愚者の狂想曲☆

ポニョ

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1章

愚者の狂想曲 21 ラフィアスの回廊

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モンランベール伯爵家の別邸を後にした、俺とマルガとマルコの3人は、ルチア達と合流して、約束をしていた昼刻からの訓練を終え、何時ものレストランテで夕食を食べている。



「は~今日も、訓練良く頑張ったわね~。まあ~朝刻は、貴方達が居なかったから、思う様に訓練出来なかったけど!」

まだ少し拗ねている様子のルチアに、俺もマルガもマルコも、フフと笑っている。それを見たルチアは、少し気恥ずかしそうに、食後の紅茶を飲んでいる。



「でも、午前中の用事って何だったの?ま~話せない様な事なら別にいいけどさ」

少し気になっているルチアは、紅茶を飲みながら聞いてくる。俺はルチアに向き直ると、真剣な目でルチアを見る。それを見て、何時もと違う俺の雰囲気に、戸惑っているルチア



「な…なによ…」

「ルチア…俺達、明日から訓練に行けないんだ。…悪いねルチア」

その言葉を聞いたルチアは、キッっと俺を睨むと、



「はあ!?何言ってくれちゃってる訳?あんたにそんな権利があると思ってるの!?それに、何故出来無いのよ!きちんと理由を説明しなさいよね!」

「とある理由でラフィアスの回廊に、大魔導師アーロンの秘宝を、探しに行く事になった」

声高に怒っているルチアにそう話すと、不機嫌な顔を、更に不機嫌にして、



「ラフィアスの回廊の大魔導師アーロンの秘宝ですって?確か300年前の伝説か伝承に出てくるアレ?あんた自分が何言ってるのか解ってる訳?」

不機嫌な顔を、呆れさせて紅茶を飲むルチア。



「確かに、ラフィアスの回廊に大魔導師アーロンが、秘宝を隠したと言う伝承は残ってはいますが、300年間誰にも発見されていなくて、夢物語として言われている様な、空想の物ですよ?私も、当時は探してみた事は有りましたが、見つかりませんでしたし」

マティアスがそう言うと、ウンウンとルチアが頷いている。



「そうよ、あそこは初心者や日銭稼ぎの冒険者が多く行く所だから、回廊も調べつくされているしね。冒険者ギルドで回廊MAPが、売っている位なんだから。そんな調べつくされた所に、秘宝なんてある訳無いでしょ?」

呆れながら言うルチアは、軽く溜め息を吐いている。



「だけど…それでも俺は…探さなければならないんだ!」

いつになく真剣な俺の雰囲気を感じ、戸惑っているルチアは



「ちょ…ちょっと落ち着きなさいよ!何故探しに行かなきゃいけないのか、きちんと説明して!」

俺を宥める様に言うルチアに、リーゼロッテの事を説明する。それを聞いたルチアは、深い溜め息を吐いて、きつい目をして俺を見る。



「…つまり簡単に言うと…そのエルフの一級奴隷を買いたいけど、お金が無い。その代わりに、大魔導師アーロンの秘宝を探しだして、交換するって事よね?」

俺がそれに頷くと、ルチアは盛大に溜め息を吐いて、呆れながら



「馬鹿じゃないの貴方?そんな高価なエルフの一級奴隷を、上級にも届かないLVの、一行商人である貴方が、欲しがるの事自体がどうかしてるわ。諦めなさい~。身の程を知るべきだわ!」

吐き捨てる様に俺に言うと、何食わぬ顔で紅茶を飲むルチア。



「そんな事は解ってるさ!だから秘宝を探すんじゃないか!」

声高に言う俺を流し目で見て、あからさまに不機嫌な顔をするルチアは



「そんな夢物語を大きな声で堂々とまあ…それに、唾を飛ばさないでくれる?性奴隷の一級奴隷を欲しがる様な、色狂いの貴方の唾で妊娠したらどうするのよ!」

両手で自分の体を抱きしめながら言うルチアは、変出者でも見る様な眼で俺を見ている。俺は慌てながら、



「ちょ…何言ってるの!?つ…唾で妊娠する訳無いだろ!?」

「葵殿!ルチア様になんて破廉恥な!妊娠などこの私がさせません!」

「だだだ…だから!妊娠する訳無いでしょ!?マティアスさんも落ち着いて!」

ルチアの言葉に、過剰に反応したマティアスが、剣を抜く勢いで俺に言ってくる。

ちょっと!マティアスさん落ち着こう!この人、めちゃくちゃ強いけど、少し頭がアレなんだよな…。

それに…マルガちゃん。なに口をあ~んって開けて待ってるの?唾じゃ妊娠しないからね?何時も唾上げてるでしょ?妊娠してないでしょ?

ふと視線をマルガの膝に移すと、マルガを真似して、白銀キツネの甘えん坊のルナも同じ様に口を開けている。

いやいや。ルナも俺の子供欲しいの?そこまで飼い主に似なくていいんだよ?

そんな心の中でツッコミを入れている俺を見て、ルチアは再度貯め息を吐き



「…兎に角、そんな夢物語みたいな事諦めたら?時間の無駄よ!」

「夢物語でもなんでも、俺はやるの!…やるしかないんだ!」

「ど…どういう事?」

俺はランドゥルフと交わした、取引の内容を、詳細にルチアに説明する。それを聞いたルチアの表情は一変し、俺の手を掴み、勢い良く立ち上がった。



「イテテ!どうしたんだよルチア!」

「どうもこうも無いでしょうが!貴方自分で何をしたか解って言ってるんでしょうね!?大魔導師アーロンの秘宝なんか、有る訳無い!見つからない!それに、60日間で金貨500枚なんて大金、貴方なんかに稼げる訳無いでしょう!?…今ならまだ許して貰えるかもしれない。私が口利きをして上げるから、そんな取引…取りやめて貰うわ!」

怒涛の如く言い立てるルチアの手を振りほどき、ルチアと対峙する



「嫌だ!俺は取引を続行する!」

そう言い放つ俺の胸ぐらを両手でギュウウっと掴むルチア。その顔は怒りに染まっている。



「キツネちゃん!貴女はどうなの!60日間で、秘宝なんか絶対に見つからない!金貨500枚なんて大金、絶対に稼げない!此のままじゃ、貴女の大切なご主人様は、死んじゃうのよ!?キツネちゃん…貴女本当にこれでいいの!?」

俺を掴みながら、マルガに声高に言うルチアを見て、ギュっと握り拳に力を入れているマルガが



「…私は、ご主人様の提案を受け入れました。私の全てはご主人様の物…ご主人様の望みが、私の望み。それに…私はリーゼロッテさんに、2回も命を助けて貰ってます。私もリーゼロッテさんには、ご主人様の傍にいて欲しいのです。それにリーゼロッテさんと、約束しました。必ず喜ぶ方法で迎えに行くって」

マルガは決意の瞳でそう言うと、ニコっと満面の笑みをルチアに向ける。

それを見て聞いたルチアは、キュっと唇を噛み、両手を俺の胸ぐらから離す。



「…なによ皆して…。私が悪者みたいじゃない…」

そう小さく呟いて、俯いてしまったルチア。俺はルチアの肩にそっと手を置き



「ルチア…心配してくれてありがとう。その気持ち…とても嬉しいよ」

黙って俺の言葉を聞いていたルチアは、呟く様に言う



「…私も…行く…」

「うん?なにか言ったルチア?」

「私もラフィアスの回廊に、大魔導師アーロンの秘宝を、一緒に探しに行くって言ってるのよ!!」

顔を俺に向け、キッと俺を見ながら、声高に言うルチア。その言葉に、一同が驚いている。



「ル…ルチア様!本当なのですか!?」

「本当よマティアス。異論は認めないわ!」

その言葉を聞いたマティアスは、口をポカンと開けていた。



「で…でも、俺…ルチアとマティアスさんに、報酬とか渡せないよ?見つけた秘宝だって、リーゼロッテと交換に使うから渡せないし…」

「いいわよ!そんな物いらないわ!ま~報酬は貸しって事で、何時か返して貰うわ!」

そう言って笑うルチアは、俺にきちんと向き直る。そして真剣な目で



「…金貨500枚を、貴方に貸せない訳じゃない。でも、性奴隷の一級奴隷を買うと言う理由で、そのお金を動かすには、私の『誇り』が許さない。貴族のお金は血税なの。民の税金で私達は生活をしている。その血税を、私的に…自分の欲の為に使うには、少し大きい額だわ。私はそう思っているの。だから…お金を貸して上げる事は出来無いの。…悪いわね」

