愚者の狂想曲☆

ポニョ

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1章

愚者の狂想曲 20 囚われの金色の妖精

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ルチアと訓練する事になって、25日が経っていた。そして今日も、けたたましく部屋の扉が叩かれる



「葵~!!起きろ~!そして鍵を開けろ~!」

扉をドンドンと叩きながら言うルチア。



「わわわ!今開けるから、扉をドンドンしないで!」

俺は慌てて扉の鍵を開ける。すると勢い良く開けられる部屋の扉の向こうに、呆れ顔のルチアがお供のマティアスと立っている



「ったく…毎朝毎朝…私が起こさないと、起きないんだから!さっさと用意しなさいよね!何時ものレストランテで待ってるから!」

そう言い残して、スタスタとレストランテに向かうルチアとマティアス。

台風の襲来の様なルチアが立ち去り、俺の横で寝ていたマルガが、目を覚ます。



「おはようございますご主人様」

そう言って、眠気眼を擦りながら、俺の傍まで来ると、ニコっと極上の微笑みを俺に向け、優しく口付けをしてくるマルガ。マルガの柔らかく、甘い舌を堪能すると、マルガは大きくなっている、俺のモノを優しく掴む。



「ご主人様のココ…頂いちゃいます~」

そう言って、可愛い口を、頑張って開いて、俺のモノを咥えるマルガ。余りの気持ち良さに、早々、マルガの口の中に、精を注ぎこむと、コクコクと美味しそうに、クチュクチュ味わうマルガを抱きしめる



此れが、ここ最近の俺達の日常である。

毎朝、朝刻3の時に、ルチアが俺達を起こしに来る。ルチアと会う前は、なんとなく起きて、一日を始めると言う、習慣が見に付いていた為、朝きちっと起きるって言う事を、地球に居ていた時ぶりに、行なっている。

俺とマルガは着替えて用意すると、マルコの部屋に迎えに行く。マルコは、ルチアが起こさずとも、起きているみたいで、俺とマルガが迎えに行く頃には、準備を整えて待っている。



「おはよう!葵兄ちゃんにマルガ姉ちゃん!」

「おはようマルコ」

「おはようマルコちゃん!」

俺達は笑顔で挨拶をして、ルチアとマティアスの待つ、何時ものレストランテに向かう。

そして、レストランテの中に入ると、ルチアとマティアスは先に朝食を食べている。



「やっと来たわね。全く…何時も何時も…。ま、いいわ!葵達にも同じ物を」

呆れながらルチアが言うと、執事服をビシっと着た店員が、俺達の分の朝食を持って来てくれる。



「「いただきます!」」

「は~い。召し上がれ~」

声を揃えて、頂きますをする、嬉しそうなマルガとマルコを見て、フっと笑って返すルチア。

ニコっと笑うマルガとマルコは、出された朝食を、モリモリ食べて行く。



「何時見ても、貴方達の食べっぷりは凄いわね~。それだけ嬉しそうに食べてくれたら、此処の料理人も幸せだわ」

「だって、此処の料理、物凄く美味しいんだもん!」

「ですよね!私も美味しくて我慢出来ません!」

マルガとマルコは、モグモグ食べながら、頬を一杯に膨らませている。

確かにここの料理は、凄く美味しい。流石フィンラルディア王国で、5本の指に入ると言われているだけはある。地球並みに美味い料理に、俺も舌鼓を打つ。そんな俺達を見て、満足そうなルチア。



「なあルチア~。毎朝部屋の扉叩きながら叫ぶのやめてくれない?ご近所迷惑だし~」

「葵が起きてないからでしょ!葵が私が来る時までに、起きていればそんな事はしないわよ!」

食後の紅茶を飲みながら、呆れているルチア。

ルチアは何時も口が悪いが、意外と面倒見は凄く良い。

朝起こしに来るのも、本来なら、一級奴隷が真っ先に主人を、起こさなければならないのを知っているのに、起きるのが苦手なマルガには、何も注意はしない。きっと、俺とマルガの関係を、主従関係だけでは無いと、理解してくれている。

訓練でも、マルガとマルコを良く見てくれるし、教えてあげてくれている。レアスキルの天賦の才能を持ってるだけあって、実力もあるし、教え方も非常に上手い。本当に超天才。

そんな良くしてくれるルチアを、マルガとマルコも慕っているのである。



「ルチアも、何処かの貴族のご令嬢かなんかだろう?少しはお淑やかにしたら?」

軽く溜め息を吐く俺に、ニヤっと笑うルチアは



「なに?葵ってそんな女が好みだったの?キツネちゃんは大人しいけど、そんなタイプじゃ無いじゃない。それに、そんな女つまらなくてすぐに飽きるわよ?」

ニヤニヤ笑いながら、紅茶を飲むルチア。俺の横で、背筋をピンと伸ばし、パクパク食べていたのを、急にゆっくりと食べるマルガ。どうですか?お淑やかですか?可愛いですか?と、褒めて褒めてオーラ全快のマルガの頭を優しく撫でると、ブンブンと金色の毛並みの良い尻尾を、振っているマルガが愛おしい。



「ほんと、キツネちゃんはそんなに可愛いのに、葵の何処が、そんなに良いのやら…」

呆れているルチアに、ムウウと唸りながら、ルチアに何か言おうとするが、口に優しく指を置かれる。



「解ってるって!『ご主人様の悪口はやめて下さい!ご主人様は魅力的です!』でしょ?もう、何百回と聞いたわ」

ルチアが呆れながら言うと、コクコクと頷くマルガ。モグモグ。口は動いている。

何百回とそんな事言う方もどうかと思いますが?と、心の中でルチアにツッコミを入れておいた俺。

俺のガラスのハートも、言われ過ぎたせいか、若干壊れにくくなり、強化ガラスのハート位には、レベルUPしたように思う。いや~人間って、適応するんだね~。



「そう言うルチアって、どんなタイプの男の人が好きなの?」

俺のその言葉に、う~んと、人差し指を唇に当てて考えるルチア。超美少女だけ有って、その仕草は可愛らしい。あくまで、仕草だけ!ここ重要!



「特に無いわね~。男の人を好きになった事無いから、解らないわ」

「なんだよ。偉そうに言うから、恋愛経験豊富かと思ったら、誰ともそういう関係になった事無いんじゃん。…変な男に引っ掛から無い様に、注意しないとダメだね」

「フン!葵も私と大して変わらないんじゃないの?何故かそんな気がするのよね~」

ニヤ~っと小悪魔の様に笑うルチア。

ギクギクギク!ほ…本当に、コイツは人の心を見抜くのがうまい!

どうせオラは、モテナイですよ!ええ!知ってますよ!没個性ですよ!パッとしない見た目ですよ!

