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一章

スキルを使ってみましたが

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 なんだこの死んだ魚みたいな眼は。少なくともFNOでのアリアはもっとこう――キラキラと輝く純粋無垢な瞳をしていた。決してこんな、目付きの悪いやさぐれた不良児みたいな眼をしていない。

 というか、これは俺の眼だった。誰がやさぐれた不良児みたいな眼だ。社会の荒波に揉まれ達観した眼と言え。
 しかし、どうやら中の人が変わると目付きまで変化してしまうらしい。これはFNOの【拳王】アリアの中身が俺になった代償なのか。代償って言っちゃったよ。

 だが、実際うら若い少女――しかもちょっと例を見ないくらいの美人が死んだ魚みたいな無気力な眼をしている姿は色々と台無しである。かと言って綺麗な眼になるよりはこっちの方が元の俺の要素が多少なりともあって親しみが持てるのかもしれないが。

 それにしても、本当にFNOのアリアになってしまったんだなと改めて実感した。
 再び覗き見た丸鏡に映る少女は、その腐った眼以外はゲーム画面で何度も見たアリアの姿そのものだ。

 そこでふと思う。仮にこれがFNOで使っていたアリアの身体そのものだとしたら――まさか能力スキルもそっくりそのままなのか?

「……試してみるか」

 僅かな逡巡の果て、俺は真実の写し鏡をストレージに戻すと右足を前に、左足を後ろに――典型的なスタンディングスタートの形を取る。
 今から俺が試みるのは、MP0の拳王が行使できる数少ないスキルの一つ【電光石火】だ。

 一定距離を瞬間的な移動で、戦闘時の緊急回避を主に使われたこの技は使用したプレイヤーのAGI敏捷に比例して瞬間に移動する距離も増えるので敏捷特化の拳王とは非常に相性が良く俺が愛用していたスキルの一つだったが果たして。

 一息吐くと俺は前傾姿勢で一歩前に踏み出す。モーションではこれで正しいはずだが――。

 直後――突然、背中に突風が叩きつけられたような凄まじい衝撃に俺は仰け反った。

「うぉあっ!?」

 平衡感覚をなくした俺はそのまま訳もわからずぶっ飛んだ。けたたましい衝突音と共に何度かの衝撃が俺の身体を襲い。最後にしたたかに背を打ち付けて俺は地に不時着する。

「いった……あ?」

 ちかちかする視界に涙目になりながらも俺が見た光景は何十メートルにも渡って抉れた地面と、その直線上にあった木々が余すことなく根本からへし折れている凄絶な景色だった。
 マッジかよ! ただの移動スキルでちょっとした災害起こすとか俺TUEEEEEE! テンション上がってキター!

 ……そんなわけなかろうです。
 自分の引き起こしたことながら割りとガチでドン引きだった。上位スキルとか怖くてもう使えねぇわ。同じ理由で初期スキルも封印した方がいいかも知れない。

 ぷすぷすと摩擦熱らしきもので焦げた煙を上げる地面を一瞥して俺は痛む背を擦りながら立ち上がってそう考えた。
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みんなの感想(1件)

yuuki
2016.07.11 yuuki

これからの続きや展開を楽しみにしてます
頑張ってください

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