銀色の銃剣

夜狐

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第1話 再就職先

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どこまでも広がるような砂漠の中、1人の女性と少女の前に建物が立っている。石か何かでできた古く、縦に長い建物だ。二階部分からは、銃声が続いている。
「バレてませんよね?」
「恐らくな。……行くぞ。」
2人は銃を構え、その建物に入る。
中に入ると、すぐに上の階から銃声が聞こえてきた。2人を狙っているのではなく、建物の外へと向かう物だ。静かに、階段を上る。
やがて銃声が近づくと、角から一気に飛び出し、引き金を引く。
一瞬、凄まじい破裂音が連鎖し、すぐに静かになった。
「撃破確認。」
「こっちもです。……まだ微かに生きてます。」
「トドメを刺しておけ。長くはもたないだろうがな。」
「はい。お姉さま。」
少女が呻き声を上げていた男の頭を撃ち抜いた。
「いくら不注意な奴とは言え、たった3人でやるのは少しな……」
「ですよね。あ、でも新人が入るらしいですよ。デニスさんが言ってました。
「それはよかった。一応、最低限の訓練は積んであるから、邪魔にはならんだろうな。」
ふと、少女の方が足元の死体に目をやった。木製のライフルを持ったその死体は、13歳程の少年だった。
「……なぜ彼らはこういう道に進んだんでしょうか?」
少女が女性に質問した。
「さあな。そうするしか無かったか、分からぬままだったのか。……私達の考える事じゃ無い。テロリストは殺す。それだけだ。」
彼女は冷たく言い放ち、階段へと向かう。


この世界、3大陸とその他島々で形成されたこの世界に不幸な事なんて沢山あると思う。だが、ここ半年程はそんな事どうでもよくなる程に、俺は不幸だったのだろう。言うのは単純な話だ。女に騙され、不況の煽りで会社はクビ。後には借金だけが残る。だから俺は、藁にもすがる思いで、ある職種へと転職をした。
「ここだよな?」
俺は事務所のような建物の扉の前にいる。
ここが、俺の新しい就職先、シルバーバヨネット社。傭兵だ。あの不幸が無ければ絶対に就く事はなかっただろう。だが、一般的なサラリーマンだった俺には、他に選択肢が無かった。ちなみにここは、傭兵が普段生活している所で、世界中に似たような物をいくつも持っているらしい。
俺はチャイムを鳴らし、挨拶をする。
「ブラウンコート隊に配属されたルイス・アルバートです。」
「ああ、入ってくれ。」
男の声が聞こえ、すぐに切られた。俺は呼吸を整え、扉に手を掛ける。