そんな俺を楽しそうに見ているルチア。クウウ…この小悪魔め…



「ま~私みたいな、美人で、可愛くて、清楚な美女が本気になれば、恋の1つや2つ、簡単よ!」

「そうだね~お淑やかになったら出来るかもね~」

「フン!お淑やかなだけの女なんか、掃いて捨てるほど居るわよ!それこそ個性が無いわよ!」

「ま~槍をブンブン回しながら突撃してくる、お嬢様よりかはましかと…」

俺の言葉に、ピクっと眉を動かすルチア。紅茶を飲んでフンと言うと、



「私はこれでも人気あるんだからね!葵には何故か、私の魅力が解らないみたいだけど!」

少し拗ね気味に言うルチア。

確かにルチアは良くモテテいる。最低1日1回は、男が告白に来ている。

これだけの美少女なのだ。男が放っておく訳がないのは当然ちゃ~当然なのだ。

しかし、マティアスが追い払うのと、ルチアが相手にしないのとで、みんな撃沈している。

そして、マルガにもルチア同様に来るのだが、マルガの首元を見て、俺の一級奴隷であると解ると、俺を激しく睨みつけて、何処かに行ってしまうのが日常なのだ。



「ま…まあ…確かに美人だし、人気があるのは解かるけど…」

「なになに?解るけど?その続きは?」

ルチアが顔を近づけて、ニコっと笑う。ルチアの甘い匂いが、俺の嗅覚を刺激する。

そんな俺に何かを感じたマルガが、ギュっと俺の腕に抱きつく。それを見て、呆れ顔で戻っていくルチア。そんな俺達を見て、盛大に貯め息を吐くマティアスが



「しかし、ルチア様を筆頭に、マルガ嬢やマルコ坊、葵殿も訓練を頑張っているので、かなりLVも上がったのではないですか?」

その言葉に、皆が自分のネームプレートを確認する。



「そう言えばそうね。キツネちゃんとマルコ。ちょっとネームプレートを見せてみて」

ルチアの言葉に、素直にルチアにネームプレートを渡す、マルガとマルコ。



『名前』 マルガ



『LV』 LV12



『種族』 ワーフォックスハーフ



『年齢』 13歳



『性別』 女



『身体』 身長 130㎝ 体重 30㎏ B67/W43/H63



『戦闘職業』 マジックウォーリアー



『取得スキル』 ☆



『住民登録』 無し



『その他1』 身分 一級奴隷  所有者 葵あおい 空そら 遺言状態 所有者死亡時奴隷解放



『その他2』 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、 所属チーム無し



『その他3』 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し



「ふんふん。LV12ね~。なかなか上がってるじゃない」

「ホントだ!マルガ頑張ったね!」

「ハイ!ありがとうございます!ご主人様!」

嬉しそうにしているマルガの頭を優しく撫でる。ルチアは、取得スキルも、マルガに開かせる。



『現取得スキル 合計10』



『アクティブスキル 計4』 裁縫LV25、 古武術LV 12、 水魔法LV12、 風魔法LV12、 



『パッシブスキル 計5』 ワーフォックスの加護(身体能力向上、高嗅覚、高聴力) 力上昇、 俊敏性上昇、 魔力上昇、 マジックウォーリアーの魂



『レアスキル 計1』 動物の心



「へえ~ちゃんとスキルも上がってる…って…キツネちゃん!レアスキル持ちなの!?」

ルチアは驚きの声を上げている。

レアスキルの所だけ秘密モードにしておいて良かった…。



レアスキルと言うのは、別名ギフトとも呼ばれていて、生まれ持った才能、天からの授かりものと言われるスキルである。種類は様々だが、非常に強力で、有力な力を秘めたスキルが多いらしい。レアスキル持ちはその力の強さから、国やら貴族、その他から重要視され、引く手数多といった感じだ。



「どんなレアスキルかは、秘密にしてあるから解らないけど…キツネちゃんがね~」

まじまじとマルガを見るルチアに、若干照れているマルガ。気恥ずかしそうに、尻尾をパタパタさせている。

俺もマルガの取得スキルを見る。うんうん。順調にLV上がってるね。格闘術LV1だったのが、俺が教えた古武術のせいで、古武術LV12に変わってる…そういう変化もあるのか…

そんな事を考えていたら、ルチアは、マルコのネームプレートを見ている。



『名前』 マルコ



『LV』 LV15



『種族』 人間族



『年齢』 11歳



『性別』 男



『身体』 身長 145㎝ 体重 40㎏ 



『戦闘職業』 スカウト



『取得スキル』 ☆



『住民登録』 イケンジリ



『その他1』 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク アイアン、 所属チーム無し



『その他2』 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し



「マルコも順調に上がってるわね」

「マルコ頑張ってたもんな!」

「うん葵兄ちゃん!」

「私より3もLV高いです~」

若干ウウウとなっているマルガの頭を撫で撫でする。マルガはマルコより上級職だから、LVの上がりが、マルコに比べて遅い。ま~仕方無い事なんだけどね。

ルチアはマルコに取得スキルも開かせる。



『現取得スキル 合計8』



『アクティブスキル 計4』 投擲術LV25、 罠解除LV15、 鍵解除LV15、 剣術LV15



『パッシブスキル 計4』 周辺警戒LV15、 斥候術LV15、 俊敏性上昇、 スカウトの魂 



「スキルも順調に上がってるわね。でも、流石スカウトだけ有って、有用なスキルが多いわね~」

「それが良かったから、スカウトになった様なもんだからね!」

ニコっと笑って言うマルコを見て、軽く頭をポンポンと叩いているルチアも、微笑んでいる。



「さ~最後は葵のネームプレートね。見せて葵」

ルチアはにこやかに、俺にネームプレートを提示させる



「い…いや…俺はいいよ…」

「いいから見せて。今すぐ」

「だ…だから…俺のは…いいって!」

「…葵…今此処で貴方がネームプレートを見せないと、貴方にこれからの人生の半分を、後悔するような事をしちゃうかもよ?」

その言葉にゾクっと来た俺は、ネームプレートをルチアに提示する。



「わ…解ったよ!み…見せるから、後悔させるような事はしないで!」

泣きそうになっている俺を見て、ニヤっと笑うルチア。…ホント小悪魔だよ!あんた!