少し視線をそらすルチア。俺はルチアを此方に向かせる。



「…ルチアって、何も考えてなさそうで、意外と思慮深いよな。結構良い領主さんになるかも?」

「な…なによそれ!あ…貴方なんかに言われたく無いわよ!」

アタフタしながら、戸惑っているルチアに、マルガもマルコも微笑んでいる。



「改めて頼むよ…ルチア…秘宝を探すの手伝ってくれない?」

その言葉を聞いたルチアは、腰に手を当てて、仁王立ちしながら、



「仕方無いわね!貴方がそこまで、私にお願いするなら、聞いてあげるわ!さ~忙しくなるわよ!とりあえず、明日、ラフィアスの回廊に入る為の装備を、各々整えておく事!明後日から、ラフィアスの回廊の探索を開始するわ!期間は60日しか無いんだからね!絶対に秘宝を見つけるわよ!解った?」

「「ハイ!!」」

ルチアの言葉に、マルガとマルコは右手を上げて、元気良く声を揃えて返事をする。



「ありがとね…ルチア」

「フン!あくまでも貸しだからね!何時か利子を付けて返して貰うから、覚悟しなさいよ!」

「ハハハ…その時はお手柔らかに…」

俺が苦笑いしているのを見て、アハハと笑っているマルガとマルコ。

そんな俺達を、盛大な溜め息を吐いて見守るマティアス。



「貴方には最後まで付き合って貰うからね。マティアス」

その言葉を聞いたマティアスは、フフっと軽く笑って、



「ええ。それが私の役目ですからね…」

静かに目を閉じながら言うマティアス。



こうして、俺達のラフィアスの回廊の探索は始まった。











今日はこのメンバーで初めて、ラフィアスの回廊を探索する日だ。

昨日のうちに、俺とマルガとマルコの装備と道具を揃えて、今はルチアとマティアスとの待ち合わせである、港町パージロレンツォの郊外町、通称ヌォヴォのラフィアスの回廊に伸びている街道の入口に、向かっている。暫く歩いて行くと、待ち合わせの場所である、客馬車の乗合所で、ルチアとマティアスが待っていた。俺達に気がついたルチアは、キッと俺を睨み、



「遅い!この私を待たせるなんて、良い度胸ね!」

「あれれ?ほぼ約束の時間通りじゃなかったっけ?」

「私と待ち合わせしたら、最低1刻前には、来ていないとダメでしょうが!」

「…何処の国の法律ですかそれは…」

呆れている俺に、ギャーギャーと怪獣の様に、言ってくるルチア。マルガとマルコはそれを見て、面白そうに笑っている。それを見守っていた、マティアスが溜め息を吐きながら、



「これで全員揃いましたな。此処から馬車に乗って、ラフィアスの回廊に向かいます。最後に各自の装備を確認しましょう」

マティアスが言う様に、装備を確認して行く。それをルチアがチェックして行く。



「じゃ~まずオイラからね!」

マルコが嬉しそうに装備を見せる。



『頭』 黒鉄のケトルハット 



『体』 魔法銀のブリガンダイン(Bランク)、レザーギャンベソン、レザートラウザーズ



『腕』 魔法銀のバックラー(Bランク)、レザーグローブ



『足』 黒鉄のグリーブ、革靴



『武器』 魔法銀のクリス(Bランク)、黒鉄のスローイングダガー10本、黒鉄のスティレット



『背中』 フード付き防水レザークローク



『その他』 ウエストバッグ



「ふんふん、きちっと装備出来てるわね!でも…魔法強化されたBランク装備が3つね…中々奮発したじゃない葵。結構したんじゃないの?」

「まーね!一人頭、10金掛ければね!お陰で、お金はかなり減っちゃったけどね」

「ありがとね葵兄ちゃん!」

マルコは嬉しそうに俺に言うとニコっと微笑んでいる。



「じゃ~次は私です~!」

マルガが、ハイハイ!と、右手を上げて、嬉しそうにアピールしている。



『頭』 レザーキャップ 



『体』 竜革のスタデッドレザーアーマー(Bランク)、膝上レザーワンピース、膝上ドロワーズ



『腕』 黒鉄の半手甲、フィンガーレスレザーグローブ



『足』 格闘用魔法銀のグリーブ(Bランク)、革靴



『武器』 魔法銀の両爪(Bランク)、黒鉄の短剣



『背中』 フード付き防水レザーケープ



『その他』 ウエストバッグ



「なるほど、俊敏性を失わずに、攻撃できる様な装備で揃えたのね」

「ハイ!鎧も革で、見た目より重くなくて、動きやすいです!爪と蹴りで、攻撃しちゃいます~!」

フンフンと少し鼻息の荒いマルガの頭を、ルチアは優しく撫でてあげている。

そして、俺の前に来たルチアは



「じゃ~葵見せて」

「え!?俺!?」

「…他に葵って言う、パッとしない、男の子が居る?」

ですよね~。いませんよね~。うわあああん!



『頭』 黒鉄のケトルハット 



『体』 魔法銀のブリガンダイン(Bランク)、レザーギャンベソン、レザートラウザーズ



『腕』 黒鉄の半手甲、フィンガーレスレザーグローブ



『足』 黒鉄のグリーブ、ジョッパーブーツ



『武器』 名剣フラガラッハ(Aランク)、銃剣二丁拳銃グリムリッパー(Sランク)



『背中』 フード付き防水レザークローク



『その他』 容量15アイテムバッグ、ウエストバッグ



「ふうん…武器だけは、超一流ね。武器だけは。見た目はパッとしないけど」

ですよね~。解ります~。うわああああああん!…本当…2回も言わなくても、いいじゃないか!



「そう言うルチアは、どうなんだよ!」

「フフフ見たい?仕方ないわね!見せてあげるわ!」



『頭』  忍耐の兜(Bランク)



『体』 白氷の鎖かたびら(Aランク)、高級膝上レザーワンピース、高級膝上ドロワーズ



『腕』 魔法銀のガントレット(Bランク)、高級フィンガーレスレザーグローブ



『足』 魔法銀のグリーブ(Bランク)、高級レザーブーツ



『武器』 切り裂きの戦斧(Bランク)、魔法銀のスティレット(Bランク)



『背中・首』 退魔のマント(Bランク)、状態異常防止タリスマン(Aランク)



『その他』 容量20アイテムバッグ、ウエストバッグ



「どう?なかなかの物でしょう?」

「すげ~!殆ど高級品だ!」

「ルチアさん、格好良いです~!」

マルガとマルコが、ルチアを見て、キャキャとはしゃいでいる。ルチアは、ま~ね~と、言いながら、髪をかきあげている。



「くううう。お金に物を言わせるとは…」

「負け惜しみにしか、聞こえないわよ葵?」

うわあああん!…何時か大金を稼いで、見返してやる!



