超雑談部 ~知識の幅が人生を成功に導く~

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モテたい、どうしたらいい(前)

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「今回のお悩みは木槿からです。『モテたい、どうしたらいい』です。とてもシンプルで、よくある悩みです。わかる、わかるぞ。俺だってモテたい。男子高校生全員の夢といって過言じゃない。俺だって知りたい! 相談とかどうでもいい。俺だけの秘密にしたい」
 ある日の放課後。雑談部の部室で欲望全開の男がいた。
 もちろん、桔梗だ。
「ペンネームもなければ敬称もなし、桔梗の友達からの相談ね。いつかはあると思ってたわ、今回の雑談ネタ」
 勝手に盛り上がっている桔梗を尻目に華薔薇は冷静に分析する。青春に恋愛は付き物だ。切っても切れない関係は太古の昔から、連面と続いている。
「あれ、今回はそんな感じ? いつもは『ここは雑談部よ、ウジ虫の悩みは専門家に任せなさい』って言ってるのに」
「桔梗の頭の中はどうなっているの? 前半はともかく、後半の脚色は度が過ぎる。侮辱は許さない」
 華薔薇の発言が辛辣なのは自他ともに認めている。しかし闇雲に傷つける発言はしない。相手は選ぶし、言葉も選ぶ。
 話の繋がりも重視している。誰彼構わず傷つけるような悪趣味はない。
「あんまり、思慮に欠ける発言をしていると出禁にするから」
 気を付けなさい、と警告が飛ぶ。
「出禁は勘弁してくれ」
「学校に来れなくなるのは嫌よね」
「出禁て、雑談部じゃなくて学校!? スケール大きすぎ」
 華薔薇の権威がどこまで通用するかは未知数だが、桔梗を不登校に追い込むことは朝飯前だ。
「出禁は横に置いといて、なんで今回はそのまま雑談に?」
「単純に私が恋愛の専門家を知らないのがひとつ」
 恋愛のアドバイザーはいくらでも見つかる。しかし、華薔薇のお眼鏡に叶うアドバイザーはいない。
「結婚相談所とか、恋愛コンサルタントはダメなのか?」
 恋の応援を謳って、あの手この手で性格診断、相性診断に導くホームページやネットサービスがある。それらが効果がないのか、ましてや偽物なのか、桔梗に疑心暗鬼が生じる。
「少なくとも私は信用していないだけ。恋愛のアドバイスをしておきながら、結婚していない、恋人もいない、ましてや離婚している、なんてのはザラよ」
「それは色々経験して、アドバイスできるようになっただけだろ。アドバイザーに恋人がいるいないは関係ない」
「ごもっとも。恋人の有無は関係ない。でもね、自分に恋人がいないのに、他人の恋愛に口出しするな。まずは自分が恋人を作れ。そう思わない?」
 恋愛を推すなら、まず自分が実行しないと説得力がない。
 自分の口に合わなかった食品を、堂々と他人に薦めるようなもの。自分が食べて美味しかったから、薦めるのが普通だ。まずい食べ物を薦めるのは、受け取った方も不快だ。まるで自分の味覚に異常があると示唆されている。
「オススメするなら、自分がよかったからが前提よ」
「だったら、夫婦生活円満な家庭のアドバイスは問題ないだろ」
 桔梗の流れるような反論。今回の雑談にかける情熱が頭の回転を早くする。
「自分の成功が、他人にも当てはまると考えるのは早計よ。再現性もない」
 その夫婦だからたまたまうまくいった、というのは枚挙に暇がない。人一人の恋愛経験は数が少ない。サンプルが少ないのに適切なアドバイスを選択できるとは思えない。
「つまり、たまたまうまくいった話を押し付けてくるか、当たり障りのないことしかアドバイスできないのよ。桔梗が助けになると思うなら、頼めばいい。そこに私の考えが入り込む余地はない」
 あくまで華薔薇が恋愛の専門家はいないという主張。個人の見解であって、桔梗が従う必要はない。
「華薔薇が言うのも一理あると思う。俺はモテたいんであって、恋愛の専門家がどうとかは関係ない。早く教えてくれぃ」