「この茶髪の彼が今日から同じ部隊になったルイスだ。仲良くしてやってくれ。」
大柄で、短い金髪の男が俺を紹介する。歳は30才くらいだろうか。少し歳上だ。俺は彼の隣に立ち、部屋の中を見回す。
部屋には彼の他に2人いて、両方とも女性だった。
「俺はデニス・エーデルマン。この隊の隊長だ。よろしくな。」
先程の大柄な男、デニスが握手を求めた。
「んで、そこにいる髪型の似た2人、銀髪にメガネかけてるのがセシリア。色の薄い金髪の子供がニーナだ。」
セシリアとニーナ、と呼ばれた2人は肩くらいまで伸ばした髪型をしている。セシリアは同年代だが、ニーナは少女のような外見だ。
「子供じゃありません。一応、成人はしてるんですからね?」
ニーナが反論する。
「よし。ルイスの初仕事はいつか来る。てな訳で、それまでは仲間と親睦を深めるように。」
そう言って、デニスは事務机上のパソコンで作業を始めた。
「さてルイス。好きな銃は何だ?何を使っている?」
早速セシリアが話かけて来た。
「15ライフルかな?」
銃の事なんて、ほとんど分からない。だから俺は、訓練で使ったライフルの名前を答えた。
「……まあ世界中で使われてるしな。じゃあ他は?」
「うーん………キーパー。」
これも、俺が訓練で使った拳銃の名前だ。15ライフルもキーパーも、両方とも仕事でも使うつもりだ。
「……そうか。他は知らんのか?」
セシリアは少しガッカリした様子だった。
「あまり詳しく無いからな。」
「…………なら教育してやらないとな。少し待ってろ。」
少しして、セシリアは本を2冊持って来た。タイトルは『世界名銃一覧』『図解・軍用銃』の2冊だ。
「さぁ、これを読むんだ。もちろん、私も解説してやるぞ。」
俺は早速本を開いた。
セシリアはかなりの銃器マニアらしく、彼女の解説は詳しく、分かりやすかった。ただ、教える所の偏りは俺でも感じるくらいだった。
「セシリアは、古い銃が好きなのか?」
「それは勿論。愛すらある。」
「そいつには気を付けなよ。沼に引きずり込まれるからな。」
パソコンで作業をしていたデニスが顔を上げた。
「随分と酷い言い方だな。まぁ、ルイスがこっち側に来れば嬉しいが。」
「やっぱりな。ルイスで被害者は2人目か。」
「私はお姉さまを慕ってるだけです。それに、私でも扱えるのを選んでくれたので、被害者はルイスさんで初ですよ。」
いつの前にかニーナがセシリアの隣に座っていた。
「所でルイス、荷物はいつ届くんだ?」
セシリアが俺に尋ねる。
「明日には届くらしい。武器も一緒に。」
「なるほど。銃は訓練時のライフルと拳銃だろ?悪くは無いが、ある程度したら新調するのも良いと思うぞ。」
「そういえば、銃とかってどこで買ってるんだ?民間のだと幾つか制約があるらしいけど……」
「シルバーバヨネットは武器販売ルートも持ってるんだ。買う時になったら教えてくれ。」
彼女言う通り、やはり自分に合った物を選んだ方がいいのだろうか。もう少し知識と金が貯まったら、それも考えてみよう。と言うか、傭兵は普段はこんな平和的な感じなのだろうか。

着任から2日後にブラウンコート、つまり俺たちの部隊に仕事が入った。仕事の依頼は本部を通じて、メールで届くそうだ。
「今回の仕事はマフィアの主要メンバーの撃破だ。やつらは高級ホテルに宿泊している。そこの支配人も俺たちのグルだから、部屋番号は分かる。」
デニスがリビングで皆に説明している。彼はパソコンに届いたメールを見せたが、夕日の逆光で少し見づらい。それに、専門用語やらが多くて理解に時間がかかった。
「作戦終了後はどうする?警察は協力者だが、野次馬は撒けない。」
セシリアが作戦を指摘した。
「確かにそうだ。だから、奴らをやったら、直ぐに逃げる。ドンパチにビビった一般人のフリをしろ。」
「了解。それで、決行は?」
「今夜だ。もう時期日が暮れる。」
「ペアはどうします?私、お姉さまと一緒がいいです。」
「残念だが、セシリアにはルイスと組んで貰おうと思う。カップルの方が目立ちにくい。」
ニーナはどうにかしてセシリアと組みたがっていたが、それは叶わなかった。彼女には申し訳ないが、俺はセシリアと行動する事になった。