「本当は、胸当て系が良かったんだけど、この白氷の鎖かたびらはAランクの防具で、防御力を失わずに動けるし、火炎のブレスに対しては、絶大な防御効果を得られるからね。だからこれにしたわ」

Aランクの防具とか、初めて見たよ!…金持ちめ…



「でも意外だったよ。ルチアなら、フルプレート系にするかと思ってたんだけど」

「武器を威力のある、重い、切り裂きの戦斧にしてるから、早く振れるように、回避しやすく、動きを早く出来る様に、フルプレート系は避けたのよ。それにガッチガチの戦士系は後ろに居てるでしょう?」

ルチアの言葉に、マティアスを見ると、光り輝く白銀のフルプレートに身を包み、豪華で高価そうな装備を、全身に纏っている。まるで、何処かの英雄のような装備だ。それを着て、威風堂々と立っていた。その装備なら…グランド・ドラゴンとでも、戦えそうだね…



「た…確かに…装備の名前は知らないけど、きっともの凄い装備なんだろうね…」

俺が苦笑いをしていると、マルガとマルコも、目を丸くして、口を開けてマティアスを見ている。



「ま~初心者御用達のラフィアスの回廊で、そんな超超超上級者の様な装備をしているのは、マティアス位のもんだけどね」

そう言って呆れているルチアに、一歩近寄ってマティアスが



「私はルチア様の護衛です。何時いかなる時でも全力です!」

自信満々に言うマティアス。本当に…めちゃめちゃ強いんだけど…頭がね…残念!

装備の確認の終わった俺達は、客馬車に乗り込む。客馬車に揺られる事、約1刻、ラフィアスの回廊の入り口が見えて来た。俺達は客馬車から降りて、ラフィアスの回廊の入り口に立つ。

何か久しぶりだな…他のパーティーで来た事を思い出すね。

そんな事を思っていたら、俺達の前にマティアスが出て、



「ダンジョンに入ったら、私の指示に従って貰います!ダンジョンに入ってまず優先する事は、死なない事。必ず生きて帰る事を、最優先にして行動して下さい!」

その言葉に、俺、マルガ、マルコが頷く。ルチアも辛うじて頷いている。

それが少し気になって、小声でルチアに言う



「ルチア…マティアスさんは一番の経験者で、一番強いんだから、いいと思うんだけど…何か、心配事でもあるの?」

「…すぐに色々解るわよ…」

何か謎めいた事を言うルチア。

俺達はマティアスを先頭に、ラフィアスの回廊に入っていく。



ラフィアスの回廊…約300年前に、大魔導師アーロンが作ったとされるダンジョンだ。

ダンジョンは人間族や亜種族が作れる様な物では無い。詳しくは解っていないが、ダンジョン自体が、巨大な高ランクの、マジックアイテムの様な物になっているらしく、ダンジョンの壁や床、天井、石像などの装飾品を含め、どんな事をしても破壊出来無い様に作られて居る。

当然作り方など解らず、大多数が謎でもある。一説には、神や魔神、そういった者達が作ったと言われる位なのだ。人間族や亜種族も研究はしているのだが、魔法で強化された壊れにくい素材を作るので精一杯と言った所だ。

それとダンジョンの中には、召喚された魔物や魔族が闊歩し、それらが倒されると、何処かから自動召喚されて、補充される。なので、ダンジョン内の魔物や魔族の総数は、常に一定に保たれているらしい。

何の為に作られたか、どうやって作ったのか、目的は何なのか、全てが解っていない。

この、ラフィアスの回廊を作ったとされている、大魔導師アーロンも、一説には神の様な存在であったと伝えられている。



「やっぱりダンジョンに入ったら、薄暗いんだね~。ほんの少し先しか、見えないよ」

マルコが、目をショボショボさせて言うと、フフフと笑うマティアスは



「心配ご無用!オールライト!」

そういって、何かの魔法を唱えると、辺りはまるで外に居るかの様に、明るくなった。



「凄いです~!遠くまで見渡せて、まるで、普通に外に居てるみたいに明るいです~」

マルガは、わあああと、感動しながら辺りを見渡している。



「照明呪文を唱えました。パーティーのみ有効ですが、これで地上並みに見る事が出来ます。それと、常時守備力を上げるガードアップも、掛けておきますね」

そう言って待た魔法を掛けてくれるマティアス。防御力が、魔法効果で上がっているのが解る。

流石は上級者マティアス!以前来た時は、俺は暗闇でも見えるけど、他の奴等は、松明や、ランタンを持ちながら、探索してたもんね。これはかなり楽そうだ。

そんな事を思っていると、マティアスは俺達の方を向いて、



「先頭は私。右が葵殿。左がルチア様。マルガ嬢とマルコ坊は、抜けてきた敵を倒して下さい。マルガ嬢とマルコ坊は、一緒に戦って下さい」

「「ハイ!マティアスさん!」」

マティアスの指示に、元気良く返事をする、マルガとマルコを見て、ウンウンと頷いているマティアス。その中でルチアだけが、頷いていなかった。



「ホントどうしたのルチア?」

「ま…初めはそれで行ってみましょう」

そう言って、マティアスの言う通りに隊列を組むルチア。俺は不思議に思いながらも、隊列につく。



「マルガにマルコ。他のメンバーも周辺警戒してるけど、一番の感知能力があるマルガは、特に周辺の変化を気にしてね。マルコもね。」

俺の言葉にウンウンと頷く、マルガにマルコ。



「さあ!お喋りはそこまでにして、行きますよ!気を引き締めて下さい!」

一同が頷き、いよいよラフィアスの回廊の探索が始まる。

ダンジョンといっても、ここ、ラフィアスの回廊は初心者が多い。つまりは探索している人が多いという事だ。良く他の冒険者パーティーとすれ違う。でも中には、法律で禁止されている、ダンジョン内での盗賊行為、つまりは、ダンジョンで他のパーティーに襲われる事もある。なので、冒険者と言っても安心してはいけない。自分のパーティー以外は、基本危険であると認識しないと、痛い目にあう。

暫くラフィアスの回廊を進んで行くと、マルガが可愛い耳をピクピクさせる。何かが聞こえる様だ。



「皆さん!前方から…何か来ます!…数が多いです…7…8…9…。恐らく10体位の何かです!」

マルガの言葉を聞いた俺達は、身構えながら進んで行く。

すると前方から、ガチャガチャと装備の音をさせながら、それは現れた。

そこには、剣と盾で武装した、犬の様な顔で直立歩行した、毛むくじゃらの魔物がいた。大きく開かれた口には、獰猛な牙があり、涎を垂れ流している。



「ご主人様!犬が武器を持って、直立に立ってます!」

「あれは、コボルトだね…数が多いね…11匹か…」

魔物も此方を発見して、嬉しそうに、ニヤっと大きな口を開けている。



「コボルトは低級の獣系魔物ですが、動きが素早く、力も強い。マルガ嬢とマルコ坊は注意して下さい!」

マティアスの言葉に、静かに頷くマルガとマルコ。



「では、さっき言った作戦の通りで!先頭は私、右は葵殿!左はルチア様!マルガ嬢とマルコ坊は、抜けてきた敵のみを、一緒に攻撃!無理はせずに落ち着いて倒して下さい!」

俺達は頷き、戦闘態勢に入り、身構える。



「では!行きます!」

そう言って、一瞬でコボルトの群れの中に飛び込んでいくマティアス。あの重装備でもの凄い速さ。

跳躍したのが見えなかった…。マルガとマルコは、初めて闘う魔物に、緊張した面持ちで身構えていた。そして、2人は作戦通り、抜けてきた敵を倒そうと待っている。すると…



「フン!他愛もない。ま~所詮はコボルトか!」

そう言って、一人でコボルト11匹を、一瞬で滅多切りの肉片に変えたマティアス。



「あ…あれれ?も…もう終わちゃった…?」

戦闘の終わった事を理解したマルコが、拍子抜けと言った感じで言うと、その隣で、マルガもウンウンと頷いている。



「やっぱり…」

小さく呟いて、ルチアがツカツカとマティアスの方に歩いて行く



「おお!ルチア様!敵は全滅させました!」

ニコニコして言うマティアス。それを見たイラッとした感じのルチアが



「そうね!全滅させちゃったわね!」

甲高い声で言って、マティアスの腹に蹴りを入れる



「グフ!」

マティアスは12のダメージを受けた!



