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クイズをすることにしました(前)
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「まだですかねぇ、キョウ先輩」
「もうすぐ来るでしょう。焦ってもいいことないわよ」
「含蓄ですねぇ、バラ先輩は」
ある日の放課後の雑談部。
部室にいる人数は2人だが、どちらも女子の制服を着用している。
一人は普段から雑談部を利用している華薔薇。
もう一人は日輪高校の女子制服を着用している学生。中性的な顔立ちながら、瞳の奥に好奇心を隠している。
人懐っこい表情もありつつ、人を突き放す表情も見せている。第一印象が裏切られる見た目と性格の持ち主。
「ちわーっす、お疲れ。華薔薇、今日も雑談日和……ざ、ざ、雑談部に知らない人がいる!」
いつもと同じく華薔薇の待つ雑談部に来たものの、華薔薇と見知らぬ生徒が和やかに会話をしている。何か間違えたのかとひどく狼狽する桔梗。
「えっ? えっ? ここ雑談部だよな」
「桔梗、うるさい。放課後に部室でお喋りするのが、そんなに不思議かしら。至極当然のことよ。驚いたら相手に失礼」
「あっ、はい。華薔薇の言う通りだと思います」
何もおかしなことはないとすんなり納得する桔梗。
「あっはは、やっぱりキョウ先輩はバラ先輩に聞いてた通りに面白い人ですね。会いに来て正解です。今日は思う存分雑談しましょう」
「あの、どちら様で?」
桔梗を一方的に知っているだけで、桔梗には皆目見当つかない。
「失礼しました。雑談部の部員で名前を風信子子(ふうしん ねこ)と言います。バラ先輩からキョウ先輩の噂はかねてより聞いております。以後よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく。桔梗刀句です。えっと新入部員か?」
桔梗の脳裏には雑談部の部員リストは華薔薇しか記載がない。当然新入部員を疑う。
「ネコはずっと前から部員よ。放課後に部室に来るのは気が向いたらだけど」
「バラ先輩の言う通り、放課後は基本的に別件がありまして、部室に顔は出しません。所謂レアキャラです」
恥ずかしげもなく自分をレアキャラと言えるのが風信。普通は自分が変わっていると主張できない。集団からはみ出るのを嫌うのが人間の性だ。
「ただの幽霊部員じゃん。レアキャラとはよく言ったもんだ」
「失敬ですね。毎日ちゃんと雑談部として活動してます。むしろ雑談部優等生です」
優等生の割りに部室で見たことがない桔梗。だったらいつ、どこで活動しているのか。
「キョウ先輩は、あっ、キョウ先輩はキョウ先輩って呼びますね。嫌だと言っても変えませんけど。ちなみにネコと呼んでいいですよ」
呼び方にこだわりがないので桔梗もすぐに了承する。
「それでネコはどこで雑談部をやってるんだ」
「いつでも、どこでも、ですよ。もしかしてキョウ先輩は部活は放課後でしかできないと思ってるんですか? 雑談部の活動内容は雑談だけです。いつだって、どこだって、時間も場所も問わずに活動できるんですよ」
桔梗の常識がガラガラと崩れ去る。部活は学校の放課後もしくは休日に指定の場所で行うのが当たり前と考えていた。
学生の都合上、場所や時間が制限されるため、部活が放課後に行われることが多い。しかし放課後に行わなければならないルールはない。あくまで都合の問題だ。都合がつくなら部活動はいつでも、どこでも、問題ない。
「そんな、雑談部はオールマイティだったのか」
「イエス、オールマイティ。朝も昼も夜も活動できます。だって今日もお昼にはバラ先輩と楽しく雑談してきましたよ」
「それはネコが勝手に押しかけて来たからでしょ。私はネコほど、いつでも、どこでもしてる節操なしじゃないから」
華薔薇は場を整えてから雑談をしたい。1回当たりの雑談の価値を高めたい。
対して風信は質より量を重視している。雑談ができるなら、時間も場所も問わない。
「知らなかった、雑談部は時間も場所も問われない。まさか後輩に教えられるとは、情けない」
