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カトリーヌ編

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「婚約はお断りします」

 そう言ってアメリアはフランシスからの贈り物であるダイヤモンドの指輪を地面に叩きつけた。
 
 一同がそれを驚愕の表情で見守っていた。中でもフランシスは、何が起こったかわらないという様子で、大口を開けて彼女を見ていた。突然、パンチを食らった人のような顔だ。

「い、今なんて……?」

 やっとのことで絞り出したフランシスの声は掠れていて、また私の中で笑いの種がポンポンと弾け出して、必死でこらえた。どうやら私は滑稽なフランシスの姿がツボらしい。

「だから、婚約はお断りすると言ったんです。なぜ、断られるかもしれないということを念頭に置かずに、公の場で言ったのか理解不能ですね~」

 口調こそは穏やかだが、そこにはひんやりとした怒気が含まれていた。

「いや、でも君は僕のことを愛してるだろう!?」
「いいえー? そんなこと言った覚えはありませんが?」
「だって、婚約破棄しないと結婚できないなって君が言ったじゃないか!?」

 アメリアは、右頬に手を当てて「あぁ~」と呑気に頷いた。

「まぁ、たしかに言いましたねぇ」

 その言葉を聞いて安堵の表情を浮かべるフランシスに対して、アメリアの口角が初めて下がった。

「ですが、誰もフランシス様と、とは言っていません。私が結婚したいのはカトリーヌ様だからっ!!」

 穏やかなアメリアとは思えないほど熱のこもった声が教室に響き渡った。見物者たちは、一瞬黙り込んだが、すぐに私の方を見てざわつき始めた。

 いや、驚いてるのは私の方ですけどっ!
 今、なんて言った? アメリアが私と結婚したいだって? 意味がわからない。

 突然、話の輪の中に呼び戻された私は話についていけず頭を抱えた。それは、フランシスも同じだったようで、肩をすくめて変な顔でキョロキョロと周りを見渡すという奇行に出ていた。 

「なっ!? シャロン嬢と!? 意味がわかりませんね」

 取り巻きの一人である、副会長のラウルが言った。青味がかったオカッパの髪を振り乱し、ずれたメガネをずいと持ち上げた。
 この意見に対しては私も同じ思いだ。

「言葉の通りですよ? 私は誰と結婚したいかなんて言ってもないのに、フランシス様が勝手に勘違いして婚約破棄したんですよ。まっ、私にとっては好都合なことですけど」
「勘違いなんかじゃないだろ! それに女性同士の結婚だなんて……」

 フランシスは嘲笑うようにアメリアを見下す。結局は、自分が愛するアメリアに対してもこの態度なのだ。
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