「マティアス!貴方はほんと何考えてるのよ!貴方が本気で戦えばこうなるのは解っているでしょう!確かにパーティーを組んでるからLVは上がっていくけど、それじゃ、スキルが上がらないのよ!この探索は、秘宝を探す為のものだけど、ついでに、私と葵、キツネちゃんとマルコの訓練も兼ねているのよ!貴方が全部倒しちゃったら、訓練にもならないでしょうがあああ!!」

ご立腹のルチアがマティアスに怒っている。



「いいいいやでも!ルチア様の安全を考えれば、私が先頭に立って…」

と言いかけた時に、またルチアの蹴りが、マティアスに入る。マティアス7のダメージ!



「そんな事はいいのよ!この、ラフィアスの回廊は、冒険者ギルドでダンジョンMAPが売っていて、出てくるモンスターさえ、網羅されている位の初心者ダンジョンなのよ!貴方の出番はそれ以外が出てきた時のみよ!もっと臨機応変にやって!」

怒濤のように怒るルチア。シュンとなるマティアス。それを見ている俺とマルガとマルコは、ちょっと可哀想な眼で、マティアスを見ていた。



「これからは、私が指揮をとるから!前衛は私が真ん中!右がキツネちゃん!左がマルコ!中間にサポートの葵!後衛がマティアスね!マティアスは回復呪文のみ使用!余程の敵が出て来る迄は手出し無用!もし…それ以外で攻撃したら、私が貴方を攻撃するからね!」

まだ怒りが収まらないルチア。ハイと小さく言って、更にシュンとなって子犬の様になっているマティアス。そんなマティアスを見て、俺とマルガとマルコは、必死に笑いを堪えていた。



「ったく…本当に教えるのが下手なんだから。自分さえ強かったら良いってもんじゃないのよ…」

呆れながら言うルチア。

実は訓練場で俺とルチアは、マティアスに手合わせをして貰った事がある。当然2人とも、一瞬でやられてしまった。しかも何故やられたか解らない位に全力で。あれでは確かに練習にならない。

ルチア曰く、マティアスは、教えるのが凄く下手で、手加減が出来無いとの事。なので、あれだけ強いのに、練習相手にはならないらしい。俺達を見つけていなければ、どうなっていたかとか言っていた。その意味がよく解った俺でした。



「さあ!行くわよ葵!キツネちゃん!マルコ!」

そう言って歩き出すルチア



「あ…うん…」

名前さえ呼んで貰えなかったマティアスの事を気にかけながら、俺達は探索を再開した。

俺はちょっとマティアスの事が気になって、少し振り返ってみた。すると、怒られた子犬がシュンとなってついて来ていた。もう我慢出来るか自身が無い位、笑いを堪えていた俺。

マルガとマルコを見ると、同じ様に笑いを堪えて歩いている。俺達はなるべくマティアスを見ない様に心掛ける。本当に、めっちゃめちゃ強い人なんだけど…頭がね…アレなんで…

そんな事をしていると、再度マルガが何かの気配を感じた。



「右前方です!ガチャガチャした音…武器を持っています!数は…8…9…10…11位です!」

その言葉に戦闘態勢に入る俺達。

すると、それはガチャガチャと音を鳴らしながらやって来た。それは剣と盾を持ったガイコツであった。



「ご主人様!骨です!人の骨が動いています!」

「うん。あれはアンデッドの魔物だね。スケルトンファイターだ。数が多いな…注意してね2人共」

俺の言葉に、マルガとマルコは静かに頷く。



「じゃ~行くわよ皆!私がまず特攻するから、キツネちゃんと、マルコは、バラけた所を倒してね!葵は、キツネちゃんと、マルコの支援を!マティアスは回復ね!行くわ!」

ルチアは左右にフェイントを入れながら、スケルトンファイターの群れに向かっていく。



「でりゃああ!」

気合の入った声を上げるルチア。その振るわれた切り裂きの戦斧で、スケルトンファイター1体をバラバラにする。それが終わると、すぐさま回転を利用して2匹目も粉々にするルチア。重量のある切り裂きの戦斧を、力任せに振るうのではなく、遠心力や重心の移動、物理法則を緻密に計算、肌で感じて、切り裂きの戦斧を、自由自在に扱っている。俺には出来ない芸当だ。さすが天賦の才能のレアスキル保持者と言った所だ。



「流石ルチア。じゃ~俺達も行こうか!マルガ!マルコ!」

「「ハイ!」」

そう元気良く返事したマルガとマルコも、スケルトンファイターに向かって跳躍する。



「やああああ!!!」

俺に教わった通り、左右にフェイントを入れながら、スケルトンファイターに向かうマルガ。

スケルトンファイターの剣戟をスルリと躱し、懐に入ったマルガの魔法銀の両爪が、スケルトンファイターを切り裂く。胴体から真っ二つに斬られた、スケルトンファイターは、地面に崩れ去る。



「やりましたーー!ご主人様見ててくれましたか!」

嬉しそうに手を振るマルガ。しかし、その後ろから、別のスケルトンファイターが、マルガに襲いかかる。



「ザシュ!」

名剣フラガラッハで、頭のてっぺんから真っ二つになったスケルトンファイター。それを見て、少し驚いているマルガ。俺はマルガに軽くチョップをお見舞いする



「ハウウ!」

「戦闘中は油断しちゃダメ。倒したと思っても生きている時も有るから、十分に注意する事!解った?」

「はい~。ご主人様~」

少しシュンとしているマルガの頭を、優しく撫でる俺



「でも、さっきの攻撃は、中々良かったよ。この調子で、倒しちゃえ!」

「ハイ!ご主人様!」

右手を上げてハイ!と元気良く言うと、行っくぞ~と、言って、別のスケルトンファイターに襲いかかるマルガ。マルガの魔法銀の両爪で切り裂かれるスケルトンファイター。

ふとマルコを見ると、2匹のアンデットファイターに囲まれて、苦戦していた。

俺は一気に跳躍して、名剣フラガラッハで、片方のスケルトンファイターを切り裂き倒す。

それを見たマルコは、もう片方を魔法銀のクリスで切り裂き倒す。



「戦闘中は、常に回りを良く見る事。今みたいに囲まれちゃうからね」

「うん!解ったよ葵兄ちゃん!」

「じゃ~残りも倒そうか!」

「うん!」

マルコも別のスケルトンファイターに斬りかかって行く。



「キツネちゃんもマルコも、中々やるじゃない!」

「だね!俺達も負けていられないよ?」

「フン!誰に言ってるの?そんな事…解ってるわよ!」

ニヤっと、笑いながら、次々とスケルトンファイターを倒して行くルチア。

う~む。流石ルチア。天賦の才能は伊達じゃないね。実際、訓練場でも、初めは勝てたが、今は10回やれば4回は負ける。成長が楽しみな超天才戦乙女。

そして、スケルトンファイターも残り、3匹となって、ルチア、マルガ、マルコが、一気に殲滅をしようとした所で、スケルトンファイターが光の渦に包まれる。



「ぐあああ!」

唸り声を上げて、スケルトンファイターは消滅してしまった。後ろを振り返るルチア。そこにはギクっとなっているマティアスがいた。



「い…いや~。何もする事が無くて…攻撃はダメと言われましたが、アンデットの呪いを解く位なら…いいかな~っと思いまして…」

苦笑いしながら言うマティアス。それを聞いたルチアがついにキレた



「マ~~ティ~~~~ア~~~~ス~~~~!!!」

そう叫んだルチアは、マティアスにドロップキックを放った!マティアスは30のダメージ。老人や子供ならやばそうな攻撃だ。



「呪いといたら、LVも上がらないし、スキルも上がらないでしょうが~~!」

怒りまくっているルチア。マティアスは、ルチアに正座させられて、説教されていた。

俺とマルガ、マルコはもう我慢出来無くなって、腹を抱えて声を出して笑っていた。マティアスは、俺達を恨めしそうに見ていたが、笑いを止める事は出来無かった。俺達の笑いが終収まって来た頃に、お説教も終わった様であった。



