婚約破棄が私を笑顔にした

夜月翠雨

文字の大きさ
上 下
6 / 17
カトリーヌ編

5

しおりを挟む
「女性同士が前代未聞だという話ですか? それなら大丈夫です。前例がないなら私から始めればいいだけの話ですから。なんたって私は、アルス帝国の聖女ですし。神の声を聞き、神に最も近しい存在である私・・・・・・・・・・・・・に、何か意見がありますか?」
 
 フランシスはぐぬと押し黙った。

 アルス帝国では、神託を神から授かり、それを伝える聖女は、いわば神の代理人だ。当然、聖女は民衆の信仰の対象にもなる。そして、アメリアは人の傷を治すこともでき、今まで多くの人の傷を治してきたため、国民からの信頼も厚い。

 この国で彼女の発言は強い影響を及ぼすのだ。
 だから、皇帝側は彼女を取り込みたかったし、フランシスもあまり強く出ることができない。

「じゃあどうしろと言うんだっ!? 俺の両親はもう君と結婚すると思ってるっ! 君はもう俺のものだと思ってたから!」
「それは私が知ったことではありません。ま、教会も私に何か言ってくるかもしれませんが、もう従う必要はありませんから」
「いいのか? 俺ならキース男爵家に圧力をかけることだってできるんだぞっ!」

 公衆の場でのこの発言には私も驚いた。さすがのアメリアも驚いたらしく、目をキョトンとして口角をひくひくさせていた。彼女もフランシスの滑稽な姿がおかしくてたまらないんだろう。
 
 周りの生徒たちもざわつき始める。フランシスがこのように公の場で、恥ずかしい発言をしそうになっていたことはよくあった。その時は、いつも私がフォローしていた。
 だけどもう、今は彼がどれだけ恥をかいても焦らない。むしろ、今は楽しんでこの様子を見守っている。

「キース男爵家を潰したいならご勝手に。私は彼らの本当の娘ではありませんし、平民の子供というだけで家では辛くあたられましたから」

 そう冷たく言い放つと、彼女はツカツカと私のほうへ近づいてくる。

 口元には微笑を称え、唖然とやりとりを見守っていた私に、細くて綺麗な手を差し出した。

「さぁ、行きましょう」
「え?」

 戸惑う私をよそに、彼女は私の手を取って教室を出て行こうとする。彼女の手は小さく震えていた。

 堂々としているように見えるアメリアも、本当は少し怖かったのかもしれない。

 たくさんの目がこちらを見ている。

「まて、話はまだ終わっていない」

 フランシスが私たちの前に立ち塞がる。アメリアは笑みを崩し、彼を睨みつけた。
 私は彼女の震える手をぎゅっと強く握る。

「どいてください」

 私も彼を睨んだ。彼を見上げるのは、思ったよりも辛くはなかった。アメリアがしっかりと手を握ってくれていたからかもしれない。

「いや、退かない。カトリーヌ、悪かった。俺が悪かったからこっちへおいで。婚約破棄なんて間違ってた。謝るよ」
「は?」

 本気で言ってるのかこの男は。
 アメリアとの結婚が難しそうだからといって、すぐに手のひらを返すとは。私のことを舐めているのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

「婚約破棄、ですね?」

だましだまし
恋愛
「君とは婚約破棄をする!」 「殿下、もう一度仰ってください」 「何度聞いても同じだ!婚約を破棄する!」 「婚約破棄、ですね?」 近頃流行りの物語にある婚約破棄騒動。 まさか私が受けるとは…。 でもしっかり聞きましたからね?

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す

千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。 しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……? 貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。 ショートショートなのですぐ完結します。

処理中です...