に行ったのだが。
オルテンシア城玉座の間で、王は耳を疑うようなことを口にした。
「褒美として、我が姫との結婚を許そう」とのたまったのだ。王の隣では、当の姫も目を丸くしている。おそらく寝耳に水だったのだろう。
「いえ、結構です」
「何故だ? そなたも王族の一員として――」
「結婚したい人がいるので」
ラウレルは当然、即刻辞退した。結婚したい相手はビオレッタただ一人で、姫じゃ無い。王はなぜ断られたのか理解できないようだったが。
その後も王から引き止められたり、長い宴に付き合わされたり。しかしラウレルとしては、報酬さえ受け取ればこんな場所に用はない。
さっさと報酬をもらってグリシナ村へ発ちたかったが、城ではなぜか報酬の手続きに時間がかかると言われてしまい、軟禁に近いような日々を送る羽目となる。
贅を尽くした晩餐に、時々送り込まれてくるコラール姫。
勇者像を建ててやろう、屋敷をやろうとまで言われ、丁重に断る日々。
城での毎日はクタクタに疲れ果てた。とにかく早く、ビオレッタに会いたかった。
何度も嘆願し、一ヶ月後ようやく報酬を受け取った際、またもや王から姫との結婚を打診を受けた。
「気は変わったか」と。変わるわけない。
常々あった王に対する不信感は、もはや嫌悪感へと変わってしまった。本当に気持ちが悪かった。なんとしても勇者をオルテンシアの駒にしておきたいという王の思惑が。
これ以上我慢出来なくなったラウレルは、とうとう転移魔法で抜け出してグリシナ村までやって来たのだった。
そこからは必死だった。
厚かましく強引だった自覚はある。しかし何をしてでも彼女のそばにいたかった。
裏口から出入りできる特別感。ビオレッタに毎日「おやすみ」と言える距離。彼女とのふたり暮しは、天にも登るように幸せな毎日で。
暮らすうちに、彼女を渇望していた心は、もっともっとと欲が出た。
ビオレッタの小さな肩、細い腰、さらさらとした長い髪が、触れられるほど傍にあるのだ。今だって、横たわる彼女の白い首筋に目がいってしまう。
そんな邪な自分を理性で制したりを繰り返して、この二ヶ月間なんとかやり過ごしている。
彼女から嫌われるようなことはしないと、そう約束をしたのだから。ベッドに押し倒された時は、さすがに我慢が効かず危なかったけれど。
あの時だって、ビオレッタは純粋にラウレルの体調ばかりを心配していた。そんな彼女を好きな気持ちは、膨らむばかりで。
優しく心配性な彼女が好きだ。
新しい世界を知るたびに、目を輝かせる彼女が好きだ。
ビオレッタの何もかもが……
「ビオレッタ、愛しています」
安らかな寝息をたてるビオレッタに向かって、ラウレルはぽつりと呟いた。
彼女の寝顔の隣で、やっと得られた幸せを手放すまいと固く心に決めたのだった。
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