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フランシス編

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 俺の父は、この国の皇帝陛下だ。
 俺は幼い頃から皇太子として完璧を求められてきた。

 カトリーヌと初めて会ったのは、俺の5歳の誕生日の時だった。
 透き通るような白い肌に銀の髪、そしてアクアマリンのような瞳。彼女は恥ずかしいのか、シャロン夫人の後ろに隠れてモジモジとしていた。
 俺は、そんな彼女に手を差し出した。
「一緒に遊ぼう」と言うと、彼女は頬をピンクに染めて目を輝かせた。俺はこの時、彼女を永遠に守ると誓った。

 しかし、いつからか俺は彼女に手を差し伸べることができなくなっていた。彼女は俺の助けなんて必要ないように見えたのだ。
 なんでも完璧にこなし、俺はいつも彼女を見習うように言われた。最初は、彼女のことが誇らしかったが、いつのまにかそれは嫉妬に変わっていった。

 なんでも完璧を求めるようになってから、カトリーヌの笑顔は減った。それがまた俺の癇に障った。愛嬌のない女性は見ていてつまらなかった。

 カトリーヌが俺を支えれば支えるほど、俺の首は締まっていく。
 口を開けば、彼女に嫌味しか言えなくなっていた。俺がどれだけ罵っても、彼女は表情ひとつ変えなかった。それがまた腹立たしかった。

 彼女には何を言っても許されるんだと思った。彼女は人形のように心がないのだ。昔、頬をピンクに染めて笑っていた彼女はもういない。
 それに、なんでも完璧にこなして俺に見せつけてくるのは、自分が目立ちたいからだろう。彼女が目立つのだけは俺のプライドが許さなかった。
 
 だから俺は、彼女を完全に俺のシャドウにしようと思った。生徒会長としての仕事や、その他諸々なんでもカトリーヌにやらせた。彼女は、どれだけ無理を言っても眉ひとつ動かさず、淡々とこなした。正直、使えると思った。俺も彼女に対しては、なんの感情も抱かなくなっていたのだ。

 そんな時、出会ったのがアメリアだった。 
 彼女は、聖女だということが発覚し、途中入学してきたキース男爵家の三女だった。アメリアは、俺の話を親身に聞いてくれて、俺が今一番欲しい言葉を与えてくれた。俺にとって彼女は女神のような存在だった。
 カトリーヌとは大違いだ。アメリアみたいな女性が妻だったらどんなにいいか。
 そう思っていた矢先、お父様が俺と聖女が婚約すれば万事解決だと話しているのを聞いてしまった。
 
 そこで俺は、カトリーヌとは婚約破棄し、アメリアと婚約することを決意した。
 アメリアに婚約のことを話そうかと悩んでいると、アメリアがぽつりと言葉を漏らした。

「フランシス様が婚約破棄したら、結婚できるのになぁ」

 消え入るような声だったが、俺の耳には届いた。彼女も俺のことを想っていたのだ。
 ならば、カトリーヌと婚約破棄した直後、アメリアに婚約を申込み、彼女を驚かせてやろう。

 俺はお父様に、アメリアと婚約したいからカトリーヌとの婚約破棄を提案すると、お父様は大喜びした。お父様が、俺にこんな表情を向けたのはその時が初めてだった。
 
 カトリーヌも、この国のためだとわかってくれるだろう。だって彼女は血も涙もない人形なのだから。俺の言うことには従うはずだ。

 執事に、ダイヤモンドの婚約指輪を用意させ、準備万端だった。きっとアメリアは喜んでくれる。

 友人のアーネスト・ゲルハルトの助言もあり、婚約破棄は大々的に教室で行うことにした。カトリーヌが恥をかいて、表情を崩すところを見てみたかった。

 俺は、その日が待ち遠しくて仕方がなかった。
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