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君が復讐を終えるまで
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「ばいばい。今日という日」
沈みかけの夕日にコルラードが別れを告げる。僕の部屋のベランダに立っている彼の隣に僕も並ぶ。彼は僕に一瞥もせず、ただじっと夕日を眺めている。僕よりも五つ年上のせいか、彼の横顔が少し大人びて見えた。
コルラードは、僕のお世話係兼ボディーガードで、僕の大親友だ。僕が十歳の時、学校の奴らにいじめられているのを助けてくれたのが彼で、それを気に僕らは仲良くなった。その当時、コルラードはとてもお金に困っていたらしく、僕がお父様に頼み込んで彼を雇ってもらったのだ。お父様もその頃は僕に無関心だったから、すぐに承諾してくれた。
日が沈み、翳った彼の顔はどこか遠い目をしている。
「もうすぐ今日が終わる。これで今日という日は永遠に来なくなるんだ」
コルラードは目を細め、意味深な笑顔で僕を見つめる。なんだか僕はその目が怖かった。彼はいつも気さくで、誰にでも好かれるような性格をしている。しかし、今日はなんだか別人のように見える。きっとそれは昨日彼の秘密を知ってしままったからだろう。
すると突然、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「カルロ様。お食事の準備が出来ました」
メイドのジュリアの声だ。僕は室内に戻り、適当な返事をする。夕食のことを考えるだけで、胸に鉛が詰まったような感覚になる。
「さぁ、行こう」
ベランダの扉を閉めながら、コルラードが言う。
「う、うん⋯⋯」
曖味な返事をした僕を不思議に思ったのか、コルラードは僕の顔を覗き込んで、「どうかしたのか」と問う。
本当はコルラードの秘密について考えていたが、それを彼に悟られないようにしなくてはならない。
「いや、やっぱりカルロっていう名前は僕には似合わないなと思って。だって本当はこの名前は兄様のものだし……」
兄様は僕が十一歳の時に自殺した。理由はわからない。兄様はもしかしたら家の跡取りという重圧から逃れたかったのかもしれない。なにせ僕の家はイタリアの中級貴族なのだ。兄さんはまだ社交界にも出ておらず、多くの人に顔が知れ渡っていなかった。それをいいことに、兄様の死後、僕は『跡取り息子のカルロ』として育てられてきたのだ。僕は学校も転校させられ、すべてを偽り、カルロとして生きなくてはいけなかった。
「カルロ。確か由来は、強い男だったな。ははっ、確かにお前には全然似合わない」
コルラードは豪快に笑い、僕を茶化す。僕は彼のこの笑い方が好きだった。この笑顔はいつも僕の心の闇を吹き飛ばしてくれるものだったからだ。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
僕が食堂に着くと、料理が丁度運び終えられた後で、お父様とお母様、そして妹のサーラも席に着いていた。大きく豪勢なテーブルと数多くの椅子には似つかわしくない人数だ。たった四人のために、わざわざ大きなテーブルクロスを毎日洗濯する使用人が気の毒に感じる。
お父様が、後ろに控えていた使用人たちに命じ、彼らは部屋を退出した。
僕の目の前にある、この綺麗な料理はきっとこの食堂に運ぶまでの間に冷めてしまっているのだろう。
「カルロももう十五歳だものね。あと三年で社交界だわ。だから二週間後の手術は絶対成功させなくちゃね」
お母様が肉を丁寧に切り分けながら言う。
お父様はワイングラスをテーブルに置き、口を拭った後、ちらりと僕を一暫する。
「ロンドンへは明日経つのか。リスクの高い手術だが頑張ってきなさい」
「はい。わかっています、お父様」
僕は必死で感情を押し殺した。ここで手術を受けるのが嫌だなんて言えば、僕の居場所はなくなる。僕はこの毎日の夕食の時間が大嫌いだ。二人はいつも僕には重すぎる期待を押し付ける。息が詰まって料理も味がしない。