「…次何かしたら…貴方に呪いをかけるから…」

睨みながら、マティアスに言うルチア。もう、ハムスターみたいになっているマティアス。そこに、さっきのスケルトンファイターが持っていた宝箱があったのを忘れていた。



「なに?宝箱開けるの?この辺のモンスターは良いの持ってないわよ?」

「いや、アイテムよりも、罠解除とか、その辺のスキルを伸ばしたいからさ」

俺が言うと、なるほどと言うルチア。マルコは宝箱を慎重に調べている。敵が落とす宝箱には、大抵罠が仕掛けられている。それを技能で調べて、解除するのがスカウトの仕事でもある。マルコは初めての宝箱なので、慎重に罠を調べる。何回も調べなおして結論を言う



「毒針ですね」

マルコより先に、答えを言うマティアス。罠を見抜く魔法を唱えていたみたいだった。



「なんなら私が罠も解除しましょうか!魔法で!」

そう言った所で、ルチアに胸ぐらを掴まれたマティアス



「もう…回復以外は…するな~~~!!」

耳元で叫ばれたマティアスは、フラフラになっていた。さすがにマルガとマルコも、可哀想な物を見る目でマティアスを見ていた。

本当に本当、マティアスはめちゃめちゃ強い!…頭は…アレ過ぎですが…



「…マルコ…罠を解除して…」

疲れた様にいうルチア。マルコは苦笑いして、宝箱の毒針の罠を解除する。



「っと…解除成功!」

安堵のマルコ。ウンウンと頷くルチア。指を咥えて、ハムスターの様になっているマティアス。そのハムスターの頭を、よしよしと撫でてあげているマルガ。そこにはそんな光景があった。

宝箱の中身は、壊れた武器と、少々の銅貨だった。



「やっぱり、この辺じゃこんなもんよね」

「ま~な。でも練習になるから、出たらどんどん開けていくね」

俺が言うと、頷くルチア。俺達4人は更に探索を続けるのであった。



今日は探索初日、1階のみの探索として、今日は帰る事になった。

結局、魔物と結構戦ったが、俺達4人がダメージを受ける事は殆ど無かった。ダメージを受けたのは、ルチアに攻撃されたマティアスのみという結果だった。それも装備の効果で歩いている内に体力が回復していたマティアス。俺達の、初めての探索はこんな感じで幕を閉じた。













ラフィアスの回廊を探索し始めてから、既に31日が立っていた。期日迄残り約半分。俺は焦りを感じていた。60日間の期間に、大魔導師アーロンの秘宝を見つけるか、金貨500枚を用意するか…。

今現在は、その両方、どちらも出来ていない状況だ。



手持ちの資産は、名剣フラガラッハを、売ったとして、金貨180枚位。残り金貨320枚。とてもじゃないが、普通の行商や、ダンジョンでの財宝だけでは、貯まる金額ではない。

冒険者ギルドの仕事も、それだけの報酬が貰える物もあるが、ランクがダイヤモンドクラス、内容もとても達成出来る様な物では無かった。

そんな、何の進展も無い俺達は、今日もダンジョンに篭っている。

そして、今は地下3階にある、ラフィアスの回廊の名物、5つ有る休憩スポットの1つ、亀竜の泉と言う、井戸の傍で休憩をしている。



「は~何時飲んでも、この亀竜の泉の水は冷たくて、美味しいわね」

水を呑みながら言うルチア。マルガやマルコも、美味しそうにその水を飲んで、休憩している。



「そうだな~」

俺も水を飲みながら言う。



「葵…貴方暗いわよ?そりゃ~これだけ探しているのに、全く見つからないどころか、手がかりさえ見つからないのは、解かるけど…まだ期日は、半分有るんだし、諦めずに頑張るわよ」

ルチアが優しくそう言ってくれる。俺はありがとうと言って、水を飲む。



「でもさ~。大魔導師アーロンの秘宝って、何処に有るんだろうね。はっきり言って、全フロアの壁と床を、見落としなく探しつくしてるよね。本当見落としは無いって、断言出来る位探してるし…」

マルコが泉に持たれながら、両手で頭を抱え、軽く溜め息を吐いている。



「そうですね~。私もこのラフィアスの回廊なら、地図を見なくても、どこからでも帰れる様に、なっちゃいましたし…」

マルガは俺に寄り添いながら、可愛い頭を俺に持たれかけている。



「私も同行をした身として、見落としは無いと言って過言では無いと思う。フロアや壁には何も無いといっていいと思う」

此方も水で喉を潤しながら言うマティアス。

そうだ、調べ尽くした。本当に良く調べた。しかし、手がかりさえ無い。やっぱり…伝承だけなのか…

そんな事が頭をよぎり出す。期日も半分過ぎた…此処は、最悪のケースも考えて置かないとダメだね…



「なあ…ルチア。ちょっと話が有るんだけど、あっちで2人だけでいいかな?」

「…別にいいわよ。行きましょうか」

俺とルチアは、少し離れた壁向こうに歩いて行く。そして、2人だけになった事を確認して



「なあルチア…」

「…なによ」

「もし…期間中に、秘宝が発見出来無い、金貨500枚が貯まらなかった時の事なんだけどさ…」

「…なによ。はっきり言いなさいよね」

ルチアは、少しキツメの目をして、俺を見ている。俺はゆっくりと話しだす。



「うん。もしね…ダメだった時は、俺の財産を、マルガ、リーゼロッテ、マルコに、きちんと3等分して、分けて上げて欲しいんだ。名剣フラガラッハを売れば、金貨150枚にはなる。手持ちの金貨も、約30枚。それを、皆に分けてやって欲しい。…出来るなら、マルコには、行商の良い師匠を付けてやって欲しい。マルガとリーゼロッテには、安全に暮らせて、働ける所を、紹介してやって欲しい。ルチアは信用できるし、お願いしたいんだけど…ダメかな?」

静かに目を瞑って聞いていたルチアは、ゆっくりと瞳を開ける。



「…なにそれ。まるで何処かの爺さんの遺言みたいな事…」

「茶化さないでルチア。…ルチアにならお願い出来ると思って、言ってるんだ」

俺の真剣な眼差しを見て、覚悟を感じ取ってくれたのか、フンと鼻で言って、



「…解ったわよ。約束してあげる」

「ほんと?」

「但し!貴方も私に約束しなさい!期日の最後の最後まで、諦めないって!解った?」

俺の胸に拳を当てて、きつい目をして言うルチア。それに、ルチアらしさを感じ、思わず微笑んでしまう。



「な…何よ…可笑しな事言った?」

「…ううん。ルチアらしいなって思ったらつい…」

「なにそれ!失礼ね!」

少し膨れているルチアを此方に向かせる。



「…ありがとねルチア。最後まで頑張って見るよ。言い出したのは俺だしね!きちんと責任を取らないとね!」

「…当たり前でしょ!そんな事!…でも、余り、塞ぎこんでいる所を、キツネちゃんやマルコには、見せない事ね。あの2人は、貴方が思ってるよりずっと、貴方の事を心配してるんだから…」

そう言って、トンと俺の胸を軽く叩くルチア。静かに頷く俺を見て、フンと鼻でいうルチア



「さあ戻りましょうか。余り時間をかけたら、心配するしね」

「そうだね…」

歩き出そうとしたルチアに、



「なあルチア…」

「…何よ?」

「…お前って、良い女だよなって思ってさ」

それを聞いたルチアの顔が赤くなる。



「な…何言ってんのよあんたは!そ…そんなの当たり前でしょうが!むしろ、今迄気が付かない、貴方がどうかしてるのよ!だから、馬鹿で、見た目パッとしなくて、モテないのよ!!」

ルチアは、捲し立てるように言ってくる。



あれれ?俺なんか変な事言った?普通に褒めただけなんだけど…褒めるだけで罵声されちゃうの俺!?

