花喰いの安珠

紺Peki獅子

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愛しい貴女へ

私の愛、

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 愛。
 愛って、私の役割これのことやないんやろか?やったら、今まで私がやってきたことの意味は?私がずっと信じてきた愛は、間違ってたんやろか?

 さっきから、胸が苦しい。頭が真っ白になって何も考えられない。考えたくない。自分という存在が、足下から崩れてしまいそうや。

 嗚呼早く、はやく椙山さまの望む"婚約者"の役割を果たさんと。"役割"だけが、私の救い。
 喩え、私の人生を一瞬で分からなくしてしまう人なんやとしても。この人は茄子や。茄子ただ苦手なだけや。嫌いになんか、なってない。

 ちゃんと受け入れんと。どんな人でも、すべて、受け入れんと。"村長の娘"に出来るのはそれだけしかーーーーーーーーーー。






「っ、?!」

何っ?!く、ぐるじい…!いきなり顔に柔らかいものが押し付けられて、息が…っ!
 焦ってもがくと、少し力が弱まる。息を吸い込めば、ふわりと花の香り。これは……

「安珠ちょっと、人前……」

ていうか、椙山さまの前……婚約者がいるのにくっつくのは良くないて。離れて。安珠の背中を軽く叩く。

「ねぇ杏花、杏花聞いて。」

 安珠の、やさしいのにどこか硬い声が耳に注がれる。顔を上げるが、あの綺麗な深緑は長い前髪に隠れている。

「すべてを受け入れようとするのは、相手のことを知らずに接するの食わず嫌いが嫌だから。

相手に合わせてしまうのは、それをする事で他の人に良い気持ちで居て欲しいから。誰かが嬉しいと、杏花も嬉しくなるから。

みんなが幸せなら、杏花も幸せなんだよね。
……だから杏花は、人を嫌いになってしまうのが怖かったんだよね。」

怖い……?
確かに、心のどこかで恐れていたのかもしれん。絶対に嫌いにならないように、って。
でもやめて。やめて安珠。その先を言わないで。

だってそれは、その意味は、






「人を嫌いになった自分が、他人から嫌われてしまうのが怖かったから。」







「……っ」
息が止まる。

 やっぱり、なんて酷い響きなんやろ。他の人を大事にしてるように見せかけて、自分のことしか考えてない。
 
 今までに、私にとって受け入れ難い人はたくさん居った。相手が、私を、見た目だけで判断して受け入れようとしなかった人も居った。

「どんな人でも受け入れようと頑張ってる杏花を、私は尊敬する。」

 ……そんな、違うの、安珠。
 私は、私が受け入れられないことが悲しかった。嫌やった。その嫌なことを、私自身が他人にしていることが、許せんかった。
 ただそれだけ。私が受け入れれば、相手も私を受け入れてくれると思っただけなんや。

「……他の人への愛も、自分への愛も、ちゃんとある。気持ち悪い自己犠牲なんかより、よっぽど健全じゃん。」

「でも……」
視線が泳ぐ。
 私は今、椙山さまを受け入れることが出来そうにない。"村長の娘として、すべてを受け入れる" という救いの"役割"さえ、果たせそうにないんや。
 こんなこと初めてで、どう対処すれば良いのか分からない。

「大丈夫、落ち着いて。私の目を見て。」

両頬を包み込まれ、目線を上げる。

「きっと、杏花の愛は、"すべてを受け入れる" ことじゃなくて、"食わず嫌いをしない" ことなんだよ。
一度食べてみて、やっぱり苦手で、で、食べられないものがあるのと同じこと。」

ざあ…と生暖かい風が吹く。
顕になったその深緑の目に、浸食される。




「杏花、」






「人を、嫌いになっても、いいんだよ。」
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