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7 (シェダルside)
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宵の空に星々が顔を出し始めた頃。
学校は静まり返り、居残っている生徒はいなかった。
私はステラ令嬢に中庭に呼び出されていたので、足を運ぶ。
こんな時間に中庭に入ること初めてで、暗くて足元が覚束ない。
学院の中庭は、敷地が広くどこに彼女がいるのか手当たり次第探していると、足元に蝋燭の灯が列のように並んでいるのを発見した。
私はその灯が道標になっているのだと気付き、歩みを進める。
すると、大きな筒の側に小さな少女が立っているのがぼんやりと見えた。
ステラ令嬢に間違いない。話しかけようと思うが、あの日からまともに話しかけずに眺めているだけの私は、たじろいだ。
行動に移すことがなかなか出来ず、樹木が呼吸するかの如く動けずに突立っていると、彼女は私の方をふと振り向いた。
「来たならちゃんと言って下さいよ。」
幽霊を見たかのように、はっと息を呑んでかなり驚いていたが、怒ってはいなかった。
すぐに彼女は、また望遠鏡の方に顔を向けてしまう。
視線が合わなくなってしまったので不安に感じていると、ステラ令嬢は、望遠鏡を覗きながら話出した。
「お話と言うのはですね…あーそうだ。取り敢えず、これ見てみてください。すごく綺麗なので覗いて見てくださいよ。」
「わかった」
話というのは、一緒に星を見て欲しいということだったのだな!それがお願いと言うなら、見てみようじゃないか!
彼女と久しぶりに会話が出来たことに気持ちが高まる。
ドンッ…。
緊張のあまり、距離感を見誤しまい…鼻頭をぶつけてしまった。ぶつけた場所が熱を持ち始めて、ヒリヒリと痛い。
「副会長、すごい音がしたんですけど、大丈夫ですか?暗いところで急に動くからのは危ないと言おうとしたのに…。」
ステラ令嬢の忠告を待たずに怪我をしてしまうとは面目ない。
正直に鼻をぶつけてしまったと答えると、彼女は顔を青くして、
「あー。鼻血が少し出ているじゃないですか!」
彼女は少し困ったような顔をして、自分のハンケチーフを私に差し出す。距離感が近くて、胸が高鳴る。
「すまない…鼻血が止まったらで良いので、その筒で見えるものを見せていただきたいのだが。」
彼女は了承してくれた。
「副会長は、いつもこんな時間まで残っていて大変じゃないのですか?」
急な質問だったので、少し驚く。
「そうだな。生徒のために尽くすのが、役員の仕事だからな。」
「仕事は分担できてますか?殿下から聞きましたよ。ほとんどの業務は2人でしてるって。それに、徹夜して顔色も悪そうだし、生徒のためにと言っているけど、あなたが倒れたら本末転倒ですよ。」
当然のように答えたが、逆に説教されてしまった。
「では、どうすれば良いのか教えてくれ。」
「そうですね、生徒会の仕事を減らすために、部活動の各会計が作った予算案を他の部活の会計に監査してもらうのはどうでしょうか。監査委員会というものを新たに作るのも良いかもしれません。今までの予算折衝は、生徒会が介入して認可か不認可か決めるというルールでしたが、ワンクッションを置くだけで、業務量はきっと変わると思いますよ。」
彼女は、素直に答えてくれた。
思わぬ視点からの助言だった。
「すごいな…君は会則そのものの問題点を見つけられるとは。会則がこの学院創立から変わっていないことから、適したものだと勘違いしていた。」
「歴史は百年以上もありますから、形骸化した慣例とかがきっとその時々に存在したんでしょう。役員以外にも雑務をこなす者もいたと思います。殿下は公務で忙しくて、実質2人で運営するのは、大変異例なことなのでは?」
さすがは、ハーシェル卿の娘というべきか。
発想の転換で数多くの発明品を生むお父上のように、柔軟な思考を持っている。この学院の生徒のほとんどは、帰属の権力に付き従う駒であるべきだと思う貴族が大半だ。
