上 下
56 / 96

初めての朝帰り

しおりを挟む
人生初の高級ブティックで

素敵なワンピとボレロと靴を買ってもらい……

そして更に生まれて初めての高価な宝石をプレゼントされて

しかも最後は有名なフレンチのレストランで、美味しいフルコースのお料理を食べさせてくれたのに

*****

最上階のスイートルームに誘われた事が怖かったから

ただそれだけの理由で璃音に嘘をついてサファイアホテルから逃げた玲は

いつもの様に一人ぼっちで帰宅して、その後お風呂で髪と身体を綺麗に洗い、

もちろん歯磨きも済ませて自分の部屋に入ったが……

この後わずか10秒で、突然いきなり溢れ始めた涙が止まらなくなったので


結局このまま夜中の12時をすぎるまで

自分のあやまちを後悔しながらティッシュを片手にメソメソしていたが

いつまでもこんなふうにグズグズと泣いていても仕方がないから この後すぐに


(あっ…もう日付けが…変わっていたの?
じゃあ今日は凄く遅い時間になったけど……
今から璃音さんにメールを送ってみようかな?
きっと私は嫌われているから無視されちゃうと思うけど、
でも短い文章を一回送るだけなら…メールをしても…いいよね?)

と勇気を出して璃音にメールを送信してみたが……

ものの2分で璃音から返信されたメールの内容は、

たった一言『俺はお前だけが欲しい』と書かれた短い文章のみ だったから

このメッセージを見た玲は、今すぐただちに覚悟を決めて、

このあと璃音が運転する車に乗って、彼の自宅マンションへと向かう事になったのだが

*****

龍崎プレジデントヒルズと呼ばれる豪華なマンションに到着した玲は……

「ここが~俺の…マ、マ、マンションだ。
そんなに緊張しなくていいから早くスリッパを履けよ玲、
今から一緒に~、あっちのリビングで、うまい水でも飲もうじゃないか」

なんだかとても上機嫌な璃音に玄関のドアを開けてもらって

めちゃくちゃ綺麗な玄関ホールで靴を脱いでスリッパを履いた後

ホテルみたいに広い廊下を無言で歩いてリビングの中に入ったけれど、

まるで王侯貴族のお城みたいに絢爛豪華けんらんごうかな部屋の中で……

なんと、いきなり、突然に!


(えっと この部屋に飾られている絵画かいがはきっと、
ルノワールとシャガールと、クロード・モネの作品だよね?)

オタクのコミュ障でも知っている、世界的に有名な絵画を発見したから

あまりにもビックリしすぎて石像みたいに固まったのに、そんな玲の真後ろで……


「えーと……これが~一応ソファーだ……。
それで~、あの絵はル、ル、ルノワールだ。
じゃあ、そろそろ俺と一緒に…えっと…み、み、水を飲むかい?」

なんとも素晴らしいタイミングで璃音は水を取りに行ったので

今世紀最大級に緊張している姿を運良く見られなかった玲は、

ほんの少しだけ心が楽になったけど、結局、このあと、案の定、


(ルノワールとシャガールの絵画を飾ったリビングなんて初めて見たよ……
しかも璃音さんのお部屋はペントハウスだから、最上階のフロア全部が彼の部屋だし、
なんか こんな凄いマンションに、なんの取り柄もないコミュ障の私が居てもいいのかなぁ)

やはり豪華すぎるこの部屋は、

ボッチのコミュ障には100年くらい早い気がしたから


(璃音さんは本当に こんな私の事が欲しいの?幻滅されたらどうしよう!)

こうして遂に対人スキルの限界を突破した玲は……

ガタガタと震えながら無言で下を向く事しか出来なくなったのに


そんなヘタレの負け犬みたいな玲の身体を璃音は優しく抱きしめてくれたので

この後ソファーで隣に座った璃音から、お前が欲しいと言われた玲はこのままの勢いで、

少し激しいキスをされた後すぐに、そのまま広いベッドに運ばれて……

そして遂に、人生初の熱い夜を璃音と一緒に過ごした後で


これまた人生初めての、

朝の5時にドキドキしながら帰宅する事で有名な朝帰りをリアルに経験したのだが、

*****

残念な事に玲の自宅は今日も安定の無人だったので

全くドキドキできない状態で初めての朝帰りを果たした玲は

帰宅早々リビングのソファーに座って冷えた緑茶を飲んだ後

殺風景な白い壁にテープと画鋲で乱暴に貼り付けられた

百円ショップのゴッポ&モネモネ犬猫カレンダーを複雑な心境で見ていたけれど

そんな事よりも……

(あっ!そう言えば今日から7月に入るんだっけ?)

今日が7月1日になっている事に気が付いたので

6月のモネモネ子猫のカレンダーを一気に破った後ですぐ

7月のヒマワリ犬が描かれた意味不のページに変えている途中で ふと……


(いや…ちょっと待って?
確か龍崎ビルの落成式典は7月10日だったから
つまり璃音さんの金塊が謎の実行犯に強奪される日まで、
あと たったの9日だけしか時間が残されていないって事なの?)


このタイミングで銀次達の会話を思い出したので


(そもそも あと一週間やそこらで私に何が出来るって言うの?
…って言うか具体的に何をすれば、今すぐ実行犯を探し当てる事が出来るの?)

こうしている間にも段々と焦ってきた玲は、トムと蛍丸、

そして早瀬翔の飼い猫レイピアに、一刻も早くエスパーの件を報告する為に


(じゃあ今から自転車に乗って、大急ぎで河川敷に行ってみようかな?)

なんて事を思いながら慌ててソファーを立ち上がったのに、

次の瞬間 なんと、いきなり!


コンコンコン!
コンコンコン!

『おーい玲、すげぇ情報を持ってきたぞー』

突然リビングの窓にノックの音と、大好きな友達の声が聞こえたので

えっ?もしかしてトムなの?と返事をした玲が急いでカーテンを開けてみると

一階のウッドテラスに置いてある、ガーデンセットのテーブルの上で

とっても可愛いカラスのトムが、チョコンと止まって此方こちらを見ていた事に気が付いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...