目的のホテルに到着。俺とセシリアは「少し遠くから都会観光に来たカップル」を装って部屋に入った。服装もなるべくデートに見える格好を選んだ。ニーナとデニスのペアも同様だ。ホテルの代金は、依頼主である政治家が立て替えてくれるらしい。
「仕事じゃなく、普通に来たいくらいだな。」
俺は真っ白なシーツの敷かれたベッドに腰を下ろす。枕の固さもちょうどいい。窓からの夜景も最高だ。
「全くだ。マフィア共に汚されてなきゃ、最高の街なんだがな。」
セシリアはベッドに転がりながら、バックの中から銃を取り出した。大型のハンドガンだろうか。
「通称『毒ナイフ』。小型さと連射性の高さからそう呼ばれる。小口径だが、命中性も良い。」
彼女はその黒い銃を紹介した。折り畳めるストックが付けられ、弾倉は缶詰のような物を装着していた。大型ハンドガンではなく、サブマシンだそうだ。俺はと言うと、訓練でも使ったキーパー拳銃をバッグから取り出す。
「基本形で使いやすいんだろうが、どうにも好きになれんな。」
「セシリアは古いのが好きなんだろ?」
「ああ。そのキーパーも性能は高いんだが、見た目がな……」
セシリアはやはり俺の銃は気に入らないようで、俺のベッドに移動し、携帯で画像を検索し、色んな拳銃を勧めてきた。
「まあ、色々あるが新調する時は言ってくれ。最近のも、知識だけはある。」
「ありがとう。あ、そろそろ時間じゃないか?」
俺は部屋の壁掛け時計を指す。
「だな。それじゃ、お前の初仕事だ。行くぞ。」
俺とセシリアは準備を整え、部屋の外へと向かう。
人目に付かぬよう階段で登り、目的の階に到着した。セシリアは毒ナイフのストックを展開、当て具合を確認していた。
「スライドは?」
「引いた。」
「セーフティは?」
「今解除した。」
ターゲットのいる部屋の前で、セシリアと確認しながら、俺は拳銃を発射可能な状態にする。扉を開けた瞬間に発砲する。俺はこれから、人を殺すのだ。緊張が収まらず、何度も銃を握り直す。じわりと汗が滲んで来た。だが、殺さなければ撃たれてしまう。俺は何度も自分に言い聞かせた。
「心の準備は?」
「…………もう少しいいかな?」
「分かった。………行くぞ。」
セシリアは俺を半分無視し、ドアをノックした。
「誰だ?」
低い男の声だ。
「落とし物を拾ったので届けたいのですが……」
「何も落としちゃいねぇよ。」
「ですが、一応見てください。」
セシリアがマフィアにドアを開けさせる。作戦通り、相手はドアを開けた。赤髪で強面の男だ。
「それで、何拾ったんだ?」
「強いて言えば、鉛球かな。」
彼女は半開きのドアを大きく開け、目の前の男に銃撃を浴びせた。思わず、眼を瞑り耳を塞いでしまった。何発も弾を受けた男は、後ろへと倒れる。
「クソ!!やりやがった!!」
部屋の奥にいた2人が慌てて拳銃を抜いた。賭け事でもしていたのか、ベッド上からカードや紙幣が落ちるのが見えた。
「ルイス!撃て!」
セシリアが最初の男を盾に、部屋の中を毒ナイフで銃撃する。その後ろから、俺も拳銃を構える。セシリアはなぎ払うように弾を撃ち込み、手前のベッドにいた男は一瞬で蜂の巣にされた。奥の男はベッドの影に転がり込んだ。
「隠れた。ルイス、よく狙っていろ。頭を出したら殺してやれ。」
セシリアはしっかりと銃を構える。俺も、訓練射撃のように、正確に狙いを絞る。しかし、手が震える。
これから俺は、人を殺す。もちろん、始めての事だ。でも、やるしか無いんだ。撃たなければ、俺たちが撃たれる。やがて、微かに頭が見え、反射的に俺は引き金を引いた。
久しぶりに撃つ銃の反動と音に驚いていると、セシリアが銃を収めていた。部屋の奥、ベッドの影の絨毯には真っ赤な血が染み込んでいる。
「よくやったな。見事なヒットだ。」
…………殺したのか。俺が。彼女は部屋へと入り、殺した3人の様子を見て来た。
「全員死んでる。それにしても、完璧な射撃だった。羨ましいくらいだ。」
セシリアは俺を褒めてくれた。だが、俺はそれどころじゃ無かった。
人を殺した事に驚いているのでは無い。人を殺しても、ここまで冷静でいられる事に驚いていた。
「どうした?」
セシリアが俺の顔を覗き込む。
「いや……その……」
俺は上手く自分の感情を言葉に出来なかった。
「思い詰める必要はない。奴はマフィアだ。犯罪者を事前に始末、もしくは正統な罰を与えた。そう考えるといい。それか、気にしないのも手だな。」
彼女は俺の心情を分かっているようだった。少しだけ、気持ちが落ち着いて来た。
「これから先、もっと厄介な相手を殺す事になる。その覚悟も必要だ……」
最後に、小さな声でそう付け加えた。





作中に登場した銃器のモデル
15ライフル→M4A1
キーパー→P226
毒ナイフ→Vz61



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