上 下
3 / 8

003:戦闘都市アーロン

しおりを挟む
「ここで雇われる気はないか?」

ベルジット王国、戦闘都市アーロン。
人口約5万人にして王国最南端にある辺境。治めているのはトレヴァー・ウィル・ヴィリアーズ辺境伯。爵位が辺境伯となっているものの、二年前までは公爵という元王族。現在は爵位を息子に譲り、ついでに王族も辞め、自ら辺境に赴いたという変わり者。

そんな変わり者の治める都市の中心部にある壮大な屋敷の一室に4人の人物が高級感あふれるソファーを挟んで対峙していた。

一人は全身を漆黒に染めた少年。この世界では珍しく黒目黒髪の整った顔をしており、隣に座る少女を落ち着かせるように手を握っている。

対する向かい側には華美とまではいかないが、しっかりとした生地を使用しているのが素人の目にもわかる服を着た三十代後半の強面の男。どっしりと構え何の気負いも感じられないことからも、ここの主人であることを感じさせられる。

その後ろでは前に座っている者を守るかのように軍隊も顔負けの直立不動の姿勢ををとっている二十代前半と思われる男が立っている。動きの素早さを重視した何らかの皮をレザーアーマーとして身につけ、腰には鞘に収められた剣を下げており、いつでも抜けるようにしているのがわかる。

「ここで雇われる気はないか?」

二度目の勧誘。

そう、今、絶賛勧誘され中だ。

何故こんな事になっているのかというと、大通りに出た途端に甲冑に身を包んだ騎士らしきお方々に捕らえられてしまったからだ。対応は丁寧だったが。
なんでも、足取りや、振る舞いが普通の人間とは隔絶したほどの強者のオーラを放っていたらしい。
はっきり言って『そんなこと知るか!』っと一喝したかったのだが、そこまでメンタル面が強くないのでなすがまま。
まあ、俺としてはバリッバリのオーラを放つ気は全くなかったんだが……、予想としては片手剣スキルの所為だと思ってはいる。

しかし、これはどうしたものか。別段雇われる事に異存はない。俺は金を持っていないし、今日寝るべき宿もない。だからとは言わないが、この提案は俺にとってメリットであると思う。二つの懸念さえなければ。

一つ目は、ララについてだ。俺の事は雇うといっていたが、ララをここに置いてくれるという保証はない。まあ、俺が頼めば置いてくれそうな気はするが……。

もう一つは、目の前の人物の信用性だ。なんというか、俺の感からしてどうにも裏があるような気がする。そんな事を気にしていたらきりがないという事も分かってはいるがどうにもきな臭い。
もしかしたら、俺が強者という事で寝込みを襲ってくるかもしれないし、ララを人質に取ってくるという可能性もある。

それ以前に実力も見ずに雇おうと普通思うかね。もし俺が他国の間者とかだったらどうするのだか。まあ、その辺は知った事ではないが。

取りあえず言質を取られないように様子見ですかね。

「なぜ、私を雇おうと?」

とりあえずは会話だ、会話。スキンシップは世界をつなぐぜ。

「ふはははははぁ!いや、すまない。まさかそのような事を聞いてくるとは予想外だ。君は分かっているのかね。その力を。ここは辺境でね、強者が多く集まる……っと言うべきか、強者しか生き残れない。そんな場所で君は別格なのだよ。私も昔はそこそこ戦場で名を馳せていたんだが、君以上の人物は見た事がない。君を連れてきた中に他とは少し装備が違った者がいたと思うんだが……まあ、私の息子なんだが、私の部屋をノックもせずに飛び込んできて、ぜひ会わせたい奴がいるといってきた時は何事かと思っていたんだが、私は君に会えて幸運だよ。えーっと……なぜ君を雇おうと思ったかだったね。それは君が強者だからだ。それだけだよ。」

いやいやいや、いきなり何を言っていらっしゃるのでしょう。俺はそんな大層な者ではないのですが、買いかぶりすぎです。っというか顔と口調が似合わなすぎです。
さて、一応俺を雇う気はあって害する気はない……っと思いたい事は分かった。
あとは、ララの事だな。まあ、断られたら出ていけばいいだけだしサクッといちゃいますか。

「わかりました。それではこれからよろしくお願いします」

「そうかそうか。では、あとはこの者にいろいろと聞いてくれればいい。私は少し仕事が残っているのでね。失礼させてもらうよ。」

そう言って後ろの方で控えていた男に促す。

 「あ、あの………」

まだララの事を聞いていんですが……、少し気が早くないですか?