身分の上のものに対して、自分の意見が言える者はほとんどいない。
そう考えると、権力競争に参加せず、地位を保っているハーシェル卿一族は、この国では異質な存在なのかもしれない。
彼女の発言に感嘆していると、お互いの間に沈黙が出来ていたことに気がつく。
「ステラ令嬢の助言、今後の活動の参考にさせてもらっても良いだろうか?そろそろ鼻も大丈夫になってきたし、その中に見えるものを観せてもらって良いだろうか?」
彼女は少し待って欲しいと言い、望遠鏡の筒の向きを変える。何故向きを変えたのか尋ねると、星は動いているらしい。
「星が移動というのは、どういうことだ?」
詳しく聞いてみると、私たちが住む世界は球の形をしていて、ぐるぐると毎日回っているらしい。
星が動くというのは、この世界が回転している証拠だと説明する。
昼を照らす太陽が時間によって位置を変えるのも同じ原理だと気がつく。
「太陽以外にも動く星があるのだな!天の世界の研究は、殆ど我が国では進んでいないからな。大変勉強になる。」
「その天の研究のことを私たち、学者の間では、天文学といいますよ。天文学は星を観察する学問です。今から望遠鏡で星を眺めてみて下さい。世界が変わって見えますから。」
世界が変わるくらいすごいものとは、一体どういうものなのか知りたくなった。好奇心を掻き立てる。
彼女が望遠鏡から手を離したので、覗いてみる。
淡い青緑色の星と、鮮やかなみかん色の2つの星が重なりあって見えていた。まるで、夜空に浮かぶ宝石のようだ。
「こういう星のこと2重星といいます。双子の星に寄り添って見えることからそう呼ばれています。」
学問的な知識は私にはよく分からなかったが、彼女はこんなに美しいものを毎日見ていたのか。一人で鑑賞するには惜しいと思えるくらいに。もっとたくさんの星が見てみたい。
「こういう星は他にもたくさんあるのか?」
「もちろん。2重星以外にも変わった星々がたくさんありますよ。見てみましょうか?」
彼女の申し出に、すごく嬉しく感じる。
あれからたくさんの星々を見せてもらった。
綿菓子のようにふわふわした雲のような星や、星がたくさん集まって宝箱みたいなものまで。
日々の生徒会の業務でやつれた私にとって、彼女と過ごした時間は、この上ない癒しとなった。
================================
【補足】
《予算折衝》
部の予算が活動内容にあっているか話し合うこと。
《2人が観た最初に見た星》
銀河鉄道に出てくる《アルビレオ》に似た星です。気になった方は調べてみて下さい。
学校は静まり返り、居残っている生徒はいなかった。
私はステラ令嬢に中庭に呼び出されていたので、足を運ぶ。
こんな時間に中庭に入ること初めてで、暗くて足元が覚束ない。
学院の中庭は、敷地が広くどこに彼女がいるのか手当たり次第探していると、足元に蝋燭の灯が列のように並んでいるのを発見した。
私はその灯が道標になっているのだと気付き、歩みを進める。
すると、大きな筒の側に小さな少女が立っているのがぼんやりと見えた。
ステラ令嬢に間違いない。話しかけようと思うが、あの日からまともに話しかけずに眺めているだけの私は、たじろいだ。
行動に移すことがなかなか出来ず、樹木が呼吸するかの如く動けずに突立っていると、彼女は私の方をふと振り向いた。
「来たならちゃんと言って下さいよ。」
幽霊を見たかのように、はっと息を呑んでかなり驚いていたが、怒ってはいなかった。
すぐに彼女は、また望遠鏡の方に顔を向けてしまう。
視線が合わなくなってしまったので不安に感じていると、ステラ令嬢は、望遠鏡を覗きながら話出した。
「お話と言うのはですね…あーそうだ。取り敢えず、これ見てみてください。すごく綺麗なので覗いて見てくださいよ。」
「わかった」
話というのは、一緒に星を見て欲しいということだったのだな!それがお願いと言うなら、見てみようじゃないか!
