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004:秘密
しおりを挟む「んぅーーん」
都市アーロンに着いて翌日、勉はまだソファーの中に沈んでいた。昨夜は異世界に来てから初めての夜であり、すぐさま夢の中に落ちていった……っということにはならず、ララと同室ということでテンパってろくに眠れていなかった。
『えーっと、ベットが一つしかないけどどうしようかなぁ』
『……………』
昨晩の基本無言の同室者には本当に困った。十代前後っぽいということで一緒に寝ていいかどうか微妙なところだし、本人に聞くにも聞けないということもあった。
いやぁーーーーー
さーて、なんで俺がこんな思いしなきゃいけないのかなっと言いたいところだが、さすがに幼子相手に癇癪を起こしても大人気ないので我慢我慢していた。
『…………』
『おっほん。じゃあ先に寝るからね~』
わざとらしくそう言ってベットではなくソファーの上に横になる。もー仕方ないじゃん、自分だけベットに寝るわけにはいかないんだから。っと思いながら。
で、現在に至る。
もう少し寝たかったのだが、睡魔に抗(あらが)うために勢いよく跳ね起きる。
「あっ……!」
うーん。まあ、あった時からなんとなく分かってはいたがーーーー
「ごめんごめん。後ろ向いとくから」
ふぅーーう。
こっちもいろいろな考えなきゃいけない、か。
「もう、………大丈夫、です」
許可が下りたので振り向く。疑惑の目だ。
「いやー、ごめんね。着替えてるとは思わなくてね」
なんとなーく、しらばっくれてみた。
「……見ましたか?」
先ほどとは違って力強い目線。
「い、いや。見てないよ」
明らかな動揺。
「もう、いいんです。見られても。薄々は分かっていらしたようなので………」
そう言って服をはだけるさせて背中を見せる。
「……奴隷か」
「…………やはりご存知でした、か」
別段、勉が知っていたわけではない。しかし、見たものの大半はその人物がどういう環境で生活していたのか分かってしまうだろう。
鎖の描かれた焼印。ところどころにあるおびただしい数の古傷。それが、幼い少女の背中に映し出されていた。
「私を、捨てますか?」
「えっ?」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。『捨てる』という言葉がどれほどの意味を持つち、どれほどの覚悟で発したものかも。
「………捨てないのですか?」
二度目の問いかけ。勿論、勉に捨てる気は更々ない。だが、ここでそれを言っても無意味とまでは言わないが、あまり良い選択ではないだろう。
なぜなら、勉はこの世界を知らなすぎる。文化、技術、教育、社会情勢。何の知識もないこの状態で何ができるだろうか。
確かに現代日本で生活してきた者からすれば、傷ついた少女を保護することに異論の余地などありはしないだろう。
しかし、この世界では奴隷の地位は案外高いかもしれない。もしくは、ララのように虐げられるのが当たり前なのかもしれない。
そんな状態で安易に『捨てませんよ』と一時の感情に流されて養い、後からやっぱりダメでしたなんてことになったら目も当てられいことは勉も分かっている。
「…………」
どうするどうする!?何か話さないといけないこと分かっている。だが、何を話せばいい。こんな可憐な少女に現実を教えてやればいいのか?いや、それは否だ。その少ない人生で俺なんか比較にならないほどの辛い経験をしていたはずだ。そんな相手に現実を教える?ふざけんじゃねー。そんなことできるわけねーだろうが。
まあ、少し落ち着こう。ふうーはぁ。冷静にならなければ良い考えも浮かばない。しっかりとしなければ。
トントントン
「…………」
ドンドンドン
「おい、起きてるか?面会時間だ。さっさと出てこい」
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