「私も手術の成功を祈っています、お兄様」
煌びやかなドレスに身を包んだサーラがにっこりと笑う。昔は、かわいいと思っていたサーラの笑顔が今では憎々しい。わざわざ「お兄様」という言葉を強調してきたのも癇に障る。
「お兄様がロンドンへ行っている間はコルラードは私の従者になるのよね」
「もちろんだとも、サーラ」
サーラの無邪気な笑顔に、お父様も愛おしそうに目を細めた。僕にはそんな顔を一度も向けてくれたことがないのに。
サーラはいつも僕から何かを奪っていく。両親からの愛、そして今度はコルラードを奪おうとしている。コルラードに対する過度なスキンシップや、媚びるような声は僕をいつも不快にさせた。
「でも、お兄様がいないとサーラは寂しいです……」
サーラはわざとらしく悲痛な表情を浮かべた。なにを思ってもいないことをぬけぬけと。
僕がロンドンに行っている間に、コルラードの心を自分のものにしてしまおうという魂胆なのだろう。
だけど、コルラードは絶対にサーラの思い通りにはならない。絶対にだ。そう思うと、得意満面でこちらを見ているサーラが少し滑稽に思えた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
重苦しい夕食の時間を終え、僕は自室に戻った。ベッドの近くには明日、ロンドンへ行くための荷物が並んでいる。
間もなくして、コルラードが僕の部屋にやってきた。夕食の後、ベランダで星を眺めるのが僕らの日課なのだ。
「どうしたんだよ。そんな顔をして。もしかして手術が怖いのか? それともまたあの妹に嫌味を言われたのか?」
コルラードはいつもの屈託のない笑顔で笑う。でも僕は知ってしまったのだ。その笑顔には裏があることを⋯⋯。
昨日の午前中、僕はいつものように自主勉強をしていたがどうにも気分が乗らず、屋敷を抜け出し、気分転換のために街に出た。
そこにちょうど、お使い中のコルラードを見つけた。声を掛けようとしたが、僕より先に声を掛けた人物がいた。
「カタリーノ! 久しぶりじゃないか! 僕だよ、昔近所に住んでたディーノだよ。そうだ。妹のアンナは元気にしてる?」
──カタリーノ。
その名を聞いて僕はその場から動けなくなった。
僕はお父様の後継者として、お父様の仕事の資料を見て勉強してきた。その中には、弱みを握られて殺し屋に殺害させた一家の情報もあった。そして、その殺し屋が殺し損ねて行方不明になっていた長男の名前が『カタリーノ』だ。妹の名前も『アンナ』と一致する。偶然の一致ではないはずだ。
コルラードは殺された家族の復讐のために僕に近づいたのだろう。いじめられていた僕を助けたのも計画的だったのかもしれない。
お父様に報告すれば、きっとコルラードは殺されてしまう。それは絶対に避けたい。
かといって直接コルラードに聞いて、今の関係が壊れるのも怖い。僕にとってコルラードは特別だから。
「あっ! 満月だ! ほらみろよ、ソフィーア!」
コルラードは僕を元気付けるように言うと、ベランダの扉を開け、僕の手を引いた。彼が嘘をついていると知っていながら、彼に手を引かれると僕の胸はうるさく鼓動を打つ。
僕にとってコルラードは、この世界で唯一本当の僕の名前を呼んでくれる人。僕が落ち込んでいる時にはいつもその時一番言ってほしい言葉で僕を勇気づけてくれる人。そしてこの世界で最も大切な人だ。
「元気出せよ。サーラの言うことなんて気にするな。それに……俺はその、宝石なんかで着飾るよりも、お前みたいな方がその、シンプルに綺麗だと思うっていうか……」
コルラードは照れたように耳を赤くして頭を搔いた。
彼の言葉がすべて嘘だなんて、想像しまうだけで僕の心は壊れてしまいそうだ。なのに、彼が僕の目の前から消えてしまったら、僕の心はどうなるのだろうか。
だから僕は、すべて知らないふりをすることにした。僕は僕の心を守るために彼の嘘を利用するのだ。