 桔梗が必要としているのは過程ではなく、結果。
 結果的にモテるなら、華薔薇との雑談でも、専門家のアドバイスでもどっちでもいい。
「ああそうね、桔梗はそうでしょうね」
 大事なのは結果。桔梗には最良の結果が全て。
「それでモテるにはどうしたらいい」
 今回の雑談は面倒なことになりそうだ、と危惧する華薔薇だった。
 華薔薇が雑談にスムーズに移行した理由には、専門家を知らないのと別の理由がある。引き伸ばしたら、桔梗がしつこく絡んでくると想像したからだ。
 男子高校生のモテたい意欲は並大抵じゃない。鬱陶しい絡まれ方をするくらいなら、さっさと雑談に入った方がマシと考えた。
 華薔薇にも苦手はある。
「桔梗はどんな人がモテると思ってるの?」
「えっ、うーんと、顔がいい、優しい、面白い、金持ちなんかはよく聞くけど」
「大変ね。桔梗はどれも持ってないじゃない」
 桔梗のスペックは、顔が普通、親身に相談に乗ってくれる、センスは別としてボケとツッコミどちらもこなす、財力は一般的な高校生と同じ。
 桔梗が上げたモテ要素を必ずしも持ち合わせていないことはない。
「俺ってそんなひどいの。嘘だと言ってくれよ」
「…………」
「沈黙はなしだって、俺のガラスなハートが崩壊寸前だ」
 雑談部で雑談しないのは活動内容としてNG。卓球部なのに卓球をしないようなもの。
「桔梗のハートが壊れたら掃除が面倒ね。ガラスだったら不燃ごみ、それとも生肉だから可燃ごみ?」
「労ってくれよぉぉぉ」
 桔梗が嘆こうが、叫ぼうが華薔薇の心に届かない。陳腐なパフォーマンスは誰にも感動を与えない。
 心の奥底から真に思えるから、人々を引き付け魅了し、感動がある。桔梗は面白そうという理由の薄っぺらい演技。心を動かせというのが無茶な要望だ。
「今日は桔梗がうるさいから、雑談部も止めましょうか」
「……はっ、すみません、静かにしますから。モテる方法教えてください。お願いします」
「やれやれ……」
 桔梗の欲望は忠実だ。態度を180度反転させる。モテるためならプライドを捨てれるのが桔梗刀句という男だ。
 コントロールが容易いと喜ぶべきか、単純明快な低能を悩むべきか華薔薇は愚にもつかない選択に悩まされる。
「さて、どうしたらモテるか、についてね。当たり前だけどいろんな要素が複雑に絡み合っているから一概に答えはないけど、モテについて雑談しましょうか」
「よろしくお願いしゃっす」
 やる気十分な桔梗。今までに見たことのない、やる気の高さだ。
「顔の良し悪しが、どの程度恋愛において重要か、気になるでしょ?」
「そりゃもちろん、やっぱ顔がよかったら、べらぼうにモテるだろ。俺ももっとイケメンに生まれたかった」
 誰もがイケメンや美女に憧れ、自分もそうなりたいと願う。
「フツメンの桔梗に朗報よ。顔が重視されるのは最初だけ」
「フツメンは余計だ」
「相手を判断するのに外見以外に情報がないから、最初は見た目を重視する。パッと見かっこいいだけで、遺伝子が優秀な証になるから」
 遺伝子が優秀なら見た目にも表れる。特に左右対照の体や顔は優秀である証。だから対照の顔や体に惹かれる。
 テレビに出ている俳優や女優は高確率で左右対照である。
「社会心理学者のマースタインはSVR理論を提唱した。この理論は恋愛から結婚までにみっつのプロセスがあると考えた。最初は刺激(Stimulus)。出会って初期の頃は情報が少ないから、手っ取り早く外見で判断する。外見がよければ、モテるのはこれのお蔭ね」
「イケメン死すべし。最初だけなんだよな、後から取り戻せるんだよな?」
「次に価値観(Value)。互いに趣味や嗜好に思考、価値観が合っているかを判断基準にする。性格を見るようになるから、外見の優先度は落ちる。ここまで関係が進んだら、中身が重視される」
 出会いを終えて恋愛対象になりえるかの判断フェーズである。
「なるほど、要は趣味が合えばいいのか」
 性格の合わないイケメン・美女よりも性格の合う普通の人の方が長く付き合える。