「ったく…手間とらせるんじゃないわよ。早く開きなさい!」

せかすルチア。俺は深くため息を吐いて、ネームプレートを開く。俺のネームプレートを初めて見るマルコとルチアは、覗きこむ様に見つめている。マルガも2人に負けない様に覗きこむ。



『名前』 葵あおい 空そら



『LV』 LV27



『種族』 ヴァンパイアハーフ



『年齢』 16歳



『性別』 男



『身体』 身長 168㎝ 体重 59㎏



『戦闘職業』 タッスルマークスマン(Tussle Marksman)



『取得スキル』 ☆



『住民登録』 無し



『その他1』 冒険者ギルド登録済、 冒険者ランク ブロンズ、 所属チーム無し



『その他2』 商取引許可登録済、 商組合 無し、 商会 無し



『その他3』 取得財産、 一級奴隷 マルガ、 遺言状態 所有者死亡時奴隷解放



「ふ~ん。LV27か~。やっぱり、実戦に出ないと、此れ以上の上がりはキツイわね。…うん?葵…貴方、種族が秘密になってるけど、貴方見たまんまの人間族じゃないの?何かのハーフなの?」

やっぱり気がついたか…秘密モードにしておいて良かった…

この世界は魔族を敵対視している。俺が闇の種族、ヴァンパイアの血を引く魔族だって解ったら、どうなるか解らない所だった。



「ま…俺にも色々あるんだよ!」

「ふ~んま…いいわ!貴方のあの拳銃を使う、遠近攻撃職業は、タッスルマークスマンって言うのね…初めて聞いたわ。こんな職業もあるのね~」

種族の事は、軽く流してくれた様で安心した。そんなホっとしている俺に、ニヤっと笑うルチアは。



「じゃ~次は取得スキルを見せて!」

微笑むルチア。しまった!ルチアの本命はこっちだったか!俺が渋っていると



「何…?後悔したいの?」

流し目で言うルチア



「し…したくない!したくないです!」

俺はルチアの脅しに屈服してしまった。仕方無く見せる事にした。



『現取得スキル 合計14』



『アクティブスキル 計7』 古武術LV27、 種族能力解放LV1、 雷操作(能力開放時のみ使用可能)、 眷属付与、 闇魔法LV1、 銃剣術LV27、 射撃技術LV27



『パッシブスキル 計4』 ヴァンパイアハーフの加護(限定不老不死、身体能力上昇、大強闇属性耐性、弱光属性)、 精密射撃、 火器の知識、 タッスルマークスマンの魂 



『レアスキル 計3』 闘気術LV27、 霊視、 魅了



「ふ~ん。殆ど秘密にしてるから、内容は解らないけど…取得スキル合計14か…なかなか多いわね。…うん?…うんん!?ちょ…ちょっと!葵…貴方もレアスキルを持ってるの!?し…しかも3つも!?私でさえ、レアスキルは1つなのに!どういう事!説明しなさいよ!」

ルチアが怒涛の勢いで、詰問してくる。

うははは!失敗した!秘密モードにしても、数は解っちゃうんだった!ど…どうしよう!

俺がルチアに胸を掴まれて、揺さぶられているのを見て、ルチアを止めてくれるマティアス。



「ルチア様。レアスキルは生まれつきのもので、神からの贈り物。ギフトのようなものです。なぜ持っているかは、葵殿とて解りはしませんでしょう。たまたま、葵殿は3つ持って生まれた。そういう事です」

マティアスがそう言ってルチアを止めてくれた。良かった~。マティアスGJ!



「わ…解ってるけどさ~。私でさえレアスキルは1つなのに、釈然としないわ~」

超天才のルチアの気に触った様だったが、何とかごまかせそう!

苦笑いしている俺を、流し目で見ているマティアスは



「ま、レアスキルを3つ持っている者など私も初めてですけどね」

俺を見ながら言うマティアス。その瞳は、何かを考えている様で、思わずギクっとなってしまった。



「そ…そういえば!ルチアのレアスキルってどんなスキルなの?」

俺はルチアのレアスキルは知っているが、話を変えようとギクシャクしながら言うと



「貴方…自分が秘密で見えなくなってるのに、私にソレを言わせる訳?…そんなに私のレアスキルを聞きたいの?」

俺はキョドりながらウンウンと頷くと、ルチアはフフフと笑い



「私のレアスキルは…この美貌よ!美しいでしょ?」

そう言って綺麗に髪の毛をかき上げ、可愛くポーズを取るルチア。

お前のレアスキルは、天賦の才能だろうが!どれだけ、美貌に自信があるんだよ!



「…ソウデスネー。ソレハスゴイレアスキルデスネー」

「なによ…その棒読みは…」

キッと睨むルチア。でも、ルチアのした、髪をかきあげる仕草を可愛いと思ってしまった俺も、釈然としない気持ちになる。



「…ついでにお淑やかになるレアスキルも持って生まれればよかったのに…」

本音が小さく呟きで出てしまった俺を、キッと見据えるルチアが



「葵…何か言った~?後悔したいなら何時でも言ってね~」

睨んでくるルチアに、ビクっとなりながら



「い…いえ!何も!」

どもる俺を、まだ見ているルチア。苦笑いすると、ハ~っと溜め息を吐いている。そんなやり取りをしてる時に、朝食を食べ終わった俺達に、食後の紅茶が出される。俺はその紅茶を呑みながら、ふと、マティアスに目をやった



『そういえばマティアスって…何者なんだろ?ルチアのお供兼護衛なのは解っている…マティアスってめちゃめちゃ強いけど…ちょっと…霊視してみるか…』

俺はマティアスを霊視してみようとした瞬間、バチチと頭の中で鳴り響き、霊視が解除された。俺がその衝撃に軽く頭を抑えていると、



「葵殿…食事中のレストランテで、魔法を使うのはマナー違反ですぞ。何の魔法かは解りませんが…」

俺が霊視している事を、見ぬくマティアス。



「え?葵って魔法使えるの?ま~あの拳銃の弾は魔法弾だし使えてもいいのかな?」

追求してこようとするルチア。俺は少しキョドりながら、



「ま…まさか!ちょっとしたスキルだよ!ご…ごめんねマティアス…あはは…はは」

ドキドキして言う俺を見て、フっと笑うマティアス。

やっぱり、マティアスはかなりの実力者だ!何も見れなかったけど、イレーヌさんクラスなのは間違い無いと思う。…くわばらくわばら…



「わかれば宜しいのです」

と言って、静かに紅茶を飲むマティアス。殺されなくて良かった…

安堵していたら、ルチアが何か追求してこようとしていたのを感じたので、ルチアより先に俺が喋る



「あのさ!明日の朝刻中なんだけど、ちょっと用事があるから、訓練出来無いから」

ギクシャクしながら俺が言うと、それを聞いたルチアがキッと睨んで



「何!?どういう事!朝刻の訓練出れないなんて!貴方にそんな権利があると思っているの!?」

真顔でさも当たり前の様に、俺の人権を侵害してくるルチア



「い…いや!明日の朝刻の5の時に、人に会うんだよ!ちょっと呼ばれててさ!」

俺はルチアに説明をする。

昨日ルチア達との夕食を終えて、部屋に戻ると、モンランベール伯爵家の使いの者が、扉の前に立っていて、以前約束した、モンランベール伯爵家当主と、アロイージオとの面会の日時を、教えられたのだ。



「…なら仕方無いわね…。本当は納得出来無いけど我慢してあげる。貴方に会うために時間を取っているであろう相手の人に免じてね!」

フンと言うルチア。俺の人権は一体何処にあるのだろう…悲しくなってきた…ウウウ…



「そんな事言わなくてもいいじゃん。俺達は休日も会ってるんだぜ?少しの時間位、許してよ」

プイっと横を向いて若干拗ねているルチア。

俺達は、5日に1日は、休暇として休んでいる。

しかし、俺達と一緒じゃない日の次の日のルチアは、機嫌が悪かったのでマティアスに聞いてみると、俺達と一緒じゃなかったので、きっと寂しかったのでは?と、マティアスが言っていた。