「大丈夫ですよ、キョウ先輩。今日賢くなったんですから、今から実践していけばいいんです。人間は常住坐臥、成長です」
「じょうちゅうざが…………まあ、ともあれ俺はいつだって進歩している。ありがとなネコ。いい後輩に恵まれて最高だぜ」
「こちらこそ、キョウ先輩と知り合えて欣喜雀躍です」
桔梗と風信は小躍りして、互いにハイタッチを交わす。
「イェーイ」「イェーイ」
たまにはこんな雑談部も有りか、と内心では楽しんでいる華薔薇だった。
「いやー、最高だな。美少女2人に囲まれて部活できるなんて。まさに両手に花だな、日頃が行いがいいから、神様も見てるんだな」
「美少女だなんて、照れるな」
「…………」
素直に喜ぶ風信に対して、華薔薇は眉間に皺を寄せる。
「バラ先輩もムスっとしないで喜びなよ。褒めてくれたんだから」
「いえ、私が美しいのは当然だし。ネコが綺麗なのもわかっている。褒められたら、お世辞だろうが嬉しい。私はもう取り返しのつかない所まで進んでいる現状に、どうしたものかと思っただけよ」
「バラ先輩に綺麗って褒められてちゃった、うれしっ。バラ先輩は頭がいいから難しく考えすぎなんだよ、今を楽しめばいいんですよ」
「そうだそうだ、ネコはいいこと言うな」
「……そうね、2人がいいなら、私から言うこともないでしょう」
既に桔梗は風信の術中に嵌まっている。羽虫が蜘蛛の糸にからまって逃げ出せないように、桔梗もがんじがらめにされている。
救いなのは桔梗が一切絡め取られていることに気づいていないこと。
「……ホント、油断ならないわ」
「何か言った、バラ先輩?」
「なんでもないわ。それで、ネコは桔梗と会ってどうするの?」
華薔薇はネコに桔梗も人となりは話した。しかし、ネコから桔梗と会ってあれがしたい、これが聞きたいなどの目的は知らない。
「えっ、特にないけど。会うことが目的だったし、キョウ先輩と友達になれれば目標達成、かな」
「既に目的は達成したと、まるで竜巻ね」
華薔薇が桔梗と風信と出会いをセッティングしたのではない。華薔薇がしたことはお昼に雑談ついでに桔梗の話をしただけ。放課後になると突然風信がやって来て、桔梗を待っていた。
桔梗と出会ってからは終始マイペースに話を進めて、かき回すだけかき回した。
華薔薇には風信の意図が読めない。
「せっかく3人いるんだし、普段とは違うことをやってもいいんじゃない」
「キョウ先輩ナイスアイデア。3人の仲を深めるために、親睦会を開きましょう。レッツパーティ」
「ここは雑談部よ。パーティをしたいなら、ファミレスにでも行きなさい。雑談部では雑談以外認めません」
風信がいても雑談部で雑談しかしないのが華薔薇だ。2人でも3人でもやることは雑談だけだ。
「むむっ、さすがバラ先輩、一筋縄ではいかないですね。雑談しつつ仲を深めるパーティ、これを満たすものを考えないといけないですね」
「頑張れ、ネコ。華薔薇を言い負かす案を出すんだ」
人差し指を口に当てて思案する風信と応援するしかない桔梗。何も案が出ないようなら、雑談できるように準備する華薔薇。三者三様に思いを巡らす。
「閃いた。クイズはどうでしょうか」
「クイズ? どうして」
「クイズをバラ先輩が口頭で出して、キョウ先輩と2人で答える。クイズはゲームとして面白いから、親睦会の内容として悪くない。何よりクイズは言葉遊びとして雑談部の内容には十分当てはまると思います」
風信が遊ぶために屁理屈をこねる。
「いいでしょう。今日はクイズをしましょう」
さして考えず華薔薇は賛成する。これに桔梗が異を唱える。
「華薔薇が優しい。俺にはあーだこーだ言うのに、ネコの提案は即採用。華薔薇はネコに甘すぎる。横暴だ、不公平だ」
「覚えておきなさい。世の中は不公平にして、不平等。区別も差別もなくならない。私は私の基準で判断する。ネコには優しく、桔梗に厳しく。相手によって態度を変えるのは当たり前」
仲のよさ、間柄で態度を変えるのは当たり前。同級生にはタメ口、先輩には敬語を使うのも不平等だ。本当に平等なら相手によって態度を変えてはいけない。
横柄でも横暴でも乱雑でも不公平でも不平等でも不公正でも不義理でもない。至極当たり前にして当然。
