上 下
13 / 17
アメリア編

1

しおりを挟む
 私の母は身体が弱かった。それでも母は編み物などで収入を得て、私を養ってくれた。裕福な暮らしではなかったが、私は幸せだった。
 父はいなかった。父のことを聞くと、母はいつも暗い表情になる。聞いてはいけないことなんだと幼いながらに感じ取っていた。

「ベイリー。髪が伸びてきたんじゃないの? それに毛の色も」

 母さんが、暖炉の前のゆりかごに腰掛けながら手招きする。
 母さんは、昔から私に男のふりをしろと言ってきた。髪は短く、毛の色はブラウン。それが、この家のルールだ。
 私の髪の色は薄い桃色だ。平民は、ブラウンやブロンドが多く、貴族は派手な色の髪色が多い。この辺りで、薄い桃色の髪といえば、キース男爵家だ。その領主は私の住む町の神父でもある
 神父は月に一度この家にやってくる。その時私は部屋に隠される。だけど、神父が母さんに何をしているのかはだいたい想像がついた。

 この世に神なんていない。いたら、こんなやつが聖職者だなんておかしいし、母さんみたいに搾取される人間はいないはずだ。


「待てよ! ルカ」
 
 幼馴染であるルカの背を追いかける。ルカの境遇は私とよく似ていた。ルカは、女の子のふりをして生きていた。
 艶やかな長い黒髪に深い青の瞳。どこからどう見ても完璧な美少女だ。
 ルカの母親はある公爵家の侍女だったらしい。あまり詳しくは知らないが、公爵家から逃げてきて、身を隠しているということだけはわかっていた。
 お互い隠し事が多い私たちは、すぐに仲良くなり、共に遊んだ。

 ルカは、芝生に座り込み、膝を抱えた。

「いつまでこんなこと続けなくちゃならないんだろう」

 ルカの大きな瞳に涙が浮かぶ。

「ずっとだよ。母さんと幸せに暮らしたいだろ。俺たちはこうやって生きるしかないんだよ」
「ぼくらはなんにもしてないのに、隠れるなんて変だよ」
「しょうがないだろ。そういう世の中なんだから」

 私も隣に座り、ルカの頭に手を置く。
 空には、大きな鳥が優雅に羽ばたいていた。私の世界はなんて狭いんだと思った。

 変わらない幸せを願いつつ、どこかで何かが起こってほしいとずっと思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?

如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。 留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。 政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。 家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。 「こんな国、もう知らない!」 そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。 アトリアは弱いながらも治癒の力がある。 子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。 それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。 「ぜひ我が国へ来てほしい」 男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。 「……ん!?」

婚約破棄された令嬢は森で静かに暮らしたい

しざくれ
恋愛
ソフィアは家族にも周囲にも疎まれて育った。それは妹が光の聖女に選ばれたから。公爵家に産まれているのになんの才能もないと蔑まれていたのだ。 そして、妹に惚れ込んでいる第二王子であり、ソフィアの婚約者の男から婚約破棄を受けた時、ソフィアは意を決する。 「家を出よう」 そう決めたソフィアの行動は早かった。16を数えたばかりのソフィアは家を出た。そして見つけてしまった。『伝説の魔女』と呼ばれた稀代の英傑を。 それから20歳になる。 師匠と崇めた老婆が死に、ソフィアは育った森で、弱った冒険者を助けたり、時に大疫病に効く薬を作ったりと活躍をする……。 そんなソフィア宛に、かつて婚約破棄をした王子や、その国からの招待状やらが届く。もちろん他の国からも。時には騎士達も来るが……。 ソフィアは静かに森で暮らしてたいだけなのだが、どうも周囲はそうさせてくれないよう。 イケメンに化けるドラゴンさんも、そんなソフィアを脅かす一人なのだ。

〖完結〗醜い聖女は婚約破棄され妹に婚約者を奪われました。美しさを取り戻してもいいですか?

藍川みいな
恋愛
聖女の力が強い家系、ミラー伯爵家長女として生まれたセリーナ。 セリーナは幼少の頃に魔女によって、容姿が醜くなる呪いをかけられていた。 あまりの醜さに婚約者はセリーナとの婚約を破棄し、妹ケイトリンと婚約するという…。 呪い…解いてもいいよね?

大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?

サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

婚約破棄された聖女なご令嬢はざまぁよりも滅びゆくこの国から一目散で逃げ出したい

きんのたまご
恋愛
この国の聖女で公爵令嬢のパメラリアは真実の愛を見つけた婚約者の第1皇子から婚約破棄された。 今までは婚約者がいたからこの滅びゆく国を一生懸命護っていたけれど…婚約破棄されたならもう私にこの国を護る義理は無い! 婚約破棄されたらざまぁしないと?そんな事知りません!私はこんな国からさっさと逃げ出します!

処理中です...