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アメリア編
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私の母は身体が弱かった。それでも母は編み物などで収入を得て、私を養ってくれた。裕福な暮らしではなかったが、私は幸せだった。
父はいなかった。父のことを聞くと、母はいつも暗い表情になる。聞いてはいけないことなんだと幼いながらに感じ取っていた。
「ベイリー。髪が伸びてきたんじゃないの? それに毛の色も」
母さんが、暖炉の前のゆりかごに腰掛けながら手招きする。
母さんは、昔から私に男のふりをしろと言ってきた。髪は短く、毛の色はブラウン。それが、この家のルールだ。
私の髪の色は薄い桃色だ。平民は、ブラウンやブロンドが多く、貴族は派手な色の髪色が多い。この辺りで、薄い桃色の髪といえば、キース男爵家だ。その領主は私の住む町の神父でもある
神父は月に一度この家にやってくる。その時私は部屋に隠される。だけど、神父が母さんに何をしているのかはだいたい想像がついた。
この世に神なんていない。いたら、こんなやつが聖職者だなんておかしいし、母さんみたいに搾取される人間はいないはずだ。
「待てよ! ルカ」
幼馴染であるルカの背を追いかける。ルカの境遇は私とよく似ていた。ルカは、女の子のふりをして生きていた。
艶やかな長い黒髪に深い青の瞳。どこからどう見ても完璧な美少女だ。
ルカの母親はある公爵家の侍女だったらしい。あまり詳しくは知らないが、公爵家から逃げてきて、身を隠しているということだけはわかっていた。
お互い隠し事が多い私たちは、すぐに仲良くなり、共に遊んだ。
ルカは、芝生に座り込み、膝を抱えた。
「いつまでこんなこと続けなくちゃならないんだろう」
ルカの大きな瞳に涙が浮かぶ。
「ずっとだよ。母さんと幸せに暮らしたいだろ。俺たちはこうやって生きるしかないんだよ」
「ぼくらはなんにもしてないのに、隠れるなんて変だよ」
「しょうがないだろ。そういう世の中なんだから」
私も隣に座り、ルカの頭に手を置く。
空には、大きな鳥が優雅に羽ばたいていた。私の世界はなんて狭いんだと思った。
変わらない幸せを願いつつ、どこかで何かが起こってほしいとずっと思っていた。
父はいなかった。父のことを聞くと、母はいつも暗い表情になる。聞いてはいけないことなんだと幼いながらに感じ取っていた。
「ベイリー。髪が伸びてきたんじゃないの? それに毛の色も」
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母さんは、昔から私に男のふりをしろと言ってきた。髪は短く、毛の色はブラウン。それが、この家のルールだ。
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私も隣に座り、ルカの頭に手を置く。
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