「準備するから、2人で歓談でもしてて」
華薔薇は言うだけ言って隣の部屋へと繋がる扉を開け中に消えていく。
隣の部屋は雑談部の物置として利用している。そのため色々な小道具が保管されている。
「準備ってなんぞや?」
滅多に利用しないので桔梗は隣の部屋の存在意義を知らない。
「キョウ先輩は知らないんですね、隣の部屋がなんなのか」
「おいおい、部室の隣に何があるってんだよ。学校だぞ、そんな変なものはないだろ。……ない、よな」
ごくり、と唾を飲み込む。風信の意味深な口調に引き込まれていく桔梗。華薔薇に危険が及ぶあらぬ妄想が膨らんでいく。
「華薔薇は無事、だよな」
「……わかりません。だって隣には、」
「隣には、」
ガチャリ、と扉が開いて華薔薇が戻ってくる。
「うひょいっ」
「どうしたのよ、変な声を出して。歓談してたんじゃないの」
「あはは、キョウ先輩面白い。『うひょいっ』ってなんですか。どこからそんな声が出るんですか」
華薔薇の手には早押し機一式が揃っている。子供が遊ぶおもちゃではなく、クイズ番組が使用する本格的な早押し機だ。
「クイズをするんだから、早押し機は必要でしょう。これならどっちが早いか単純明快だし」
「なあ、隣の部屋はなんなんだ。俺入ったことないけど」
「ただの物置よ」
なーんだ、と安堵する桔梗とそれを声を押し殺して笑う風信がいた。
「セッティングは終わったわ。ボタンチェックをしましょう。どっちかボタンを押して」
華薔薇の手元には早押し機の本体が、風信と桔梗の手元には早押し機のボタンがある。
ピコーン。
「おお、光った」
桔梗がボタンを押し、ランプが点灯する。問題なければ正誤判定をして、リセットする。
続いて風信のボタンチェックだ。ピコーンと音が鳴り、ピンポンピンポンと正解判定される。
「始めて触りましたが、これは感動しますね」
パチパチパチパチ、と華薔薇から拍手が送られる。
クイズあるあるで、ボタンチェックの後によく拍手がされる。他にも言い問題やいい正解の際にも拍手が起こる。
「ボタンチェックは問題なしね。では早速始めましょう。まず何問か出題して実力を計るわ。雑談部として日頃の成果を見せて頂戴」
「もうすぐ来るでしょう。焦ってもいいことないわよ」
「含蓄ですねぇ、バラ先輩は」
ある日の放課後の雑談部。
部室にいる人数は2人だが、どちらも女子の制服を着用している。
一人は普段から雑談部を利用している華薔薇。
もう一人は日輪高校の女子制服を着用している学生。中性的な顔立ちながら、瞳の奥に好奇心を隠している。
人懐っこい表情もありつつ、人を突き放す表情も見せている。第一印象が裏切られる見た目と性格の持ち主。
「ちわーっす、お疲れ。華薔薇、今日も雑談日和……ざ、ざ、雑談部に知らない人がいる!」
いつもと同じく華薔薇の待つ雑談部に来たものの、華薔薇と見知らぬ生徒が和やかに会話をしている。何か間違えたのかとひどく狼狽する桔梗。
「えっ? えっ? ここ雑談部だよな」
「桔梗、うるさい。放課後に部室でお喋りするのが、そんなに不思議かしら。至極当然のことよ。驚いたら相手に失礼」
「あっ、はい。華薔薇の言う通りだと思います」
何もおかしなことはないとすんなり納得する桔梗。
「あっはは、やっぱりキョウ先輩はバラ先輩に聞いてた通りに面白い人ですね。会いに来て正解です。今日は思う存分雑談しましょう」
「あの、どちら様で?」
桔梗を一方的に知っているだけで、桔梗には皆目見当つかない。
「失礼しました。雑談部の部員で名前を風信子子(ふうしん ねこ)と言います。バラ先輩からキョウ先輩の噂はかねてより聞いております。以後よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしく。桔梗刀句です。えっと新入部員か?」
桔梗の脳裏には雑談部の部員リストは華薔薇しか記載がない。当然新入部員を疑う。
「ネコはずっと前から部員よ。放課後に部室に来るのは気が向いたらだけど」
「バラ先輩の言う通り、放課後は基本的に別件がありまして、部室に顔は出しません。所謂レアキャラです」