彼女と久しぶりに会話が出来たことに気持ちが高まる。
ドンッ…。
緊張のあまり、距離感を見誤しまい…鼻頭をぶつけてしまった。ぶつけた場所が熱を持ち始めて、ヒリヒリと痛い。
「副会長、すごい音がしたんですけど、大丈夫ですか?暗いところで急に動くからのは危ないと言おうとしたのに…。」
ステラ令嬢の忠告を待たずに怪我をしてしまうとは面目ない。
正直に鼻をぶつけてしまったと答えると、彼女は顔を青くして、
「あー。鼻血が少し出ているじゃないですか!」
彼女は少し困ったような顔をして、自分のハンケチーフを私に差し出す。距離感が近くて、胸が高鳴る。
「すまない…鼻血が止まったらで良いので、その筒で見えるものを見せていただきたいのだが。」
彼女は了承してくれた。
「副会長は、いつもこんな時間まで残っていて大変じゃないのですか?」
急な質問だったので、少し驚く。
「そうだな。生徒のために尽くすのが、役員の仕事だからな。」
「仕事は分担できてますか?殿下から聞きましたよ。ほとんどの業務は2人でしてるって。それに、徹夜して顔色も悪そうだし、生徒のためにと言っているけど、あなたが倒れたら本末転倒ですよ。」
当然のように答えたが、逆に説教されてしまった。
「では、どうすれば良いのか教えてくれ。」
「そうですね、生徒会の仕事を減らすために、部活動の各会計が作った予算案を他の部活の会計に監査してもらうのはどうでしょうか。監査委員会というものを新たに作るのも良いかもしれません。今までの予算折衝は、生徒会が介入して認可か不認可か決めるというルールでしたが、ワンクッションを置くだけで、業務量はきっと変わると思いますよ。」
彼女は、素直に答えてくれた。
思わぬ視点からの助言だった。
「すごいな…君は会則そのものの問題点を見つけられるとは。会則がこの学院創立から変わっていないことから、適したものだと勘違いしていた。」
「歴史は百年以上もありますから、形骸化した慣例とかがきっとその時々に存在したんでしょう。役員以外にも雑務をこなす者もいたと思います。殿下は公務で忙しくて、実質2人で運営するのは、大変異例なことなのでは?」
さすがは、ハーシェル卿の娘というべきか。
発想の転換で数多くの発明品を生むお父上のように、柔軟な思考を持っている。この学院の生徒のほとんどは、帰属の権力に付き従う駒であるべきだと思う貴族が大半だ。
身分の上のものに対して、自分の意見が言える者はほとんどいない。
そう考えると、権力競争に参加せず、地位を保っているハーシェル卿一族は、この国では異質な存在なのかもしれない。
彼女の発言に感嘆していると、お互いの間に沈黙が出来ていたことに気がつく。
「ステラ令嬢の助言、今後の活動の参考にさせてもらっても良いだろうか?そろそろ鼻も大丈夫になってきたし、その中に見えるものを観せてもらって良いだろうか?」
彼女は少し待って欲しいと言い、望遠鏡の筒の向きを変える。何故向きを変えたのか尋ねると、星は動いているらしい。
「星が移動というのは、どういうことだ?」
詳しく聞いてみると、私たちが住む世界は球の形をしていて、ぐるぐると毎日回っているらしい。
星が動くというのは、この世界が回転している証拠だと説明する。
昼を照らす太陽が時間によって位置を変えるのも同じ原理だと気がつく。
「太陽以外にも動く星があるのだな!天の世界の研究は、殆ど我が国では進んでいないからな。大変勉強になる。」
「その天の研究のことを私たち、学者の間では、天文学といいますよ。天文学は星を観察する学問です。今から望遠鏡で星を眺めてみて下さい。世界が変わって見えますから。」
世界が変わるくらいすごいものとは、一体どういうものなのか知りたくなった。好奇心を掻き立てる。
彼女が望遠鏡から手を離したので、覗いてみる。
淡い青緑色の星と、鮮やかなみかん色の2つの星が重なりあって見えていた。まるで、夜空に浮かぶ宝石のようだ。
「こういう星のこと2重星といいます。双子の星に寄り添って見えることからそう呼ばれています。」
学問的な知識は私にはよく分からなかったが、彼女はこんなに美しいものを毎日見ていたのか。一人で鑑賞するには惜しいと思えるくらいに。もっとたくさんの星が見てみたい。
「こういう星は他にもたくさんあるのか?」
「もちろん。2重星以外にも変わった星々がたくさんありますよ。見てみましょうか?」
彼女の申し出に、すごく嬉しく感じる。
あれからたくさんの星々を見せてもらった。
綿菓子のようにふわふわした雲のような星や、星がたくさん集まって宝箱みたいなものまで。
日々の生徒会の業務でやつれた私にとって、彼女と過ごした時間は、この上ない癒しとなった。
================================
【補足】
《予算折衝》
部の予算が活動内容にあっているか話し合うこと。
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