「ねえ、コルラード。僕はやっぱり手術を受けなきゃだめかな。コルラードもロンドンにはついてきてくれないんでしよ」
怪しく光る大きな月光に照らされながら、コルラードに少しの期待を込めて問う。コルラードが僕のことを少しでも想ってくれているなら、この手術は受けなくてもよいと言ってくれるはずだ。
だってこの手術が成功してしまったら、強制的に僕は『ソフイーア』を捨てて『カルロ』にならなくてはいけないのだから。
しかし僕の期待とは裏腹に、コルラードは首を横に振る。
「いいや。お前は明日、行くべきだ。ロンドンに一緒にいけないのも俺はこの屋敷でやることがあるからだ」
僕の両肩に手を置いて、真剣な眼差しで僕を見据える。
どうしてそこまで僕を行かせようとするのか。それは復讐となにか関係があるのか。僕は聞きたくても聞けなかった。
すると、コルラードが突然僕の顔を見つめ、驚いように目を見開き、僕を憐むような顔をする。
そして僕の肩を強く握り、俯いて眉をぎゅっと寄せる。
突然のことにどうしたのだろうかと思ったが、僕は僕の頬にいつの間にか涙が伝っていることに気付いた。それはずっとずっと堪えてきたものだった。
「ごめん。ソフィーア。俺は……。俺は本当はコルラードじゃないんだ」
自分の行いに罪の意識を突然覚えたのか、絞り出したような声でコルラードは言う。 そして彼は縋るように僕の肩に頭を埋めた。
せっかく知らないふりをしているのにどうしてそんなことを言うんだよ、君は。僕は不安で声も出なかった。喉の奥がつんと痛くなって、唾をうまく呑み込めない。
しかし、僕の不安はすぐに消えた。
コルラードは自分の目的を思い出したのか、はっと我に返り、僕の肩から頭と手を放し、いつもの笑顔に戻る。
「なーんてな! 嘘だよ、嘘。ははっ、本気になったか?」
もちろん僕は、冗談めかして「ははっ。なんだよ嘘って!」と彼に返す。
しかしその後にコルラードに対する少しばかりの皮肉と自責の念を込めた言葉を付け加える。
「君は息をするように嘘をつくよね」
皮肉に気づかず、コルラードは「ははっ」と笑う。僕も笑い返す。
ねぇ、コルラード。君が復讐を終えるまで、せめてこうして僕と一緒にいてよ。
沈みかけの夕日にコルラードが別れを告げる。僕の部屋のベランダに立っている彼の隣に僕も並ぶ。彼は僕に一瞥もせず、ただじっと夕日を眺めている。僕よりも五つ年上のせいか、彼の横顔が少し大人びて見えた。
コルラードは、僕のお世話係兼ボディーガードで、僕の大親友だ。僕が十歳の時、学校の奴らにいじめられているのを助けてくれたのが彼で、それを気に僕らは仲良くなった。その当時、コルラードはとてもお金に困っていたらしく、僕がお父様に頼み込んで彼を雇ってもらったのだ。お父様もその頃は僕に無関心だったから、すぐに承諾してくれた。
日が沈み、翳った彼の顔はどこか遠い目をしている。
「もうすぐ今日が終わる。これで今日という日は永遠に来なくなるんだ」
コルラードは目を細め、意味深な笑顔で僕を見つめる。なんだか僕はその目が怖かった。彼はいつも気さくで、誰にでも好かれるような性格をしている。しかし、今日はなんだか別人のように見える。きっとそれは昨日彼の秘密を知ってしままったからだろう。
すると突然、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「カルロ様。お食事の準備が出来ました」
メイドのジュリアの声だ。僕は室内に戻り、適当な返事をする。夕食のことを考えるだけで、胸に鉛が詰まったような感覚になる。
「さぁ、行こう」
ベランダの扉を閉めながら、コルラードが言う。
「う、うん⋯⋯」
曖味な返事をした僕を不思議に思ったのか、コルラードは僕の顔を覗き込んで、「どうかしたのか」と問う。
本当はコルラードの秘密について考えていたが、それを彼に悟られないようにしなくてはならない。
「いや、やっぱりカルロっていう名前は僕には似合わないなと思って。だって本当はこの名前は兄様のものだし……」