恥ずかしげもなく自分をレアキャラと言えるのが風信。普通は自分が変わっていると主張できない。集団からはみ出るのを嫌うのが人間の性だ。
「ただの幽霊部員じゃん。レアキャラとはよく言ったもんだ」
「失敬ですね。毎日ちゃんと雑談部として活動してます。むしろ雑談部優等生です」
優等生の割りに部室で見たことがない桔梗。だったらいつ、どこで活動しているのか。
「キョウ先輩は、あっ、キョウ先輩はキョウ先輩って呼びますね。嫌だと言っても変えませんけど。ちなみにネコと呼んでいいですよ」
呼び方にこだわりがないので桔梗もすぐに了承する。
「それでネコはどこで雑談部をやってるんだ」
「いつでも、どこでも、ですよ。もしかしてキョウ先輩は部活は放課後でしかできないと思ってるんですか? 雑談部の活動内容は雑談だけです。いつだって、どこだって、時間も場所も問わずに活動できるんですよ」
桔梗の常識がガラガラと崩れ去る。部活は学校の放課後もしくは休日に指定の場所で行うのが当たり前と考えていた。
学生の都合上、場所や時間が制限されるため、部活が放課後に行われることが多い。しかし放課後に行わなければならないルールはない。あくまで都合の問題だ。都合がつくなら部活動はいつでも、どこでも、問題ない。
「そんな、雑談部はオールマイティだったのか」
「イエス、オールマイティ。朝も昼も夜も活動できます。だって今日もお昼にはバラ先輩と楽しく雑談してきましたよ」
「それはネコが勝手に押しかけて来たからでしょ。私はネコほど、いつでも、どこでもしてる節操なしじゃないから」
華薔薇は場を整えてから雑談をしたい。1回当たりの雑談の価値を高めたい。
対して風信は質より量を重視している。雑談ができるなら、時間も場所も問わない。
「知らなかった、雑談部は時間も場所も問われない。まさか後輩に教えられるとは、情けない」
「大丈夫ですよ、キョウ先輩。今日賢くなったんですから、今から実践していけばいいんです。人間は常住坐臥、成長です」
「じょうちゅうざが…………まあ、ともあれ俺はいつだって進歩している。ありがとなネコ。いい後輩に恵まれて最高だぜ」
「こちらこそ、キョウ先輩と知り合えて欣喜雀躍です」
桔梗と風信は小躍りして、互いにハイタッチを交わす。
「イェーイ」「イェーイ」
たまにはこんな雑談部も有りか、と内心では楽しんでいる華薔薇だった。
「いやー、最高だな。美少女2人に囲まれて部活できるなんて。まさに両手に花だな、日頃が行いがいいから、神様も見てるんだな」
「美少女だなんて、照れるな」
「…………」
素直に喜ぶ風信に対して、華薔薇は眉間に皺を寄せる。
「バラ先輩もムスっとしないで喜びなよ。褒めてくれたんだから」
「いえ、私が美しいのは当然だし。ネコが綺麗なのもわかっている。褒められたら、お世辞だろうが嬉しい。私はもう取り返しのつかない所まで進んでいる現状に、どうしたものかと思っただけよ」
「バラ先輩に綺麗って褒められてちゃった、うれしっ。バラ先輩は頭がいいから難しく考えすぎなんだよ、今を楽しめばいいんですよ」
「そうだそうだ、ネコはいいこと言うな」
「……そうね、2人がいいなら、私から言うこともないでしょう」
既に桔梗は風信の術中に嵌まっている。羽虫が蜘蛛の糸にからまって逃げ出せないように、桔梗もがんじがらめにされている。
救いなのは桔梗が一切絡め取られていることに気づいていないこと。
「……ホント、油断ならないわ」
「何か言った、バラ先輩?」
「なんでもないわ。それで、ネコは桔梗と会ってどうするの?」
華薔薇はネコに桔梗も人となりは話した。しかし、ネコから桔梗と会ってあれがしたい、これが聞きたいなどの目的は知らない。
「えっ、特にないけど。会うことが目的だったし、キョウ先輩と友達になれれば目標達成、かな」
「既に目的は達成したと、まるで竜巻ね」
華薔薇が桔梗と風信と出会いをセッティングしたのではない。華薔薇がしたことはお昼に雑談ついでに桔梗の話をしただけ。放課後になると突然風信がやって来て、桔梗を待っていた。