それ以降、休暇の日も、俺達と一緒にいるルチアは、それから機嫌が悪くなるのは無くなった。なんやかんやで、マルガやマルコ、俺の事はどうか知らないが、一緒に居ると楽しいらしい。



「とりあえず明日の事は解ったけど、出かける前に、朝食を食べる時間はあるでしょ?朝食は一緒に食べなさいよね!」

プリプリ言うルチアは、頬を膨らませている。拗ねられたんですね。解ります。



「…ホント素直じゃないんだから…寂しいって素直に言えば、可愛いのにさ…」

「なんか言った!?」

「いいえ別に~」

小声で言った俺の本音が聞こえたのか、顔を赤らめているルチアを、マルガもマルコも、ニコニコして眺めていた。











翌日、俺達はモンランベール伯爵家の使いの者の後をついて、モンランベール伯爵家の別邸に向かっている。

朝食を一緒にとったルチアは、若干拗ね気味だったけど、昼刻の訓練は一緒にすると約束したら、『仕方無いわね!早く行って、帰って来なさいよね!』と、寂しさ全開で待っていると言っていた。

とりあえず、面会して、終わったら速攻でルチアの元に戻ろう。ルチアが寂しがるしね。

そんな事を考えていると、モンランベール伯爵家の別邸に到着した。

使いの者は、俺達を屋敷の中に案内しようと、歩み始めるが、俺の足は入り口で止まってしまった。



『そう言えば…此処で、リーゼロッテと別れたんだよな…』

そう、此処には出来るなら来たく無かったと言うのが本音だ。

此処に来ると、俺の手の中から滑り落ちて行った、金色の妖精、リーゼロッテの事を、どうしても思い出してしまう。

もう、別れてから26日が経っている。リーゼロッテはとっくにどこぞの貴族様の物になっているんだろう。その事を思うと、今でも心が軋む。



ルチアに会ってからは、ルチアのキャラが濃いせいと、毎日ほぼ訓練で、リーゼロッテの事を思い出す回数は減っていた。また、それで良いとさえ思っていた。

しかし、別れたこの場所に立つと、腕の中で抱いていた、甘い吐息を上げる、艶かしい色に染まった、金色の妖精の、感触から体温までが、実にリアルに蘇る。

そんな事を思い、握り拳に力が入っていた俺に、優しく抱きついてくるマルガ。



「ご主人様…大丈夫ですか?」

少し寂しそうにも、悲しそうにも見える、その複雑な心の中を写している瞳を、俺に向けて揺らしているマルガの頭を、優しく撫でる。



「ゴメン…もう大丈夫だから」

俺のその顔を見て、静かに頷くマルガ。



「…ご案内させて貰っても、よろしいですか?」

使いの者が、俺達を待って居た。



「あ…はい。…お願いします」

俺のその言葉を聞いて、モンランベール伯爵家の別邸の中に、案内してくれる。

モンランベール伯爵家の別邸の中に入ると、綺麗な赤い、高級そうな絨毯が敷いて有り、天井を飾る、シャンデリアが、光り輝いている。豪華な屋敷を、使いの者の後に付いて行くと、一際豪華な扉の前で止まる。

そして、使いの者は、ノックして部屋の中に入ってゆく。暫く待っていると、以前会った、この別館の執事をしている、アニバルが出て来た。



「ランドゥルフ様がお会いになります。どうぞ、こちらに」

丁寧に案内され部屋の中に入って行くと、部屋の奥に豪華なソファーに座っている、50台の男性が、キツイ眼光を俺達に向けていた。その両端には、鎧を着た、威厳の有る騎士と、アロイージオが立っていた。



「ご主人様、葵様御一行をお連れしました」

「ウム、下がるが良い」

そう言われて、後方に下がる執事のアニバル。豪華なソファーに腰をかけている男性は、目の前に居る、俺達3人を上から下まで、品定めする様に見ると、少しフンと言って



「良く来たな。私がモンランベール伯爵家当主、ランドゥルフ・シュッセル・モンランベールだ。…今回は、息子のアロイージオが世話になった。礼を言おう」

そう言って、ほんの僅かに瞳を下げる、ランドゥルフ。その眼光の光は、鋭く、厳しかった。



「い…いえ!とんでもありません。私は行商をしています、葵 空と言います。こっちが僕の一級奴隷のマルガ、そっちが、旅の仲間のマルコと言います」

「は…初めまして!ランドゥルフ様!わ…わたしはご主人様の、一級奴隷をしています、マルガと言います。よろしくです!」

「は…初めまして!ランドゥルフ様!ぼ…僕は…イケンジリの村から来た、マルコと言います!よろしくお願いします!」

マルガもマルコも、かなり緊張しながら、可愛い頭を下げて挨拶をする。それを見て、少しフンと鼻で言うとランドゥルフが



「挨拶はもう良い。私も忙しい身でな、用件を済まさせて貰おう」

そうランドゥルフが言うと、目で合図する。先程、下がったアニバルが、俺達の前に立ち、袋を俺に手渡す。



「金貨20枚入って居る。今回の礼だ。受け取るが良い」

その袋を手渡された俺は、綺麗にお辞儀をして、



「ありがとうございますランドゥルフ様。しかし、この様な大金頂いてもよろしいのですか?」

「構わぬ。これで、お前には貸し借りは無しと、言う事だ。その為の金なのだからな」

ランドゥルフは瞳を更にキツくして、俺達を見つめる。



…なるほど…。ランドゥルフはこの金を最後に、モンランベール伯爵家には関わるなと、言っているんだ。これ以上何かを欲しても、何も与えぬし、何も知らない。つまり、俺達と関わりたくは無いと、言っているのだ。

モンランベール伯爵家は、大国フィンラルディア王国の、有力な大貴族、六貴族の内の1つ。その力の庇護に肖りたいと言う輩は、それこそ星の数ほどいるだろう。ランドゥルフは当然そういう輩をたくさん見てきた。その沢山の中の1人が、俺達と言う事なのであろう。ふと、アロイージオを見ると、申し訳なさそうに俺達を見つめていた。



「解りました。確かに受け取らせて頂きます」

他に何も言わずに、綺麗に頭を下げる俺を見て、ほう…と言った顔をするランドゥルフ



「しかし、不運であったわ。アロイージオ様を護衛していたのが、モンランベール伯爵家の新造部隊で、訓練中であった、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、第5番隊だった事がな!第5番隊で無ければ、盗賊の集団などに、遅れをとるなど…ましてや全滅などは無かったのだがな!お主も、よもや…ラウテッツァ紫彩騎士団の実力が、第5番隊程度とは思っておらぬよな?」

