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勇者が村にやって来た①
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辺りはまだ薄暗く、朝と呼ぶには早い時間。
ビオレッタは波の音で目が覚めた。
眠い目をこすりながら二階から降り、カウンターにかけておいた白いエプロンを身に付ける。そしていつものように店内を軽く掃除してから、やっと自身の朝食作りにとりかかった。
裏の畑は芋が食べごろ。今朝も鶏が元気に鳴いていたから、おいしい卵を産んでくれていることだろう。裏口から外へ出ようとすると……
トントントンと軽快に、階段を降りてくる音がした。
「ビオレッタさんおはようございます! 俺も起こしてくれればよかったのに。手伝いますよ」
まばゆい金髪に深い蒼の瞳、村では見たこともないような美しい青年……
それは先日、魔王討伐を果たした勇者ラウレルその人だった。
「いえ、朝も早いですしラウレル様はまだ寝ていても……って、もういないですね」
彼は意気揚々と裏庭に出て、すでに芋を収穫したようだった。今は鶏と格闘中だ。
けたたましく威嚇する鶏に、じりじりと近づくラウレル。
ビオレッタは助けに入ることを諦めて、その格闘をぼんやりと眺めた。
(……にぎやかだわ……ひと月前までが嘘みたいに)
彼が村に来たことで、ビオレッタの平凡な日々は一変した。
それはひと月ほど前にさかのぼる。
ちょうどひと月前、勇者によって魔王が倒された。
魔王が倒されたことで長年人々を苦しめていたモンスター達は消え去り、世界には平和が取り戻された。
世界中が喜びに湧き、その喜びは、この小さなグリシナ村まで届いたのだった。
「あの勇者様はすごいお方だったのね」
ビオレッタは以前見た勇者を思い描く。
勇者御一行は以前、グリシナ村にも立ち寄ってくれたことがあったのだ。その時はまだ勇者も旅立って日が浅く、傷だらけの身体で傷薬を買い求めにやって来た記憶がある。
勇者達はしばらくこの村に滞在し、村の外に蔓延るモンスターを倒してはレベル上げに勤しんでいたようだった。
勇者は村に戻るたび、ビオレッタの道具屋で傷薬を買った。
日が経つにつれ、勇者の身体に受ける傷は減っていく。グリシナ村を発つ頃にはレベルが上がったのだろう、傷一つ作らずモンスターを倒せるまでになっていた。
それでも勇者は、最後まで傷薬を買ってくれた。「よく効く傷薬をありがとう」と。
その日からそれほど間をおかず魔王が討伐されたことに、ビオレッタは正直驚いた。
グリシナ村ではレベル上げにかなりの時間を要していたではないか。勇者達の旅は、もっと年単位にわたる長期的なものだと思い込んでいたのに。
そして不安になった。いきなり平和になった世の中で、道具屋としてどう生計を立てていこうかと。
道具屋で売っている傷薬も毒消し草も、生活に無くてはならないものだ。しかし、これまでのように売れはしないだろう。何せモンスターがいなくなったのだから。
道具屋だけで生活が維持出来るだろうか。村の皆のためにも、死んだ両親のためにも、そして自分のためにも……道具屋を辞めるわけにはいかない。
しかし道具屋として収入が見込めなくては、他の生き方を考えなくてはならない……
悩んでいたビオレッタの店に、隣の武器防具屋店主・シリオがやって来た。
「おい! また勇者がやって来たぞ」
「え? うちの村に?」
魔王を倒した英雄が、こんな小さな村に何の用だろうか。
グリシナ村は海のそばにあり景色は良いが、観光地という雰囲気でもない。本当に素朴で、外からの人間にとっては面白くもない村のはずだ。勇者の再訪は、村民全員が不思議に思っていることだろう。
入り口のドアを薄く開け、おそるおそる外の様子を伺おうとビオレッタが顔を出すと……
なんと、すぐそこに噂の勇者が立っていた。
ビオレッタは波の音で目が覚めた。
眠い目をこすりながら二階から降り、カウンターにかけておいた白いエプロンを身に付ける。そしていつものように店内を軽く掃除してから、やっと自身の朝食作りにとりかかった。
裏の畑は芋が食べごろ。今朝も鶏が元気に鳴いていたから、おいしい卵を産んでくれていることだろう。裏口から外へ出ようとすると……
トントントンと軽快に、階段を降りてくる音がした。
「ビオレッタさんおはようございます! 俺も起こしてくれればよかったのに。手伝いますよ」
まばゆい金髪に深い蒼の瞳、村では見たこともないような美しい青年……
それは先日、魔王討伐を果たした勇者ラウレルその人だった。
「いえ、朝も早いですしラウレル様はまだ寝ていても……って、もういないですね」
彼は意気揚々と裏庭に出て、すでに芋を収穫したようだった。今は鶏と格闘中だ。
けたたましく威嚇する鶏に、じりじりと近づくラウレル。
ビオレッタは助けに入ることを諦めて、その格闘をぼんやりと眺めた。
(……にぎやかだわ……ひと月前までが嘘みたいに)
彼が村に来たことで、ビオレッタの平凡な日々は一変した。
それはひと月ほど前にさかのぼる。
ちょうどひと月前、勇者によって魔王が倒された。
魔王が倒されたことで長年人々を苦しめていたモンスター達は消え去り、世界には平和が取り戻された。
世界中が喜びに湧き、その喜びは、この小さなグリシナ村まで届いたのだった。
「あの勇者様はすごいお方だったのね」
ビオレッタは以前見た勇者を思い描く。
勇者御一行は以前、グリシナ村にも立ち寄ってくれたことがあったのだ。その時はまだ勇者も旅立って日が浅く、傷だらけの身体で傷薬を買い求めにやって来た記憶がある。
勇者達はしばらくこの村に滞在し、村の外に蔓延るモンスターを倒してはレベル上げに勤しんでいたようだった。
勇者は村に戻るたび、ビオレッタの道具屋で傷薬を買った。
日が経つにつれ、勇者の身体に受ける傷は減っていく。グリシナ村を発つ頃にはレベルが上がったのだろう、傷一つ作らずモンスターを倒せるまでになっていた。
それでも勇者は、最後まで傷薬を買ってくれた。「よく効く傷薬をありがとう」と。
その日からそれほど間をおかず魔王が討伐されたことに、ビオレッタは正直驚いた。
グリシナ村ではレベル上げにかなりの時間を要していたではないか。勇者達の旅は、もっと年単位にわたる長期的なものだと思い込んでいたのに。
そして不安になった。いきなり平和になった世の中で、道具屋としてどう生計を立てていこうかと。
道具屋で売っている傷薬も毒消し草も、生活に無くてはならないものだ。しかし、これまでのように売れはしないだろう。何せモンスターがいなくなったのだから。
道具屋だけで生活が維持出来るだろうか。村の皆のためにも、死んだ両親のためにも、そして自分のためにも……道具屋を辞めるわけにはいかない。
しかし道具屋として収入が見込めなくては、他の生き方を考えなくてはならない……
悩んでいたビオレッタの店に、隣の武器防具屋店主・シリオがやって来た。
「おい! また勇者がやって来たぞ」
「え? うちの村に?」
魔王を倒した英雄が、こんな小さな村に何の用だろうか。
グリシナ村は海のそばにあり景色は良いが、観光地という雰囲気でもない。本当に素朴で、外からの人間にとっては面白くもない村のはずだ。勇者の再訪は、村民全員が不思議に思っていることだろう。
入り口のドアを薄く開け、おそるおそる外の様子を伺おうとビオレッタが顔を出すと……
なんと、すぐそこに噂の勇者が立っていた。
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