「そういえば言っていなかったね。私はここら一帯を治めている領主のトレヴァー・ウィル・ヴィリアーズだ。おっと、何か言いたそうだが、あとはこのジル君に聞いてくれればいいからね。」

そう言ってトレヴァーは出て行った。


……気まずい。

トレヴァーが出て行った後、静かな沈黙がこの場を支配する。相変わらず、ジルと呼ばれた青年は直立不動のままだ。
こちらから話しかけるしかないか………

「えーっと、ジルさん……ですよね」

「ジルバートだ」

「………ジルバートさんにお聞きしたい事があるのですが、私の横にいる連れはどうすればいいでしょうか?」

「………勝手にしろ」

はいはい。勝手にさせてもらいますよーだ。
で、今からどうするの?

「ついて来い」

ひぇ~。絶対怒ってますよねジルさん。心の中ではジルさんと呼ばせてもらいますよ。

「早くしろ」

こういうのがツンデレっていうのかね。……デレてはいないか。
これ以上怒られる前について行きますか。
っというか、どこに連れていかれるのだろうか。まあ、ここでそれを聞いたら『黙れ』とか言われそうだけど。

そんなこんな考えている内にある扉の前に着いた。
現代日本の扉とは違い、めちゃくちゃ金をかけた部屋ですって感じが滲み出ている。

この部屋に入るのか………。

「入れ」

はい、入ります。今すぐ入ります。だからそんなに怒らないで!小心者の俺には精神に多大なダメージを受けてしまいます。

「ぅわーーー。」

入った途端に分かってしまった。ここはヤバい。庶民は絶対に入ってはいけない領域だ。部屋にある調度品は素人の目にも高価だと理解させられる。

「では、私はこれで」

あー、何の説明も無しに出て行ってしまうのですか。

はぁ………

「それと明日の早朝、トレヴァー様との面会がある。私が迎えに来るまでに準備しておくように」

そう言って、今度こそ退室していった。



結局、名前すら聞かれなかったな………。


ちなみに夕飯は白パンと塩味に効いたスープ、煮魚、野菜サラダだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

魔性の悪役令嬢らしいですが、男性が苦手なのでご期待にそえません!

蒼乃ロゼ
恋愛
「リュミネーヴァ様は、いろんな殿方とご経験のある、魔性の女でいらっしゃいますから!」 「「……は?」」 どうやら原作では魔性の女だったらしい、リュミネーヴァ。 しかし彼女の中身は、前世でストーカーに命を絶たれ、乙女ゲーム『光が世界を満たすまで』通称ヒカミタの世界に転生してきた人物。 前世での最期の記憶から、男性が苦手。 初めは男性を目にするだけでも体が震えるありさま。 リュミネーヴァが具体的にどんな悪行をするのか分からず、ただ自分として、在るがままを生きてきた。 当然、物語が原作どおりにいくはずもなく。 おまけに実は、本編前にあたる時期からフラグを折っていて……? 攻略キャラを全力回避していたら、魔性違いで謎のキャラから溺愛モードが始まるお話。 ファンタジー要素も多めです。 ※なろう様にも掲載中 ※短編【転生先は『乙女ゲーでしょ』~】の元ネタです。どちらを先に読んでもお話は分かりますので、ご安心ください。

受験生でしたが転生したので異世界で念願の教師やります -B級教師はS級生徒に囲まれて努力の成果を見せつける-

haruhi8128
ファンタジー
受験を間近に控えた高3の正月。 過労により死んでしまった。 ところがある神様の手伝いがてら異世界に転生することに!? とある商人のもとに生まれ変わったライヤは受験生時代に培った勉強法と、粘り強さを武器に王国でも屈指の人物へと成長する。 前世からの夢であった教師となるという夢を叶えたライヤだったが、周りは貴族出身のエリートばかりで平民であるライヤは煙たがられる。 そんな中、学生時代に築いた唯一のつながり、王国第一王女アンに振り回される日々を送る。 貴族出身のエリートしかいないS級の教師に命じられ、その中に第3王女もいたのだが生徒には舐められるばかり。 平民で、特別な才能もないライヤに彼らの教師が務まるのか……!? 努力型主人公を書いて見たくて挑戦してみました! 前作の「戦力より戦略。」よりは文章も見やすく、内容も統一できているのかなと感じます。 是非今後の励みにしたいのでお気に入り登録や感想もお願いします! 話ごとのちょっとしたものでも構いませんので!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...