ランドゥルフの左に立っている、豪華な鎧を着た、威厳のある騎士が、俺を睨みながら言う。



「こやつは、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団、団長のコルネリウスだ。まあ…こやつの言った通りだ。不運にも、新造で訓練中であった第5番隊が守備中の、不幸な出来事であったと、言う事だ」

ランドゥルフがそう言うと、得意げな顔をしている、団長のコルネリウス。



…本当に新造部隊だったのか…。そう言えば、隊長のハーラルトは、アロイージオが、どこぞの酒場で拾ってきたと言っていたな。まだ、騎士団を持たされて居なかったアロイージオの為に、新造された所をやられた訳か…。

そして、これ以上ラウテッツァ紫彩騎士団を侮辱するなら、容赦はしないと言った所だろう。本当にバルテルミー侯爵家や、ウイーンダルファ銀鱗騎士団とは、真逆の印象を受けるね。ま~バルテルミー侯爵家が、特別なだけなのかも知れないけど。

俺は静かに頷き



「はい。良く理解しております。栄えある、モンランベール伯爵家、ラウテッツァ紫彩騎士団様は、大国フィンラルディア王国を支え、守護する、栄光有る騎士団。その事は、フィンラルディア王国の民で有れば、周知の事実。疑う余地はありません。僕も偶然助かった様なもので、バルテルミー侯爵家、ウイーンダルファ銀鱗騎士団に助けて貰った事で、事なきを得た事を良く解っております」

そう言って綺麗にお辞儀をすると、フっと軽く笑うランドゥルフ。

そして、ランドゥルフが何かを話そうとした時に、コンコンと扉がノックされ、誰かが入って来た。



「失礼しますご主人様。リーゼロッテ、只今帰りました」

その透き通る様な美しい声に、全身が逆立つ様な感覚に囚われ、俺は無意識に、後ろに振り返る。

そこには、俺の手の中から消えて行った、金色の妖精が、真赤な美しい豪華なドレスで着飾って立っていた。



「リーゼロッテ!!」

俺はどんな顔をしていたのかは解らない。ただ、心の奥から搾り出される様に、ただ名前を呼んでいた

。そんな俺を見て、一瞬何とも言えない嬉しそうな光を宿した瞳であったが、その光はすぐに失われてしまった。



「あ…葵さん…」

触れれば、崩れ落ちそうな、微かな声を出すリーゼロッテ。俺は、無意識にリーゼロッテの傍まで近寄っていた。そして、その瞳に入った、ある物を見て、電撃が体中に走ったかの様に、動けなくなった。



「リ…リーゼロッテ…その首…その首に付いている…その…紋章は…何なの?」

俺は、リーゼロッテの首に付いている、その紋章をよく知っている…

リーゼロッテの首に付けられている、赤い輪っかの様な紋章…それは一級奴隷を示す紋章であった。



「アロイージオ様!!これはどう言う事なんですか!!!」

俺は振り返り、アロイージオにそう叫んでいた。俺の声を聞いたアロイージオは、申し訳なさそうに



「い…いや葵殿…僕も知らなかった事なのだよ。此処について、初めて解った事なんだ」

「でも!リーゼロッテは、何処かの貴族に嫁いで幸せになって居るはずなのに!何故ですか!!」

俺がアロイージオに叫ぶのを聞いて、無礼を働いたと思った、団長のコルネリウスは、俺を捕まえようと、歩みだそうとしたが、ランドゥルフによって、無言で止められる。その場に留まった団長のコルネリウスは、激しく俺を睨みつけていた。



「そこの一級奴隷のリーゼロッテは、とある村から私が、金貨500枚で買い取った物だ」

簡潔に俺の知りたい情報を与えてくれるランドゥルフ。それを聞いた俺は狼狽しながら、



「それは、どういう事なのですか…?ランドゥルフ様?」

辛うじてそう声の出た俺を見て、フーと大きく溜め息を吐くランドゥルフ。



「何やら話が拗れている様だな。…いいだろう。リーゼロッテ!昼刻の6の時迄時間をやろう。一級客間にて、きちんと話をし、別れを告げるが良い。葵殿もそれが終われば、此処に戻る必要は無い。以上だ!」

そう言ってランドゥルフは、執事のアニバルに指示を出す。俺達は、アニバルに連れられて、接見室を後にした。









執事のアニバルに連れられて、連れてこられた部屋は、豪華な部屋だった。

部屋の中心に大きく、豪華な装飾のついたベッドが置かれており、甘い香りのする香が焚かれている。

マルコはアニバルに部屋の外で待つ様に言われ、その部屋の中には、俺とリーゼロッテ、マルガの3人のみとなっていた。

そして、部屋の中で無言で黙っていた、リーゼロッテは、スルスルと赤く豪華なドレスを脱いでゆく。



「リーゼロッテ何してるの?」

俺のその声に、ピクっと体を反応させる。リーゼロッテ。



「私の今の主人はランドゥルフ様です。その主人が、貴方に最後のお別れをきちんと言うようにと、気を使ってくれたのでしょう。この部屋を使って良い…つまり…それは、膣以外の所を使っても良いから、きちんとせよとの事です。この部屋はそう言う為の部屋なのです」

そう言って、ドレスを脱いでいくリーゼロッテ。



「そんな事を聞いているんじゃない!!一体どうなってるのか聞いているんだリーゼロッテ!!」

俺はリーゼロッテの腕をつかんでそう叫ぶと、ドレスを脱ぐのをやめさせる。そして、リーゼロッテの顎を掴み、こちらに顔を向けさせると、リーゼロッテの瞳は、涙を浮かべ、激しく揺れていた。



「リーゼロッテ…」

その瞳を見た俺は、思わずリーゼロッテを抱きしめてしまった。リーゼロッテもきつく俺を抱きしめる。そんなリーゼロッテの頭を優しく撫でると、涙を流して泣き始めた。あの女神の様に、神々しく凛としたリーゼロッテの姿は、何処にも無く、そこには、只々肩を震わせて泣いている、か弱い美少女の姿しか無かった。

俺はリーゼロッテが落ち着くまで、胸の中に抱きしめ、頭を優しく撫で続ける。暫くそうしていたリーゼロッテは、少し落ち着いてきて、俺に顔を向ける。俺は指でリーゼロッテの涙を拭き、リーゼロッテを椅子に座らせる。マルガが、置いてあった紅茶を3人分入れてくれた。マルガから紅茶を受け取った、リーゼロッテは、ゆっくりとそれを飲む。



「…リーゼロッテ。一体何があったのか…話してくれるね?」

俺の言葉に静かに頷き、全てを話しだすリーゼロッテ。



リーゼロッテの住んでいた村は、この町より遥か東方の、エルフの住む国と、フィンラルディア王国の国境近くにあったらしい。

リーゼロッテの両親は、父が人間族、母がエルフで、2人は恋をしてリーゼロッテが生まれた。リーゼロッテ達は、フィンラルディア王国のとある村で、静かに暮らしていたらしい。