兄様は僕が十一歳の時に自殺した。理由はわからない。兄様はもしかしたら家の跡取りという重圧から逃れたかったのかもしれない。なにせ僕の家はイタリアの中級貴族なのだ。兄さんはまだ社交界にも出ておらず、多くの人に顔が知れ渡っていなかった。それをいいことに、兄様の死後、僕は『跡取り息子のカルロ』として育てられてきたのだ。僕は学校も転校させられ、すべてを偽り、カルロとして生きなくてはいけなかった。
「カルロ。確か由来は、強い男だったな。ははっ、確かにお前には全然似合わない」
コルラードは豪快に笑い、僕を茶化す。僕は彼のこの笑い方が好きだった。この笑顔はいつも僕の心の闇を吹き飛ばしてくれるものだったからだ。
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お父様が、後ろに控えていた使用人たちに命じ、彼らは部屋を退出した。
僕の目の前にある、この綺麗な料理はきっとこの食堂に運ぶまでの間に冷めてしまっているのだろう。
「カルロももう十五歳だものね。あと三年で社交界だわ。だから二週間後の手術は絶対成功させなくちゃね」
お母様が肉を丁寧に切り分けながら言う。
お父様はワイングラスをテーブルに置き、口を拭った後、ちらりと僕を一暫する。
「ロンドンへは明日経つのか。リスクの高い手術だが頑張ってきなさい」
「はい。わかっています、お父様」
僕は必死で感情を押し殺した。ここで手術を受けるのが嫌だなんて言えば、僕の居場所はなくなる。僕はこの毎日の夕食の時間が大嫌いだ。二人はいつも僕には重すぎる期待を押し付ける。息が詰まって料理も味がしない。
「私も手術の成功を祈っています、お兄様」
煌びやかなドレスに身を包んだサーラがにっこりと笑う。昔は、かわいいと思っていたサーラの笑顔が今では憎々しい。わざわざ「お兄様」という言葉を強調してきたのも癇に障る。
「お兄様がロンドンへ行っている間はコルラードは私の従者になるのよね」
「もちろんだとも、サーラ」
サーラの無邪気な笑顔に、お父様も愛おしそうに目を細めた。僕にはそんな顔を一度も向けてくれたことがないのに。
サーラはいつも僕から何かを奪っていく。両親からの愛、そして今度はコルラードを奪おうとしている。コルラードに対する過度なスキンシップや、媚びるような声は僕をいつも不快にさせた。
「でも、お兄様がいないとサーラは寂しいです……」
サーラはわざとらしく悲痛な表情を浮かべた。なにを思ってもいないことをぬけぬけと。
僕がロンドンに行っている間に、コルラードの心を自分のものにしてしまおうという魂胆なのだろう。
だけど、コルラードは絶対にサーラの思い通りにはならない。絶対にだ。そう思うと、得意満面でこちらを見ているサーラが少し滑稽に思えた。
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重苦しい夕食の時間を終え、僕は自室に戻った。ベッドの近くには明日、ロンドンへ行くための荷物が並んでいる。
間もなくして、コルラードが僕の部屋にやってきた。夕食の後、ベランダで星を眺めるのが僕らの日課なのだ。
「どうしたんだよ。そんな顔をして。もしかして手術が怖いのか? それともまたあの妹に嫌味を言われたのか?」
コルラードはいつもの屈託のない笑顔で笑う。でも僕は知ってしまったのだ。その笑顔には裏があることを⋯⋯。
昨日の午前中、僕はいつものように自主勉強をしていたがどうにも気分が乗らず、屋敷を抜け出し、気分転換のために街に出た。
そこにちょうど、お使い中のコルラードを見つけた。声を掛けようとしたが、僕より先に声を掛けた人物がいた。
「カタリーノ! 久しぶりじゃないか! 僕だよ、昔近所に住んでたディーノだよ。そうだ。妹のアンナは元気にしてる?」
──カタリーノ。
その名を聞いて僕はその場から動けなくなった。