一体どんな過酷な星の下に、生まれたんですかオラは…

…ああ…癒されたい…そうだ!マルガちゃんだ!俺のマルガをギュッとして、癒されよう~。

今行くからね~マルガちゃ~ん!

俺はフラフラしながら、マルガのいている泉に戻って行く。

そんな俺の後ろ姿を見て、ハ~っと深い溜め息を吐くルチア



「…此処に来て、金の無心かと思いましたが…遺言だったとは…」

影に隠れて気配を消していたマティアスが、ルチアの元に歩いてくる。



「葵に、そんな知恵ある訳無いでしょ?前に私が言った『誇り』の話を信じきっているんだから。本当に馬鹿なんだから…」

視線を落として、寂しそうに言うルチア。そんなルチアを優しく見守るように微笑むマティアスは



「ですが…そんな葵殿だからこそ、気に入ったのでしょう?マルガ嬢もマルコ坊も、非常に真っ直ぐです。あの人達と居るルチア様は、今まで見ていた中で、一番幸せそうでしたからね」

優しく言うマティアスの言葉を、黙って聞いていたルチアは、マティアスに向き直る。



「マティアス。もし期日が近づいて、何も進展が無かったら、金貨500枚用意して頂戴。私がランドゥルフ卿に、直接話を付けるわ」

「それは…ランドゥルフ卿も驚かれるでしょうね。ルチア様自ら取引されると解ったら」

その事を想像して、楽しそうにしているマティアスは、フフフと笑っている。



「しかし…『誇り』は宜しいのですか?」

「フン!誰も救えない『誇り』なんか、薪にくべて燃やした方がましよ!それに…あれは…」

「ええ…解っていますとも。多額のお金を、何時でもルチア様から貰える…つまり、そう言う『人』にされたく無かったのでしょう?なので、適当な理由を言った。葵殿達とは…今までの様に…楽しく居たかったから…」

優しく言うマティアスの言葉を聞いて、寂しそうに俯くルチア。マティアスはフフっと軽く笑って、



「…王都ラーゼンシュルトで、ルチア様を砂糖菓子よろしく、集ってくる奴等の事が嫌で、この町に来たルチア様に、貢がせるとは…葵殿は、将来凄い商人になるかもしれませんな」

楽しそうに言うマティアスに、フンと鼻でいうルチアは



「とりあえず、そうなって貰う為に、気合いれて来ようかしら。あいつ馬鹿だから、私の軽口でフラフラになってたしね!」

そう言うと、右手をブンブンと回して、泉に帰って行くルチア



『ルチア様が気合を入れたら、余計にフラフラになりませんか?』

そう、心の中で疑問に思ったマティアスであったが、口には出せなかった。











ああ~癒し…癒しは何処ですか~。

俺はフラフラしながら、亀竜の泉に戻ってきた。

癒しの~マルガちゃん~何処ですか~。

フラフラしながら探していると、マルガとマルコが泉のほとりで、何かをしていた。

俺は癒しマルガの傍に歩いて行き、後ろからギュっと抱きしめる。



「キャ!!」

可愛声を上げるマルガは、驚いていたが、俺だと解って、安堵していた。



「ご…ご主人様…ど…どうしたのですか?」

「うん…今…癒されオーラ補充中です」

そう言ってマルガを抱きしめていると、よしよしと頭を撫でてくれるマルガが愛おしい。

は~~~癒される~。壊れかけの、強化ガラスのハートが復活してきたよ!

マルガに癒されて、元気になった所で、何をしていたのか気になった。



「所で、何してたの?」

「うん。この泉にあるこの銅像さ、何の魔物なのかなって、マルガ姉ちゃんと言ってたんだ」

「そうなんですご主人様。こんな魔物、ご主人様は、見た事ありますか?」

マルガは、俺の頭を撫でながら聞いてくる。撫で撫で。



「そうだね~。見た事無いね。ま…俺の知ってる、これに近い物はあるけど、多分別物だね」

「その似ている物って、何なんですか?」

「うん…此れに似てる、玄武っていう、伝説上の生き物を知っているだけなんだけどね」



このラフィアスの回廊の地下3階には、有名な休憩スポットが5つ有る。

今居ている此処は東の亀竜の泉。西には大鷹の泉。北には狼の泉。南には竜の泉。そして中央には、一角獣の泉がある。

この5つの泉で、冒険者たちは喉を潤し、休憩して、また探索を開始するのだ。



俺は最初、この亀竜が玄武に似ていたので、何か関係があるのか調べてみたが、玄武は北を守護する四神。此処は東。いとも簡単に玄武説は無くなったと、言う訳だ。

確かに形は似ている。大きな亀に、脚の長い亀に蛇が巻き付いた感じの物が付いている。

この世界の人達も、その姿を形容して、亀と竜、つまり、亀竜と呼んで居るのだろう。

俺がそんな話を、マルガとマルコにしていると、ルチアとマティアスが近寄ってきた。



「貴方…何してるの?」

マルガに抱きついて、いい子いい子して貰っていた俺を、何か汚い物を見る様な眼差しで見つめてくるルチア。

うわあああん!この子の視線が怖いよ!視線恐怖症になっちゃうYO!あ…でも…ゾクゾクと…気持ち良さも…駄目だ!オラはS!ゾクゾクさせられたら駄目ジャマイカ!頑張れ俺!



「えっとね、この銅像ってなんの魔物なのか、話してたんだ!」

マルコの言葉に、フンフンと頷くルチア。俺とは視線を合わせてくれなかった。…泣きたい…ううう…



「そうね~。こんな魔物は聞いた事も、見た事も無いわね~。マティアス…貴方はある?」

「いえ…ありませんね。私もそこそこ伝承や、伝説には詳しいのですが、この銅像に合う物は知りませんね」

その言葉を聞いた俺は、若干の違和感を感じる。

俺やマルガ、マルコならいざ知らず、この博識の超天才美少女のルチアや、経験豊富なマティアスが知らないなんて…よっぽど珍しいのかな?



「ま~実際に居ないものを、空想だけで作ったって物もあるから、知らない物があっても、不思議じゃないわ」

ルチアがそう説明する。確かにそうだよな。そんな物もある。むしろそうだろう。



「じゃ~もう暫く休憩したら、探索を開始しましょうか。…解った?変態!」

ルチアはジト目で俺を見ながら言う。

ついに直球で変態ときましたか!あはははは!もうどうにでもなれ~~!