そして、父が死に、エルフの母も他界し、身寄りの居なくなったリーゼロッテは、村の村長に引き取られて、暮らしていった。村人は、イケンジリの村の人々の様に優しく、イケンジリの村同様小さな村だったが、幸せに暮らしていたらしい。



「しかし去年、村に大変危険な伝染病が流行り、村は存亡の危機に陥ってしまったのです」

そう言って目を伏せながら、説明を続けるリーゼロッテ。



その伝染病は、この世界では、致死率の高い、死の病として恐れられているのだが、早期に、特効薬を飲めば、すぐに治せる病気としても知られている。

しかし、その薬は大変高価な事もあり、富裕層しか治す手段の無い病気としても知られていた。

村が危機に陥っている事を知った、その村の領主は、多大な費用を払う事を嫌がり、村を魔法で燃やし、人々を殲滅する事で、伝染病の鎮圧をしようと考えた。

それを危惧した、村の村長は、かねてより友人であった、モンランベール伯爵家当主、ランドゥルフに助けを求めた。ランドゥルフはすぐに、村人全員分の薬を用意して、村に向かわせたのだが、その村の領主である貴族が、モンランベール伯爵家当主、ランドゥルフの支援を断ったらしい。



「このフィンラルディア王国には、50に近い貴族が居て、それぞれが、派閥を形成しています。モンランベール伯爵家と、村の領主である貴族は、相反する派閥の者同士だったのです」

説明を続けるリーゼロッテ。



モンランベール伯爵家の支援を嫌がった領主は、村を焼く準備を整えた。それを防ぎたいランドゥルフは、一計を案じた。それが、村から上級亜種である、リーゼロッテを買取り、その代金として、薬を渡すと言った物だったらしい。その結果、村は無事に助かり、事なきを得た。

その代償として、リーゼロッテは売られ、アロイージオに連れて来る様に段取りが取られたと言うのが、大体の理由だった。



「私は村を守りたかった…。皆が優しくしてくれた、あの村を…。私は喜んで身を売る事にしたんです」

それを聞いたマルガは、目に涙を貯めて、リーゼロッテに抱きつく。リーゼロッテも少し涙ぐみながら、マルガを優しく抱きしめていた。



「何故…言ってくれなかったの?」

「言っても仕方無かったでしょう?葵さんに、金貨500枚なんて言う大金…だせましたか?」

少し寂し気な…冷たい視線を俺に向けるリーゼロッテ。



「でも…私は…過ちを犯しました…葵さんの事を…思ってしまった…好きになってしまった…。だから…本当の事は…言えませんでした…大好きな葵さんに…心配を掛けたく無かったから…」

視線をそらし、涙ぐみながら、金色の透き通る様な綺麗な瞳を、激しく揺らすリーゼロッテ。



確かに…俺には、金貨500枚なんて言う大金は持っていない…名剣フラガラッハを売ったとして、やっと金貨200枚が関の山だろう。金貨500枚なんて、夢のまた夢の金額である。

俺は自分の無力さ加減に、思わずギュっと拳を握る。

そんな俺を見て、優しく微笑むリーゼロッテは、俺を再度抱きしめる。



「私は…明日オークションで売られます。なので、前と同じ様に、処女のままで居なくては行けません。それ以外の所で有れば、何処を使っても結構です…最後に…前と同じ様に…私に…葵さんの思い出を下さい…」

リーゼロッテはそう言って、俺の唇にキスをする。リーゼロッテの甘く、柔らかい舌が、俺の口の中に滑りこんできた。リーゼロッテの甘い味のする舌を絡め、味わう。

俺はリーゼロッテを味わいながら、このまま売られてゆくリーゼロッテの事を、耐えられないでいた。



リーゼロッテは明日のオークションで売られて、他の奴の物になってしまう…

嫌だ…リーゼロッテを渡したくない…リーゼロッテを俺の物に…何か…無いのか…何か!!!!

俺の心の中で、どす黒い様な感情が、沸々と湧いてきて、体中を支配する。

そんな鬱屈とした心の俺は、ふと、接見室で見たある物を思い出し、電撃が走ったかの様な感覚に囚われる。



『ある!…いや…あるかも知れない!蜘蛛の糸より細い可能性だけど…アレを使えば…交渉に出来る!』



俺は勢い良くリーゼロッテから、体を離す。

リーゼロッテは訳が解らず困惑している。そして、俺は情事を傍で見ていたマルガに近寄り、マルガを抱きしめる。いきなり抱きつかれたマルガも、訳が解らず戸惑っている。俺はそんなマルガの耳元で、小さい声で囁く



「マルガ…大好きだから、此れから言うお願いを、聞いてくれるかい?」

マルガは静かに頷く。俺はマルガの耳元で、その内容を話す。

話をすべて聞いたマルガの瞳は、激しく揺れていた。そして、ゆっくりと、俺とリーゼロッテを見て、静かに目を閉じる。そして再び開かれたその瞳は、今までに見た事の無い、強い意志が秘められていた



「…ご主人様。私はご主人様の一級奴隷です。私の全てはご主人様だけの物。ご主人様がそうしたいのなら…私も従います!」

力強くそう言ってくれるマルガを、優しく抱きしめる。マルガも優しく抱き返してくれる。



「マルガ!リーゼロッテにドレスを着せてあげて!」

「ハイ!ご主人様!」

右手をハイ!と上げて、元気良く返事をするマルガは、赤いドレスをリーゼロッテに着せてゆく。

戸惑いながら、なすがままになっているリーゼロッテ。そして、ドレスを着せられたリーゼロッテは、右手を俺に引かれ、左手をマルガに引かれて、部屋から出て行く。リーゼロッテは戸惑いながら



「あ…葵さんに、マルガさん…一体何処に行くのですか?」

その問いに、俺とマルガは、声を揃えて、笑顔で言う。



「「取引ですよ!!」」

リーゼロッテは訳も解らず、俺とマルガに、引っ張られて行くのであった。











俺とマルガは、リーゼロッテを引っ張ったまま、先程の接見室の前まで、戻って来ていた。部屋の外で合流したマルコも一緒だ。そして、部屋の入口に居た、執事のアニバルに魅了を掛ける。アニバルの自意識を奪った俺は、扉を開けさせ、接見室の中に入って行く。そこで執事のアニバルに掛けていた魅了を解き、解放する。キョロキョロして、困惑している執事のアニバル。