 虫が大好きな人と虫が大嫌いな人が一緒になれない。
 同じものが好き同士、もしくは嫌い同士は一緒になれる。同じもので好き嫌いがはっきり別れると、そこには対立が生まれる。
「好き嫌いが同じというのは、とても重要なの。自分が好きなもののコミュニティに入るだけで、ある程度はモテるわよ。理解した」
「なんとっ! 趣味が合うだけでモテる、最強じゃん」
 桔梗は見過ごしている。好きなもののコミュニティは周りの人も条件は同じということを。
 コミュニティに入れば趣味が合うのは当然。それはコミュニティの全員に当てはまる。すると、趣味以外の部分が重要になる。
 それこそ外見だ。
 趣味が合って普通の人より、趣味が合って外見のいい人を選ぶ。
「まあ、趣味以外にも要素があるから、一概には言えないけど」
 趣味が合うだけで付き合って結婚に至るなら、誰も恋愛で苦労しない。趣味は恋愛の要素の一部だ。
「それで、最後は何?」
「最後は役割(Role)。これは結婚に関わっていて、一緒に生活する上で互いに役割をこなせるかという判断ね」
 家事、育児、仕事などを互いに支えあっていけるか。一方の負担が大きくなると破綻の原因になる。
「結婚を想定してるから、桔梗には関係ないでしょ」
「いつかは結婚できる!」
 夢を持つのは自由よ、と華薔薇は桔梗の生涯独身を示唆する。
「外見より中身だ、という主張をしたけども、女性はメイクをした方がモテるのよ、実際は」
「えーい、どっちなんじゃい」
 いろんな意見があるのは仕方ない。何十億の人間がいるのだ、科学だろうが感情だろうが、似た意見や反対の意見は必ず出てくる。
 雑談部は正しい回答を見つける場所ではない。あくまで面白おかしくお喋りする場所。面白いと思えばネタにしてお喋りする。
 お喋りした結果、部員がどのような思想になるかは関与しない。
「すっぴん写真とメイクしている写真をそれぞれ評価してもらう実験があったのよ。結果は言わずもがな、メイクしている方が魅力が高いと評価した」
「そりゃ、メイクしてた方がいいだろ」
 すっぴんの女性とメイクしている女性、どちらが可愛い、綺麗かは火を見るより明らか。
「写真を評価したのは男性だけじゃなく、女性もいたのよ。桔梗も言うように男性はメイクしている方が魅力的と判断した。でも女性の評価者は、特にメイクしている方が魅力が高いと判断しなかった。差はなかったのよ。おもしろいでしょ」
「何が面白いかわからん」
「普段から自分もメイクをしている女性は、メイクをしても魅力が上がらないと思っている。本質を見ているから、メイクの有無で判断は変わらない。女性から見た女性にはメイクという武装は意味をなさない。騙されるは男性だけ。こう考えると面白いじゃない」
 あくまで華薔薇の考え。桔梗がどういう判断をするかは桔梗の自由。
「騙されてもいい。俺を騙すために時間を使ってくれたら、俺は嬉しい」
「あははは、騙されてもいい、とは予想外だよ」
「笑いすぎ。別にいいだろ。可愛いなら、それは正義だろ」
「うんうん、そうだね。騙され続けるのも一興だよ」
 生涯騙され、真実を知らないなら、それは真実だ。騙されたことを理解できなければ、騙されたことにならない。本人には幸福しかない。
「メイクをしている女性はすっぴんの女性より、男性により声をかけられるし、声をかけられる時間が早いという実験もある。他にもウェイトレスがメイクの有無でチップの額が変わるという実験もある。こっちの実験では客が男性でも女性でも、チップをもらえる確率、貰う額が上がることが確認された」
 女性のメイクにメリットがあるのはいくつもの実験で証明されている。
 すっぴんの女性より、メイクしている女性の方がしっかりしている印象を与えるのは感覚で理解している。
「メイクは偉大よね。だから、桔梗はメイクしている女性に騙され続けてね」
「笑顔で怖いこと言うなよ。騙されてもいいって言ったのは俺だけど」
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