竜騎士と花生み〜逃亡奴隷はご主人様に恋をする〜

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15.リスが跳ねる病

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 どんぐりがぺろりと舐め取って、食べてしまった。花生みの花の色は、気分によって変わる。光る花は初めてのことだった。けれどもそれを深く考えることはしなかった。
 確かに珍しくはあるけれど、花生みの寿命を削る黒色でさえなければどれも関心はほぼないに等しい。



 昼食時は木陰の下に並べた二台のテーブルに集い、席を同じくした。ロナウドとラルフ、それから屋敷の全員とラルフの従者までも。
 ラルフが指名したので、両脇はロナウドとマルが挟むように座った。
 パンはまだ熱い。ラルフは指を踊らせながらちぎったパンを口へ放り込むと、パリパリっと小気味よい音が鳴った。

「んんー、食事はやはり、作りたてが美味だ。料理長の役パンは特に絶品だぞ。毎日でも食べたいくらいだ」
「へい、いつもありがとよ、ラルフ坊ちゃん」

 と料理長がにかっと歯を見せる。
 パンとスープだけの簡単なランチだが、パンは何種類もあるし、スープは大きなスープチュリーンからそれぞれ自由にマグへよそって食べられる。もちろん熱々だ。

「ラルフの家では、作りたてじゃないの?」
「うむ。残念だが、冷めてしまうのだ。僕の健康を損ねないかどうか調べたりするのでな。あと、厨房から僕の部屋までが遠い。これはどうにもならん」
「そっか。緑四号が運べたら良かったね」
「うはは。マル、それでは全部こぼされてしまうか、食べられてしまうかのどちらかだぞ」

 竜は雑食だ。肉を主としているが、大概なんでも食べる。
 何か良い案はないだろうかと思案していたところへ、ラルフの前を横切ったロナウドの手が、ぱっと目の前に出される。

「マル、深く悩むな。ここでつるが生まれると、そこにいる二頭に頭から嘗められる」

 カシスも緑四号も、庭にある専用の支柱に手綱を留められている。とはいえ、二匹が本気になれば、その程度の支柱は苦もなく抜いてしまうだろう。

「そ……うでした」
「よし。ではラルフ。あと一刻したら午後の練習を始める。それまでは休憩とする」

 とくん。
 マルの胸の中で大人しくしているリスが、ふと急に目覚めて飛び跳ねた。最近よくある。
 特に、こういうときだ。前触れもなくロナウドから何かされたり、距離が近すぎるといけない。少し苦しくなってしまう。
 ロナウドたちは屋敷の中で休憩をとるらしく、席を立って去って行った。
 テーブルには落ち着かないマルと、その様子を見ているラルフ。そして従者が残った。

「マル、そなた大丈夫か? どうしたのだ、ぼんやりしておるぞ」
「……うん。時々ね、胸がこう、跳ねるんだ。小さな、リスみたいな動物が胸の中で、跳ねたり、ダンスしたり、たまに二三匹に増えたりしてはしゃぐんだけど、それがちょっと苦しくて……」
「ん? リス? 胸が苦しい? 時々とは、どんな時だ。ここにいる僕の従者は医術の心得もあるぞ。多少ならばすぐにも対応できよう。詳しく話してくれないか?」

 従者が無言で頷いたので、近頃のリスの話をいくつかしてみた。ロナウドに関連することばかりだとか、特に症状が酷くなるのは予想外な接触をされたときだとか。ふんふんと訊いていた二人は次第に静かになっていく。最終的にマルがチーズを食べさせてもらっているときにも起こると告白をすると、ラルフは口を開けて固まった。



「んー。マル、その話だと……僕は医師ではないが、それは、多分大丈夫かもしれないぞ。ある種、病ではありそうだが。のう?」

 ラルフが従者へ目線を投げかける。

「さようでございますな。マル様の病は、薬の処方が不要なようです」
「手遅れ? 重病? それとも俺、死んじゃうの?」
「自覚のないのは重病だが、死にはせぬ。無論、誰かに感染もせぬ。さてどうしたものか……。んー、マル、おぬしの花は、何色だ? 近頃変わった色はなかったか?」

 変わった色。黒は変わっているが、最近は生んでいない。心当たりがあるのは、ドングリに食べられた蕾だ。まだ黄緑で花の色は不明で、艶のある玉虫色。
 それを伝えると「やはりか」と返された。

「ラルフ様、こういった話は、当人の問題でございます。拗れてもいけませんし、見守りましょう」
「待て待て、これはマル王国の一大事なのだぞ。僕の友好国が困っているのを見過ごすことはできん」

 従者は渋い顔をして黙ってしまった。
 マルは死にはしないが重病で、かつ薬もなくて一大事だそう。
 ラルフは眉間に皺を寄せて考え始めた。
 そうしてしばらく経ったころ、休憩時間を終えたロナウドが屋敷から出てくるのを発見すると、ぐるんとマルへ向く。

「思いついたぞ! 心配するな、マル! 僕にできることがあった! なあに、悪いようにはせんから安心してくれ。テコ入れをしようじゃないか」

 うはは、うははとラルフは笑った。
 半分無邪気に、半分腹黒く。
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