そこに、部屋の中に入って来た、既に用の済んでいる俺達を発見して、顔を顰めるランドゥルフ。



「確か私は…もう此処に戻る必要は無いと、葵殿に伝えたはずだが?」

俺をきつく見ながら言うランドゥルフ。その横で、団長のコルネリウスが、警戒した面持ちで俺を見ていた。恐らく、何かすればすぐに捕らえるつもりなのだろう。

そんなランドゥルフと、団長のコルネリウスを見据えて、笑顔で話す俺。



「ええ!先程の事とは別件でして。僕は取引に来たんです。ランドゥルフ様と取引をする為に戻って来ました」

その言葉を聞いた、ランドゥルフは更に、顔を歪める。



「この…モンランベール伯爵家当主であるこの私と、旅の一商人であるお前とか?」

「そうです!」

「馬鹿も休み休み言え!お前ごときが、ランドゥルフ様と取引など、100年早いわ!」

団長のコルネリウスが俺を叱咤するように言うと、ランドゥルフがそれを諌める様に止める。



「…取引は良いが、私が納得するだけの、モノは用意しているのであろうな?つまらぬモノで侮辱するなら、例えアロイージオの恩人とはいえど、庇いきれぬが…いいのか?」

「はい!結構です!」

威圧感のある低い声で言うランドゥルフを、正面に見据え、微動だにしない俺を見て、フムと頷くランドゥルフ。



「解った…その取引とやらを、言ってみろ」

肩肘をつきながら、俺を見据えるランドゥルフ。とりあえず、取引の話を聞いて貰える様だ。俺は先程から考えていた事を話しだす



「ランドゥルフ様は、ダンジョンでの秘宝を集めるのが趣味だと、風の噂で聞いた事が有ります。そしてこの部屋に、飾られているのも、多くはダンジョンより手に入れた秘宝が多いのではありませんか?」

「…フム確かに。ここに飾られているのは、ダンジョンより手に入れた秘宝が多く有る。それがどうしたのだ?」

「はい。ランドゥルフ様は、ラフィアスの回廊の大魔導師、アーロンの伝承を、ご存知でしょうか?」

俺の話を聞いて、アレか?と思い出すランドゥルフ



「その伝承と言うのは、300年前に、ラフィアスの回廊に、大魔導師アーロンが秘宝を隠したと言う、あの伝承か?」

「そうです。その伝承です。300年経った今でも発見できず、幻とされている秘宝です。…もし、大魔導師アーロンの秘宝なら、幾らで買って頂けますか?」

その言葉を聞いて、フムと考えているランドゥルフはニヤっと笑い。



「…幾らで買って欲しいのだ?」

「…はい。僕はこの一級奴隷のリーゼロッテとの、物々交換を希望します!」

その言葉を聞いて、予想していたと思わせる笑みを浮かべるランドゥルフ。リーゼロッテは自分が取引の対象になっている事に、驚いている。



「その一級奴隷のリーゼロッテは金貨500枚で買った。しかし、明日のオークションに出せば、かなりの高額で売れるだろう。滅多に出ないエルフの奴隷であって、レアスキルと魔力を持ち、しかもこの美貌で処女だ。頭も良く、性奴隷にも警護にも使える奴隷など、滅多に居らぬからな。恐らく、金貨700枚位では売れるであろう。その…大魔導師アーロンの秘宝は、金貨700枚に匹敵する程のモノなのか?」

ランドゥルフはきつい目をしながらも、ニヤっと口元を上げて笑う。俺は、極めて涼やかな顔で



「さあ?どうでしょう。それは解り兼ねます」

「…どういう事なのだ?」

俺の返答を聞いて、困惑しているランドゥルフ。俺はニコっと微笑み



「理由はまだ、大魔導師アーロンの、秘宝を発見していないからです。此れから手に入れる予定ですから」

「貴様!どういう事なのだ!実際の商品も無く、手に入れていない架空の商品を、売りつける気であったのか!?」

団長のコルネリウスが激怒しながら言うのを、再度諌めるランドゥルフ。



「詳しい説明はあるのだろうな?」

先程より、威圧感の有る言葉を投げかけてくるランドゥルフ。俺は涼やかに微笑みながら、話を続ける。



「はい。確かに今はまだ、大魔導師アーロンの秘宝は手元にありません。それは事実です。ですが、話は此処からが、本番です。僕が提案したいのは、僕が大魔導師アーロンの秘宝を探しに行く60日間の間、リーゼロッテの事を売らないで欲しいのです。そして、無事アーロンの秘宝が手に入れば、その秘宝と、リーゼロッテを物々交換して欲しい。此れが一番目の提案です」

俺の話を聞いて、クククと嘲笑うランドゥルフ。



「私がその様な取引を、受けると思うか?」

「いえ、全く思っていません。何故なら、300年間誰も探せなかった秘宝が見つかるのか、そして見つかった所で、金貨700枚の価値があるのか、それをわざわざ60日も待って、何の特があるのか…と、言った所でしょう」

「良く解っているではないか…で、その話の続きはなんだ?」

少し楽しそうに笑うランドゥルフ。俺もにこやかに微笑む



「はい。当然話の続きがあります。では、話の前に見て貰いたいモノが有ります」

俺はそう言って、左手に銃剣2丁拳銃のグリムリッパーを一丁だけ召喚する。それを見た、ランドゥルフの眉が、一瞬反応する。



「この武器は、銃剣拳銃と言う武器です。名前はグリムリッパー。ま~僕がつけた名前なんですけどね。見て貰った通り、この武器は召喚武器。Sランクのマジックアイテムです」

そう言って、テーブルの上に、グリムリッパーを一丁置く。ランドゥルフは、執事のアニバルに、目で合図を送ると、アニバルはテーブルに置かれている、グリムリッパーに、魔法を当てる。



「間違いなく、Sランクのマジックアイテムです」

そう報告して後ろに下がるアニバル。その言葉に目を丸くする、団長のコルネリウス



「で…このSランクのマジックアイテムを、どうしようというのだ?」

「はい。御存知の通り、Sランクのマジックアイテムは、国宝級。価格は最低でも金貨1000枚はする代物。しかも、このグリムリッパーは、滅多に無いタイプの武器。魔力や精神力を魔法弾に変換して撃ち出す事の出来る武器です。威力はアロイージオ様から何か聞いているでしょう?僕が、盗賊団を殲滅出来たのは、このマジックアイテムのお陰です。しかも…このマジックアイテムは、魔力が無くても、精神力があれば弾が出せますので、誰でも使う事が出来ます。これだけの代物…オークションに出せば、幾らになるか…金貨1200枚か…1500枚か…」

それを聞いた、ランドゥルフは、指をトントンとさせながら、少し苛立っている様であった



「だからそれをどうしたいのだ!」

「はい。僕は此れを、先程の条件に付けたいと思います。僕が出す条件は、大魔導師アーロンの秘宝を探しだす60日間の猶予が欲しい事、もし、秘宝が見つかったら、リーゼロッテと交換して欲しい事、そして…もし60日間の間に、秘宝が見つからない時は、このSランクのマジックアイテムと、リーゼロッを交換して欲しい事です」