こんな事を思っていたら、少し喉が乾いてきた。



「マルガ…水貰える?」

「あ!ちょっと待ってて下さい!お水汲んできますので!」

そう言って、俺の水筒を持って、少し離れた井戸に水を汲みに行ってくれるマルガ



「…葵…女の子に、あんな事させていいの?」

「え!?いや…あはは」

俺を相変わらずジト目で見ながら言うルチアに、苦笑いしていると、マルガが戻ってきた



「ハイ!ご主人様お水です!」

ニコっと微笑むマルガに再度癒される。俺はマルガが汲んでくれた水を飲んでいると、マルガは亀竜の銅像を見ながら、何かを考えていた。そして、亀流の銅像に、持っていた水筒の水を掛ける。

その後に、う~んと唸って、テテテと走って井戸に戻り水を汲み、また戻って来る。再度亀竜の銅像に、持っていた水筒の水を掛け、またう~んと唸って、テテテと走って井戸に水を汲みに行くと言うのを繰り返している。



「葵…キツネちゃん何してるのかしら?」

「…さあ…?何かの…運動?」

「…貴方におかしな事されて、変になったんじゃないの?」

ジト目で言うルチア。

いやややややああああ!マルガちゃんゴメンネ!頼りないご主人様を許して!

俺は、亀竜の銅像に水筒の水を掛けて、水攻めプレイ?している、マルガの傍に行く



「マ…マルガ…何してるの?」

ちょっと声が上ずっちゃった!オラ恥ずかしい!



「えっと…この亀竜さんの銅像が、汚れているので、お水で流しているのですが、全然綺麗にならないんです~」

そう言ってう~んと、可愛い小首を傾げて居るマルガ可愛ゆす!

ふと、亀竜の銅像を見てみると、土や、埃でかなり汚れている。

うん汚い!確かに、水でも掛けてやりたくなるのも解る。マルガは優しくて、真面目だしね。

そしてなんとなく、亀竜の銅像を見ていた時に、おかしな事に気がついた。



『あれ?…この亀竜の銅像…水に濡れた気配が全く無い?…確かさっき…何回もマルガが水を掛けていたはずなのに…』

俺は不思議に思い、亀竜の銅像の足元を見てみると、全く水に濡れていなかった。



「…マルガ…もう一回、水筒に水汲んできてくれる?」

「ハイ!ご主人様!」

俺の言葉に、マルガはテテテと走って、水を汲みに行ってくれる。それを見たルチアが、俺の傍にやって来た



「…葵、貴方…またキツネちゃんに、井戸の水汲ませて!重いんだから、貴方がやって上げなさいよね!」

プリプリ怒っているルチア。すると、マルガが水を汲んで帰ってきた。



「ハイ!ご主人様!」

ニコっと笑う可愛いマルガから、水筒を受け取る。まだ俺にプリプリ怒っているルチアに



「ルチア…」

「何よ!!」

「ちょっと…此れ見て…」

俺はそう言うと、亀竜の銅像に、水筒の水を掛ける。それを見たルチアは、イラっとした感じで、



「だから…何なのよ!」

「今…俺は、この亀竜の銅像に水を掛けたよな?」

「ええそうよ!だから何!」

「良く見て…この亀竜の銅像…水に濡れてない…」

「はあ!?水に濡れてないって、どういう…」

ルチアはその先を言いかけて、言葉を発せられなかった。

今確かに水を掛けたはずの亀竜の銅像は、水に濡れた形跡が全くなかった。



「な…なにこれ…どういう事!?」

俺とルチアとマルガは、顔を見合わせて困惑していた。そして、この亀竜の銅像が気になったので、霊視で視てみる事にした



『…ック。やっぱり視えないか…。ダンジョンが巨大なマジックアイテムだというのは、本当に間違いないのかもね』

俺は心の中でそう呟く。実は、最初の予定では、とっくに秘宝は見つかる予定であった。

その理由は、俺には霊視があるからだ。霊視は物の本質を見極め、その物がどんな物で出来ているかまで、視る事が出来る。なので、ダンジョンで、隠し扉や、何かの仕掛けがあれば、きっと魔法を使っているから、霊視で見抜けると、思っていたのだ。ところが、ダンジョン自体が、巨大なマジックアイテムであった場合、既に魔法で何かされている所を、更に細かくは視れない。いや視れなかった。

なので、今迄全く何も手がかりが掴めないで、来ていたのである。

考え事をしている俺にルチアは



「葵どうしたの?何か解った?」

その声に現実に戻された俺



「いや…解らない。でも、この亀竜の銅像はおかしい。だって、掛けた水は何処に行ったんだ?」

その様な事を話していると、マティアスとマルコも傍によってきた。そして、亀竜の銅像に、水を掛けても、水が消える話をしたら、同じ様に考え込んでいる。



「つまり…この亀竜の銅像は、水を消す、水を吸う、水を隠す、等の事を、何らかの方法でしているって事よね?」

冷静に分析する、超天才美少女のルチア。

この亀竜の銅像は触れる。すると汚れが手につく。埃や砂が、亀竜の銅像にあるって事は、土系には反応していないという証拠。その時、何かが頭の中を駆け抜ける。



「玄武は…水の属性の四神…」

ふと、その言葉が出た。そして、電撃が走ったかの様に



「マルガ!この亀竜の銅像に、水魔法を掛けてみて!」

俺がそう叫ぶと、ハイ!と言って、水魔法の詠唱を始める。そして、亀竜の銅像に魔法を放つ



「ウォーターボール!」

水の弾を魔法で放つ、水属性の攻撃魔法だ。勢い良く放たれたウォーターボールは、亀竜の銅像に当たると、口の部分に吸い込まれる。すると、亀竜の銅像は、水色と、黒の光を放ちながら、光り出した。



「ビンゴ!!!やっぱりそうか!!!」

光り輝く亀竜の銅像に目を取られている一同は、俺の声に反応する。



「葵!一体どういう事なの!?」

「水色と黒色の光…間違いない!こいつはやっぱり玄武の銅像だったんだ!」

俺は異世界の地球の話はしないで、俺の故郷に、あると言う前提で、玄武の話をする。



「玄武は、水の属性を持ち、黒の色を持つ四神!そして…。マルガ!ラフィアスの回廊の地図を貸して!」

その言葉に、ウエストバッグから、ラフィアスの回廊の地図を取り出し、俺に渡す。そして位置を確認する。



「玄武は水の属性を持ち、黒の色を持つ。そして、守護しているのは…北!此処は東だから…」

俺はそう言って、2色に光り輝く、亀竜の銅像に手を掛けて、時計回りに、右に像を回す



「ゴゴゴゴゴ…」

土の擦れる音をさせて、亀竜の銅像を回すと、ガチャっと音をさせて、動かなくなった。その直後、光り輝いていた、光が消える。辺りに静寂が戻る。



「い…一体どうなっているんですか!?ご主人様!」

「そうよ!葵何か解ったんでしょ!?早く教えなさいよ!」

マルガとルチアが、ねえねえと聞いてくる。



「うん。この玄武はね、四神と言って、東西南北を守る神様みたいな物なんだよ。俺の故郷では、結構有名な神様で、この玄武は水を司り、黒の色を持ち、北を守護する神様で知られているんだ。俺も初めて見た時は、玄武だと思ったんだけど、この場所が東にあったから、北を守護する玄武では無いと、勝手に思い込み、空想の魔物…只の飾りの銅像だと思っていたんだ」

俺の説明にピンきた超天才美少女ルチアは



「…なるほど…。だから、葵は銅像を回したのね。玄武が本来守護すべき場所…北の方向に合う様に、右に回して、北に向けた。そうしたら、北を向いた亀竜の銅像は、光を止めて、動かなくなった…と、言う事ね!」