僕はお父様の後継者として、お父様の仕事の資料を見て勉強してきた。その中には、弱みを握られて殺し屋に殺害させた一家の情報もあった。そして、その殺し屋が殺し損ねて行方不明になっていた長男の名前が『カタリーノ』だ。妹の名前も『アンナ』と一致する。偶然の一致ではないはずだ。
コルラードは殺された家族の復讐のために僕に近づいたのだろう。いじめられていた僕を助けたのも計画的だったのかもしれない。
お父様に報告すれば、きっとコルラードは殺されてしまう。それは絶対に避けたい。
かといって直接コルラードに聞いて、今の関係が壊れるのも怖い。僕にとってコルラードは特別だから。
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コルラードは僕を元気付けるように言うと、ベランダの扉を開け、僕の手を引いた。彼が嘘をついていると知っていながら、彼に手を引かれると僕の胸はうるさく鼓動を打つ。
僕にとってコルラードは、この世界で唯一本当の僕の名前を呼んでくれる人。僕が落ち込んでいる時にはいつもその時一番言ってほしい言葉で僕を勇気づけてくれる人。そしてこの世界で最も大切な人だ。
「元気出せよ。サーラの言うことなんて気にするな。それに……俺はその、宝石なんかで着飾るよりも、お前みたいな方がその、シンプルに綺麗だと思うっていうか……」
コルラードは照れたように耳を赤くして頭を搔いた。
彼の言葉がすべて嘘だなんて、想像しまうだけで僕の心は壊れてしまいそうだ。なのに、彼が僕の目の前から消えてしまったら、僕の心はどうなるのだろうか。
だから僕は、すべて知らないふりをすることにした。僕は僕の心を守るために彼の嘘を利用するのだ。
「ねえ、コルラード。僕はやっぱり手術を受けなきゃだめかな。コルラードもロンドンにはついてきてくれないんでしよ」
怪しく光る大きな月光に照らされながら、コルラードに少しの期待を込めて問う。コルラードが僕のことを少しでも想ってくれているなら、この手術は受けなくてもよいと言ってくれるはずだ。
だってこの手術が成功してしまったら、強制的に僕は『ソフイーア』を捨てて『カルロ』にならなくてはいけないのだから。
しかし僕の期待とは裏腹に、コルラードは首を横に振る。
「いいや。お前は明日、行くべきだ。ロンドンに一緒にいけないのも俺はこの屋敷でやることがあるからだ」
僕の両肩に手を置いて、真剣な眼差しで僕を見据える。
どうしてそこまで僕を行かせようとするのか。それは復讐となにか関係があるのか。僕は聞きたくても聞けなかった。
すると、コルラードが突然僕の顔を見つめ、驚いように目を見開き、僕を憐むような顔をする。
そして僕の肩を強く握り、俯いて眉をぎゅっと寄せる。
突然のことにどうしたのだろうかと思ったが、僕は僕の頬にいつの間にか涙が伝っていることに気付いた。それはずっとずっと堪えてきたものだった。
「ごめん。ソフィーア。俺は……。俺は本当はコルラードじゃないんだ」
自分の行いに罪の意識を突然覚えたのか、絞り出したような声でコルラードは言う。 そして彼は縋るように僕の肩に頭を埋めた。
せっかく知らないふりをしているのにどうしてそんなことを言うんだよ、君は。僕は不安で声も出なかった。喉の奥がつんと痛くなって、唾をうまく呑み込めない。
しかし、僕の不安はすぐに消えた。
コルラードは自分の目的を思い出したのか、はっと我に返り、僕の肩から頭と手を放し、いつもの笑顔に戻る。
「なーんてな! 嘘だよ、嘘。ははっ、本気になったか?」
もちろん僕は、冗談めかして「ははっ。なんだよ嘘って!」と彼に返す。
しかしその後にコルラードに対する少しばかりの皮肉と自責の念を込めた言葉を付け加える。
「君は息をするように嘘をつくよね」
皮肉に気づかず、コルラードは「ははっ」と笑う。僕も笑い返す。
ねぇ、コルラード。君が復讐を終えるまで、せめてこうして僕と一緒にいてよ。
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