俺が条件を提示すると、ニヤっと笑うランドゥルフ。



「ウム。確かに魅力的な条件だ。だが…召喚武器は、次の契約をしようとすれば、今の所有者が死ななければ、新しい所有者と契約出来ぬ。そこはどうするのだ?」

きつい目をして、俺を見つめるランドゥルフ。俺は涼やかに微笑みながら



「はい。60日間の間に、秘宝を見つけられない時はの条件は、Sランクのマジックアイテムと、リーゼロッテとの交換。その時は…僕が自ら命を断ち、新しく契約が出来る状態に、させて頂きます」

涼やかに言う俺のその言葉を聞いた、リーゼロッテの顔色が変わる。



「葵さん!貴方何を言っているのか、解っているのですか!?もし、60日間で見つからない時は、貴方は死ななければならないと、自分から言っているのですよ!?」

「その通りですが、何か問題でも?」

「大有りです!私はその様な事を望みません!マルガさん!貴女からもなにか言って上げて下さい!」

リーゼロッテは、とり乱しながら、俺とマルガに叫ぶ。マルガは静かにリーゼロッテの方を向き



「私は…全てをご主人様に任せました!ご主人様がなさる事が、私の全てであり、私の望む事なのです!」

しっかりとした、決意の篭った瞳でリーゼロッテを見ているマルガ。



「そういう事です。それに今のリーゼロッテに、その様な事を言う資格はありません。だって、今の貴女は、何の権利も持たいない、只の商品なのですから。商品である貴女がどう思おうが、その気持ちに関係無く、取引されるのです。それが…貴女が望んだ、結末です」

俺のその言葉を聞いて、絶句しているリーゼロッテ。俺は視線をランドゥルフに戻す。



「どうされますかランドゥルフ様。この取引をお受けになられますか?勿論、僕は逃げない様に、公証人の制約魔法契約で、先程の条件を約束させて貰います」

その言葉を聞いたランドゥルフは、フフフと楽しそうに笑って



「いいだろう!その条件で取引してやろう!」

ニヤっと口元に笑みを浮かべているランドゥルフ。俺はそれを涼やかな笑顔で見ながら



「此処までが2番目の提案です」

そう言って、ニヤッと口元を上げて笑う俺。その言葉を聞いたランドゥルフは、更に面白そうな顔をする。

俺は残りのもう一丁のグリムリッパーを召喚し、テーブルの上に置く。それを見た団長のコルネリウスは、口を開けたまま、ただそれを眺めていた。



「当然此れも、Sランクのマジックアイテムです。先程のグリムリッパーは2丁拳銃。2つあるのです。僕は此れも取引の材料にします。此れから提案するのが、3番目の提案です」

「…その3番目の提案…話してみよ」

面白そうに言うランドゥルフ。俺は話を続ける



「では続きを。僕はこの2丁目のグリムリッパーを追加で、取引に出します。内容はこうです。60日間、大魔導師アーロンの秘宝を探す期間を頂く。もし、秘宝が見つかったら、リーゼロッテと物々交換して貰う。もし見つからない時は、この2丁のSランクのマジックアイテムとリーゼロッテを物々交換して貰う。そこに、金貨500枚持参した時も、リーゼロッテを金貨500枚で売って頂く。当然期間は60日」

俺の話を静かに聞いているランドゥルフ



「つまり、2の条件に、60日間の期間中に、僕が金貨500枚を用意出来た時も、リーゼロッテを売って頂くと言う条件を付ける代わりに、Sランクのマジックアイテムを2つにすると言う事ですね」

それを聞いて、顎に手を当てて考えているランドゥルフ



「僕がこの条件をつけたのは、僕も一応商人ですからね。いかなる可能性も考えたい。60日間の期間が過ぎれば、僕は死ななければならないのです。可能性は少しでも上げたい。当然、僕もまだ死にたくはありませんからね」

そして、一歩前に出て、ランドゥルフにきつく睨む様に俺は言う



「言うなれば此れは一種の賭け。60日間の間に、僕が金貨500枚を用意出来るか、それとも、大魔導師アーロンの秘宝を見つける事が出来るか…。出来れば、金貨500枚か、アーロンの秘宝。出来なければ、国宝級のSランクのマジックアイテムが2つ。300年間誰も発見出来ていない、秘宝か、一商人である僕が、金貨500枚もの大金を用意できる、可能性が高いか…」

ニヤっと笑う俺を、正面から見据えるランドゥルフ。



「…60日間の期間の間に、お前が金貨500を用意するか、大魔導師アーロンのの秘宝を発見出来るか…出来ない時は…国宝級のSランクのマジックアイテムを2つか…フフフ…アハハ。面白い!やってみよ!60日間で、お前が何処迄出来るか見てやろう!その取引…受けてやろう!!」

高笑いをしながらランドゥルフは言う。



「取引成立ですね。ではお約束通り、公証人の制約魔法契約で、先程の条件を約束させて貰います」

俺の言葉を聞いたランドゥルフは、執事のアニバルに、準備をさせる。

特殊な魔法で出来た羊皮紙に、先程の条件が書き込まれて行く。そして、書き込まれた内容を、双方が確認して、署名する。すると、執事のアニバルは、魔法の詠唱を唱える。羊皮紙が光り出し、その羊皮紙が、俺、ランドゥルフ、公証人契約をした執事のアニバルの体の中に吸い込まれて行く。



「無事に制約魔法契約が完了しました」

ウムとランドゥルフが頷くと、執事のアニバルは後ろに下がって行く。



「無事に取引の契約はなされました。ランドゥルフ様…」

俺がランドゥルフに言いかけた所で、右手でランドゥルフに制される。



「お前の言いたい事は解っておる…アニバル!明日のリーゼロッテのオークションの出品予定を取り消せ!リーゼロッテは既に売約済み!リーゼロッテを売約済みの部屋に移し、60日間一般の来客として扱う様に!…これで良いのであろう?」

ニヤッと笑うランドゥルフに、ニコッと笑って頷く俺。

俺とマルガ、マルコは、リーゼロッテの傍に行く。激しく瞳を揺らし、目に涙を浮かべているリーゼロッテ。



「えっと…なんか、こんな事になっちゃったけど、何とかするから心配しないでね!リーゼロッテ姉ちゃん!」

マルコがリーゼロッテに言うと、ウンウンと頷いて居るマルガが



「…きっと60日間の間に何とかします。きっとリーゼロッテさんが喜ぶ形で迎えにきますので、ご主人様の事は私達に任せて下さいね、リーゼロッテさん」

リーゼロッテの手を握って、マルガは優しく微笑んでいる。

俺はリーゼロッテに近づき、耳元で囁く



「俺は絶対にリーゼロッテを手に入れる。…だから…ちょっとだけ待っててねリーゼロッテ」

その俺の言葉を聞いた、リーゼロッテは、膝から崩れ落ちて、嗚咽をあげて、泣きだした。俺は蹲っているリーゼロッテを、優しく抱きしめる。



「期間は60日!楽しみに待っているぞ!行商人の少年!葵よ!」

声を上げて、面白そうに笑っているランドゥルフ。



こうして、俺達のリーゼロッテ奪還作戦は始まった。
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