俺は肯定して頷く。



「きっと他の像も、この亀竜と同じ原理だろう。東西南北に像があり、その中央にもある…間違いない!」

その言葉を聞いたルチアは、装備を整え始める



「みんな!装備をしなおして!それぞれの銅像に出立するわ!」

皆がルチアに頷くと、準備を始める。そして準備の整ったのを確認したルチアは



「葵。次は何処に行く?」

「そうだね。今は東だから、南の竜の泉に行こう!」

皆が俺の言葉に頷き、南の竜の泉に向かう一同。



「四神の種類は、玄武、白虎、青竜、朱雀。そして中央の黄竜。此れがその種類だ」

「なるほど…それぞれが、違う場所に置かれていたから、気が付かなかったのね。しかも、私やマティアスでさえ知らない神様である四神。…きっとその先に…何かあるわね!」

ニヤっと笑うルチアにコクっと頷く俺。

説明をしながら歩いていると、件の竜の泉に到着した。



「青竜は、東を守護し、緑の色を持ち、木を司る神様。…うん?木!?この世界に、木の属性なんか無いよね!?」

戸惑っている俺のその言葉を聞いて、何かを思い出した、超天才美少女のルチア



「待って葵。木の属性は無いけど、木を育てる魔法があるわ!木を育てる魔法は、水と土の混合魔法!キツネちゃんが水の魔法を、私が土の魔法を唱えるわ!やってみましょう!」

「ハイ!解りました!ルチアさん!」

元気良く返事をするマルガ。ルチアの指示の下、マルガとルチアは水と土の魔法を唱える



「ウォーターボール!」

「アースクラッシュ!」

唱えられた2つの魔法は、竜の銅像目掛けて、飛んでゆく。そして、魔法が当たった瞬間、竜の銅像が、緑と茶色の光を出して、光り輝く。それを見たルチアはニヤっと口元を上げて笑う。



「どうやら当たりみたいね!」

「流石はルチアだね!」

「当然でしょう!?誰にものを言ってるのよ!誰に!」

腰に手を当てて、ドヤ顔でアハハと声高に笑っているルチアに、マルコとマルガも笑っている。



「えっと、青竜は東を守護で、此処は南だから…」

「さっきと同じ、右回しよ!」

ニヤニヤ笑うルチアに、苦笑いする俺。

俺は右に竜の銅像を回して行く。ゴゴゴゴと音を立てて、動く銅像は、ガチャっと音をさせて動かなくなった。そして光も消えて、戻って来る静寂…。



「葵の言う通り…間違いなかったわね!」

ルチアの言葉に、皆が頷く。



「さあ!どんどん行くわよ!葵次は?」

「西の大鷹の泉!」

「了解!」

俺達は西の大鷹の泉に向かう。途中で出て来た魔物を一瞬で全滅させて、足早に大鷹の泉に向かう。

そして、大鷹の泉に到着する。俺は銅像を知らべる。



「此れは朱雀の銅像だな。朱雀は南を守護し、赤の色を持ち、火を司る四神」

「じゃ~此処は私ね!火の魔法は私しか使えないし、火は私の一番得意な属性だし!」

得意げな顔のルチア。

そうですか火ですか…燃え上がるんですね。解ります。ルチアに似合い過ぎてて…怖いよママン!

ルチアは魔法の詠唱をはじめる。



「ファイアーボール!」

放たれた、炎の弾は勢い良く、朱雀の銅像に当たる。

すると、朱雀の銅像は、赤と朱色の色で光り出し、輝く。

俺は銅像の傍まで行き、



「えっと…朱雀は南を守護で、ここは西だ…」

「さっきと同じ右回しよ!いい加減気づきなさいよね!」

ですよね~。馬鹿でゴメンネ!わああああんん!

気を取り直して、朱雀の銅像を、右に回す。ゴゴゴゴと音を立てて、動く銅像は、ガチャっと音をさせて動かなくなった。そして光も消えて、戻って来る静寂…。



「じゃ~次は東西南北最後の北ね!」

皆が頷き、北の狼の泉に向かう。当然途中の魔物は瞬殺、足早なのは言うまでもない。

皆が皆、この先に隠されているであろうモノを、口に出さずとも理解している。

そんな期待を皆が胸に抱きながら、東西南北最後の北の狼の泉に到着した。

俺は銅像を調べる。



「此れは白虎の銅像だね。白虎は、西を守護し、白の色を持ち、金を司る。…うん?金!?」

「大丈夫よ葵!金は錬金の金。土と火の属性で行けるわ。火は私、土はマティアスね」

「解りましたルチア様」

ルチアとマティアスは、火と土の属性魔法を唱える



「ファイアーボール!」

「アースクラッシュ!」

唱えられた2つの魔法は、白虎の銅像目掛けて飛んでいく。すると、当たると同時に、白と金色に光り出し、輝き出す。

俺は銅像まで行き、



「えっと、白虎は西を守護し、此処は北だから…」

「…葵…わざとやってるの?右って解ってるよね?」

ジト目のルチアに、威圧される。

いえ!本気なんです!馬鹿なだけなんです!ごめんね!うわあああんんん!ほんと悲しいよ…ううう…

気を取り直して、白虎の銅像を、右に回す。ゴゴゴゴと音を立てて、動く銅像は、ガチャっと音をさせて動かなくなった。そして光も消えて、戻って来る静寂…。



「これで、全ての東西南北は終了ね。後は…」

「ああ!中央の黄竜!四神の中心的存在のみ!」

俺達は、中央の一角獣の泉に向かう。



「いよいよかな?」

マルコは期待で我慢出来無いと言った感じだ。



「だね!きっとある!300年間眠り続けたモノがね!」

「そうね…これで何もなければ、私が呪ってやるわ!」

ルチアの言葉に、一同が笑う。距離も近い事もあって、中央の一角獣の泉に到着する。

その銅像を調べている時に、マルガはふと疑問に思ったのか



「ご主人様~。ご主人様の話では、中央は黄竜さんて言う、竜の神様なんですよね?この銅像…どう見ても竜には見えないんですが…どちらかと言うと…ユニコーン…お馬さんの様な気が」

マルガは可愛い首を傾げている。マルガの頭を優しく撫でながら、



「うん。正解。コイツは多分麒麟だね。一角獣の別名もある神様だね」

「じゃ~黄竜さんとは違うんですか?」

「うん。この中央はね、時代によって、黄竜だったり、麒麟だったりするんだ。多分この仕掛を作った人の時代の中央は、麒麟だったんだね」

俺の説明を聞いて、なるほど~と頷くマルガ。



「黄竜の守護は中央。土を司る神」

「じゃ~最後も私が行くわ!最後の仕掛けを動かせるなんて、楽しそうだし!」

ニコニコしているルチアに任せ、見守る一同。

ルチアが土の魔法の詠唱を始める。



「アースクラッシュ!」

唱えられたの魔法は、麒麟のの銅像目掛けて飛んでいく。魔法が当たると同時に、光り出し、輝き出す。

すると今までと違い、銅像はそのまま地下に沈んでいく。そしてそこに、地下に降りる階段が現れた。

その階段を見た、一同の瞳は、輝き出す。



「…300年間誰にも発見されなかったはずね。私やマティアスが知らない神様に、バラバラに配置された銅像。一つの魔法だけでなく、組み合わせもあり、しかも銅像を回転させないと駄目…ほんと、よく作ったものね。呆れてものが言えないわ!」

盛大に貯め息を吐くルチアに、一同が笑う。



「でも、この奥に有るんですよね!大魔導師アーロンの隠したと言われる秘宝が!」

マルガは尻尾をフリフリしながら、興奮気味に言う。



「そうだねマルガねえちゃん!やったね!」

マルガとマルコは、軽くジャンップして、ハイタッチをしている。



「それは大魔導師アーロンの秘宝を手に入れてからにしましょう!まだ先があるようですしね!」

マティアスの言葉に、皆が頷く



「そうだね!じゃ~お宝とご対面と行こうか!皆!」

「「「オー!!!」」」

俺の言葉に、皆が勝鬨の様な声を上げる。



俺達は中央に出現した、宝に通じる階段を降りて行くのであった。
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