桔梗と出会ってからは終始マイペースに話を進めて、かき回すだけかき回した。
華薔薇には風信の意図が読めない。
「せっかく3人いるんだし、普段とは違うことをやってもいいんじゃない」
「キョウ先輩ナイスアイデア。3人の仲を深めるために、親睦会を開きましょう。レッツパーティ」
「ここは雑談部よ。パーティをしたいなら、ファミレスにでも行きなさい。雑談部では雑談以外認めません」
風信がいても雑談部で雑談しかしないのが華薔薇だ。2人でも3人でもやることは雑談だけだ。
「むむっ、さすがバラ先輩、一筋縄ではいかないですね。雑談しつつ仲を深めるパーティ、これを満たすものを考えないといけないですね」
「頑張れ、ネコ。華薔薇を言い負かす案を出すんだ」
人差し指を口に当てて思案する風信と応援するしかない桔梗。何も案が出ないようなら、雑談できるように準備する華薔薇。三者三様に思いを巡らす。
「閃いた。クイズはどうでしょうか」
「クイズ? どうして」
「クイズをバラ先輩が口頭で出して、キョウ先輩と2人で答える。クイズはゲームとして面白いから、親睦会の内容として悪くない。何よりクイズは言葉遊びとして雑談部の内容には十分当てはまると思います」
風信が遊ぶために屁理屈をこねる。
「いいでしょう。今日はクイズをしましょう」
さして考えず華薔薇は賛成する。これに桔梗が異を唱える。
「華薔薇が優しい。俺にはあーだこーだ言うのに、ネコの提案は即採用。華薔薇はネコに甘すぎる。横暴だ、不公平だ」
「覚えておきなさい。世の中は不公平にして、不平等。区別も差別もなくならない。私は私の基準で判断する。ネコには優しく、桔梗に厳しく。相手によって態度を変えるのは当たり前」
仲のよさ、間柄で態度を変えるのは当たり前。同級生にはタメ口、先輩には敬語を使うのも不平等だ。本当に平等なら相手によって態度を変えてはいけない。
横柄でも横暴でも乱雑でも不公平でも不平等でも不公正でも不義理でもない。至極当たり前にして当然。
「準備するから、2人で歓談でもしてて」
華薔薇は言うだけ言って隣の部屋へと繋がる扉を開け中に消えていく。
隣の部屋は雑談部の物置として利用している。そのため色々な小道具が保管されている。
「準備ってなんぞや?」
滅多に利用しないので桔梗は隣の部屋の存在意義を知らない。
「キョウ先輩は知らないんですね、隣の部屋がなんなのか」
「おいおい、部室の隣に何があるってんだよ。学校だぞ、そんな変なものはないだろ。……ない、よな」
ごくり、と唾を飲み込む。風信の意味深な口調に引き込まれていく桔梗。華薔薇に危険が及ぶあらぬ妄想が膨らんでいく。
「華薔薇は無事、だよな」
「……わかりません。だって隣には、」
「隣には、」
ガチャリ、と扉が開いて華薔薇が戻ってくる。
「うひょいっ」
「どうしたのよ、変な声を出して。歓談してたんじゃないの」
「あはは、キョウ先輩面白い。『うひょいっ』ってなんですか。どこからそんな声が出るんですか」
華薔薇の手には早押し機一式が揃っている。子供が遊ぶおもちゃではなく、クイズ番組が使用する本格的な早押し機だ。
「クイズをするんだから、早押し機は必要でしょう。これならどっちが早いか単純明快だし」
「なあ、隣の部屋はなんなんだ。俺入ったことないけど」
「ただの物置よ」
なーんだ、と安堵する桔梗とそれを声を押し殺して笑う風信がいた。
「セッティングは終わったわ。ボタンチェックをしましょう。どっちかボタンを押して」
華薔薇の手元には早押し機の本体が、風信と桔梗の手元には早押し機のボタンがある。
ピコーン。
「おお、光った」
桔梗がボタンを押し、ランプが点灯する。問題なければ正誤判定をして、リセットする。
続いて風信のボタンチェックだ。ピコーンと音が鳴り、ピンポンピンポンと正解判定される。
「始めて触りましたが、これは感動しますね」
パチパチパチパチ、と華薔薇から拍手が送られる。
クイズあるあるで、ボタンチェックの後によく拍手がされる。他にも言い問題やいい正解の際にも拍手が起こる。
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